マンホールの蓋

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東京市型」。水道の父と呼ばれる中島鋭治が考案したとされ、現在はJIS規格(JIS A 5506) となっている。東京市下水道局の戦前の仕様の蓋。
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茂庭忠次郎考案とされる「名古屋市型」。写真は名古屋市の蓋で、中心の紋章部分にも穴が開いている最も古い仕様[† 1]である。
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静岡県浜松市で3枚だけ発見された非常に古いドイツ仕様の蓋。詳細は後述。
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大阪府大阪市住之江区にあるマンホールの蓋。大阪城がデザインされている。

マンホールの蓋(マンホールのふた、英: manhole cover)は、マンホールあるいは排水桝の最上段に載置・嵌合される蓋あるいは蓋付枠である[1]。人や物が誤ってマンホールに落ちてしまうのを防ぐとともに、関係者以外の進入を防ぐため、マンホールの開口部に嵌められた着脱可能な蓋を指す。下水道の物が最も一般的だが、上水道、電信電話、電力、ガス等、地下設備を有する各種事業体の物が存在する。

概要

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古代ローマ帝国の都市ウィンドボナ下水道に設置されていた砂岩製の蓋。

マンホールの蓋は、車両をはじめとする交通機関が蓋の上を通過する際、蓋に十分な重さがなければ、所定の位置から外れてしまう恐れがある。そのため、公共のマンホール蓋は強固かつ重量のある鋳鉄製を採用している自治体が多い。その理由として鋳鉄ならば鋳型さえ起こせば比較的安価に大量生産できること、加工のしやすさが挙げられる。

かつては80キログラム以上もある鋳鉄蓋もあったが、現在は性能が向上し、軽量化と強度の向上が図られたため、40キログラム程度になっている[2]。耐用年数は、車の通行量が多い場所は磨耗するため15年ほど、それ以外では経年劣化のため30年が目安とされる[2]が、例外的に100年以上使用されている蓋も存在する。

蓋には通常、かぎ型のバールキーと呼ばれる工具を挿入して引き開けるための「摘み穴」もしくは「不法開放防止を目的とした鍵」が備えられている。専用のマンホールバールキーは特にこうした穴・鍵に引っかける目的で製造されている。

水害の際には、マンホール内を通る水圧の影響によりマンホールの蓋が外れ、マンホール内に人が落ちてしまう二次災害が発生することがある[3]。その対策として、大量の雨水が管内に流れ込んできたときでも空気の逃げ場ができるよう予めガス抜き用の穴が開けられているほか、蓋の鍵によって水害で外れることを防ぐための浮上防止機能がある[4]。国際会議や各国の要人の来日に際しては、マンホールを利用したテロを防ぐ治安対策として、所管の警察によりマンホールの蓋に封印がされることがある[5]

形状

ファイル:ManholeSPQR.JPG
イタリアローマにある四角い排水口の蓋。SPQRの文字が見える。

マンホールの蓋には円形と角形がある[1]。円形が多く採用される理由として、以下が指摘されている。

  • 円は定幅図形であるため、蓋がずれても穴に落ちてしまうことがないから[2]
  • 自動車などの重い物が載った時でも、圧力が分散されて割れにくいため。また、もし蓋が外れた場合でも、他の形のマンホールであれば、鋭い角の部分が後に通過する他の自動車のタイヤをパンクさせてしまう恐れがあるが、丸い形には角が無いため。
  • 円筒状の穴は掘るのが容易であり、マンホール開口部の丸い形状は、それを囲む地面の圧力に対して最も効率的な形状であるため、その丸い開口部の蓋が丸い様相を帯びるのは自然であるから。
  • 丸型の鋳造は水平の型押しロール機を使用して機械切断するのがより簡単だから。
  • 丸型の蓋は丸いマンホール穴に対して、うまくはまるように回転させる必要が無いから。
  • 丸い形状なら簡単に転がして移動できるから。
  • 文化的理由。

など、様々なものがあるが、明確な理由はない。

排水口を兼ねた蓋は丸い形状のものもあるが、長方形(四角形)が一般的となっている。

アメリカ合衆国ニューハンプシャー州の都市ナシュアには、地下での流れの方向を指し示す三角形のマンホールの蓋がある。

愛好・収集と盗難

マンホールの蓋は自治体など事業主や設置年代によりデザインが多様であるため、街を歩いて眺めたり、実物を集めたりすることを趣味とする人もいる。日本では「マンホーラー」と呼ばれることもある。茨城県石岡市のように、ふるさと納税の返礼品として贈る自治体もある[6]。国土交通省や日本下水道協会は各地で「マンホールサミット」を開いており、マンホールカードなどグッズも制作・配布している[7]

設置者側も、より凝ったデザインにしたり、観光客誘致など地域おこしの手段に活用したりするようになっている。愛知県は2017年、下水道用マンホール蓋のデザインを公募で決定した[8]。静岡県沼津市は2018年1月15日、同市が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」登場キャラクターのイラストをあしらったマンホール蓋の設置費用をクラウドファンディングで募ったところ、翌日には目標金額を達成。今後は設置場所に拡張現実(AR)でキャラクターを出現させるなど、「聖地巡り」をするファンの呼び込みに役立てる考えである[9]

撤去されたマンホール蓋を廃棄せずに活用する自治体もある。群馬県前橋市が2017年、使わなくなった下水道用マンホールの蓋10枚を1枚3000円で購入者を募ったところ、合計193件の申し込みがあり、最も人気が高い蓋の競争率は40倍を超えた。抽選の末に「転売しない」との誓約書を提出してもらって販売した。次回も実施を検討している[10]

日本のマンホール蓋

日本では、前述のように様々なマンホールを収集する愛好家が存在する他、専ら明治時代の黎明期から第二次世界大戦前までの産業遺産的価値のある蓋の残存状況や、当時の蓋の意匠の地域的分布傾向、更には市町村合併により消滅した自治体の名称や紋章が入った蓋の残存状況等を、産業考古学的見地から調査研究していな研究者(例えば林丈二[注釈 1]栗原岳[注釈 2])も少数ながらいる。

近年のマンホール蓋に於ける問題点

日本国内に設置されているマンホール蓋は、下水道用だけで約1500万個ある。トラックの大型化に伴い1995年、幹線道路では25トンの荷重(それ以前は20トン対応)に耐えられるように安全基準が変更された。この改正以前の設置分を含めて。車道で15年、歩道で30年程度とされる耐用年数を過ぎた蓋が全国に約300万個あると日本グラウンドマンホール工業会(東京)は推計しており、更新が遅れるとスリップ事故などに繋がる懸念がある[11]

本来、マンホール蓋表面の紋様はスリップ防止のために付けられている物だが、近年散見される具象模様付の蓋は、旧来の単純な幾何学模様の蓋に比べて平面の部分が増加した物も多く見られる。自治体によっては一時期、具象模様付の蓋を採用したものの、後にそれを中止し、最新の細かい幾何学模様のマンホール蓋を採用している例もある[12][† 2]

歴史的なマンホール蓋

日本で最初の下水道は、1881年(明治14年)の横浜居留地で、神奈川県御用掛(技師)の三田善太郎がこの下水道の設計を行ない、その時に「マンホール」を「人孔」と翻訳したのではないかと言われている。この時設置された蓋は鋳鉄製格子状だったとも木製格子状だったとも言われており、詳細については不明である[† 3]

間違いなく鋳鉄製の蓋が使用されたのは、1885年(明治18年)の神田下水(東京)の「鋳鉄製格子形」が嚆矢とされている[† 3]。鋳鉄製格子形の物は実際に2000年代まで東京都千代田区神田岩本町に残存していたのが林丈二、栗原岳により確認されており、寸法や格子の穴の数まで神田下水当時の図面に描かれた蓋[† 4]と同一であった。また、北海道函館市入舟町には1897年(明治30年)頃の物と推察される鋳鉄製格子形の蓋が2015年7月時点で幾つか現存しており[注釈 3]、国内現役最古のマンホール蓋の可能性がある。

現在の蓋の原形は、明治から大正にかけて、東京帝国大学で教鞭をとると同時に、内務省の技師として全国の上下水道を指導していた中島鋭治が、1904年(明治37年)から1907年(明治40年)にかけて東京市の下水道を設計するとき[‡ 1]に西欧のマンホールを参考に考案した。この当時の紋様が東京市型(冒頭の写真参照)と呼ばれ、中島門下生が全国に散るとともに広まってゆき、その後、1958年(昭和33年)にマンホール蓋のJIS規格(JIS A 5506)が制定された際に、この紋様が採用された。一方、名古屋市の創設下水道(1907年=明治40年起工[‡ 2])の専任技師だった茂庭忠次郎は、その後内務省土木局に入り、全国の上下水道技術を指導した折に名古屋市型(このページ冒頭2枚目の写真参照)を推し進めたため、名古屋市型紋様も全国的に広まっていった[† 3]

コンクリート製マンホール蓋は、1932年(昭和7年)頃、東京の隅田川にかかる小台橋近くの工場で森勝吉が製造したのが嚆矢[† 5]とされ、ダイヤ型のガス抜き穴が開いた物であった。「森式」、或いは「小台型」と呼ばれ、特に金属が不足した支那事変以降、戦時中にかけて多用されたと言われている[† 5]。現在でも、このダイヤ穴の物は稀に見かける。

他に上水道、電話、電力、ガスといった事業体でもマンホール蓋は存在する。

ギャラリー

以下のギャラリーでは事業体別に主に戦前製の蓋を掲載している。

デザインマンホール

日本の多くの自治体ではその地域の名産や特色をモチーフにしているデザインマンホールが導入されている(色付きのものはカラーマンホールとも呼ばれる)。特に下水道関連のマンホールでは多種多様なデザインが見受けられる。

逸話

ファイル:Cumil.JPG
スロバキアの首都ブラチスラヴァにあるマンホールの蓋と作業員を模ったオブジェ。

レーシングカーは蓋を持ち上げられるか

蓋は宇宙空間で最初の人工物か

脚注

注釈

  1. マンホールのふた(日本篇)、マンホールの蓋(ヨーロッパ篇)の2冊を上梓。
  2. 日本土木工業協会刊行 建設業界誌に連載のエッセイで歴史的マンホール蓋について詳細に記述
  3. 北海道庁函館支庁1899年(明治32年)発行 函館港改良工事報文に掲載の図面に描かれた物と同一の蓋が図面と同位置に現存
  4. 4.00 4.01 4.02 4.03 4.04 4.05 4.06 4.07 4.08 4.09 4.10 4.11 4.12 4.13 4.14 4.15 4.16 東京市域拡張(旧15区→35区)の1932年(昭和7年)以前。1932年(昭和7年)に東京市に編入された。
  5. 横浜市役所 1920年(大正9年)発行 横浜市水道第二拡張誌附図に当該蓋の図面が掲載されている
  6. 中島工学博士記念『日本水道史』では「消火栓」と「防火栓」の二通りの記述が混在している

出典

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そのほかの出典

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関連項目

外部リンク