モモ
モモ(桃、学名は Amygdalus persica L.で[1][2]、Prunus persica (L.) Batsch はシノニムとなっている[3]。)はバラ科モモ属の落葉小高木。また、その果実のこと。
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概要
春には五弁または多重弁の花を咲かせ、夏には水分が多く甘い球形の果実を実らせる。中国原産。食用・観賞用として世界各地で栽培されている。未成熟な果実や種子にはアミグダリンという青酸配糖体が含まれる。
花
3月下旬から4月上旬頃に薄桃色の花をつける。「桃の花」は春の季語。桃が咲き始める時期は七十二候において、中国では桃始華、日本は桃始笑と呼ばれ、それぞれ啓蟄(驚蟄)の初候、次候にあたる。
淡い紅色であるものが多いが、白色から濃紅色まで様々な色のものがある。五弁または多重弁で、多くの雄しべを持つ。花柄は非常に短く、枝に直接着生しているように見える。観賞用の品種(花桃)は源平桃(げんぺいもも)・枝垂れ桃(しだれもも)など。庭木として、あるいは華道で切り花として用いられる。
葉
葉は花よりやや遅れて茂る。幅5cm、長さ15cm程度の細長い形で互生し、縁は粗い鋸歯状。湯に入れた桃葉湯は、あせもなど皮膚の炎症に効くとされる。ただし、乾燥していない葉は青酸化合物を含むので換気に十分注意しなければならない。
実
7月から8月に実る。「桃の実」は秋の季語。球形で縦に割れているのが特徴的。果実は赤みがかった白色の薄い皮に包まれている。果肉は水分を多く含んで柔らかい。水分や糖分、カリウムなどを多く含んでいる。栽培中、病害虫に侵されやすい果物であるため、袋をかけて保護しなければならない手間の掛かる作物である。また、痛みやすく収穫後すぐに軟らかくなるため、賞味期間も短い。生食する他、ジュース(ネクター)や、シロップ漬けにした缶詰も良く見られる。
食用の品種(実桃)の分類を以下に示す。
- 水蜜(すいみつ)種
- 一般的な桃。果肉の色は、白色系、黄色系、赤・ピンク系など。皮には柔らかい毛が生えている。
- ネクタリン(Nectarine)・椿桃(つばいもも・つばきもも)
- 皮が赤く、毛は、ほとんど無い。果肉は、黄色でやや硬い。「光桃(ひかりもも)」「油桃(あぶらもも)」とも呼ばれる。
- 蟠桃(ばんとう)
- 扁平な形をしている。中国神話では、西王母と関連がある。
なお、シラカバ花粉症を持つ人のうち一定割合の人がリンゴやモモなどバラ科の果物を食べた際に舌や咽喉(のど)にアレルギー症状を起こすことが知られている[5]。
参考画像
- Vineyard peaches de.jpg
実
- GoldenPeach1.jpg
袋掛けされた実
- モモ畑.jpg
モモ畑
- Prunus persica (200804).jpg
花が満開のモモ畑
- Peach flowers.jpg
花 白色
- Prunus persica10.jpg
花の例 淡紅色
- PrunusPersica.jpg
花の例 紅色
種子・つぼみ
種子の内核は「桃核(とうかく)」あるいは「桃仁(とうにん)」と呼ばれる。
漢方においては血行を改善する薬として婦人病などに用いられる。また、つぼみは「白桃花(はくとうか)」と呼ばれ、利尿薬、便秘薬に使われる。
樹木
割れにくく丈夫であるため、箸などに利用される。
樹皮
樹皮の煎汁は草木染めの染料として用いられる事がある。
桃の栽培と利用史
原産地は中国西北部の黄河上流の高山地帯。欧州へは紀元前4世紀頃にシルクロードを通り、ペルシア経由で伝わった。英名ピーチ(Peach)は“ペルシア”が語源で、ラテン語のpersicum malum(ペルシアの林檎)から来ている。種小名persica(ペルシアの)も同様の理由による。
日本では長崎県の多良見町にある伊木力遺跡から、縄文時代前期の桃核が出土しており、これが日本最古とされている。弥生時代後期には大陸から栽培種が伝来し桃核が大型化し、各時代を通じて出土事例がある。桃は食用のほか祭祀用途にも用いられ、斎串など祭祀遺物と伴出することもある。平安時代 - 鎌倉時代には珍重されていたが、当時の品種はそれほど甘くなく主に薬用・観賞用として用いられていたとする説もある。江戸時代にさらに広まり、『和漢三才図会』では「山城伏見、備前岡山、備後、紀州」が産地として挙げられるほか、諸藩の『産物帳』にはモモの品種数がカキ、ナシに次いで多く、特に陸奥国と尾張国に多いと記されるほど、全国で用いられるに至った[6]。明治時代には、甘味の強い水蜜桃系(品種名:上海水蜜桃など)が輸入され、食用として広まった。現在日本で食用に栽培されている品種は、この水蜜桃系を品種改良したものがほとんどである。
春先の温度が低い時期に雨が良く降ると縮葉病に掛かりやすく、実桃の栽培には病害虫の防除が必要である。また果実の収穫前には袋掛けを行わないと蟻やアケビコノハ等の虫や鳥の食害に合うなど(商品価値の高い果実を得ようとするならば)手間暇が掛かり難易度が高い果樹である。
なお、“もも”の語源には諸説あり、「真実(まみ)」より転じたとする説、実の色から「燃実(もえみ)」より転じたとする説、多くの実をつけることから「百(もも)」とする説などがある。
- 変わり種の品種
- 源平桃 - 1本の木に白花と紅花を咲かせる品種(観賞用花桃)。環境によっては白と紅の混ざった花も咲く。
- 照手水密 - 枝垂れ性の花桃だが小さいながら果実も食用とする事が出来る[7](一般的な花桃は果肉が固く食べられない)。
主な生産地
主に日本国内では山梨県、福島県、長野県など降水量の少ない盆地で栽培される。日本最北端の生産地は北海道札幌市であり、出荷数は極僅かだが南区の農園で栽培される。外国の主な生産国は、中国、アメリカ、イタリアなど。
収穫量
- 全国収穫量 124,700t
- 山梨県 39,100t (31.36%)
- 福島県 29,300t (23.50%)
- 長野県 15,400t (12.40%)
- 和歌山県 9,590t (7.69%)
- 山形県 8,080t (6.48%)
日本の主な産地
- 青森県
- 南部町(旧名川町)
- 軽米町、一関市(旧大迫町)、紫波町
- 秋田県
- 鹿角市
- 福島県 - 収穫量全国2位。福島市は平成の大合併前では収穫量トップで、福島盆地は全国有数の大産地となっている。「あかつき」は県が特に注力している品種で、福島県だけが大玉化する技術を確立し、信夫三山暁まいりから命名した[10]。そのほか、「伊達の蜜桃」などのブランド品がある[11]。東南アジア方面へも輸出している。また、県内では無袋栽培が主流となっている[12]。
- 群馬県
- 高崎市(旧高崎市、旧榛名町)
- 新潟県 - 生産量全国7-10位。モモ生育期間における日照時間の長さを生かし、高品質の桃を生産する。「日の出」などが代表品種。[13]
- 山梨県 - 収穫量全国1位。笛吹市は自治体で収穫量トップで、笛吹川対岸の扇状地は国内随一の桃栽培密集地となっており、大規模な一宮、御坂を初め、春日居、八代などの産地がある。一帯は「桃源郷」とも呼ばれ、開花シーズンにも多くの観光客で賑わう。[14]
- 長野県 - 収穫量全国3位。「川中島」「白鳳」などのほか、「なつき」「なつっこ」など県独自の品種も多い。また、ネクタリンの生産は国内トップ。[15]
- 岐阜県
- 高山市(旧国府町、旧久々野町)
- 静岡県
- 静岡市
- 愛知県 - 収穫量全国7-10位。尾張地域で盛んで、殆どは大消費地の名古屋市場か地元で消費される。[16]
- 岡山県 - 収穫量全国6位。かつては全国1位になったこともあったが、工業化などで産地が相対的に減少した。「清水白桃」の産地として知られる[20]。
- 広島県
- 三原市(旧大和町)
- 山口県
- 萩市(旧田万川町)
- 徳島県
- 上板町
- 愛媛県
- 松山市
- 福岡県
- 佐賀県
- 多久市
- 熊本県
- 熊本市
風習・伝説・年中行事など
中国において桃は仙木・仙果(神仙に力を与える樹木・果実の意)と呼ばれ、昔から邪気を祓い不老長寿を与える植物として親しまれている。桃で作られた弓矢を射ることは悪鬼除けの、桃の枝を畑に挿すことは虫除けのまじないとなる。桃の実は長寿を示す吉祥図案であり、祝い事の際には桃の実をかたどった練り餡入りの饅頭菓子・壽桃(ショウタオ、shòutáo)を食べる習慣がある。壽桃は日本でも桃饅頭(ももまんじゅう)の名で知られており、中華料理店で食べることができる。寿命をつかさどる女神の西王母とも結び付けられ、魏晋南北朝時代に成立した漢武故事などの志怪小説では、前漢の武帝が西王母の訪問を受け、三千年に一度実をつける不老長生の仙桃を授かったという描写がある。さらに後代に成立した四大奇書のひとつ西遊記の主人公孫悟空は、西王母が開く蟠桃会に供される不老不死の仙桃を盗み食いしている。
日本においても中国と同様、古くから桃には邪気を祓う力があると考えられている。『古事記』では、伊弉諸尊(いざなぎのみこと)が桃を投げつけることによって鬼女、黄泉醜女(よもつしこめ)を退散させた。伊弉諸尊はその功を称え、桃に大神実命(おおかむづみのみこと)の名を与えたという。また、『桃太郎』は桃から生まれた男児が長じて鬼を退治する民話である。3月3日の桃の節句は、桃の加護によって女児の健やかな成長を祈る行事である。
英語圏においては、傷みやすいが美しく美味しい果物から古い俗語で「若く魅力的な娘」を表し、そこから「ふしだら女」「(複数形で)乳房」などの意味にも転じている。
“モモ”の名を持つ植物
地方によっては甘い果実の総称として“もも”の語を用いることもあり、別種でありながら名前に“モモ”と付けられている植物も多い。
- ゲットウ (月桃):ショウガ科ハナミョウガ属
- スモモ(李/酸桃):バラ科サクラ属
- ヤマモモ(山桃):ヤマモモ科
- コケモモ(苔桃):ツツジ科
- クルミ(胡桃):クルミ科クルミ属
- フトモモ(蒲桃):フトモモ科
- キウイフルーツ(獼猴桃、びこうとう):マタタビ科マタタビ属
- ゴレンシ(楊桃、ようとう):カタバミ科
自治体の花・木
- モモ
- ももの花
その他
- 桃色
- 色のひとつ。薄い赤色。ピンク(ナデシコ色)の和訳としても使われる。
- 桃源郷
- 俗世間を離れた、素晴らしいところ。理想郷。ユートピア。中国の詩人陶渕明の詩にある「桃花源記」に由来する[23]。
- モモの花言葉
- 天下無敵・チャーミング・私はあなたのとりこ
- 桃栗三年柿八年(ももくりさんねんかきはちねん)
- 発芽から結実まで、桃や栗は三年、柿は八年かかる。物事を成し遂げるには時間がかかることを示唆することわざ。
- 桃栗三年柿八年 梨の大馬鹿十八年(-なしのおおばかじゅうはちねん)
- 桃栗三年柿八年 くるみの大馬鹿二十年(-くるみのおおばかにじゅうねん)
- などと言われる地方もある。
- すもももももももものうち(李も桃も桃のうち)
- 早口言葉のひとつ。なお李はバラ科サクラ属で、モモとは別の植物である。
- 桃割れ
- 日本髪の髪型。丸くまとめた髷(まげ)の部分が二つに分かれていて、割った桃のように見える。明治期に考案され、大正期までは未婚女性の髪型として盛んに結われていた。
- 桃尻
- モモの実はすわりが悪い事から、馬に乗るのが下手で鞍に尻が落ち着かないことを指す言葉。この語源以外に、(専ら女性の)モモのように美しい形をした尻を表現する際に使われている。
- 桃太郎
- 御伽噺のひとつ。岡山県伝承のものが有名だが、各地に様々な伝承がある。
- 日本文学
- 夏目漱石『三四郎』で、三四郎は、列車内で広田先生から水蜜桃を振る舞われる。桃をめぐる正岡子規やレオナルド・ダ・ヴィンチのエピソードも出る。
脚注
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タグです。 「Ylist
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<ref>
タグです。 「Ylist_synonym
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ “ぱれっと 2012年4月号 果樹のページ”. 岡山市農業協同組合. . 2013閲覧.
- ↑ “体調不良は給食のリンゴ原因 美幌の小中学生、アレルギー反応”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年7月12日). オリジナルの2014年7月14日時点によるアーカイブ。
- ↑ 小林幹夫「恵泉果物の文化史(6):モモ」、『園芸文化』第6巻、恵泉女学園大学、2009年7月、 136-141頁。
- ↑ “ハナモモ‘照手水蜜’”. 神奈川県農業技術センター (2007年12月). 2011年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2015閲覧.
- ↑ 農林水産省 平成25年産もも、すももの結果樹面積、収穫量及び出荷量
- ↑ おいしい山形 もも
- ↑ 旬の食材百科 フルーツ 桃 あかつき
- ↑ >福島県公式 福島県ブランド認証産品(もも)
- ↑ 福島県公式 国際課 中通り21(福島市):桃の薫る夏
- ↑ JA全農にいがた ニュース 新潟の桃が真っ盛り!
- ↑ ふえふき旬感ネット 笛吹市の桃の花
- ↑ JA長野県 いいJAん!信州 農畜産物情報 モモ
- ↑ ネット農業あいち 特産品紹介 モモ
- ↑ 近畿農政局 もも(大阪泉州地域)
- ↑ 大阪府公式 なにわ特産品 大阪もも
- ↑ あら川の桃振興協議会
- ↑ 岡山県公式サイト 農林水産部 農政企画課 白桃
- ↑ JA香川県 らりるれ倶楽部 品目一覧 果物:もも
- ↑ うどん県農産物紹介ポータルサイト LOVEさぬきさん かがわの県産品一覧 もも
- ↑ 21世紀研究会・編『食の世界地図』143頁 文藝春秋社
関連項目
- ネクタリン - モモの変種
- あら川の桃 - 和歌山県紀の川市桃山町で生産される桃のブランド。
- ハナモモ - 寛仁親王妃信子のお印、自治体の花などに制定されている。
- 食物アレルギー - 日本では「特定原材料に準ずるもの」として表示が奨励されている。
- 花嫁は厄年ッ! - 桃農家を舞台にしたテレビドラマ
外部リンク
- モモ、スモモ、オウトウの栽培管理 山梨県果樹試験場
- モモの品種育成 長野県果樹試験場