ソメイヨシノ
ソメイヨシノ(染井吉野、学名: Cerasus ×yedoensis (Matsum.) Masam. & Suzuki ‘Somei-yoshino’)は、エドヒガン系の桜と日本固有種のオオシマザクラの雑種の交配で生まれた日本産の園芸品種のサクラ[1]。遺伝子研究の結果、ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種が交雑してできた単一の樹を始源とするクローンであることが判明している[1][2][3]。
日本では、サクラは固有種を含んだ10類の基本の野生種を基に[4][5]、これらの変種を合わせて100種以上の自生種があり、さらにこれらから育成された園芸品種が200種以上あり[6]、分類によっては600種ともいわれる品種が確認されているが[7]、ソメイヨシノは明治の中頃からこれらの多品種のサクラのうち圧倒的に多く植えられた品種であり、今日では、メディアなどで「桜が開花した」というときの「桜」はソメイヨシノ(の中の、気象台が定めるなどした特定の株)を意味するなど、現代の観賞用のサクラの代表種となっている。
Contents
名称
学名
ソメイヨシノに限らず、サクラの属名はPrunus、和名ではサクラ属(「スモモ属」とも)とする分類と、Cerasus(サクラ属)とするものがある。日本では前者、分けてもサクラ亜属 (subg. Cerasus) とするものが多かったが、近年は後者が増えてきている[注釈 1]。しかしCerasusとすることで決着した訳ではない[9][13]。海外では現在も、Prunusに分類するのが主流である。
ソメイヨシノの学名が園芸品種名の‘Somei-yoshino’の記述が無しで、単にC.(もしくは P.)× yedoensisと表記されることがある[8][14]。しかしC.(もしくは P.)× yedoensisは、エドヒガンとオオシマザクラの間の雑種のサクラのすべてを表す名前であり、例えばアメリカ(米国名:Akebono)という品種のサクラの学名はPrunus x yedoensis 'Akebono'である。ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種が交雑して生まれたサクラの中から特徴のある特定の一本を選び抜いて接ぎ木で増やしていったクローンであることから、ソメイヨシノを特定して記述する場合には園芸品種名を付けて記載することが望ましい。
命名の由来
江戸末期から明治初期に、江戸の染井村に集落を作っていた造園師や植木職人達によって育成された。初めサクラの名所として古来名高く西行法師の和歌にもたびたび詠まれた大和の吉野山(奈良県山岳部)にちなんで「吉野」「吉野桜」として売られ、広まったが、藤野寄命による上野公園のサクラの調査によってヤマザクラとは異なる種の桜であることが分かり(1900年)、この名称では吉野山に多いヤマザクラと混同される恐れがあるため、「日本園芸雑誌」において染井村の名を取り「染井吉野」と命名したという。翌年、松村任三が学名をつけた[15][16]。
特徴
外見的特徴
樹形は横に大きく広がる傘状。花弁は5枚で葉が出る前に花が開き、満開となる。開花期は九州・四国地方で3月下旬ごろ。花色は蕾では萼等も含めて濃い赤に見えるが、咲き始めは淡紅色、満開になると白色に近づく。原種の一方であるエドヒガン系統と同じく満開時には花だけが密生して樹体全体を覆うが、エドヒガンよりも花が大きく派手である。エドヒガン系統の花が葉より先に咲く性質とオオシマザクラの大きくて整った花形を併せ持った品種である。
萼筒は紅色でつぼのような形をしている。樹高はおおよそ10-15 m。若い木から花を咲かすために非常に良く植えられている。実は小さく、わずかに甘みもあるが、苦みと酸味が強いため食用には向かない。
繁殖
ソメイヨシノのゲノム構成はヘテロ接合性が高く、ソメイヨシノに結実した種子では同じゲノム構成の品種にはならない。各地にある樹はすべて人の手で接木(つぎき)などで増やしたものである。
自家不和合性が強い品種である。よってソメイヨシノ同士では結実の可能性に劣り、結果純粋にソメイヨシノを両親とする種子が発芽に至ることはない。このためソメイヨシノ同士の自然交配による純粋な子孫はありえない。不稔性ではなく、結実は見られる。
ただしソメイヨシノ以外のサクラとの間で交配することは可能であり、実をつけその種子が発芽することもあり、これはソメイヨシノとは別品種になる。ソメイヨシノとその他の品種の桜の実生子孫としては、ミズタマザクラやウスゲオオシマ、ショウワザクラ、ソメイニオイ、ソトオリヒメなど100種近くの品種が確認されている。ソメイヨシノの実生種からソメイヨシノに似て、より病害などに抵抗の強い品種を作ろうという試みも存在する。
すべてのソメイヨシノは元をたどればかなり限られた数の原木につながり、それらのクローンといえる。これはすべてのソメイヨシノが一斉に咲き一斉に花を散らす理由になっているが、特定の病気に掛かりやすく環境変化に弱い理由ともなっている。
森林総合研究所などによるDNAマーカーを用いた研究では、各地から収集されていたソメイヨシノが同一クローンであることが確認された[17]。
用途・人気
明治以降、日本では他のサクラを圧倒する人気種である。街路樹、河川敷、公園の植え込みなどに広く用いられている。また、全国の学校の校門近くにも植えられていることが多い。ソメイヨシノは花を咲かす時期や、散らすまでの時間が早いために、学校などでは本種と本種より1週間程度花の咲いている期間の長いヤエザクラの両方を植えて、入学式にいずれかの桜を咲かせることができるようにしていることが多い。広く植えられている種であることから、花見に一番利用される木となっている。
葉より先に花が咲き開花が華やかであることや若木から花を咲かす特性が好まれ、明治以来徐々に広まった。さらに、第二次世界大戦後、若木から花を咲かせるソメイヨシノは爆発的な勢いで植樹され、日本でもっとも一般的な桜となった。
ソメイヨシノは街中では他種より目にする機会が圧倒的に多いことから、以前からその起源についてとともに、可否好悪についても愛桜家の間で論争の絶えなかった品種である。ソメイヨシノは多くの人に人気があり、多くの公園などで花見のための木になっている一方で、ソメイヨシノ一種ばかりが植えられている現状やソメイヨシノばかりが桜として取り上げられる状態を憂慮する声もある。#遺伝子汚染も参照。
欧米には1902年にカンザンと共にわたっている[18]。欧州やアメリカに多くのソメイヨシノが寄贈されており、ワシントンのポトマック川のタイダルベイスンで毎年春に行われる全米桜祭りでのソメイヨシノが有名である。
現在もほぼ日本全域に植えられている最もポピュラーな桜であり、さらにすべての個体が同一に近い特徴を持ち、その数が非常に多いため「さくらの開花予想」(桜前線)に主に使われるのもソメイヨシノである。
起源について
人工作出
ソメイヨシノの起源を探るための様々な遺伝子研究により、ソメイヨシノはエドヒガン系統の桜と日本固有種のオオシマザクラ(最新の研究成果によると、正確にはオオシマザクラとヤマザクラの交雑種)を最初の父母とするクローンであることが判明している(#遺伝子解析の結果)。これにより最初のソメイヨシノは、意図的か意図せざるかは別として、全国から一箇所に集められたエドヒガンとオオシマザクラが交配して誕生し、園芸家が挿し木によって増やしたという説が最も有力であり、江戸時代中期-末期に園芸品種として確立したとされている。
明治初年に樹齢100年に達するソメイヨシノが小石川植物園に植えられていたという記録[19]や、染井村の植木屋の記録にソメイヨシノを作出したという記録が発見されたことから、岩崎文雄らは染井村での人工作出を唱えている[19]。現在ではソメイヨシノが染井村から「吉野桜」として売り出され日本中に広まったことは確認されているが、染井で最も成功した植木屋の伊藤伊兵衛政武の直接的な関連はないとされている[20]。
遺伝子解析の結果
以下にソメイヨシノの遺伝子解析の研究成果をあげる。
1995年にはDNAフィンガープリント法で遺伝子の解析が試みられ、ソメイヨシノがクローンであること、遺伝的にエドヒガンとオオシマザクラを親に持つことが判明した[21]。
2007年3月、千葉大学の中村郁郎・静岡大学の太田智などの研究グループは、ソメイヨシノが「コマツオトメのようなエドヒガン系品種を母親に、オオシマザクラを父親として起源したことを示唆している」と発表した[22][23]。(関連論文)[24][25][26]。
2012年に千葉大の研究チームは、北関東のエドヒガンがソメイヨシノの母親と推定され、コマツオトメはソメイヨシノの母親ではなく近縁にとどまることを園芸学会で発表した[27]。これは、千葉大学園芸学部の国分尚准や安藤敏夫の研究チームが、江戸時代から生えているエドヒガン系の天然記念物級の古木を青森から鹿児島まで523本探して、新たに葉緑体DNAを解析したところ、ソメイヨシノのDNAと一致する古木が、群馬県で4本、栃木、山梨、長野、兵庫、徳島の各県で1本ずつ見つかったことを受けてである。また国分は、各地から桜の苗が染井村の植木屋に集まりソメイヨシノができた可能性を話した[27]。今後、細胞核DNAのS遺伝子等の解析もあわせて総合的に判断することで、母親の起源が特定される可能性があるという。
2014年1月に首都大学東京の研究者らは、DNAフィンガープリント法より精度が高い核SSR(シンプル・シーケンス・リピート)法を利用したDNA解析によって、日本のサクラの栽培品種の起源を明らかにし、その中で、ソメイヨシノの交雑割合が、エドヒガン47%、オオシマザクラ37%、ヤマザクラ11%、その他5%であることを示した[28][29][30]。
加藤の共同研究者である勝木俊雄(森林総合研究所)は、ソメイヨシノの起源として、ソメイヨシノの片方の親はエドヒガン、もう片方の親はオオシマザクラとヤマザクラが交雑したものではないかと推測している。つまり、ソメイヨシノ = (オオシマザクラ×ヤマザクラ) × エドヒガンとの推測である。なお、オオシマザクラとヤマザクラの交雑種は人里でよく見られるので、ソメイヨシノは全くの自然から生まれたものではないとも推測している[31]。
2017年1月には森林総合研究所と岡山理科大学の共同研究により、あらためてソメイヨシノ等の4種の種間雑種のサクラの遺伝情報と学名が整理され、エドヒガンとオオシマザクラを親とするソメイヨシノは、エドヒガンとオオヤマザクラを親とする王桜(エイシュウザクラ)とは異なる種であることが発表され(後述)、この詳細は2016年12月にTaxon誌でオンライン公開された[1]。更に、2017年に森林総合研究所と岐阜大学の共同研究によりソメイヨシノは1回の種間交雑による雑種では無く、より複雑な交雑に由来するとの説が発表された[32]。
異説
王桜起源説
鎮海の桜に見られるように、韓国には日本統治中にソメイヨシノが導入されたが[33]、韓国ではソメイヨシノの正体は韓国固有種の王桜(エイシュウザクラ)であるとする韓国起源説が主張されており、そのため朝鮮語においても両者を区分せず、どちらも「왕벚나무(ワンボンナム)」と呼称されている。このため現在においても王桜の名所を作るという名目で韓国内でソメイヨシノの大量植樹が行われている。しかし上記の通り様々な遺伝子解析によってソメイヨシノの片親は日本固有種のオオシマザクラであり、ソメイヨシノと王桜は遺伝的に異なることが明らかにされている。2017年には改めて森林総合研究所(チーム長 勝木俊雄)と岡山理科大学の池谷祐幸がサクラの種間雑種について分類体系を整理し、韓国済州島の王桜(エイシュウザクラ)はエドヒガンとオオヤマザクラの種間雑種でありソメイヨシノと異なることを明らかにして、新たな王桜の学名(Cerasus × nudiflora (Koehne) T.Katsuki & Iketani)を確立させて、国際的な周知が行われた[1]。
またソメイヨシノはエドヒガンと伊豆諸島に固有分布するオオシマザクラとの交雑により誕生したことから、「ソメイヨシノ韓国起源説」は成立しないが、広義の種の定義ではオオシマザクラは、ヤマザクラの一種という意見もあり、ヤマザクラは4つの変種(通常はそれぞれ独立種とする場合が多い)からなり、そのうちのカスミザクラは朝鮮半島にも分布しているため、韓国でエドヒガンとカスミザクラを交配したら「ソメイヨシノそっくり」という場合も可能性としては有り得るが、仮にオオシマザクラとカスミザクラを「同じ種族」と仮定しても、DNA解析からソメイヨシノは伊豆諸島産の集団が親であることが確定しているため、仮に韓国で作られた「ソメイヨシノそっくり」が存在したとしても、それはソメイヨシノではない[34]。
自然発生・伊豆半島説
1916年、屋久島のウィルソン株にその名を残すアメリカのアーネスト・ヘンリー・ウィルソンによって、ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンの自然交雑による雑種であるという説が唱えられた。その後、国立遺伝学研究所の竹中要の交配実験により、オオシマザクラとエドヒガンの交雑種のなかからソメイヨシノおよびソメイヨシノに近似の亜種「イズヨシノ」が得られることがわかり、1965年に発表された。この発表によって、自然交雑説の研究が行われ、この立場をとる場合カスミザクラの島嶼型で伊豆半島に多く存在するオオシマザクラの分布、およびエドヒガンの分布状況から伊豆半島付近で発生したとする伊豆半島発生説が唱えられた。しかし、伊豆半島における調査によればオオシマザクラとエドヒガンの分布域には差異がある[35]。また、ソメイヨシノの片親のオオシマザクラは、房総半島由来と推定されており[19]、伊豆半島で自然交雑によって生まれた可能性は否定的である。
独立種説
20世紀初頭、アメリカの植物学者アーネスト・ヘンリー・ウィルソンは、ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンの雑種ではなく独立した種であるとの説を唱えていた。この説を実験的に検証するため竹中要博士が様々な交配を行ない、その中から広い意味で形質が基本的に「ソメイヨシノ」と差異のないイズヨシノを生み出した。これが、ソメイヨシノの起源探究の原点にもなっている。現在、ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガン系列のサクラの交雑種であることが確実となっており、ウィルソンの、この別説が唱えられることはない。
ソメイヨシノの健康
ソメイヨシノにも他のサクラ全般と同様の特徴が見られる。桜に存在する生物学的弱点はソメイヨシノにも同様である。また、並木などに人為的に集中的に植樹されていることが病害を広げる原因になる場合もある[36]。全個体が単一クローンであるため、突然変異以外に新しい耐性を獲得する可能性はない。
菌類による病気
他のサクラよりてんぐ巣病(てんぐすびょう)に弱い[37]。サクラてんぐ巣病は子嚢菌に属するタフリナ属の1種 Taphrina wiesneri の感染により起こる病気で、その上部では小枝が密生していわゆる「天狗の巣」を作る。さらに、開花時には小さい葉が開くので目障りとなったり、罹病部位は数年で枯死したりといった被害を与える[38]。罹病した病枝は専門家に切り取ってもらうなどの措置を取る。
また、コフキサルノコシカケなどの白色腐朽菌類が繁殖し、罹病した病木を切り取らなければならないケースが急増しており、特に、公園や街路樹として植えられている木が深刻な状況に陥っている[39]。こうした症状は外からではわからないため、特別な機械を使わないと診断できない。京都府立植物園では2006年ごろから衰弱するソメイヨシノが増え、調査のため、京都府立大学の共同研究員らと弱った木を掘り起こし調査したところ、「ナラタケモドキ」の白い菌糸が根を覆っていた。専門家は対策や観察の強化を呼びかけている[40]。
害虫による食害
2012年(平成24年)に初めて中国や朝鮮半島由来の外来種のクビアカツヤカミキリによるサクラの食害が報告されて以来、日本各地で被害報告が相次いでおり、その被害の深刻さから、2018年(平成30年)1月にクビアカツヤカミキリが環境省より特定外来生物に指定された[41][42][43]。このカミキリはサクラに穴をあけて卵を産み付けるが、その幼虫が大量発生して木の内部を食い散らかす事態が相次いでおり、特に大量に植樹されているソメイヨシノの被害が著しく、回復不能なダメージを受けて伐採される事例が相次いでいる[44]。2017年5月にはクビアカツヤカミキリに対応可能な住友化学の薬剤「ロビンフッド」の適用範囲がサクラにも拡大され、対応策の一例となっている[43]。また埼玉県環境科学国際センターではサクラへ寄生するクビアカツヤカミキリ対策として、薬剤注入やネットによる成虫の拡散防止などの方法を広く公開している[45]。
環境による樹勢低下
ソメイヨシノは街路樹として植えられている場合が多いが、これにより根の近くまで舗装されていたり排気ガスに晒されていることで、健康に悪影響を与え樹勢を削ぐ。花見に一番使われる木であることも病気の遠因といえ、根に近い土壌を過剰に踏みしめられたり、花見客に枝を折られることは健康に悪影響を与えると推測される[46]。近年の地球温暖化やヒートアイランド現象でソメイヨシノが急激な環境の変化についていけていないことが病気の遠因になっているという説もある[47]。
寿命
大径になる木は理論上は寿命がないと考えられており[48]、ヤマザクラやエドヒガンでは数百年の古木になることもある一方で、江戸時代に作出されたソメイヨシノは、野生種に比べて新しく誕生した種であることを割り引いても、高齢の木が少ない。老木の少なさの原因ははっきりしていないが、「ソメイヨシノは生長が早いので、その分老化も早い」という説があるほか、街路樹として多用されているソメイヨシノは、根の周辺まで舗装されていたり排気ガスなどで傷むことが多く、公園といった踏み荒らされやすい場所に植樹されているということが多いことも寿命を縮める原因となっているのではないかとの指摘がある。ソメイヨシノはクローンであるため、全ての株が同一に近い特性を持ち、病気や環境の変化に負ける場合には、多くの株が同じような影響を受け、植樹された時期が同時期ならば、同時期に樹勢の衰えを迎えると考えられている。21世紀に入り樹勢の衰えが目立つようになったため、戦後に大量に植えられた本種の寿命が到来しつつあると危惧されており、ソメイヨシノ60年寿命説が唱えられることもある[49]。
一方、ソメイヨシノの老木が存在していることも事実である。例えば青森県の弘前城(弘前公園)には1882年に植樹された樹齢130年を超えるソメイヨシノがあり、これは本種の現存する最も古い株であると言われることがあるほか[50][注釈 2]、福島県の開成山公園には1878年[51]、東京都の小石川植物園には1877年ごろに植樹された樹齢約140年の現存する最古のソメイヨシノと言われる株がある。多摩森林科学園の勝木俊雄はこれらをもってソメイヨシノ60年寿命説を否定している[52]。また、神奈川県秦野市の小学校には1892年に植樹された樹齢120年を超える2本の老木が存在し、東京都内の砧公園のソメイヨシノは1935年に植えられすでに80年以上が経過している。
青森県弘前市ではリンゴの剪定技術をソメイヨシノの剪定管理に応用するなどして樹勢回復に取り組んだ結果、多くのソメイヨシノの樹勢を回復することに成功している。ただし、紅葉・落葉直後にすぐ剪定することでC/N比(炭素/窒素比)を変えたり根回しや土壌交換による細根の発生をもたらすなど、管理に留意を要する。
遺伝子汚染
ソメイヨシノはきわめて多く植えられているため、地域に自生する野生のサクラと交雑してしまう遺伝子汚染が報告されている。これにより各地の地域固有の品種の桜の花の形や耐候性、強健性などの性質が変わってしまう可能性があり、固有の野生桜が自生する地域にソメイヨシノを植える際には注意が必要であるとされている [53]。
代替品種への植え替え
公益財団法人日本花の会は、桜の名所作りに適した品種として、樹勢が強健で鑑賞性が高い複数の品種を推奨して配布しており、2018年(平成30年)度はタイリョウザクラ、ジンダイアケボノ、マイヒメ、ヤエベニオオシマ、ハナカガミ、イチヨウ、コウカ、カンザンの8品種を推奨して配布している[54]。従来はソメイヨシノもその人気から配布対象品種であり、日本花の会だけでも200万本以上の苗木を配布してきたが、上記のようにてんぐ巣病に弱いため、2005年度から苗木の配布を、2009年度からは販売も中止し、ソメイヨシノから植え替えする場合の代替品種としては、花や開花時期がソメイヨシノと類似している上にてんぐ巣病にも強いジンダイアケボノかコマツオトメへの植え替えを推奨している[55][56]。
また生長が速く大木になりやすいソメイヨシノは根が浅く広く張り、それに伴って街路や隣接敷地の舗装を変形させて破壊し、バリアフリーの面で障害となりやすい。大木になりやすい上に樹形が横に広がる傘状のため、狭い街路に街路樹として植えた場合は、車道からの見通しや隣接区域への障害になる可能性がある。このため特に都市部では、植え替え時にソメイヨシノより小型のジンダイアケボノが選好されやすくなっている[57]。
ギャラリー
- Prunus Sprout Sakura20080405.JPG
ソメイヨシノの花芽(右上に見える尖った芽は葉芽)
- ソメイヨシノの蕾.JPG
咲く直前
- ソメイヨシノ 幹の途中から.JPG
幹の途中から芽吹くソメイヨシノ
- ソメイヨシノの花.JPG
花の状態
- 日野市多摩川右岸満開.jpg
満開のソメイヨシノ
- 間門から本牧の満開.jpg
満開のソメイヨシノ(横浜市中区、本牧通り)
- Someiyosino Cherry 20080624b.JPG
熟すほどに赤黒くなる果実
- Someiyosino Cherry 20080624.JPG
ソメイヨシノの果肉は酸味と苦味があり食用には向かない
- ソメイヨシノの紅葉.JPG
ソメイヨシノの紅葉
脚注
注釈
出典
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 国立研究開発法人 森林総合研究所 染井吉野’など、サクラ種間雑種の親種の組み合わせによる正しい学名を確立 国立研究開発法人 森林総合研究所 2017年1月18日
- ↑ 「ソメイヨシノ」はどこからやって来たのか 3 読売新聞調査研究本部主任研究員 佐藤良明、2017年03月19日
- ↑ 「ソメイヨシノ」はどこからやって来たのか 4 読売新聞調査研究本部主任研究員 佐藤良明、2017年03月19日
- ↑ 紀伊半島南部で100年ぶり野生種のサクラ新種「クマノザクラ」 鮮やかなピンク 森林総研 産経ニュース 2018年3月13日
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- ↑ 10.0 10.1 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「ylist-long
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ “Name - Cerasus yedoensis (Matsum.) A.N. Vassiljeva”. Tropicos. . 2012閲覧.
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- ↑ “桜のために知っておきたい“花見のマナー””. 東京ウォーカー. (2009年4月3日) . 2010閲覧.
- ↑ 『Newton』 竹内均、株式会社ニュートンプレス、2004-05-07。
- ↑ 古屋江美子 (2008年5月2日). “木の寿命ってどれくらい?”. エキサイトニュース (エキサイト) . 2010閲覧.
- ↑ 桜-身近な花をどれだけ知っていますか? (協力:植物研究部 秋山忍) 国立科学博物館
- ↑ 日本最古のソメイヨシノ開花/弘前公園 web東奥 2016年4月19日
- ↑ “開成山公園のソメイヨシノは最古級の桜 樹齢測定調査で結論”. 福島民報. (2017年4月13日) . 2017閲覧.
- ↑ 桜という植物の「ふしぎ」~ソメイヨシノの秘密~ 東京FM
- ↑ “野生の桜、遺伝子ピンチ 移植ソメイヨシノと交雑”. asahi.com (2009年1月29日). . 2012閲覧.
- ↑ “平成30年度 配布対象品種一覧 (PDF)”. 日本花の会. . 2018閲覧.
- ↑ “トピック ソメイヨシノの配布・販売取り止めのお知らせ”. 日本花の会. . 2016閲覧.
- ↑ ソメイヨシノ世代交代 寿命迎え、伝染病まん延 日本経済新聞 2018年3月17日
- ↑ 運命に翻弄される桜、ソメイヨシノ。代打は娘・ジンダイアケボノ!? TBSラジオ 2017年4月5日
参考文献
- 「ソメイヨシノとその近縁種の野生状態とソメイヨシノの発生地」 筑波大農林研報 3:95-110 (1991) 岩崎文雄
- (2007) 新日本の桜. 山と渓谷社. ISBN 4635061922.
関連項目
- 桜前線 - 桜の開花予想には、主にソメイヨシノが基準となっている。
- ウィルソン株
- 花見
- シダレソメイヨシノ - オオシマザクラとシダレザクラの交配種
- ミカドヨシノ、イズヨシノ、アマギヨシノ - いずれもソメイヨシノの交配実験中に生まれた。
- タマナワザクラ(玉縄桜) - ソメイヨシノがベースとなった桜。
外部リンク
- ソメイヨシノのタイプ標本 「日本植物研究の歴史 小石川植物園300年の歩み」 大場秀章編、カラー口絵・解説から 東京大学総合研究博物館
- 染井吉野の仲間 - 森林総合研究所 國立研究開発法人 森林総合研究所 多摩森林科學園
- 染井吉野の仲間 - 森林総合研究所 國立研究開発法人 森林総合研究所 多摩森林科學園