九州新幹線 (長崎ルート)
九州新幹線(長崎ルート)(きゅうしゅうしんかんせん ながさきルート)は、福岡市と鹿児島市・長崎市を結ぶ整備新幹線計画(九州新幹線)のうち、福岡市(博多駅)と長崎市(長崎駅)を結ぶルートを指す。
概要
九州新幹線(長崎ルート)は1972年(昭和47年)12月12日、全国新幹線鉄道整備法第4条第1項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』(昭和47年運輸省告示第466号)により告示され、[国交省 1]1973年(昭和48年)11月13日に整備計画が決定された5路線[佐賀 1](いわゆる整備新幹線)の路線の一つである。整備計画決定以降もルートや整備方式などをめぐって様々な曲折があり着工には至っていなかったが、上下分離方式により並行在来線をJR九州から経営分離しない方針が示されたため、2008年に武雄温泉駅 - 諫早駅間が着工された。その後、新鳥栖駅 - 武雄温泉駅間は在来線を活用し、軌間の異なる在来線(狭軌)と新幹線(標準軌)を直通できる軌間可変電車(フリーゲージトレイン、FGT)を導入する方針が決定され、2012年には諫早駅 - 長崎駅間が着工された。武雄温泉駅 - 長崎駅間は2022年度内に開業予定である。当初の計画よりフリーゲージトレインの開発が難航し2022年の開業に間に合わないため、2022年の暫定開業時点では武雄温泉駅で在来線と新幹線の対面乗り換え方式がとられる予定である。さらに、運営予定者の九州旅客鉄道(JR九州)が車両や保守費用が割高なフリーゲージトレインの導入を断念し、全線フル規格での建設を求める方針を示した。このような状況を踏まえて、2018年時点で未着工であり九州新幹線(鹿児島ルート)との分岐点である新鳥栖 - 武雄温泉間の整備方式について、フル規格新幹線やミニ新幹線方式も含めた整備方式の検討が行われている。
名称・呼称
国の整備計画では「九州新幹線(長崎ルート)」という名称だが、建設を行う鉄道・運輸機構や地元の長崎県、佐賀県は長崎ルートではなく「九州新幹線(西九州ルート)」という呼称を使用している[JRTT 1][佐賀 2][1]。また、「九州新幹線」という呼称で既に営業している鹿児島ルートと区別するために単に「長崎新幹線」とも呼ばれることがある[新聞 1][新聞 2][2]。
計画時から「長崎ルート」と呼ばれてきたが、2005年(平成17年)10月に佐賀県・長崎県は独自に「西九州ルート」へと名称を変更した。これは「長崎ルート」表記だと長崎県がことさら強調されるため、同じく影響を受ける佐賀県民に配慮する形で名付けられたものである。JR九州も自主的にこれに対応し、「長崎ルート」の名称は併記される形となった。政府・与党・法令上の名称は引き続き「長崎ルート」の呼称を用いている。
佐賀県内のマスコミでも対応が分かれており、例えばテレビではNHK佐賀放送局は「長崎ルート」をそのまま使用しているのに対し、地元唯一の民放テレビ局であるサガテレビは「西九州ルート」を使用する。また、地元紙の佐賀新聞社は「長崎ルート」、ブロック紙の西日本新聞は「西九州ルート」と分かれている。
路線データ(予定)
- 営業主体:九州旅客鉄道
- 建設主体:鉄道建設・運輸施設整備支援機構
- 軌間:武雄温泉駅 - 長崎駅:1,435mm(標準軌)
- 電化方式:武雄温泉駅 - 長崎駅:交流25,000V (60Hz)
- 車両基地:長崎県大村市の竹松町・沖田町付近に建設予定
設置予定駅一覧
未着工区間
- 2018年3月時点で新鳥栖駅 - 武雄温泉駅間の整備方式は検討中。(後述)
着工区間
- 2022年度内に武雄温泉駅で在来線とフル規格新幹線の対面乗り換え方式による暫定開業予定。
- JRの路線名は、その駅に接続する予定の正式路線名のみを記す。
駅名 | 実キロ [長崎 1] |
接続路線 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|
武雄温泉駅 | 0.0 | 九州旅客鉄道:佐世保線 | 佐賀県 | 武雄市 |
嬉野温泉駅 (仮称) |
10.9 | 嬉野市 | ||
新大村駅 (仮称) |
32.2 | (大村線大村駅とは別位置。駅内に大村線ホーム設置予定) | 長崎県 | 大村市 |
諫早駅 | 44.8 | 九州旅客鉄道:長崎本線・大村線 島原鉄道:島原鉄道線 |
諫早市 | |
長崎駅 | 66.0 | 九州旅客鉄道:長崎本線 長崎電気軌道(長崎駅前停留場):本線(1号系統・2号系統)・桜町支線(3号系統) |
長崎市 |
主要構造物
トンネル
佐賀県
- 下西山トンネル 長さ:145m
- 武雄トンネル 長さ:1,380m
- 内田トンネル 長さ:88m
- 第1袴野トンネル 長さ:100m
- 第2袴野トンネル 長さ:90m
- 宇土手トンネル 長さ:75m
- 大草野トンネル 長さ:598m
- 三坂トンネル 長さ:1,400m
- 俵坂トンネル 長さ:5,705m
長崎県
- 三ノ瀬トンネル 長さ:885m
- 彼杵トンネル 長さ:2,075
- 塩鶴トンネル 長さ:345m
- 千綿トンネル 長さ:1,632m
- 清水トンネル 長さ:972m
- 江ノ串トンネル 長さ:1,351m
- 松原トンネル 長さ:335m
- 木場トンネル 長さ:2,885m
- 第1岩松トンネル 長さ:200m
- 第2岩松トンネル 長さ:281m
- 第3岩松トンネル 長さ:708m
- 鈴田トンネル 長さ:1,758m
- 第1本明トンネル 長さ:788m
- 第2本明トンネル 長さ:310m
- 諫早トンネル 長さ:250m
- 第1平山トンネル 長さ:210m
- 第2平山トンネル 長さ:230m
- 第3平山トンネル 長さ:582m
- 久山トンネル 長さ:4,980m
- 経ヶ岳トンネル 長さ:1,940m
- 平間トンネル 長さ:980m
- 新長崎トンネル 長さ:7,400m
橋梁
佐賀県
- 下西山架道橋 長さ:183m
- 袴野架道橋 長さ:152m
- 塩田川橋梁 長さ:140m
長崎県
- 彼杵川橋梁 長さ:110m
- 中尾川橋梁 長さ:120m
- 千綿川橋梁 長さ:213m
- 餅の浜川橋梁 長さ:135m
- 変配川橋梁 長さ:142m
- よし川橋梁 長さ:140m
- 郡川橋梁 長さ:164m
- 第2明川橋梁 長さ:285m
- 栄田線路橋 長さ:181m
- 宇都架道橋 長さ:104m
- 東大川橋梁 長さ:150m
- 八郎川橋梁 長さ:190m
- 八千代線路橋 長さ:194m
沿革
ルート選定とスーパー特急方式による整備方針
九州新幹線のうち福岡市・長崎市の区間は1972年(昭和47年)12月12日、全国新幹線鉄道整備法第4条第1項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』(昭和47年運輸省告示第466号)により告示された[国交省 1]。その後、1973年(昭和48年)11月13日に東北新幹線(盛岡市・青森市)、北海道新幹線(青森市・札幌市)、北陸新幹線(東京都・大阪市)、九州新幹線(福岡市・鹿児島市)とともに整備計画が決定された。この整備計画において現在の九州新幹線(福岡市・長崎市)は主要な経過地として「佐賀市附近」、その他「九州新幹線(福岡市・鹿児島市)と筑紫平野で分岐するものとし、福岡市・分岐点間は共用する。」とされた[佐賀 1]。1985年(昭和60年)に国鉄は博多 - 長崎間の(早岐経由)ルートを公表した[JRTT 2][佐賀 3]。
1987年(昭和62年)、JR九州は「早岐経由では、全額公的負担で整備しても収支改善効果は現れない」との意見表明を行った。[佐賀 3]。その後、1992年(平成4年)2月にJR九州は、長崎本線肥前山口 - 諌早間の経営分離を前提に、構造物は新幹線規格で建設するが、軌間は在来線と同じ狭軌で整備する新幹線鉄道規格新線(スーパー特急方式)での収支試算結果を公表した[佐賀 3]。同年6月には短絡ルートの通過地点となる佐賀県嬉野町が「九州新幹線長崎ルート『嬉野温泉駅』設置に関する陳情」を提出した[佐賀 4]。一方、新幹線の恩恵を受けにくく、長崎本線が並行在来線としてJR九州から経営分離されることを懸念した有明海沿いの鹿島市、江北町、福富町、白石町、有明町、塩田町、嬉野町、太良町が「JR長崎本線経営分離に関する要望書」を提出し[佐賀 5]、長崎本線の肥前山口駅 - 諫早駅が経営分離の対象にしないことを求めた。同年8月には江北町が江北町「九州新幹線長崎ルートの新整備案の早期実現とJR肥前山口駅への停車について」の陳情書を提出し[佐賀 6]、長崎本線・佐世保線の分岐駅である肥前山口駅を九州新幹線長崎ルートの停車駅にするよう求めた。1998年(平成10年)1月21日の政府・与党整備新幹線検討委員会における検討結果において、その他の区間として「(略)及び九州新幹線(長崎ルート)武雄温泉・新大村間については、需要予測や収支採算性の見通し等の基本条件の確認作業を行うに当たって必要となる、駅・ルート公表を速やかに行い、引き続き環境影響評価に着手するとともに、(略)及び九州新幹線(長崎ルート)長崎駅における駅部調査を開始する。」とされた[国交省 2]。同年2月3日に日本鉄道建設公団は武雄温泉 - 新大村(仮称)間の駅・ルートを公表した[JRTT 2][佐賀 3][3]。2000年(平成12年)12月18日の「整備新幹線の取扱いについて」政府・与党申し合わせの中で、九州新幹線については鹿児島ルートの全線をフル化し、今後概ね12年後の完成を目指す交通結節点として新島栖駅の整備を行うこと、長崎ルートの武雄温泉 - 長崎間は環境影響評価終了後工事実施計画の認可申請を行うことが示された[国交省 3]。2002年(平成14年)1月8日に日本鉄道建設公団が武雄温泉 - 新大村(仮称)間および新大村(仮称) - 長崎間の環境影響評価書を佐賀県知事へ提出し、同日に武雄温泉 - 長崎間の工事実施計画をスーパー特急方式で認可申請した[JRTT 2][佐賀 3][3]。
三者基本合意と武雄温泉 - 諫早間の着工
肥前山口駅 - 肥前鹿島駅を上下分離方式によりJR九州が運営することや長崎県の応分の負担といった提案などの状況変化を踏まえ、2004年(平成16年)12月9日に佐賀県知事は並行在来線の経営分離はやむを得ないとの判断を表明[佐賀 7]、12月16日に「整備新幹線の取扱いについて」政府・与党申し合わせが公表された。この中で九州新幹線(長崎ルート)については「並行在来線区間の運営のあり方については、長崎県の協力を得ながら佐賀県において検討を行うこととし、速やかに結論を出すこととする。調整が整った場合には、着工する。その際、軌間可変電車方式による整備を目指す。 長崎駅部の調査を行う」とされた[国交省 4]。この時点では佐賀県内のすべての沿線自治体からの同意が得られているわけではなかった。九州新幹線(長崎ルート)には平成17年度から毎年度10億円の予算が計上されていたが、着工の条件である並行在来線の経営分離の同意が得られていなかったため、着工には至っていなかった。その後、2005年(平成17年)12月に白石町[佐賀 8]が、2006年(平成18年)2月に太良町[佐賀 9]、同年3月に江北町[佐賀 10]が並行在来線の経営分離に同意した。2007年(平成19年)12月16日に佐賀県、長崎県、JR九州の三者は、1. JR九州は肥前山口駅 - 諫早駅の全区間を経営分離せず、上下分離方式により新幹線開業後20年間運行を維持する。2. JR九州は線路等の設備の修繕を行った上で、佐賀県・長崎県に14億円で資産譲渡を行う。という合意に達した[佐賀 11]。これにより2008年(平成20年)3月5日に政府・与党ワーキンググループにおいて、着工の基本条件が満たされたことが確認された。これを受けて3月19日に鉄道・運輸機構は九州新幹線西九州ルート(武雄温泉~諫早間)の工事実施計画を認可申請、3月26日に暫定整備認可された[JRTT 2]。同年4月28日には起工式が行われた。
武雄温泉 - 長崎間の一体整備
2011年(平成23年)12月26日に「整備新幹線の取扱いについて(政府・与党確認事項)」が公表され、九州新幹線武雄温泉・長崎間については想定完成・開業時期を「武雄温泉・長崎間を一体として、諫早・長崎間の着工から概ね10年後」とし、「(注)現在建設中の武雄温泉・諫早間と新たな区間である諫早・長崎間を、一体的な事業(佐世保線肥前山口・武雄温泉間の複線化事業を含む。)として扱い、軌間可変電車方式(標準軌)により整備する。」という方針が示された[国交省 5]。その後、2012年(平成24年)6月12日に九州新幹線武雄温泉・長崎間の認可申請(フル規格)が行われ、6月29日に認可された[JRTT 2][国交省 6]。
フリーゲージトレインの採用断念
2014年10月からフリーゲージトレインの3モード耐久走行試験が開始されたが、約3万km走行した時点で不具合が発生し12月に試験が一時休止された[JRTT 3]。2015年(平成27年)1月14日に「整備新幹線の取扱いについて」が公表され、整備新幹線の新規開業区間の貸付料収入を財源に北海道新幹線(新函館北斗 - 札幌間)、北陸新幹線(金沢 - 敦賀間)、及び九州新幹線(武雄温泉 - 長崎間)の完成・開業時期を前倒しする方針が示された[国交省 7]。この中で九州新幹線(武雄温泉 - 長崎間)は「フリーゲージトレインの技術開発を推進し、完成・開業時期を平成34年度から可能な限り前倒しする。」とされた。しかし、フリーゲージトレインの開発方針が不透明となったことから、2016年(平成28年)3月29日の与党整備新幹線PT検討委員会、国土交通省、鉄道・運輸機構、長崎県、佐賀県、JR九州の6者による「九州新幹線(西九州ルート)の開業のあり方に係る合意」が発表された。この合意では、武雄温泉 - 長崎間が完成する2022年度にこの区間にフル規格車両を投入し、博多 - 武雄温泉間を走行する在来線特急との対面乗換方式により開業すること。および、これに関わる施設は整備新幹線スキームで整備すること。佐世保線肥前山口 - 武雄温泉間の複線化事業を整備新幹線スキームで段階的に行い、2022年度の開業時までに大町 - 高橋間の複線化を行うことなどが示された[長崎 2]。
2017年(平成29年)7月25日、JR九州の青柳俊彦社長は、「フリーゲージトレインによる運営は困難」だとして、長崎新幹線へのフリーゲージトレイン導入を断念すると発表。一般の新幹線より車両関連費が2倍前後かかり、全面導入すればJRにとっては年間約50億円の負担増につながると試算されたため「前提である収支採算性が成り立たない」とし、また安全性も「まだ確立できていない状態」であることを理由に述べた。同時に、博多 - 長崎間の全線フル規格での整備を求める考えも示した[新聞 3]。
武雄温泉以東の整備方式の再検討
上述のようにフリーゲージトレインの採用が不透明となったことを受けて武雄温泉以東の整備方式について再検討が行われているが、利便性・速達性が向上するとしてフル規格(標準軌新線)による整備を求める長崎県と、フリーゲージトレインに比べて費用負担が増大することや並行在来線問題の懸念から県内のフル規格整備に反対する佐賀県との間で対立が生じている。
2018年(平成30年)3月30日、国土交通省は同日開催された与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会にて、「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について(比較検討結果)」を報告すると同時に、対面乗換開業時・FGT・ミニ新幹線(単線並列と複線三線軌の2パターン)・全線フル規格の場合の所要時間の試算をそれぞれ公表した[国交省 8]。
整備方式 | 対面乗換開業時 | フリーゲージトレイン (FGT) |
ミニ新幹線[* 2] | フル規格 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
単線並列 | 複線三線軌 | |||||
駅の設定 | - | 新鳥栖・佐賀・肥前山口・武雄温泉 | 新鳥栖・佐賀市附近(佐賀)・武雄温泉 | |||
整備延長 | - | 約50 km[* 3] | 約51 km | |||
追加費用[* 4] | - | - | 約500億円 | 約1,400億円 | 約5,300億円 | |
開業見込み (想定工期)[* 5] |
- | 2027年(平成39年)度 (約9年) |
2032年(平成44年)度 (約10年) |
2036年(平成48年)度 (約14年) |
2034年(平成46年)度 (約12年) | |
所要時間[* 6] (短縮効果) |
博多 - 長崎間 |
約1時間22分 | 約1時間20分 (△約2分) |
約1時間20分 (△約2分)[* 7] |
約1時間14分 (△約8分) |
約51分 (△約31分) |
新大阪 - 長崎間 |
約4時間00分 | 約3時間53分 (△約7分) |
約3時間44分 (△約16分)[* 7] |
約3時間38分 (△約22分) |
約3時間15分 (△約45分) | |
博多 - 佐賀間 |
約35分 | 約33分 (△約2分) |
約33分 (△約2分)[* 7] |
約30分 (△約5分) |
約20分 (△約15分) | |
新大阪 - 佐賀間 |
約3時間13分 | 約3時間6分 (△約7分) |
約2時間57分 (△約16分)[* 7] |
約2時間54分 (△約19分) |
約2時間44分 (△約29分) | |
投資効果 (B/C) [* 8] | - | - | 3.1 | 2.6 | 3.3 | |
収支改善効果(年平均)[* 9] | - | △約20億円 | 約9億円 | 約2億円 | 約88億円 |
- ↑ 費用、工期等は、今後の精査、関係者間の調整により、変更となる可能性がある。
- ↑ 単線で列車運行しながら施工した場合。工事期間中、列車の所要時間の増加や本数の減少などの影響がある。工事期間中に列車影響が生じないよう、仮線設置により列車を通常通り複線で運行しながら施工した場合の投資効果は、単線並列2.1、複線三線軌2.0となる。
- ↑ FGTの場合はアプローチ線等が整備の対象となる。
- ↑ FGTによる整備以降に必要となる費用。価格は2017年(平成29年)4月時点のもの。
- ↑ フル規格、ミニ新幹線の整備は、環境影響評価手続きを考慮し、2023年(平成35年)度着工を想定。FGTについては、2019年(平成31年)度着工を想定。なお、FGTについては、今後、耐久性の確認等が必要となり、技術開発が全て順調に推移したとしても、導入は早くとも2027年(平成39年)度半ばとなる見込み。ただし、JR九州は、技術評価委員会の評価結果を踏まえ、コスト面で収支採算性が成り立たないため、西九州ルートへの導入は困難と表明している。
- ↑ 各区間の最速達タイプによる時分を表記。所要時間は、需要予測等のための想定であり、開業後の運行ダイヤは営業主体が決定する。
- ↑ 7.0 7.1 7.2 7.3 単線区間での行き違い時間を含む。
- ↑ 新鳥栖 - 武雄温泉間について、2022年(平成34年)度の対面乗換方式での開業からの費用を用いて、山陽新幹線(新大阪駅)への乗り入れのための新たな取組みが実現した場合の便益を考慮して算出(新たな取組みに要する費用は含んでいない)。
- ↑ 現行(在来線特急)と整備後の収支を比較して算出したものであり、貸付料計算の参考になる。
この比較案を元に、佐賀県は全線フル規格で整備した場合の負担額について独自に試算。国の交付金措置等を考慮しない歳出予算ベースで約2400億円と、佐賀県よりも利便性が向上する長崎県の負担割合(約1000億円)を上回り、ルールどおりであれば佐賀県の負担が大きすぎるとの見解を示した[4]。佐賀県の試算に対し、与党プロジェクトチームでは佐賀県の求める「追加負担ゼロ」は現実的ではないとしつつ、JR九州との貸付料交渉と長崎県による協力により、佐賀県の負担をどれだけ減らせるか検討した上で佐賀県に提案する予定であるとしている[5]。2018年7月19日に行われた与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会の会合で、フリーゲージトレインの導入を正式断念する一方で、2018年夏までに一定の結論を出すとしていた全線フル規格かミニ新幹線方式かの整備方法決定について、佐賀県の財政面での見解を受けて、結論を先送りすることを決めた[6]。
年表
開業前 国鉄時代
- 1964年(昭和39年)
- 1967年(昭和42年)7月:日本国有鉄道(国鉄)が全国新幹線網構想を発表。
- 1969年(昭和44年)5月30日:新全国総合開発計画決定。
- 1970年(昭和45年)5月18日:全国新幹線鉄道整備法公布[国交省 9]。
- 1972年(昭和47年)
- 1973年(昭和48年)
- 1975年(昭和50年)3月10日:山陽新幹線 岡山 - 博多間開業。
- 1978年(昭和53年)
- 1979年(昭和54年)1月23日:新幹線整備関係閣僚会議において、九州新幹線長崎ルート 福岡市 - 長崎市間を含む整備新幹線5線に関する環境影響評価指針が了承される。
- 1981年(昭和56年)6月12日:全国新幹線鉄道整備法改正。建設費の地元負担が可能とされる。
- 1982年(昭和57年)9月24日:臨時行政調査会第三次答申にて、財政赤字の拡大、国鉄の経営悪化を理由に整備新幹線の建設計画凍結を閣議決定。
- 1985年(昭和60年)1月22日:国鉄が博多 - 長崎間(早岐経由)ルートを公表(フル規格)[JRTT 2][佐賀 3][3]。
- 1986年(昭和61年)9月12日:日本鉄道建設公団が博多 - 長崎間(早岐経由)ルートの環境影響評価報告書案を公表(フル規格)[佐賀 3][3]。
- 1987年(昭和62年)
- 1月30日:整備新幹線建設計画凍結の一部解除を閣議決定。
開業前 JR九州発足後
- 1987年(昭和62年)
- 1988年(昭和63年)
- 1989年(平成元年)1月:整備新幹線の旧財源スキーム策定[国交省 9]。
- 1990年(平成2年)
- 1991年(平成3年)10月1日:新幹線鉄道保有機構が解散し、鉄道整備基金設立[国交省 9]。
- 1992年(平成4年)
- 2月24日:JR九州が、長崎本線肥前山口 - 諌早間の経営分離を前提に、スーパー特急方式(短絡ルート)での収支試算結果を公表[佐賀 3]。
- 6月3日:嬉野町が「九州新幹線長崎ルート『嬉野温泉駅』設置に関する陳情」を提出[佐賀 3]。
- 6月19日:運輸政策審議会が、「五大都市(東京、大阪、名古屋、札幌、および福岡)から地方主要都市までを概ね3時間程度で結ぶ」とする答申を発表。
- 6月24日:鹿島市、江北町、福富町、白石町、有明町、塩田町、嬉野町、太良町がJR長崎本線経営分離に関する要望書提出[佐賀 3]。
- 8月19日:江北町が「九州新幹線長崎ルートの新整備案の早期実現とJR肥前山口駅への停車について」の陳情書提出[佐賀 3]。
- 11月25日:九州新幹線長崎ルート建設促進連絡協議会(6者)申合せ。短絡ルート(武雄市から諌早市・大村市を経由して長崎市に至るルート)によるスーパー特急方式を地元案として合意[佐賀 3][3]。
- 1994年(平成6年)
- 1995年(平成7年)2月13日:鳥栖市九州新幹線建設等促進期成会設立[佐賀 3]。
- 1996年(平成8年)
- 1997年(平成9年)
- 5月:全国新幹線鉄道整備法改正(財源スキームの見直し)。
- 10月1日:鉄道整備基金が船舶整備公団と統合し、運輸施設整備事業団設立。
- 1998年(平成10年)
- 1999年(平成11年)9月:自自連立政権与党が建設見直し案。鹿児島ルートとの分岐駅として新鳥栖駅を設置、武雄温泉 - 新大村のスーパー特急方式での早期着工、着工後15年での整備目標、フリーゲージトレインの活用の検討、が盛り込まれる。
- 2000年(平成12年)
- 2001年(平成13年)12月:武雄温泉 - 長崎間をスーパー特急方式で整備する暫定整備計画を決定。
- 2002年(平成14年)1月8日:日本鉄道建設公団が武雄温泉 - 新大村(仮称)間および新大村(仮称) - 長崎間の環境影響評価書を佐賀県知事へ提出。武雄温泉 - 長崎間の工事実施計画を、スーパー特急方式で認可申請[JRTT 2][佐賀 3][3]。
- 2003年(平成15年)
- 10月1日:運輸施設整備事業団と日本鉄道建設公団が統合し、鉄道建設・運輸施設整備支援機構設立。
- 12月1日:JR九州新幹線鉄道事業部発足。川内新幹線車両センター内総合事務所に本所を設置。
- 12月:整備新幹線の取扱いについて、政府・与党合意。
- 2004年(平成16年)
- 3月13日:鹿児島ルート新八代 - 鹿児島中央間開業。
- 3月26日:新幹線嬉野温泉駅建設促進期成会(旧新幹線嬉野温泉駅設置促進期成会)が、「九州新幹線長崎ルート早期実現に関する要望」を提出[佐賀 3]。
- 6月10日:与党整備新幹線建設促進プロジェクトチームの合意により、長崎ルート武雄温泉 - 諫早間をスーパー特急方式で着工することが決定。
- 12月9日:佐賀県知事が、「並行在来線の経営分離はやむを得ない」との判断を表明し、国に回答[佐賀 3]。
- 12月16日:政府・与党検討委員会の検討結果(政府・与党申し合わせ)により、新たな財源スキーム(既設新幹線譲渡収入の前倒し活用など)および着工区間が決定。並行在来線に関する地元自治体の同意を条件として、武雄温泉 - 諫早間のスーパー特急方式での着工を決定。フリーゲージトレインも視野に入れるものとされる。また、長崎駅部の調査を行うこととされる[佐賀 3][3]。
- 12月21日:2005年(平成17年)度国予算財務省内示。九州新幹線長崎ルート 武雄温泉 - 諌早間に10億円の事業費が配分される[佐賀 3][3]。
- 2005年(平成17年)
- 3月14日:武雄市議会が九州新幹線長崎ルート早期着工実現に関する意見書を提出[佐賀 3]。
- 3月17日:九州新幹線長崎ルート建設促進期成会(旧長崎新幹線武雄温泉駅実現期成会)が「九州新幹線長崎ルートの早期着工に関する要望書」を提出[佐賀 3]。
- 3月24日:嬉野町議会が「長崎新幹線の早期着工を求める決議」を議決[佐賀 3]。
- 3月28日:鳥栖市九州新幹線建設促進期成会が長崎ルート早期着工実現の要望書を提出[佐賀 3]。
- 9月:長崎県・佐賀県におけるルートの名称を「九州新幹線長崎ルート」から「九州新幹線西九州ルート(長崎ルート)」に変更[7]
- 10月4日:九州新幹線西九州ルート促進議員懇話会結成[佐賀 3]。
- 12月22日:2006年(平成18年)度国予算財務省内示。整備新幹線予算の線区別の事業費が公表され、九州新幹線長崎ルート(武雄温泉 - 諌早間)に、2005年(平成17年)度と同額の10億円の事業費が配分された[佐賀 3][3]。
- 12月28日:白石町が並行在来線経営分離同意書を県知事に提出[佐賀 3]。
- 2006年(平成18年)
- 2007年(平成19年)
- 1月23日:「九州新幹線を活用する佐賀県協議会」設立[佐賀 3]。
- 8月23日:「九州新幹線西九州ルート早期実現 佐賀県民大会」開催[佐賀 3]。
- 8月29日:江北町九州新幹線西九州(長崎)ルート促進協議会が「新幹線を活かしたまちづくり支援」を知事に要望[佐賀 3]。
- 12月14日:政府・与党整備新幹線検討委員会開催[佐賀 3]。
- 12月16日:JR九州・佐賀県・長崎県の三者が、新幹線開業後も並行在来線(長崎本線肥前山口 - 諫早間)を経営分離せず、開業後20年間JR九州が運行することで基本合意。路線や駅舎などは両県が保有するいわゆる「上下分離方式」を採用[佐賀 3][3]。
- 12月18日:JR長崎本線存続期成会が知事を訪問し、西九州ルートが着工した場合に、地域課題の解決のための支援を要請[佐賀 3]。
- 12月21日:2008年(平成20年)度予算財務省原案内示。長崎(西九州)ルート10億円計上[佐賀 3]。
- 2008年(平成20年)
武雄温泉 - 諫早間着工後
- 2008年(平成20年)
- 4月28日:長崎(西九州)ルート武雄温泉 - 諫早間が着工。佐賀県嬉野市で起工式を開催。終了後、諫早市で建設起工記念式典を開催[佐賀 3][3]。
- 11月1日:鉄道建設・運輸施設整備支援機構が大村鉄道建設所および武雄鉄道建設所を設置[3]。
- 12月17日:整備新幹線に係る政府・与党ワーキンググループが開催され、長崎駅部を「新規着工区間」として2009年(平成21年)12月までに着工を認可すること、「その他の区間」として、諫早 - 長崎間について、引き続き検討を行い、肥前山口 - 武雄温泉間の複線化等を進めることとし、さらにその具体化の方法の検討を行うことで合意[3]。
- 12月:2009年(平成21年)度の整備新幹線予算の線区別の事業費が公表。九州新幹線長崎(西九州)ルートの武雄温泉 - 諫早間に50億円の事業費が配分され、新たに長崎駅部や肥前山口 - 武雄温泉間の複線化を検討する予算も計上された[3]。
- 2009年(平成21年)
- 2010年(平成22年)
- 2011年(平成23年)
- 2012年(平成24年)
諫早 - 長崎間着工後
- 2012年(平成24年)
- 2013年(平成25年)
- 2014年(平成26年)
- 3月25日:軌間可変電車(フリーゲージトレイン)第三次試験車両を熊本総合車両所に搬入[JRTT 6]。
- 4月19日:軌間可変電車(フリーゲージトレイン)第三次試験車両を報道公開[JRTT 6]。
- 4月20日:九州新幹線 熊本 - 鹿児島中央間、新八代接続線および鹿児島本線 熊本 - 八代間において、軌間可変電車(フリーゲージトレイン)第三次試験車両の性能確認試験を開始[JRTT 7]。
- 8月1日:武雄温泉 - 嬉野温泉(仮称)間の大草野トンネル(全長535m)・宇土手トンネル(全長80m)および橋梁の建設工事起工式を挙行[新聞 6]。
- 10月2日:武雄温泉 - 嬉野温泉(仮称)間のトンネルの三坂トンネル(全長1.4km)の貫通式挙行[新聞 7]。
- 10月19日:軌間可変電車(フリーゲージトレイン)第三次試験車両の3モード耐久走行試験を開始[JRTT 7]。
- 12月22日:政府・与党が「武雄温泉 - 長崎間の開業時期を、当初計画の2022年度末より前倒しし、可能な限り早める」方針を固める[新聞 8]。
- 12月24日:軌間可変電車(フリーゲージトレイン)第三次試験車両のスラスト軸受のオイルシールに部分的な欠損、すべり軸受と車軸の接触部に微細な摩耗痕の発生が確認されたため、同車両の3モード耐久走行試験を一時休止[JRTT 3]。
- 12月25日:「九州新幹線(武雄温泉・長崎間)に係る佐世保線(肥前山口・武雄温泉間)複線化事業の環境影響評価準備書」を佐賀県知事および関係市町長に送付。翌26日から公告・縦覧を開始[JRTT 8]。
- 2015年(平成27年)
- 1月8日:第4回「整備新幹線に係る政府・与党ワーキンググループ」開催[国交省 10]。「武雄温泉 - 長崎間の開業時期を当初計画の2022年度末より前倒しし、可能な限り早める」旨が正式決定[新聞 9]。
- 1月9日:「九州新幹線(武雄温泉・長崎間)に係る佐世保線(肥前山口・武雄温泉間)複線化事業の環境影響評価準備書」の縦覧期限を同年1月26日から2月4日、意見書の提出期限を2月18日に変更[JRTT 9]。
- 1月13日:「九州新幹線(武雄温泉・長崎間)に係る佐世保線(肥前山口・武雄温泉間)複線化事業の環境影響評価準備書」の説明会を開催[JRTT 8]。
- 1月14日:「政府・与党整備新幹線検討委員会」開催[国交省 11]。整備新幹線の取り扱いについて、政府・与党申し合わせ[国交省 7]。「武雄温泉 - 長崎間の開業時期を、当初計画の2022年度末より前倒しし、可能な限り早める」ことで合意[新聞 10][新聞 11]。
- 8月6日:俵坂トンネル(嬉野市 - 長崎県東彼杵町、5.7km)が6年の工期を経て貫通[新聞 12][8]。
- 2017年(平成29年)
今後の予定
- 2022年度中:武雄温泉 - 長崎間、在来線特急との対面乗り換え方式で暫定開業(予定)。
並行在来線の扱い
九州新幹線(長崎ルート)において並行在来線となる長崎本線のうち肥前山口駅 - 諫早駅間は上下分離方式により佐賀県・長崎県が鉄道施設を保有し、JR九州が経営維持するとされている。また、長崎本線の諫早駅 - 長崎駅間は経営分離されない[国交省 13]。これについては様々な曲折があった。
佐賀・長崎両県が当初示していた並行在来線の運行計画としては、以下の様なものであった。
佐賀・長崎両県は、以上の計画が実施され、普通列車の乗客数が現在と同じ水準であると仮定した場合、第三セクター鉄道の収支はほぼ均衡すると主張していた。この計画について、前述の運転計画とあわせた利便性の大幅な低下と、将来の並行在来線区間の(利用低迷による)廃線の可能性に懸念を示した鹿島市・江北町が肥前鹿島 - 諫早間の経営分離計画に同意せず、2005(平成17)年度以降長崎ルート(西九州ルート)の事業予算が毎年計上されながら工事着手が行えない状況が続いていた。同意しなかった2自治体は「JR長崎本線存続期成会」を結成し、並行在来線の第三セクター鉄道化に反対すると同時に、第一期工事の時間短縮効果が余り見込めない・費用対効果が悪い、といった主張を行っていた[注 1]。また、両自治体は長崎本線の輸送改善は新幹線建設ではなく既存区間の複線化で対応できると期成会において主張していたが、両県(特に長崎県)は時間短縮効果がほとんどない、複線化費用に対する国の補助金額が少なく現在の国の補助予算規模では肥前山口 - 諫早間の複線化に60年近くかかる、補助金以外の費用はJR九州ならびに佐賀・長崎両県の負担となり、特にJR九州に負担の意思がない、等の理由を示し否定的見解を示し続けた。もちろん、この見解には将来の長崎新幹線の全線フル規格化を目論んでいる長崎県の意思が色濃く反映されている。
新幹線計画を推進したい佐賀・長崎両県は両市町との協議を継続しつつ、並行して新幹線の工事着手が可能となる方法を模索していたが、2007年(平成19年)12月17日、佐賀・長崎両県とJR九州の話し合いにより「並行在来線を引き続きJR九州が運行する方向」で合意した[9]。合意内容は、
- JR九州による並行在来線の運行は新幹線開業後の20年間とし、21年目以降の扱いについてはその時点で再び三者で協議する(JR九州社長の石原進(当時)は21年目以降の扱いは「当社の他の路線と同じ」との見解を示している)。
- 鉄道設備はJR九州が集中的に整備した上で佐賀・長崎両県へ14億円にて有償売却し、並行在来線に指定された肥前山口 - 諫早間を「上下分離方式」で運営する。
というものであった。この合意内容について、佐賀県知事の古川康は記者会見で「これは経営分離ではない、JRがそのまま続けるということにほかならない」「今回の案、合意で、鹿島市と江北町の(経営分離に対する)同意は必要なくなった」という趣旨の発言を行った[10]。また、当初は肥前山口 - 諫早間の地上設備はJR九州から無償譲渡される予定を14億円での有償譲渡に変更しているが、これについて佐賀・長崎両県は、第三セクター鉄道設立時に想定していた車両購入費等の開業時の初期費用約16.4億円よりは少ない、と説明した。
一方でこの案については(経営分離への不同意を貫く)鹿島市・江北町長を疎外した推進派三者による恣意的な合意であり「実質的に経営分離ではないのか」との疑問の声が生じており[11]、江北町長等も「経営分離にあたる」として直ちに異議を唱えたが[12]、2008年(平成20年)1月23日に開催された政府・与党のワーキンググループ会合において、国土交通省はこの案は「経営分離にはあたらない」との見解を示した[13]。同省内で新幹線の採算性などについての精査が終わり、2008年(平成20年)3月26日に工事着工が認可された。佐賀・長崎両県は2007年度内に着工認可が下りることを前提に2007年度補正予算案並びに2008年度本予算案に建設費を計上した。
これに対し、2008年(平成20年)2月24日に投開票された江北町長選挙では、新幹線着工反対を訴えた現職の田中源一が新幹線容認派で新人の元県職員を破って5選を果たし、「選挙結果が(町民による)最大の意思表示」として町として改めて新幹線の着工に反対を表明しつつ、「着工が決まれば現実的に受け止めなければならない」と現実的対応も示唆した[14][15]。2008年(平成20年)3月には佐賀県議会において民主・社民系会派等の共同提案により長崎新幹線の建設賛否を問う県民投票を実施する条例案が提出されたが、最大会派の自民党・公明党ならびに保守系会派の反対多数で否決された[16]。田中はその後のシンポジウムの席上で「本格着工までは(新幹線建設への)反対を続ける」と明言した[17]。その後、事実上「本格着工」となり建設工事は進んでいるが、田中は後述の通り機会を見ては建設中止もしくは凍結を求める発言を続けている。
一方、鹿島市長の桑原允彦はJR長崎本線経営分離反対運動を終息させるとした[18]。そのため、2011年(平成23年)9月現在、関係する自治体の首長で公式に長崎新幹線建設反対の立場を取っているのは江北町長の田中ただ一人となっている。また、民主党政権への交代後にフリーゲージトレインへの国費投入についてもいわゆる「事業仕分け」の対象となり、検討が行われたが、条件付きで継続となった。その際に田中は長崎新幹線建設自体についても「事業仕分け」の対象にすべきだった、と発言した。
佐賀・長崎両県は、在来線維持のために両県が負担することとなる設備購入費を14億円、開業後20年間の維持管理費を46億円と見積もっているが、この計60億円を、長崎県が40億円、佐賀県が20億円負担することで2008年(平成20年)4月25日に合意した。この負担割合について長崎県の金子原二郎知事は、「佐賀県の理解と協力がなければ、新幹線は実現しなかった。長崎の誠意を具体化した」と述べている[19]。
一方、長崎県内の旧小長井町(諫早市に合併済)などではJR九州の運営となることで普通列車の運行本数増加と新駅設置という長崎県が将来の第三セクター鉄道転換の際に表明していた約束が実行されないのでは、という懸念を示す動きが出ている[20]。
2016年(平成28年)3月29日の与党整備新幹線PT検討委員会、国土交通省、鉄道・運輸機構、長崎県、佐賀県、JR九州の6者による「九州新幹線(西九州ルート)の開業のあり方に係る合意」では在来線について以下のように記されている[長崎 2]。
- 長崎本線肥前山口駅 - 諫早駅間は開業時点において上下分離し、三者基本合意(平成19年12月)に定められた譲渡価格に関わらず、JR九州は、佐賀県、および長崎県に鉄道施設を無償で譲渡する。
- JR九州は経営分離せず、三者基本合意が定めるところに関わらず、JR九州は当該開業時点から3年間は一定水準の列車運行のサービスレベルを維持するとともに、当該開業後23年間運行を維持する。
- 特急列車:博多駅 - 肥前鹿島駅間において開業時点での需要を踏まえ、上下14本程度
- 普通列車:現行水準維持
フリーゲージトレインによる在来線活用計画であった長崎本線の新鳥栖駅 - 肥前山口駅間及び佐世保線の肥前山口駅 - 武雄温泉駅間は、フリーゲージトレインの開発の遅れによりフル規格新幹線、ミニ新幹線も含めた整備方式の再検討がなされているが、フル規格での建設となった場合、新たに並行在来線問題が生じる可能性がある[国交省 8]。
脚注
注釈
- ↑ JR長崎本線存続期成会 長崎本線の経営分離対象区間沿線の佐賀県鹿島市・江北町による期成会。2008年6月8日をもって同会のHPは閉鎖されたほか、2009年3月に鹿島市長(当時)の桑原允彦は同会を解散させると表明した。
出典
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- ↑ 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 3.16 3.17 3.18 3.19 3.20 3.21 3.22 3.23 3.24 3.25 3.26 3.27 3.28 3.29 3.30 3.31 3.32 3.33 3.34 建設計画・ルート - 長崎県
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- ↑ 本格着工後は現実対応-江北町長、柔軟姿勢示す - 佐賀新聞 2008年3月14日
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関連項目
外部リンク
- 九州新幹線(西九州ルート) - 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
- 九州新幹線 - 佐賀県
- 九州新幹線西九州ルート - 長崎県