日本の核武装論
日本の核武装論(にほんのかくぶそうろん)は、日本が核武装するかどうかについての議論である。核武装論は、広義には核兵器を保有していない国家における安全保障政策上の核武装の是非や利得についての議論を指し、狭義には核武装賛成論を指す。核兵器保有国においては、既に保有する核兵器をどのように運用整備するかという核戦略が議論される。
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日本の核武装を巡る検討と発言の経緯
1937年(昭和12年)11月、雪博士として知られる物理学者の中谷宇吉郎が以下のように述べている[1]。
原子の蔵する勢力(エネルギー)は殆(ほと)んど全部原子核の中にあって、最近の物理学は原子核崩壊の研究にその主流が向いている。原子核内の勢力が兵器に利用される日が来ないほうが人類のためには望ましいのであるが、もし或(あ)る一国でそれが実現されたら、それこそ弓と鉄砲どころの騒ぎではなくなるであろう。
— 中谷宇吉郎「弓と鉄砲」『東京朝日』1937年11月
日本において原爆が具体的に語られたのは1940年(昭和15年)に仁科芳雄博士が安田武雄陸軍航空技術研究所長にウラン爆弾の研究を進言したのが始まりとの説もある。以後、陸軍は1941年(昭和16年)に理化学研究所に原子爆弾の研究を委託(ニ号研究)、海軍は1942年(昭和17年)に核物理応用研究委員会を設けて原爆の可能性を検討した。しかし、当時は人形峠(岡山県・鳥取県境)のウラン鉱脈の存在も知られておらず、ウラン鉱石の入手はもっぱらナチス・ドイツとの遣独潜水艦に頼る状況にあり、ウラン爆弾1個に必要な2トンのウラン鉱石を確保するのは絶望的であった。
1945年(昭和20年)6月には陸軍が、7月には海軍が研究を打ち切り、日本は敗戦を待たずして原爆研究から撤退した。
岸信介総理大臣がアメリカ政府宛てに「防衛上、核武装の必要が迫られれば日本は核武装する」と非公式に伝達し、アメリカは大きな衝撃を受け、日米安全保障の強化に乗り出したといわれる。
1961年(昭和36年)11月、池田勇人総理大臣は来日したディーン・ラスク国務長官に「閣内に核武装論者がいる」と述べた。
1964年(昭和39年)12月、佐藤栄作総理大臣はエドウィン・O・ライシャワー駐日大使に対して、ウィルソン英首相の言葉を引用して「他人が核を持てば、自分も持つのは常識だ」と述べた。
政府は佐藤内閣時代の1960年代後半に、極秘に核保有の可能性を検討した。1967年(昭和42年)夏、内閣調査室の外郭団体「財団法人・民主主義研究会」で永井陽之助、垣花秀武、前田寿、関野英夫、蝋山道雄により日本の核武装の可能性について検討が行われた。その結果は「日本の核政策に関する研究(その一)-独立核戦力創設の技術的・組織的・財政的可能性」と「日本の核政策に関する研究(その二)-独立核戦力の戦略的・外向的・政治的諸問題」という二冊の小冊子にまとめられた。同研究会は「日本が核武装することは、国際政治的に多大なマイナスであり、安全保障上の効果も著しく減退する」と結論付けた。この事実については1999年(平成11年)に蝋山がSAPIOの取材に対して詳細を語っている[2]。
1967年(昭和42年)12月11日、佐藤総理は衆議院予算委員会で次のように答弁した。「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則(非核三原則)、その平和憲法のもと、この核に対する三原則のもと、そのもとにおいて日本の安全はどうしたらいいのか、これが私に課せられた責任でございます。」[3]
NHKの2010年(平成22年)10月の報道によると、核拡散防止条約(NPT条約)調印後の1969年(昭和44年)、日本の外務省高官は西ドイツ(当時)外務省の関係者を箱根に招いて、核保有の可能性を探る会合(当時、分析課長の岡崎久彦、国際資料室の鈴木孝、調査課長の村田良平と政策企画部長のエゴン・バール、参事官のペア・フィッシャーとクラウス・ブレヒ)を持った[4]。前記の報告書や西ドイツとの会合の背景には、1964年(昭和39年)に中華人民共和国(中国)が核保有国となった事情がある。この報道を受けて外務省は、省内で調査をおこない、調査結果を2010年(平成22年)11月29日に報告書として発表した。それによると、日本と西ドイツの外交当局者が1969年(昭和44年)に「政策企画協議」を東京で開催した後に箱根で懇談した事実を確認し、「政策企画協議」自体は「自由な意見交換が目的で、政策の交渉や調整の場ではない」としたものの、西ドイツ側関係者の証言などに基づき、日本の核保有の可能性に関連する発言が「何らかの形でなされていた可能性を完全に排除できない」と結論づけている[5]。
中曽根康弘は2004年(平成16年)の自著において、防衛庁長官だった1970年(昭和45年)に「現実の必要性を離れた試論」として、核武装について「日本の能力を試算」し「当時の金で2,000億円、5年以内で核武装できるが、実験場を確保できないため現実には不可能」との結論に達したことを明かした[6]。1970年(昭和45年)当時(三次防)の防衛費は4,800億円で、一般会計の7パーセントを占めた。現在の貨幣価値に直すなら、消費者物価指数で言えば約3倍の6,000億円、防衛費の伸びで言えば10倍の2兆円といった金額になる。弾頭1発1億円とも述べており、これは当時の主力戦闘機F-104の価格、5億円の1/5であった。
1971年(昭和46年)、中曽根防衛庁長官は衆議院内閣委員会で次のように述べた。「大体いま世界戦略的に、また世界歴史的に見ますと、核武装というのは第二次世界大戦の戦勝国の業になってきている。ああいうものをつくってしまいましたからなくすわけにいかぬ、相手が持っている以上は少し優越したものを持っていないと不安である、そういう世界に入り込んでいって、やむを得ず苦悶してSALTをやるというような形になってきておる。それで、私は戦勝国の業であろうと思っております。戦敗国である日本がそんな業にのこのこ入っていく必要はない、そんな考えを私は持っているわけです。」
1971年(昭和46年)、ニクソン・ショックを背景に石原慎太郎参議院議員が次のように発言した。「(核兵器が)無けりゃ、日本の外交はいよいよ貧弱なものになってね。発言権はなくなる」「だから、一発だけ持ってたっていい。日本人が何するか分からんという不安感があれば、世界は日本の言い分を聞くと思いますよ」、この発言は同年7月19日付の朝日新聞に掲載された[7]。
1972年(昭和47年)、中曽根康弘科学技術庁長官は衆議院科学技術振興対策特別委員会で次のように述べた。「私は非核武装論者でありまして、核武装をしなければいかぬなんということは一回もありません。」
1973年(昭和48年)3月17日、田中角栄内閣総理大臣は参議院予算委員会の答弁で「いままで政府が統一見解で述べておりますものは、自衛の正当な目的を達成する限度内の核兵器であれば、これを保有することが憲法に反するものではないというのが、従来政府がとってきたものでございます」と述べた。
1975年(昭和50年)、日本の科学技術庁(当時)の原子力担当課長が在京の英国大使館員に「日本は3か月以内に核兵器の製造が可能」と語った[8]。この情報を基に一時イギリス政府は大騒ぎになった。
1978年(昭和53年)3月11日、福田赳夫内閣総理大臣は参議院予算委員会で次のように述べた。「たとえば万一核不拡散条約(NPT)、これを日本が脱退をするということになった場合には、条約上の遵守義務というものはありませんから、先ほど申し上げましたような間接的意味における憲法に由来する九十八条の問題というものは消えちゃうんです。第九条の問題だけが残るということなんです。憲法全体の思想といたしましては、私は、第九条だと思うのです。第九条によって、わが国は専守防衛的意味における核兵器はこれを持てる。ただ、別の法理によりまして、また別の政策によりまして、そういうふうになっておらぬというだけのことである。」
以後の日本政府は憲法98条2項「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」に基づきNPT条約を履行するため、非核三原則を「一貫して堅持する」と繰り返し明言している。
同日、真田秀夫内閣法制局長官は参議院予算委員会で次のように述べた。「国会におけるその非核三原則を堅持しろというような御決議があって、それでその核は持たないという選択をしなさいという御決議があるわけでございますから、それで政府はその政策の選択として非核三原則を堅持しておる、そのことと法律の解釈というのは、それは政策とは別なんですよ、それは。」
1979年(昭和54年)のソビエト連邦(ソ連)のアフガニスタン侵攻をきっかけとして冷戦が再び激化すると、ソ連からの核攻撃の脅威を回避するためには日本も核武装し抑止力を持つべきだという主張がおこなわれた[9]。一方、日本が冷戦期に核武装しなかったことでソ連が日本に対して軍事的行動に出られなかったという意見も存在する。ただし、日本は米の「核の傘」により守られていたのでこの見方が成り立つとは考えにくい[10]。
NPTの締結以前、非核三原則以前には日本政府は「防衛用核兵器は憲法上保有しうる」という見解で、核武装の完全な否定はしていない。
当時、核弾頭の運用が可能な兵器としては航空自衛隊のナイキJ、海上自衛隊の対潜爆雷、アスロック、陸上自衛隊の155ミリ榴弾砲、核地雷が考えられた。いずれも精密誘導兵器の発達によって必要性がなくなった。
1991年(平成3年)、宮澤喜一は、総理就任前に「…日本にとって核武装は技術的に可能であり、財政的にもそれほど難問ではない」と述べた[11]。
2001年(平成13年)、内閣府高官(氏名不詳)が雑誌インタビューに対し、「3年で核武装可能」と回答した。
2002年(平成14年)4月6日、小沢一郎自由党党首は福岡での講演で、以前に中国共産党情報部の人物に語ったこととして次のように述べた。「あまりいい気になると日本人はヒステリーを起こす。核弾頭をつくるのは簡単なんだ。原発でプルトニウムは何千発分もある。本気になれば軍備では負けない。そうなったらどうするんだ。」
同年5月13日、安倍晋三官房副長官は早稲田大学の講演において次のように述べた。「自衛のための必要最小限度を超えない限り、核兵器であると、通常兵器であるとを問わず、これを保有することは、憲法の禁ずるところではない」「核兵器は用いることができる、できないという解釈は憲法の解釈としては適当ではない。」
同月31日、福田康夫内閣官房長官は次のように述べた。「非核三原則は憲法に近いもの。しかし、今は憲法改正の話も出てくるようになったから、何か起こったら国際情勢や国民が『(核兵器を)持つべきだ』ということになるかもしれない」「法理論的には持てる。持っていけないとの理屈にはならない」。これは記者団とのオフレコでの発言であったため発言者は「政府首脳」とぼかされていたが、6月4日に自身であることを認めている。
福田首相の発言に関連して石原慎太郎は同年6月18日、都議会で次のように答弁した。「核の問題にしても、これからどういう変化が社会にもたらされて、それが政治ケースとなって、国民のその問題に対するとらえ方もおのずと変わってき得るということを福田君はいったことで、ああいう障害に阻まれたと認識しております。そういう点で、過去にあった事例というものを踏まえながら、現在の時点で正確に主張してもらいたいということで、私は激励しました」。石原はこの時、『諸君!』1970年10月号に載せた自分の論文「非核の神話は消えた」の全文コピーを福田に送っている。
2003年に発表されたアメリカの国防白書は、未来予測の中で2050年までに日本が核武装すると述べた。
2004年(平成16年)、中曽根康弘はインタビューに答えて「(核武装について)これまでも一貫して否定してきていますし、今でも変わりません」と述べた。中曽根は「日米安保の続く限りにおいて」という条件つきでの一貫した非核武装論者である。
2005年(平成17年)2月25日、大前研一は韓国マスコミの「北朝鮮の核保有が最終確認された場合、日本も核武装に動くのか」という質問に対して次のように答えた。「その可能性は大きい。日本はその気になれば90日以内に核爆弾を製造し、ミサイルに搭載できる技術的能力を持っている。われわれはすでに大陸間弾道弾(ICBM)水準のミサイル(ロケット)を保有しており、50トン以上のプルトニウムを備蓄している。核爆弾2,000基を製造できる分量だ。日本はすでに30 - 40年前、原爆製造に必要なあらゆる実験を終えた。日本が核武装をしないのは国民情緒のためだ。9割の日本人が核兵器の開発に反対している。広島と長崎の悪夢のためだ。しかしわれわれが北朝鮮核兵器の実質的脅威を受ける状況になれば、世論は急変するはずだ」。
同年、民社党の後身である民社協会系の新憲法組織「創憲会議」の「「創憲」を考えるための提言書」(玉置一弥サイト「「創憲」を考えるための提言書を掲載しました」参照)が明らかにされた。公式に核武装を視野に入れ、核兵器に加え、生物・化学兵器の所持をも選択肢に入れるよう提言した。国会議員を擁する政党・政治団体で、核武装の検討を公式見解にしている党派はここだけである。ただし、同年10月28日に発表された創憲会議の新憲法草案では、核武装検討の明言はされていない([12])。
2006年(平成18年)10月10日、安倍晋三内閣総理大臣は衆議院予算委員会で次のように述べた。「我が国の核保有という選択肢は全く持たない。非核三原則は一切変更がないということをはっきり申し上げたい」。
同月15日、中川昭一自由民主党政務調査会会長はテレビ朝日「サンデープロジェクト」で次のように述べた。「欧米の核保有と違って、どうみても頭の回路が理解できない国が持ったと発表したことに対し、どうしても撲滅しないといけないのだから、その選択肢として核という……」
同月18・19日、麻生太郎外務大臣は衆議院テロ対策特別委員会にて次のように述べた。「隣の国が持つとなった時に、一つの考え方としていろいろな議論をしておくことは大事だ」「非核三原則を政府として堅持する立場に変わりはないが、日本は言論統制された国ではない。言論の自由を封殺するということに与しない(=核武装の論議容認)という以上に明確な答えはない。」
同月20日、中川昭一は自民党静岡県連合会の集会で次のように述べた。「攻められそうになった時にどう防ぐか。万が一のことが起きた時にどうなるかを考えるのは、政治家として当然のことだ」。この発言は日本のみならず、海外にまで議論が及ぶこととなり、与野党からこの核武装とも取れかねない発言の撤回を求める意見が多数出ることとなり、この発言の後に安倍晋三総理大臣や塩崎恭久官房長官が非核三原則は厳守すると念を押す発言をし、ジョージ・W・ブッシュアメリカ大統領もこの発言に対し「中国が懸念する」と述べた。
これら中川昭一らの発言を受けて安倍晋三は次のように述べた。「政府や党の機関としては議論しない。それ以外の議論は自由だから言論封鎖することはできない。」
同年12月24日、「日本が小型核弾頭を試作するまでには少なくとも3 - 5年かかる」とする政府の内部文書が明らかになった[13]
核武装賛成論
核抑止力の保有
- 核抑止力とは、敵の先制攻撃によっても生存可能な報復用の核兵器を持つことにより、敵の核攻撃を抑止する力である。日本が核武装することによって核抑止力を持つことができる。
- 日本の狭く都市部に人口が密集した地理的条件から中・露など広大な国に対する核抑止力を否定する意見もあるが、それは相互確証破壊の概念と核抑止力の概念の混同である。
- 核によって攻撃しようとする側は、核攻撃によって得られる利益が不利益を上回らなければ攻撃できない。したがって、自国が報復用の核を持つことによりその相手国の不利益の割合を増大させれば、相手国の核攻撃の動機を抑止出来ることになる。そして核抑止力の大きさは反撃可能な核の量に比例する。これが核抑止力の基本的な考えである。その核抑止力が敵対しあう2国間で最大、すなわち国家の存続が不可能となった状態が、相互確証破壊である。
- 日本が核武装するとしても中国などに対し相互確証破壊に至るまでの核戦力を保有することは困難である。日本同様狭い国土で一定の核抑止力を構築しているイギリスやフランス、またはイスラエル程度の核戦力の保有が考えられる。
「核の傘」への疑問
米国政府は公式には同盟国への核の傘を一度も否定したことは無く、今後も核の傘の提供を維持することを再三明言している。しかし、それは同盟国や仮想敵国に対する外交戦略としての政治的アピールであり、実際に同盟国が核攻撃を受けた場合、米国が自国民に被害が出る危険を覚悟して核による報復という選択を行うか疑問がある。
また、核武装の最大の理由は、「たとえ日本が核攻撃を受けたとしても米国自身が核攻撃に晒されるのなら米国は核報復はしない」と日本に核を向けている国が判断する可能性もある、ということである。日本自身がある程度以上の核戦力を保有することにより、「日本を核攻撃したら確実に日本から核反撃される」と予想させる効果がある。核報復を想定してもなお自国民の被害を顧みないような独裁者が存在することも想定される。
中国脅威論
- 中国の経済成長に伴う軍事力の拡大によって米軍の影響力の低下が予想されている。
- 中国の軍事支出の伸びは19年連続2桁パーセント増で、2007年の時点で5兆円超と公表されているが、実態はその3倍になると米国防総省は指摘している。
- かつて米国はソ連との冷戦期において同盟国を保護し、やがてソ連を崩壊に追い込んだが、中国相手に同様の構図は成り立たないと考えられる。ソ連は経済的には貧弱であったが、中国の経済力はやがて米国を上回るという予測もある[14]。そして冷戦期の米ソの経済関係は極めて希薄であったが、米中の経済関係は極めて緊密であり、米国の国別の貿易額では、中国は2004年に日本を抜いて3位になっている[15]。また米国債の保有額では2007年で日本は1兆ドル弱、中国が約7,000億ドルと推定される。
- 今後も中国の経済発展により、米中の貿易額は確実に増加していく。それに対して日本は人口減少により対米貿易額は減少すると考えられる。即ち米国経済にとって中国の価値が日本の価値を上回れば、米国が中国の脅威から日本を守ろうとする動機が希薄になる。
- 実際に中国が経済的、軍事的に超大国となった場合、米国は台湾や日本を守るため中国と戦争は出来ないという指摘は米国の学者からもなされている。ハーバード大学のスティーヴン・ウォルトやシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー、そしてサミュエル・P・ハンティントンなどは、米国が東アジアでの覇権を放棄して中国との力関係を保つ「オフ・ショアー・バランサー戦略」という選択肢を主張している[16]。
- リチャード・アーミテージは講演で、米国一極超大国時代は2020年以降に不確実になる可能性があるという認識を示した[17]。
核武装によるメリット
- 国際的影響力の大幅な増加が期待される。
- 核武装を行っている・または進めている周辺国(中、露、北朝鮮)への抑止力を米国に依存(核の傘)する現状が、日本の自主外交力を低下させている。逆に、日本が核武装すれば米国の被保護国からの脱却を目指せる。
核廃絶への疑念
- 核保有国が果たして核を廃棄するのか、という疑念がある。核保有国の一部はコスト削減のために核軍縮に積極的だが、完全に廃絶すると表明した国はまだない。米国、ロシア、中国は核廃絶しないことを表明している。
- 小林よしのりは、広島と長崎の原爆資料館に行って核の被害の現実を目の当たりにしたことを強調しつつ、「核保有国が核を放棄するはずがないという現実から目をそむけたくはない」と発言し、日本の核武装を唱えた[18]。
日本の核武装を支持する海外の知識人
エマニュエル・トッド
日本が核武装することで、周辺諸国との勢力均衡維持が期待できる(勢力の均衡が平和をもたらす)。日本に核武装を提言するフランスの人類学者エマニュエル・トッドなどがこのように主張している[19]。
著書『帝国以後』でアメリカ「帝国」への一極集中の時代(パクス・アメリカーナ)が21世紀では維持できないとしたエマニュエル・トッドは、2006年10月、朝日新聞での若宮啓文とのインタビューにおいて、「インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい」と述べ、日本の核武装を提言。さらに「核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる」と指摘する。ほか、被爆国である日本が持つ核への国民感情については、「国民感情はわかるが、世界の現実も直視すべき」とした。日本が核兵器を持った場合に派生する中国とアメリカと日本との三者関係については、「日本が紛争に巻き込まれないため、また米国の攻撃性から逃れるために核を持つのなら、中国の対応はいささか異なってくる」との見通しを出したうえで、「核攻撃を受けた国が核を保有すれば、核についての本格論議が始まり、大きな転機となる」と指摘した。これは日本が核兵器を保有することで、中国を牽制し、かつ米国への隷属状況からも離脱し、米中日の三か国の勢力均衡を示唆する説である。
2010年の日本経済新聞のインタビューでは、日本が非核国で、中国が核保有国であることを「不均衡な関係」だ、「不均衡な関係は危険」だとして、ロシアとの関係強化を提言した[20]。
なお、トッドは、フランスの核武装の理由について、「何度も侵略されてきたことが最大の理由」とし[21]、「地政学的に危うい立場を一気に解決するのが核だった」と述べ、核兵器保有による周辺諸国との勢力均衡が、安全保障としては有効との見方を提出している。
ネオコン
アメリカのネオコンの中には、ならず者国家の北朝鮮とその支援国と言われる中国を除外する安全保障体制を構築した上で、日本にNPTの破棄と核抑止力の構築を奨励する知識人がいる[22]。
さまざまな核安全保障論
単独核保有論
日本が独自に核兵器を開発し、運用すべきであるとする考えである。一般に「核武装論」とはこの単独核保有論を指す事が多い。
- 利点
- 外交における発言力の大幅な向上。特に射程内の国に対して。
- 発射に関して、米国などの干渉を受けないため、信頼性の高い核抑止力を持つことが出来る。
- 安全保障において日本の自立性が飛躍的に高まる。
- NPT改革などと違い時間のかかる多国間交渉が不要である。
- 共同核の場合は先制攻撃ができないが、単独核保有は先制核攻撃が可能であるため、他国を核抑止可能。
- 問題点
- 非核三原則をはじめとするこれまでの政策の大幅転換が必要であり、日本が加盟している核拡散防止条約から脱退する必要がある。
- 外交的には、これ以上核保有国を増やさないとする核拡散防止条約(NPT)加盟約190カ国、および核武装した日本の核兵器射程圏内に入る国々の反発が予想される。大量破壊兵器不拡散を国家基本安全保障政策に掲げる米国にとって、NPT体制こそがパクス・アメリカーナの安定維持装置であり、それに反した政策をとる国(かつてのイラクのフセイン政権・イラン・北朝鮮など)に対して制裁を行う急先鋒となっているため、米国から同意を得るのは非常に困難。
- 米国の経済・金融制裁に対して日本は脆弱である。また、米中露による海洋封鎖・臨検や、核施設空爆の危険を乗り越える方策が必要。
- 部分的核実験停止条約を批准している日本では核兵器を開発したとしても核実験を行うのは不可能に近い(下記参照)。
日本への核兵器配備を米国に要請すべきだとする議論
米国に日本への核ミサイルの配備を求めて北朝鮮や中国に対抗しようとするもの。米国とロシアの間で中距離核戦力全廃条約(INF条約)が締結されている。本条約で弾頭が核弾頭か通常弾頭かに関わらず最少エネルギー軌道時の射程が500kmから5500㎞の範囲の能力を持つミサイルを米ロ両国は保持することを互いに制限している。したがって最少エネルギー軌道時の射程が5500㎞超のミサイルの保持を禁止するものではない。条約の制限外のこのミサイルを日本の領土に配備しロフテッド軌道で打上げれば対抗国の攻撃目標を破壊することが可能である。
北朝鮮や中国は、日本を射程に入れ核攻撃可能なミサイルをINF条約に束縛されず無制限に保持でき、中国はそのようなミサイルの増強を進め北朝鮮はミサイルの核弾頭の開発を進めている。それに対し日米はオーバースペックで過大な核ミサイルで対抗することとなる。費用の面では敵対国が少で日米側が多な非常に非対称な関係となるが、原理的には可能であり国際法上も違反とはならない。日米両国の国民の意思だけの問題である。
中国は米ロのINF条約の締結により、自国の周囲に米国の弾道ミサイルの無い事実上の「核の緩衝地域」を漁夫の利として何の犠牲もなく得た。他国から干渉されず粛々と核ミサイルを増強し爪を研いでいたのである。現状では中国と周辺国(ロシアを除く)との間には非常に大きなミサイル・ギャップが厳然と存在している。このことは中国政府がいくら隠そうとしても第三国のシンクタンクの分析からも明らかである。この状況に釘を刺す、金は掛かるが即効性のある抑止方法である。
- 利点
- 日本周辺の核大国とのミサイル・ギャップに対し、緊急避難的な措置として即効性のある抑止力である。
- 米国にとって新たな技術開発無しに現状の技術のみで実現が可能である。
- ミサイル発射の権限が米国にあり、このことは周辺国のうち特に韓国国民の日本に対する根強い不信に対してもハードルを低くすることができる。
- ロシアの反発も予想されるがその戦略核ミサイルの照準が日本に向けられていないことを証明するものは無くお互い様である。
- ミサイルの配備が北朝鮮の瀬戸際外交における核恫喝には効力を発揮しないと誰も証明できない。
- 日本に核ミサイルが無いからと言って日本を攻撃対象から外すという軍事的なオプションを敵国がとることは軍事戦略上ほぼゼロに等しい。核攻撃だけが唯一の攻撃方法ではないからである。
- 問題点
- ミサイル配備が隣国のロシアとの緊張を招き、INF条約を破棄され冷戦期の状態に逆戻りする恐れがある。このことを冷戦後の比較的平和な暮らしを崩壊させるものと欧州諸国の国民が認識した場合、米国がそれを説得するだけの力を現在持っているか疑わしい。
- ICBMは小型が進んだとはいえIRBMと比べ寸法が大きい為、隠蔽することが困難である。また移動式発射装置に適合させることも、その大きさゆえ困難である。日本は国土が狭く、平野部はほとんどが人口稠密地であり、事実上配備するなら山岳部しかなく大がかりな土木工事が必要である。結局のところ、現状の米国による弾道ミサイル潜水艦および巡航ミサイル潜水艦による核抑止の方法が最良なのではないか?
- 抑止力としてみるならば、日本に配備されようと発射の権限がアメリカにある以上、究極的には「核の傘」の信頼性の問題でしかない。
- 基本的に、「相互ミサイル廃棄」に持ち込む方便であり、予算を投じて配備を推進しても相互撤廃交渉が成立すれば、配備したばかりのミサイルを廃棄する必要があり、費用の妥当性、効果、米国とのコストの分担などで解決すべき問題がある。
日米共同核保有論
田母神俊雄は核兵器シェアリング(Nuclear Sharing)の導入を提言している。アメリカがNATO加盟国(ドイツ、オランダ、イタリア、ベルギー)に提供する核武装オプションである。平時はアメリカ軍が核兵器を保持・管理しつつ相手国と核兵器の使用と管理の訓練を行なう。戦時になったとき、アメリカ軍が相手国に核兵器を提供し、相手国は核武装する。
- 利点
- 開戦後に核兵器が提供されるという点で開戦前まではNPT(核拡散防止条約)に抵触しない。
- NPT改革のような多国間交渉が必要なく、究極的にはアメリカの同意を取り付ければよい。
- 問題点
- 非核三原則を放棄する必要がある(非核三原則を放棄しても、法的罰則はない)。
- NATOの核シェアリングはあくまで戦術核兵器の運用であり、その目的は、戦時には不足こそすれ余ることなどない戦術核兵器投射手段の確保にある。日本が考える核抑止力の構築とは目的が違うし、アメリカが戦略核兵器の供与を意図したことはない。
- そのNATOの核シェアリングにおいても、核の使用はNATOの総意とされるもので、最終的な決断は核兵器国にある。
NPT改革論
NPTを脱退して核武装するのではなく、NPT内に留まりながら、他の非核諸国と連携してNPTのルールを変革してNPT公認の核保有に至ろうとする考え方。
- 利点
- NPTを崩壊させる場合よりは、米国の賛同を得られ易く、また米中露に核施設爆撃や経済封鎖など制裁の口実を与えにくい。
- 問題点
- 現NPT体制に比べて核保有国が増えてしまうので、米国など核保有国をはじめとする核拡散に反対する各国の賛同を取り付けるのが困難。
- 非核三原則を放棄する必要がある。
- 国連改革が進まない様に、複雑な多国間交渉が必要で時間がかかる。
核抑止以外の核安全保障論
北朝鮮に核抑止の効果は無い。すでに経済的に破綻し、自助努力による国家再建が不可能な北朝鮮において、核は短期的な要求を飲ませるための安易な手段になっている。アメリカ政府が封鎖した20億円の資金の解除を要求するほどに困窮している状況で、常識的に考えて数兆円の予算を必要とする対米核戦力の構築など不可能であり、その核戦力もない北朝鮮が「核を保有する」アメリカを始め、中国、ロシアの意向を無視している以上、日本が核武装したところで拉致問題や核開発において日本の要求をどのように飲ませ、効果を挙げるのかについて、確たる分析は無い。
米ソ核抑止という有名な例があるために「核には核抑止」が半ば常識になっているが、実際には核抑止は常に成立するわけではない。核ボタンを押せば相互に損をする場合、ならびに失う物がある者に対してしか抑止が効かない。
日本の周辺国の核開発状況
核爆弾
北朝鮮
北朝鮮は原子爆弾の開発は完了したと見る向きもある。その場合、テポドンの改良型を用いれば日本に核兵器を投下可能とされている。朝鮮中央放送は恫喝的な放送を繰り返しており、その中にはしばしば過激な表現が含まれる。ただし、これが北朝鮮政府の公式な発言や要求となって日本政府に伝達されたという事実はない。国家財政が破綻に瀕した状況で有効性のある大規模な軍事行動を起こす能力があるわけでもない。
ノドンミサイルに搭載可能な核弾頭を製造するには総重量1トン程度に小型化することが必要である。1994年のCIA報告は数トンの原始的原爆が1-2個保有されていると予測されていた。しかし脱北核技術者の情報によると2001年時点で高さ直径とも1mの原爆が完成している。2009年、米国の研究機関ISISの報告書はノドンに搭載可能な核弾頭3個、航空用核爆弾3個が保有されていると予測した[23]。
北朝鮮は現在稼動停止・無力化中の5MW炉(核兵器1個/年)のほかに、建設中断中の50MW黒鉛炉(同10個/年)と200MW黒鉛炉(同40個/年)を保有している。外交による解体も空爆もせず大型炉建設再開を座視すると北朝鮮の核生産能力は50倍になってしまい、数年でノドン320基が全弾核装備になるという見解もある[24]。2009年、6カ国協議で米ブッシュ政権のライス国務長官は(拉致問題同様)日本にとっての核問題の核心である大型黒鉛炉について解体どころか無力化対象からさえ外した。ただ、核弾頭の量産に必要な資金や材料の入手について、楽観的な予測から懐疑的な予測まで様々であり、核戦力の誇示による恫喝を行うのであれば、その能力の実証が不可欠となる。すなわち連続した核実験による弾頭威力や、弾道弾あるいはロケットの試射による投射手段の性能ならびに信頼性の証明である。北朝鮮はこの部分での行動が政治的、資金的、技術的問題から制限されており、実験や試射のないままの大量配備は疑問視されている。
北朝鮮の核開発の資金源としては、国家財政からの支出のほか、日本のパチンコ産業に代表される北朝鮮系機関による不正送金や韓朝合弁事業収益、拉致被害者5人と引き換えに小泉政権から得た1兆円(朝銀信用組合事件)など、非合法の海外収入があったとの主張がある[25][26][27]。しかし弾道弾の試射以降の経済制裁によるGDPの減少は深刻であり、不正手段による外貨獲得も大きく減少している。核開発に投じる資金も減少しており、2009年の一連の核実験と弾道弾の試射においては、536億円と推測された国防予算を超過したとみられている。国防予算は1999年の1,600億円の1/3程度、1994年の2,400億円の1/5以下であり、核開発の進捗が疑問視される所以でもある。 その状況で予算を核開発や弾道弾に振り向けた結果、韓国ならびに在韓米軍に備えるべき通常兵器分野においては、更新はおろか訓練もままならない状況が続いている。しかし韓国への戦備としては首都ソウルを射程に収める大量の長距離砲、スカッドなどの短距離弾道弾を保有しており、日本以上に首都圏への一極集中が進んだ韓国への抑止力として機能している。
中国
中国は核戦力を近代化し、生残性を高めることには熱心であるものの、量的には核より通常兵器への予算配分が圧倒的である。このことから、基本的には核を使わずに通常戦力で目的を達する事を指向しているとの見方もある。2009年に軍事費が849億ドルとロシアを抜いて世界2位となった状況においても、近代化すべき分野があまりに多岐にわたるためでもある。
毛沢東による「核戦争を辞さず」の発言は「核戦争で先進国と共倒れしても、生き残った国民の数で勝るから復興速度も速く、故に核戦争後の覇者になれる」というもので、このような発言を真に受ける限り中国相手に核抑止は成り立たない事になる。中国の大規模な紛争の例としては台湾との数回の軍事衝突、中ソ国境紛争、中越戦争が挙げられるがいずれも地域紛争であって核兵器を使用する局面には至らなかった。これは核兵器国はもちろん、非核兵器国が対象であっても核兵器国の支援を受けることによる核の傘が機能することを示している。ただし、これは「全面核戦争を覚悟するような致命的な国家利害の衝突において、核戦力の格差を理由に譲歩することはない」という毛沢東の発言を否定するものではない。現役将官による同種の発言は21世紀になっても続いている。
- 参照: 中華人民共和国の大量破壊兵器
韓国
韓国は1970年代に米国の圧力により一旦は核兵器開発計画を放棄し、1990年には在韓米軍が配備していた戦術核を撤去し、1991年に「朝鮮半島非核化に関する共同宣言」を行っている。しかし1994年に北朝鮮の核開発疑惑があり、米国は北朝鮮の爆撃を検討し、ソウルでは市民の大規模な避難が行われるなど朝鮮半島での戦争の危機が高まったことなどから、その後韓国政府はNPTに違反する独自の核開発を極秘裏にすすめた。2000年1-2月にNPT(核拡散防止条約)に明らかに違反した核燃料濃縮実験を科学者が極秘で行ったことを2004年になって韓国政府は認めた。その高濃縮ウランは兵器級の90%に近い濃縮度に達していた[28]。そのためIAEAは検査団を韓国に急行させ強制的な査察を行っている。韓国政府は実験があくまで平和利用目的であることを主張したが、IAEA内部では疑義が出ており、専門家は核兵器レベルのウランを醸成するレーザーを使用したその技術を民生利用したとは信用し難いと主張している[29]。
現在の韓国政府は公式には核兵器開発の検討を否定している。しかし韓国の世論調査によると、51%の人が核兵器保有に賛成している。2006年の北朝鮮の核実験後は65%の人が核兵器保有に賛成で、賛成しないという回答は32%だった[30]。
将来、もし北朝鮮と国家統一を果たした際には、北朝鮮が保有していると見られる核弾頭を継承し核保有国となる可能性がある。
台湾
台湾の複数の軍関係者らによると、台湾は中国が核実験に成功した1964年以降、当時の蒋介石政権が核開発に着手した。しかし、計画を知った米国は1976年、台湾に圧力をかけ計画は中止された。1980年代後半になり、蒋経国政権下で開発が再開され、同研究院内に1987年、秘密裏に小規模核実験施設が造られプルトニウム抽出実験などが行なわれた。しかし、米国に亡命した同研究院幹部が1988年1月に行なった証言などをもとに、米政府が李登輝政権時代に施設を閉鎖に追い込んだ。陳水扁政権は核開発を完全否定しIAEAの査察も受け入れている[31]。
中国は国際政治的には台湾は自国の一部であると主張しており、中国は近年の著しい経済成長に伴い軍事力を急速に増強し、核抑止力も高めている。このことから、もし台湾が核開発を始めれば中国と極度の緊張を引き起こすため、現在の台湾の状況では核武装の可能性は低いと見られる。
核爆弾を搭載する兵器
北朝鮮
北朝鮮は移動式のスカッド600基、ノドン320基、ムスダン18基、固定式テポドン1号、テポドン2号などの1,000基前後の弾道ミサイルを保有している。特に、ノドンは中国のDF-21の数倍の320基が日本に向けられている。2009年には小型核弾頭を搭載すること、ならびに東京へ核ミサイル攻撃をすることが可能であると報じられている[32]。
北朝鮮はソビエト時代に供与された射程600kmスカッドをリバースエンジニアリングすることで、90年代末に射程1,300km移動式ノドン、2007年に射程3,200km移動式ムスダンと弾道弾の射程延伸を進めており、最終的にはアメリカ本土に到達する弾道弾を保有することを目標としている。
ただし、その弾道弾を開発・生産し対米核戦力を構築すること、アメリカと対決すること自体が目的というわけではなく、金日成時代からの経済の限定的開放や経済特区の設置など、日本との国交正常化や国際社会への復帰を画策したことから考えると、当初は「国際社会での発言力の維持」、より具体的には「国際社会への復帰後においても韓国に呑み込まれないだけのプレゼンスの獲得」という目標があったと思われる。しかし金日成の死後、周辺国家との国交正常化や国際社会への復帰、あるいは体制の変更という決断を下せる人間がいなくなり、このロードマップは失われてしまった。この結果、後継者と官僚は核開発を近視眼的に国家生存に必要な物資を獲得する手段に矮小化してしまい、そのことが現在でも継続し、問題解決の糸口を見失わせている。
中国
中国は日本向けに使用できる能力を持つDF-21を推定60-80基保有している。中国が現在運用するICBMは液体燃料による固定サイロ配備であり、充分なCEP(半数必中界)と弾頭威力を持った先制核攻撃に対しては脆弱である。中国は1970年代から戦略原潜の開発に乗り出したが、完成した夏型原子力潜水艦は1隻しかない上に、搭載しているJL1ミサイルは改良型でも射程4,000km以下であり、核抑止力として機能していなかった。量的にも質的にも不十分な地上発射ICBMもあわせて、中国は長らく「核兵器保有国」であっても「核抑止力」を持たない状況にあった。
経済の伸張とともにこの分野への開発資金が投下されるようになり、2007年頃から固体燃料移動式でMIRVを装備したDF-31Aが就役している。移動式弾道弾は頻繁な移動によって位置を特定させないことで固定サイロとは比較にならない生残性を発揮する。ただし、移動することによる生残性の向上は移動車両(TEL)そのものの機動性、それを助ける道路網の構築があってのことである事に留意する必要性がある。また、核戦略において第二撃能力として機能するSSBNについては、オホーツク海から米本土を狙える新型弾道弾を搭載した晋型原子力潜水艦を建造し、2015年頃に対米報復核戦力を獲得する予定であった。しかし2007年から2010年に掛けて配備するという計画は、潜水艦、搭載弾道弾双方の技術的課題から戦力化は大きくずれこんでいる。
韓国
核兵器の運搬手段になり得るものとしては、韓国は弾道ミサイルは保有していないものの、F-15K戦闘爆撃機と巡航ミサイルを保有している。特に玄武III Cは日本のほぼ全域と中国沿岸部の大半が射程内に入るとみられる。
台湾
台湾は核兵器の運搬手段になり得るものとして射程距離1,000キロ、弾頭重量400キロの巡航ミサイル雄風2Eを保有している。
日本の核武装が実現する可能性
冷戦終結直後の日本には軍事的対立状態にある国家は無く日米同盟も継続していた。そのため、政府も世論も「核を保有しなければ対処不可能な脅威」が現在の日本にあるとの認識を持っておらず核武装に対しての政府、世論のモチベーションは非常に低い状態にあった。しかし北朝鮮のミサイル発射、核実験が続く中で北朝鮮が核開発を中止する見込みが全く無いため、一部で核武装論が主張されている。
内政的問題
日本の核武装は核兵器の実装使用能力と核兵器によって防衛するという政治意思の二つの要素によって完成するが、後者の政治意思は、戦争の放棄を日本国憲法で規定する日本国においては、核兵器の配備使用によって防衛するという政治意思が平和主義や国際主義などの憲法理念と整合し形成される内政プロセスとして形成される。
2011年島村英紀は自著の中で、岸信介は1983年に出版された回顧録[33]の中で「原子力開発は将来の日本が核武装するという選択肢を増やすためだ」と書いたように、原子力発電は軍事ミサイルを飛ばすための技術を磨くための宇宙開発とともに重要な国策として推進された、と述べた。[34]
非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず) 。これは原子力発電政策や、米海軍の原子力艦艇の寄航とは一線を画している。その一方で核を持ち込ませないための方針については、厳正な適用すらアメリカに求めることができない自己矛盾にある。
ただ、1998年の北朝鮮の弾道弾の試射によって費用の問題から疑問視されていたMD配備が一気に加速したり、2001年の同時多発テロの直後にはテロ対策特別法が、2002年に拉致被害者が公式に確認された後に経済制裁に関する諸法が速やかに立法されたことから、何かの事由で世論が大きく動く可能性はある。しかしMDの配備の目処がついた2006年に北朝鮮の核実験が行われた際は(MD配備や経済制裁を超える)具体的な新たな対抗措置をとれという世論にはならなかった。
外交的問題
日本は唯一の同盟国である米国の理解を得て核武装すべきだとする核武装論者もいる。これは日本の核武装が決して単独防衛を目指すものでなく、米国と同盟関係を維持しながら自主的な防衛力を強化するという考えである。また日本が核武装を試みれば、周辺国の反発が予想され、国際連合安全保障理事会に国際連合憲章第7章に基づく対日制裁決議案が提出される可能性が高い。だが、あらかじめ米国の理解を得ていれば安保理における米国の拒否権によって制裁決議を否決でき、核開発や原子力発電に必要なウランを引き続き輸入できるという主張もある[35]。ただし、アメリカ一国では日本の原子力発電所の需要を満たすだけのウランの供給、再処理は困難である。
米国が日本の核武装を承認する可能性
基本的に米国は日本の核武装に反対である。それは日本が核武装すれば核拡散防止体制が崩壊し、核のドミノ現象や核拡散が生じ、それにより核戦争及び核技術流出による核テロの危険性が格段に高まることでパクス・アメリカーナ終焉の引き金となる懸念があるからである。
米国が日本の核武装を容認する可能性は低いが、米国を射程に入れない核攻撃手段に限定するのなら可能性がある。 というのは、米国は巨大な財政赤字を抱えており、軍事費は赤字縮小のために削られていく一方だからである。日本の核武装が、アメリカの行っている「極東の平和と安定」に貢献すると判断すれば、日本の核武装が容認される可能性がある。つまり、日本の核武装が、核不拡散以上に米国と日本との共通の国益として認識されれば、アメリカの援助による核武装の可能性はある。ただ、現状、アメリカはNPTの維持に努力を払っており、アメリカ主導のNPTが存在する限りは日本への核武装の支援は現実的ではない。それが行われるとすればNPT体制の崩壊後のこととなる。
NPTが崩壊した後であれば、核による脅迫(ニュークリア・ブラックメール)をアメリカの同盟国が受けた場合であっても、米国は当事国の核武装を支援することで、事態を当事者間の交渉に限定し、核攻撃により自国民が犠牲になる危険を回避できる。ただしこれらはすべてNPTの崩壊、あるいはアメリカが核不拡散を断念した後の仮定であり、その場合には日本の核武装の有無と無関係に多くの不利益を蒙っていることが予想される。現実の日本はアメリカと共にNPTを支持しており、また、核の不拡散によって得られる以上の国益をアメリカに与えることも不可能である。
ただしアメリカの同意を取り付けたとしても、それが他の二国間の関係に影響を与えないというわけではない。アメリカが日本に核技術を供与することと、第三国が安定して日本にウランを供給する義務を負うことは別問題だからである。つまり、日本が核武装後においても現在のような経済大国としての地位を占めるのであれば、アメリカ一国ではなく世界の殆どの国家に対して、日本の核武装の正当性を認識させる必要がある。これは二国間の問題である日米の技術供与問題よりも格段にハードルが高い。
核拡散防止条約は第10条第1項で条約脱退の権利を容認しているが、それは「条約の対象である諸事項に関連し異常な事態が発生し、自国の至高の利益を危うくしているため」でなければならず、脱退を宣言するに際してはその「異常な事態」についても明記しなければならない(条約改訂は第8条に規定されているが、これは提案を全加盟国に配布し3分の2以上の審議入り承認と過半数の賛成を得る必要があり、更にハードルが高い。徹底した外交工作がなければアメリカ以外の国から賛同を得られる可能性は低い。)。
経済的技術的問題
伊藤貫によれば、「必要最小限の抑止力でよしとするならば、日本にとって高いハードルではない」とし、伊藤の試算によれば核弾頭(原爆)付き巡航ミサイル200-300基と、専用の駆逐艦及び潜水艦約30隻の建設と運用にかかる軍事予算は年間1兆円となっている。この場合の「必要最小限の抑止力」とはケネス・ウォルツの核戦略理論に基づくもので、具体的には中国東部の主要都市への対価値攻撃力(カウンターバリュー)を意味する。ただし、この核戦力でどのような段階まで中国の核攻撃の意図を抑止できるのか、そもそも「必要最小限」の定義とは何かについての具体的な議論はないため、国(防衛省)による本格的な抑止力の算定が行われた場合には「必要最小限」とされた規模、予算は伊藤個人の試算に比べて上下する可能性がある。
核実験についてはガンバレル方式だけでなく、インプロージョン方式も現代の技術なら起爆装置と臨界前核実験だけで十分とする意見がある(イスラエルと南アフリカは起爆装置の実験だけで原爆を開発したという説がある)。しかし、文字通り机上の空論でしかなく複数回の現実の核実験が必要という説の方が優勢である。
核実験は技術的な問題以上に、政治的に「核武装の実証を公言」するため必須となる。1970年代初頭に当時の防衛庁の行なった研究では「国内に実験場が無い」ことを核武装断念の理由としている。本土から離れた無人島で地下核実験を行えば良いという意見もあるが、現実問題としてそのほとんどが国定公園である離島を核実験場にすることは固有種や絶滅危惧種、生態系など環境への深刻な影響を与える。これは核実験の放射能の影響云々以前に、核実験場という施設の建設や、維持する人員によって惹起されるものである。また、地下核実験を行っても問題が無い地層地質であるかの研究はまったく行われていないため、候補地そのものを探すところから始めなければならない。
巡航ミサイルは開発の前提となる諸技術は全て備えているので比較的短期で開発は可能であるとされる。ただし、巡航ミサイルの長射程は核弾頭の小型化(トマホークに搭載されたW80で290ポンド)によって達成されたものであり、潜水艦を発射プラットフォームとする限りは、魚雷発射管を始めとする寸法、容積、重量の制限を受ける。
米英仏露中のような高度な戦略原潜と水爆の保有を求めるとなると、開発における障壁はより高いものとなる。
核兵器を戦力化させる手段
核爆弾を搭載する兵器については、弾道ミサイル、巡航ミサイル、爆撃機の選択肢が考えられる。また兵器のプラットフォームとしては、地上基地・水上艦・潜水艦・航空機などが考えられる。なお敵の先制攻撃に対する生存性を高めるために複数の運用手段を確保するのが望ましい。
弾道ミサイル
日本はM-Vロケットに代表される固体燃料ロケットの技術を保有していることから、弾道ミサイルの基本的な技術は有していると考えられる。
宇宙ロケットと弾道ミサイルの主な違いは誘導システム、そして再突入体の有無である。宇宙ロケットは地上施設からの電波によって誘導される点が支援を受けずに自律誘導する弾道ミサイルとは大きく異なる。そのため弾道ミサイルを開発するならば誘導システムの新規開発は必須である。再突入体(RV)については、日本はOREXなどで大気圏再突入の実験を5回行ない、慣性航法装置のテストや空力加熱のデータなどをテレメトリー収集した。当初計画においては実験体の回収までを目標としていたが回収に成功したのは2回であり、さらには情報収集の目的であった宇宙往還機HOPE計画の事実上の凍結もあって、軍事転用できるだけの技術的蓄積は無く、今後も同種の再突入体に関する計画は無いことから、継続しての研究、あるいはデータの取得も見込めない。核弾頭を搭載した再突入体を開発するならば核抑止力としての有効性を持つだけのCEPを有するRVをJAXAとは別に行う必要がある。
固定基地の弾道ミサイルは先制攻撃で狙われやすく、生存性が低い。これは「ソビエトに近い島国」であるイギリスも陥ったジレンマで、空中発射弾道ミサイルを開発しようとして失敗し、ポラリスを導入した経緯がある。後年に実用化された車両移動式ミサイル(TEL)を僻地で運用する方法も考えられるが、日本における僻地とはすなわち国土の7割を占める山地であり、その山岳地における狭隘な道路事情での数十トンのTELの運用は非常な困難を伴う。
ちなみに、兵頭二十八は山岳地帯にミサイル基地建設を提案している。これは敵の先制核攻撃があっても、よほどCEPが高くなければ山自体が盾になるためミサイルの生存性が高まるという考えであるが、周辺住民の反発は確実で政治的難易度が最も高い運用方法である。
もし、日本が核弾頭を搭載した弾道弾で核抑止力を構築するというのであれば、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発と発射プラットフォームとしての戦略原潜の開発がもっとも現実的となる。
攻撃機・爆撃機
国産開発する場合、日本がライセンス生産したF-15要撃戦闘機や、日米共同開発のF-2戦闘機の開発の経験があるとはいえ、国産のエンジン開発能力がネックとなっている(米ロのエンジンは推力18tだが、日本は5tエンジンを試作している段階)。
国防の重点政策として資金を投入しても、米国が保有するような、敵の防空網を潜り抜けて核弾頭を目標に確実に命中させるようなステルス戦略爆撃機(もしくはそのような戦略用途に使用できる航空機と搭載兵装の組み合わせ)の開発には多年を要する。国産大型エンジンとB-2戦略爆撃機のようなステルス性を獲得しても、その時点では更なる軍事技術の発展が見込まれる。戦略爆撃機は高価であり、効果的に運用しているのが米国だけであり、専守防衛政策面からも予算面からも日本が1機2,500億円もするB-2のような大型の戦略爆撃部隊を保有するのは困難である。
日本が運搬手段として航空機を使うのであれば、長射程の巡航ミサイルと搭載母機の組み合わせも考えられる。しかし航空基地は敵の先制攻撃の標的になるため航空機を核抑止に用いるのであれば、かつてアメリカ戦略空軍が行っていたような核パトロール(核弾頭搭載機の24時間空中待機)を行う必要があるが、極めて高い経費を必要とする。
戦略原潜
原子力潜水艦は隠密性に優れ、衛星で発見しにくいため生残性が高く、報復戦力として優れている。但し固定サイロより自己位置計測誤差が大きく命中精度が悪いため、核攻撃に対する防護を施された軍事目標(核爆発の熱線、衝撃波に耐えうる硬化サイロに格納されたICBMなど)を攻撃する第一撃には向かない(ただしこれは報復のみを目的とした場合は無視してもよい要素となる。例を挙げるならイギリスは核戦力を戦略原潜搭載の弾道弾のみに依存している)。陸上配備の場合のような受入れ自治体を探す立地難がない。最もコスト高な方法ではあるが日本の核武装を考えた場合、最も現実的な核配備手段といわれている。
アメリカ海軍は1948年に潜水艦用原子力機関の設計を始め、世界初の原子力潜水艦「ノーチラス」を1952年に起工、1954年に完成させた。以後もアメリカ海軍は原子力潜水艦の戦力拡充を図ったが、ソビエトとのミサイルギャップを受けて建造中のスキップジャック級原子力潜水艦にミサイル区画40メートルを挿入するという強引な手法でジョージ・ワシントン級戦略ミサイル原潜を1960年に完成している。
現在の日本は当時のアメリカより工業水準は優れているが、搭載すべきミサイルも敵対国の潜水艦捜索装備も1960年代より大幅に進歩しているため、それに見合う船体や静粛な原子力機関の開発をアメリカ海軍同様の短期間で達成するのは困難と見られる。アメリカからの技術導入が得られなければ夏級原子力潜水艦のような習作を経て米露中英仏の水準にステップアップするような形にならざるを得ないであろう。また、潜水艦建造可能な造船所は2箇所あるが、いずれも排水量1万トンにならざるを得ない現代のSSBNを建造するには規模が不足するので、原潜を建造する場合、二分割で建造して大型乾ドックで接合するか、あるいは新規に造船設備を建設する事になるが工員身元調査、技術教育、機密保持、財政、立地・用地取得など多くの課題がある。
また、原子力潜水艦は燃料棒の交換は船体を切り開く長期間の大工事になりがちである。米海軍の新型原子力艦艇は超高濃縮ウランを使用することで燃料棒交換の回数、あるいは燃料棒の交換そのものを省いているが、日本がいきなりこの水準に到達するのは困難である。高被爆環境下での保守点検と燃料交換に多額の費用が掛かり、寿命が切れた原子力潜水艦は強い放射線を帯びているので解体処理コストも嵩む。相当な予算が必要なこともあり、戦略原潜とそれに搭載するSLBMの開発には10年以上の期間を要すると想定される。また原潜は高価であり調達数量の制限が見込まれるため、SLBMを搭載するなら可能な限り多くのミサイル発射筒を装備させMIRVを採用した多目標個別攻撃能力を持たせることで潜水艦1隻あたりの報復能力の向上を図るのが望ましい。しかしその為には弾頭の小型・高威力化に加え、弾道ミサイル自体の高性能化さらにはSSBNの大型化を要するので、弾道弾にせよ弾頭にせよSSBNにせよ漸進的改良を行わざるを得ない。
日本には原子力船「むつ」の経験を持ち、搭載された原子炉は基本的には軍用船舶の原子炉と同じ加圧水型原子炉で、荒天での激しい船体の揺れや万一の際の転覆事故も想定した設計になっていた。しかし原潜で必須である静粛性はまったく考慮されておらず、なにより出力が圧倒的に足らない(「むつ」の1万馬力に対してロサンゼルス級攻撃原潜で3万馬力、オハイオ級戦略原潜で6万馬力)ことからも大幅な技術革新が前提となる。
SSBNにはミサイル整備施設が必要なため専用の基地が必要である。また通信のために浮上することの無いように、SSBNへの指令は海中にも届く電波である超長波(VLF)が用いられるため、専用の無線基地や通信中継基地が必要になる。
戦略原潜は単独で活動せず、攻撃型原潜が護衛に付くのが一般的である。よって戦略原潜を配備するなら戦略原潜と同数以上の攻撃型原潜が望ましい。日本は世界6位の排他的経済水域(EFZ)を持っているが、ソビエトがかつてカムチャツカ半島沖に保持した「聖域(敵勢力の活動を排除した海域)」を持つことは困難と見られる。必要なのは航行の自由が保障されるEEZではなく、侵入そのものを違法とできる領海か、または侵入を困難たらしめる内海である。潜水艦以外の護衛戦力の展開についても、広大な海域のエアカバーは海上自衛隊、航空自衛隊の航空部隊の能力を超えるものであるし、水上艦艇の貼り付けではその行為自体が潜水艦の存在の傍証となってしまう。
兵頭二十八の著書などにおいて、運搬手段が潜水艦なら動力が原子力である必要性はないとの主張もあるが、原子力推進艦は長期間哨戒・船体規模に比して小型の機関区という利点があり、同じ大きさ(排水量)ならば通常動力潜水艦より兵器搭載量が多くなり、運搬手段としては原潜が圧倒的に有利となる。また速力と航続力の圧倒的なアドバンテージは、哨戒海域までの進出・帰投にかかる時間を短縮し、オンステーション可能な期間を延長する。速力と航続力がもたらす生残性や、先の搭載量の優位を加えるならば、原子力推進にすることで一定数量の弾道弾を即応体制に置く場合に必要な弾道ミサイル搭載潜水艦の総数を、大幅に削減することができる。逆に言えば、通常動力潜水艦で同じことを試みた場合、膨大な数の潜水艦とその支援設備、脆弱な通常動力型潜水艦を守りきる為のより強力な護衛部隊が必要になる。弾道弾の搭載の可否だけを論じても、抑止力というシステムの構築を論じたことにはならない。ただし、核抑止の必要性が明確かつ逼迫した場合においては、非常に効率の悪い装備であっても過渡期としては一定の効果を得る可能性はある。
巡航ミサイル
巡航ミサイルは潜水艦、艦船、航空機、車両など、発射プラットフォームを陸空、海上、海中と多様化出来るという点が最大の利点である。
トマホーク巡航ミサイルを米国から輸入した場合は、日本が自由に運用できない可能性がある。現にトマホークを米国から輸入したイギリスにおいては運用についての厳しい制限が設けられている(事実上、アメリカの同意が無いと発射できない)。
巡航ミサイルを独自に開発した場合はこの限りではないが、戦略用途の運用であれば、機体規模の小ささ(トマホークで1.5トン、弾頭部は450キロ、事実上の艦艇用長魚雷サイズである)にあわせて、小型核弾頭の開発が必要である(兵頭二十八は大型巡航ミサイルの開発を提唱しているが、その場合はかつてアメリカが建造し、運用を諦めたレギュラス搭載潜水艦のような単能艦でしか運用できないことになり、多彩な発射プラットフォームを選択できるトマホーククラスの巡航ミサイルの持つ運用の柔軟性を失う事になる)。
航法装置(INS)は1時間飛行すると約1.8キロのずれを生じる。戦術用途であれば(もしくは戦争の規模が限定されているのであれば)GPSや地形照合システムで補正することもできるが、現在の所GPSはアメリカの独占状態にある。欧州連合やロシア、中国は安全保障上の要請もあって独自企画を開発中である。戦略核兵器を使用する状況(すなわち全面戦争)において、他国の航法支援を使用できない可能性は極めて高く、GPS無しでの命中精度を確立するか、日本独自のGPS衛星を保有する必要がある。
しかしGPSによる航法情報も電波であるためにGPSジャマーと呼ばれる装置で妨害される可能性がある。地形が存在しない海上を長距離飛行する場合に地形照合は使用できないため、海を渡ってから地形照合で位置を補正する必要がある。そのためには弾頭の小型化やエンジンの燃費向上でミサイルの射程距離を延ばさなければならない。
地表情報は民間企業から購入できる高精度の衛星画像を使用できるという説もあるが、日本が独自保有する偵察衛星(情報収集衛星)の精度を上げてより精密な地表情報を入手する方が確実である。
現在、アメリカ軍は巡航ミサイルを戦略兵器として運用していないため戦略抑止としての参考にならないが、ピースキーパーなどの弾道弾は航法情報が無い状態を基本としており、アストロトラッカーと呼ばれる恒星追跡装置による天測を行ってCEP90メートルを達成している。
その他
- 「攻撃に使える兵器」という意味でなら、核でなく青森県で貯蔵されている使用済み核燃料やプルトニウムを兵器に積み込み、報復攻撃対象国上空で爆発させるだけで核と同等の効果を持つ上に長期的に敵国の土地資源や人的資源に汚染を引き起こせる為、費用対効果が高く多大な費用を掛けて核兵器を開発する必要は無いという指摘もある。しかし汚い爆弾は使用しても死者は出ないと言われており、仮に大型の輸送機に満載して自爆させるとしても撃墜される可能性が高い。軍事的確実性が不明確では費用対効果を測る事自体が不可能であり、国家単位のテロにはなり得ても核抑止には寄与しない。
- 弾道弾も大量破壊兵器(WMD)の運搬手段として国際的な監視と規制が行なわれている[36]。
- 日本はMTCR(ミサイル技術管理レジーム)に参加している。これは弾道ミサイルとその関連技術の輸出管理を目的とするが独自開発は妨げない(米ロをはじめ、弾道弾の開発は行っている)。
- 日本政府は日本国憲法第9条に基づき、専守防衛を国是としている。つまり大陸間弾道弾や攻撃型空母、戦略爆撃機など「性能上専ら相手国の国土の潰滅的破壊のためにのみ用いられるいわゆる攻撃的兵器」の保有はしない。核武装とは、非核三原則を含めこれまでの安全保障政策の根本的な変更を意味する。但し、1957年(昭和32年)5月7日の参議院予算委員会で岸信介総理は、「自衛権の範囲内であれば核保有も可能である」という憲法解釈を示している。[37]
核武装論への疑念
核武装論への疑念を以下記す[38]。
国民の核への忌避意識
1999年に西村真悟防衛政務次官が核武装発言で、2008年には航空幕僚長(当時)の田母神俊雄が政府見解に反する主張をして更迭された事件に見られるように、唯一の被爆国としての核兵器に対する国民的な忌避意識は強く、米国をはじめとする近隣諸国からの懸念や圧力もあり、政界においては日本が核兵器を配備する可能性について発言すること自体がタブーとされている。
核保有論者たちはこれを「核アレルギー」と呼んで批判している(小林よしのりの上記の発言も、核アレルギーへの批判が根底にある)。だが、蝋山正雄は「情緒的な平和主義的イデオロギーから日本の核兵器保有を反対しているのではなく、国際政治のリアリズムからの反対論なんです」と述べており[2]、「核アレルギー」とは一線を画している。
根底の対米不信とアメリカ支援の期待の矛盾
多くの核武装論は根底に対米不信を置きながらも都合良くアメリカの支援を得ようとするため、様々な矛盾を孕む事となる。核武装にインドやパキスタンの如きナショナリズムの高揚(例えば、日本が事実上アメリカの属国であることからの脱却、国際的地位の向上)を見る核武装論は多いが、所詮は国防のためのシステムでしかない。
仮想敵国はどこなのか
基本的に核兵器は戦略兵器なのであるから、通常兵器以上に戦争を抑止すべき対象国というものを明確化する必要がある。漠然と中国脅威論や対米従属からの脱却を唱えても説得力を持たせることはできない。
1980年代は「ソ連の脅威」が喧伝され、仮想戦記さえ著された一方で、中国には洟も引っ掛けられなかったが、北朝鮮の三度目の核実験成功により、北朝鮮の脅威についても議論される場合がある。
中国が相手であれば(ソ連にそうしたように)アメリカとの同盟を継続することで対抗する選択肢もあるし、対米依存の脱却を唱えるのであれば当然、アメリカも「仮想敵のひとつ」としなければならない。
さらには、仮想敵を明確にした上で、その戦力を評価し、対抗手段(核兵器の場合であれば戦争を抑止できるとする損害の強要)を見積もり、予算を策定しなければならない。
国際連合憲章は全ての「連合国」構成国に対し、日本が憲章(ポツダム宣言や降伏文書を含む[39])に違反した行為を取ったとみなした場合は国連決議とは一切無関係に、軍事行動を起こす権利を容認しており(敵国条項)、中国もアメリカも構成国の一つである。
核弾頭の所要量
日本が核武装することによって、中国、北朝鮮、またはロシアに対する核抑止力が得られるとするのが核武装論の中核であるが、日本は都市部に人口が密集する地理的条件から核攻撃に対し非常に脆弱であるとの意見がある。ただし中国についても広大な面積があるにも関わらず、日本以上に巨大な人口が密集する都市が多く健在するので、脆弱性は対等である。日本が核攻撃を受けた場合に大きな損害が予測される以上(そしてその打撃に耐えることが困難である以上)、核攻撃という決断を下し難いだけの打撃を仮想敵に与える能力の担保が望まれる。故に防衛白書では独自の核武装に対して否定的な見方(充分な担保を持つ核の傘への依存の表明)をしている。これを相互確証破壊と混同する意見もあるが、日本の国情がより高い担保を求めているだけであり、冷戦期の米ソ中などの国土の広大な国家が、実際に核を撃ち合った上での国家の存続まで意図したような「核への耐性」を無視した論である。蝋山道雄は、日本が核兵器を保有・配備したとしても、国土が狭いため、アメリカや中国のように大陸全土に点綴させるのは困難だと指摘している[2]。
日本を容易に殲滅できる仮想敵に対して、日本の核による報復が「許容」されないだけのレベルの核武装によって核の傘以上の有効性を得ようというのであれば、むしろ相互確証破壊以上の難易度であるとも言える。その場合の戦力は「仮想敵が国家としての存続を困難ならしめる」ことを目指したアメリカやソ連の算定基準を援用することになるが「核武装」と「効果的な核抑止力」との違いとしての戦力規模、ひいては取得費用の差が生じることになる。
NPT体制の崩壊の可能性と米国の反対
日本は原子力の平和利用の下、発電の4割を原子力に依存しながらウランの輸入先を比較的政情の安定した国とできるなどのエネルギー安全保障上のメリットも享受している。その日本が核拡散防止条約(NPT)を脱退することは潜在的核保有国のNPT脱退を正当化させ、NPT体制が崩壊する引き金になりかねない(#外交的問題参照)。
その場合、日本の外交的立場は現在の北朝鮮のような「不法国家」に悪化する可能性もある。一方日本は周辺核保有国と領土紛争を抱えているため、保有は当然の対抗措置との主張もある。韓国など、日本同様にNPTによって原発を建設し、原子力関連技術を蓄積し紛争を抱えるに国家に対して、核兵器保有の口実を与えてしまうが、イランなど概ね遠隔地にある国家の核保有について、射程距離上日本の脅威となるのは大陸間弾道弾を保有した後になる。
NPTが崩壊した場合、テロリストの手に核が渡る可能性は増える。これにより日本に敵対する国がこれらテロリストの犯行を装って日本を核攻撃する可能性がある。核抑止は一般に非正規戦的な攻撃手法に対し抑止力はないので、日本に対する非正規戦的手段による核攻撃の可能性を増加させる。テロリストによる核攻撃の可能性は特にアメリカに当てはまるため、アメリカはこれに強硬に反対することが予想される。これはNPTの維持拡大を重要な国益と認識するアメリカとの衝突でもあり、日本は唯一最強の同盟国と決裂する可能性がある。
蝋山道雄は「アメリカの伝統的な太平洋戦略はこの周辺に自らと肩を並べる強大な国を作らないことである。日本と中国を天秤にかけつつ両者の肩を押さえていく」「それ(注:日本の核武装)がもたらす四面楚歌の状態は第1次世界大戦後の国際連盟脱退の比ではない。他の核保有国はすべて日本を仮想敵と見なし、カナダやオーストラリアといった国も日本に厳しい視線を浴びせるだろう」と評し、日本の核武装は困難だと結論した[2]。
米国の金融制裁・経済制裁
- 北朝鮮は米国市場に依存していないが、日本の自動車・電機等の最大顧客は米国であり、日本にとって米国の貿易制裁は大打撃になる。北朝鮮と比べ米国への依存度が高く、北朝鮮を単純に真似するのは不可能。
- ドル決済には米銀とのコルレス契約が必要で、バンコ・デルタ・アジアを見ても金融制裁でドル決済不能に追い込まれると大手邦銀は軒並み倒産すると思われる。この点でも北朝鮮と比べ米国への依存度が大きく米国に対抗するのが困難。
- 中国の外貨準備が日本に比肩するレベルになっているので、米中に結託されたら米国債を売っても中国に買われてしまい日本は屈服に追い込まれてしまう。
- 中国のドル準備額が日本を越えて世界のトップになった事実に対する米中両国の反応は苦さを秘めている。
アメリカとしては、「ドル体制離脱」、「元をも基軸通貨に」、「いざとなれば膨大なドル保有をアメリカに対する牙として使用できないか」、などと虎視眈々と狙いながらも、反面ドルの価値低下に対して脅え、アメリカと当面協調せざるを得ないでいるような、この中国という厄介な存在に内心(言葉は悪いが)舌打ちしているのであり、本当は日本のような忠実な国に米国債を保有させておくことのほうをベターだと思っているものと思われる。 中国は、膨大な失業者、出稼ぎ農民などによる安い労賃を武器とした「飢餓輸出」的方法によって蓄積したドルがその価値を減じることに脅え、上述のようにドルから別の財産に外貨保有形態を切り替えること、元の基軸通貨化などの方向に舵を切り替えつつある。したがって、日本が米国による自国の核武装阻止に対抗するために保有するドルを売り、それを中国が更に引き受けるという状況はそう簡単にはできないものと思われる。
- 米国の金融制裁、経済制裁という想定自体、日本が米国の説得に失敗し、強引にNPTを脱退して核武装を推進するということを唯一の、ありうべき選択肢としているかのようでもある。
米中露の核施設空爆/海上封鎖
- イスラエルはイラク・シリアの核施設空爆で核武装を強制中絶させているし、米国も北朝鮮核施設空爆は3度も検討している。日本が核武装を宣言し実行に移せば、日本から核を向けられることになる中露や、核不拡散体制維持の急先鋒である米国が海上封鎖や核施設爆撃など、日本の核武装を実力で阻止して来る可能性は高い。戦闘機保有数は米3,500・中2,400・露2,200・日260であり、単純比較はできないが防衛は容易ではない。
- 日米が核実験を行った北朝鮮に対して臨検・海洋封鎖を検討したように、米中露が日本を海上封鎖した場合、石油・食料・原料輸入と自動車・家電等輸出が止まってしまう。
- 最悪の場合、米中露のいずれかが先制核攻撃を行ってくる可能性さえある。
核燃料返還/原発停止とエネルギー危機
- 日本は原子力の平和利用というNPTに加盟した上に米国と日米原子力協力協定を結んでおり(他の国との原子力協定も内容としてはほぼ同じものである)、核武装はその二国間協定のならびに国際条約であるNPTの破棄となる。これを破棄すれば協定の破棄条項によって核燃料棒の殆どは米国などに引き渡されるため、原子力発電所は操業を停止せざるを得ない(東京電力は原子力発電への依存度40%以上、新潟県中越沖地震にて柏崎刈羽原子力発電所が停止しただけで“電力需要危機”と騒動になった。更には福島第一原子力発電所事故による電力供給危機と、以来現在まで続く経済停滞の例もある)。
- 日本の年間ウラン燃料棒消費は7,500トンだが、ウランを輸入して燃料棒を国内で作ろうにも燃料棒生産設備能力が、年産1500トン程度しかなく、その設備さえ米国は廃止を要望していて、核武装宣言前は増設が困難で核武装宣言後建設に数年かかる。その間原子力発電所が使えなくなる。
原料ウラン自給が当面は困難
- 仮に燃料棒製造設備を建設しても、人形峠のウラン総埋蔵量は2,500トン前後で消費量1年分にも満たない。カナダは核開発国にウランを輸出しない政策である。高速増殖炉の実用化、海水中の酸化ウラン抽出・採取等の意見もあるが、まだ実用化に至っていない。
核実験場の確保
核武装するためには核実験が必須である。シミュレーションは核実験の実験データがなければコンピューターがあっても出来ない。過去の事例を見ると、「単なるブラフではない」実効的な核抑止力を行使している全ての国は、核実験により実用的な核兵器の保有を証明してきている。核実験を行う場合、実験場は本土から離れた無人島ということになる。離島は国定公園に指定されている場合もあり、固有種や絶滅危惧種などの希少生物や自然への影響が懸念される。また日本国民の海産物を大量に消費する食生活からして、海洋の放射能汚染は国民に対して深刻な影響を与える可能性がある(第五福竜丸事件と水爆マグロ騒動)。蝋山道雄は「離れ小島で地下実験しようものならどんな地殻変動が起きるか予想もできない」と批評している[2]。
離島は必ずしも無人ではなく、EEZの根拠の場合もあり、爆発によるこの消滅の危機さえ孕む。沖ノ鳥島に対して中国が「岩礁であって国際法上の島ではない(ゆえにEEZを認めない)」と主張しており、大陸棚資源や漁業権などの子々孫々までの国益も絡む。
「核の傘」は「破れ傘」なのか
米国政府は公式には同盟国への核の傘を一度も否定したことは無く「同盟国への核の傘の提供とトライアド(大陸間弾道弾、戦略爆撃機、潜水艦発射弾道弾による「核の三本柱」のこと)を維持する」ことを再三明言している。これはアメリカの覇権を構成する根幹であり、実際に同盟国が核攻撃を受けた場合、アメリカが自国への核攻撃への危険を侵してでも核による報復を行わなければならない十分な理由となる。
ただし、だからといってアメリカが核攻撃を甘受するつもりはなく、故に条約を破棄してでも「核抑止の効かない相手」への防御手段であるMDの開発と配備を行っている。「核の傘」というと核による報復のみに目が行きがちだが、通常戦力やMD、仮想敵への外交圧力も含めての「同盟」であることを失念している。さらには核の傘の信頼性とは、核を保有しないアメリカの同盟国に核攻撃を仕掛ける国家が評価するものである。これらの国家が「アメリカによる報復は無い」と確信できなければ、反撃がないままに非核国家へ攻撃ができるどころか、世界最大の核保有国による報復に晒される事になる。極論を言えばアメリカが「核の傘を提供しない」とステートメントしたとしても、それが信用できないことになる。実際に撃つまで結果が分からないが故に、アメリカの同盟国への核攻撃はアメリカとの直接対決の覚悟が必要となる。このハードルの高さが核の傘の意義となる。
蝋山道雄は核の傘懐疑論を「核武装せんがための『理屈』であり、『抑止力』についてまったく理解していないもの」だと批判している。その理由としては、「抑止力とはこちらが『実際に反撃する可能性』ではなく、相手に『攻撃させないもの』である…だから検証しなくてはならないのは「アメリカの意思」ではなく、敵国(仮に言えば当時は中ソ、今は北朝鮮)がアメリカの核の傘を十分に意識しているかどうか、つまり、抑止する側とされる側相互間の心理作用が重要なのであって、実は傘の下にいる者がどう思うかはさほど重要な要素ではない。そして現に他国からの攻撃が戦後50年以上に渡ってない以上、核の抑止力は十分に機能しているといえる」と述べている[2]。
北朝鮮に核抑止が通じるのか
日本が北朝鮮の核攻撃を被弾する可能性で最も高いのは、半島戦争の巻き添え被弾である。すなわち北朝鮮が核恫喝で韓国を併合しようとして、日本に核を突きつけ、米国に半島から手を引くように迫る場合である。しかし、北朝鮮政府要人は「統一のためなら核戦争も辞さない」と言明しており、日本が核武装しても「核の撃ち合い」になるだけではないか?という疑問もある。
北朝鮮は独裁国で選挙による人命尊重圧力が掛かりにくく、北朝鮮の最高指導者を含む政府首脳は核シェルターに避難するであろうし、核戦争で数百万人死のうとも半島統一を達成すれば最高指導者は「統一の英雄」になって権力基盤は強固になるため、「半島統一戦争」に絡む場合は核抑止が有効かどうかは疑問の余地がある。また、北朝鮮の体制崩壊に伴う混乱の場合も核抑止が効くかどうか疑問といわれている。そのため、北朝鮮に対しては「核抑止は効かない」ことを理由に真剣に国民保護を考えるなら、核武装よりも核物質生産施設への先制攻撃をすべきであるという積極意見もある[40]。
脚注
- ↑ 岩波文庫、「中谷宇吉郎随筆集」第5刷、樋口敬二編、1989、p178-179、「原子爆弾雑話」内、初出 文藝春秋、1945年9月号
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 神田憲行「日本の核武装 45年前に「不可能」と結論付けた議論の要諦」、NEWSポストセブン、 2012年12月2日、2013年2月11日閲覧。
- ↑ 外務省 非核三原則
- ↑ 2010年10月3日放映のNHKスペシャル「核を求めた日本」での元外務事務次官の村田の証言。
- ↑ 日本の核保有、外務省幹部が69年に言及か 西独と懇談 朝日新聞 2010年11月30日
- ↑ 中曽根康弘『自省録-歴史法廷の被告として-』新潮社,2004年
- ↑ 『週刊朝日』2014年4月25日号 「キッシンジャー機密文書を入手 米国が警戒した日本の核武装、右傾化」
- ↑ 2005年(平成17年)12月28日に公開されたイギリス政府の機密公文書
- ↑ 代表的なものとして清水幾太郎の『日本よ国家たれ――核の選択』(文藝春秋, 1980年)がある(ただし、清水の「転向」は偽装であり、共産主義を晩年まで捨てなかったことに注意)。
- ↑ ただし、西ドイツが米軍供与の戦術核200発を戦時に運用する計画を立てていてもソ連が欧州正面での戦争の可能性を否定することはなかった以上、日本の核武装の有無が軍事的影響を与えたという主張の妥当性は低く、ソ連が欧州戦争の可能性を否定しなかった事と実際の抑止力との評価の関連性が不明である。
- ↑ 『中央公論』9月号で評論家の田原総一朗との対談
- ↑ 「創憲会議 新憲法草案」
- ↑ 産経新聞 - (2006年(平成18年)12月25日版)
- ↑ “中国、2020年にも世界一の経済大国に、2050年には抜き返される―日本経済研究センター”. レコードチャイナ. (2007年12月10日) . 2011閲覧.
- ↑ 2004年米国の主要貿易パートナー(その2) 茨城県上海事務所、2005年3月
- ↑ 中西輝政編著『「日本核武装」の論点』より
- ↑ [1]
- ↑ 「新ゴーマニズム宣言」
- ↑ なおトッド本人が自身の日本核武装論について「勢力均衡論」と称しているわけではない。詳細は以下で記述する。エマニュエル・トッドも参照。
- ↑ 2010年12月27日日本経済新聞
- ↑ 朝日新聞,2006年10月30日
- ↑ 日本核武装を説くネオコン 朝日新聞出版
- ↑ 欧州で逮捕された核の闇市場関連のスイス人のパソコンからは小型原爆の設計図が発見されており、北朝鮮の手に渡ったとみられている。
- ↑ 田窪雅文「北朝鮮の核能力」 原水禁
- ↑ “金日成の北送事業で朝鮮総連は決定的に弱体化” Daily NK 2008-08-25
- ↑ CARL FREIRE, Korean Nukes Linked to Japanese Pinball, AP通信/サンフランシスコ・クロニクル, December 3, 2006.
- ↑ 溝口敦著 『パチンコ「30兆円の闇」―もうこれで騙されない』 小学館、2005年 ISBN 978-4093797238
- ↑ 2004年9月3日の読売新聞
- ↑ 2004年9月2日のBBC NEWSより
- ↑ 東アジア研究院の2004年7月調査
- ↑ 以上2004年10月14日の毎日新聞より
- ↑ 「北朝鮮、東京に核撃ち込む能力持つ」国際研究機関が報告書 読売新聞
- ↑ [『岸信介回顧録――保守合同と安保改定』] 廣済堂出版 1983年
- ↑ 『巨大地震はなぜ起きる これだけは知っておこう』あとがき 島村英紀 花伝社 2011年4月25日
- ↑ 月刊核武装論[2]参考
- ↑ 拡散安全保障イニシアティブ(PSI)
- ↑ 1957年(昭和32年)5月7日参議院予算委員会 161国務大臣(岸信介君)
- ↑ この項は核武装への「反対」ではなく、核武装という政策提起に対する「疑念」となる。更にこの項はこれら「疑念」に対する解決策や疑念そのものに対する反論をも含む。
- ↑ ポツダム宣言受諾・降伏文書調印の結果として現在の日本があるのだからこれは当然のこと。
- ↑ 詳細は核抑止・核抑止不成立ケース参照。
参考文献
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- 水島総編著、井上和彦ほか著 『『核武装』が日本を救う』 青林堂〈チャンネル桜叢書vol.2〉、2011年11月。ISBN 978-4-7926-0440-0。
- 山田克哉 『日本は原子爆弾をつくれるのか』 PHP研究所〈PHP新書〉、2009年1月。ISBN 978-4-569-70644-3。
- 吉澤正大 『日本はこうなったら核武装するしかないな 戦中戦後92年生きて分かったこと』 アートヴィレッジ、2011年3月。ISBN 978-4-905247-02-9。
関連項目
外部リンク
- 第33回「日本に核武装」― 米国から出た初めての奨励論(全5回)古森義久『外交弱小国 日本の安全保障を考える 〜ワシントンからの報告〜』、SAFETY JAPAN(日経BP社)
- 核戦略・核抑止理論 - Yahoo!百科事典