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栽培漁業(さいばいぎょぎょう)とは、生物を人為的な設備、環境下で育成し保護した後、自然へ戻して、漁業の促進を図るシステムである。つくる漁業ともいわれる。また、栽培漁業において稚魚を育てることを種苗生産、育てた稚魚を海に放すことを種苗放流という。

日本における栽培漁業

歴史

栽培漁業は1960年代の瀬戸内海で始まった。その頃の瀬戸内海では、高価格魚が減少しており、低価格魚が増加傾向にあった。そこで、その状況を打破する新たな試みとして1962年に香川県屋島愛媛県伯方島に初めて、国の栽培漁業の事業場が設置された。その後、事業を実施する機関として、社団法人瀬戸内海栽培漁業協会1963年に発足した。

瀬戸内海での栽培漁業は成功し、これに刺激され、1977年以降、国の栽培漁業センターが全国に随時設置された。瀬戸内海栽培漁業協会は1979年日本栽培漁業協会に改められ、全国的な組織となった。その後、2002年に閣議された「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革実施計画」により、2003年に日本栽培漁業協会は解散し、当時の独立行政法人水産総合研究センターに統合された。なお、水産総合研究センターは改組により水産研究・教育機構となっている。

国の栽培漁業センターは以下の計16ヶ所に設置された。

その後、厚岸、伯方島、上浦、八重山の各栽培漁業センターはそれぞれ栽培技術開発センターとなり、古満目栽培漁業センターは上浦栽培技術開発センター古満目分場に、百島栽培漁業センターは瀬戸内海区水産研究所百島実験施設となった。また、都道府県の栽培漁業センターは64ヶ所につくられている。

概要

種苗生産

一般的に親と同じ形になる全長2~3cmの稚魚期まで育てることを種苗生産という。種苗生産では親魚Broodstock)と呼ばれる、卵をとる為の親の魚を用意する。親魚には天然の成魚を捕獲して用いる場合と、天然の幼魚を捕獲し飼育下で成熟させたものを用いる場合がある。卵をとる方法は自然採卵と人工採卵がある。自然採卵は飼育環境下であるものの魚自身に抱卵・放精を行わせ受精卵を得る方法で、人工採卵は成熟した親の腹部を圧縮することにより得た卵と精子から受精卵を得る方法である。人工採卵ではしばしば成熟ホルモンを用いる。得られた受精卵は適切に管理され孵化させる。孵化した仔魚が最初に食べる餌は重要でその魚にあった大きさのものでなければならない。海産魚の場合、多くの魚種で初めは小さい生きた生物を好み、種苗生産現場では大量に培養可能なシオミズツボワムシを与える。ワムシ[1]の次はアルテミアを与え、次に細かい配合餌料を与えるというのが、代表的な餌の順番であるが、魚種によって大きく異なる。

中間育成

種苗生産後、放流サイズまで育てる事を中間育成と呼ぶ。種苗生産で稚魚期まで育てると移動可能となること、また、魚種によっては着底し生活様式が変わることなどから、種苗生産を行っていた水槽からは移動させ、別の水槽や生簀で管理される。

種苗放流

放流する大きさは、自然界で生き残れるか、と、育てるコストを考慮し、最大の効果が期待出来る大きさを決定する。大きくすれば自然界の生き残りの可能性は高くなるが、費用も多く掛かる。一方、小さいと自然界の生き残りは低くなるが、同じ費用でも放流尾数を増やすことが出来る。放流する場所にはそれぞれの魚に適した場所を選ぶ。また、放流直後はパニックになり最も外敵に襲われやすい瞬間でもある。そのため、放流する時には太いホースを通し海底へと放流したり、大型の容器の中に入れ、海底までロープを下ろし、容器から逃がして放流することもある。天然魚と放流された魚とを区別したい場合は魚体には標識をつける。標識には内部標識と外部標識がある。内部標識は人体・魚体に無害な薬品で骨を染める。外部標識には鰭の切除、プラスチック製のタグ、刺青のような色素注入、焼印など様々なものが開発されている[2][3]

放流後の管理

放流後は、商品サイズになる前に魚が漁獲されないように、放流場所周辺の漁業者や釣り人に協力を要請する。

ノルウェーにおける栽培漁業

ノルウェーでは大西洋タラの資源量減少を受けて大西洋タラの栽培漁業技術の研究が国家プロジェクトとして実施された[4]。ノルウェーでは1980年代に大西洋タラの種苗生産技術が確立され、その後は大西洋オヒョウの種苗生産等の研究が行われている[4]

栽培漁業の対象となっている主な種類

課題

人工種苗が野生集団に及ぼす影響が懸念されている[8]

  1. 生態的影響
    1. 病原菌の伝播
    2. 環境収容量をめぐる放流魚と野生魚の競合
    3. 他魚種との競合
  2. 遺伝的影響
    1. 遺伝的多様性の喪失
    2. 集団構造の変化
    3. 適応度(生残率や繁殖成功度)の低下

また、生じている問題に対するモニタリングはほとんど行われていないと指摘されている[8]

関連項目

脚注

  1. 吉村研治、宮本義次、中村俊政、『濃縮淡水クロレラ給餌によるワムシの高密度大量培養』 栽培漁業技術開発研究 21(1), p1-6, 1992-09, NAID 40004576790
  2. 大河内裕之、放流効果の調査手法と標識技術 日本水産学会誌 Vol.72 (2006) No.3 P.450-453, doi:10.2331/suisan.72.450
  3. 松岡正信、 人工種苗メバル,クロソイおよびカサゴにおける鼻孔隔皮欠損の出現状況 日本水産学会誌 Vol.74 (2008) No.4 P.694-696, doi:10.2331/suisan.74.694
  4. 4.0 4.1 高畠信一「ノルウェーにおける大西洋タラの種苗生産技術の研修について」、北水試だより第46号 北海道立水産試験場、2017年7月24日閲覧。
  5. 干川裕、原素之、北海道におけるエゾアワビ人工種苗放流による親密度増加が加入量に及ぼす効果について 日本水産学会誌 Vol.78 (2012) No.6 p.1231-1234, doi:10.2331/suisan.78.1231
  6. 伊藤史郎、有明海におけるクルマエビ共同放流事業 日本水産学会誌 Vol.72 (2006) No.3 P.471-475, doi:10.2331/suisan.72.471
  7. 中川雅弘、クロソイの栽培漁業技術開発に関する研究 水産総合研究センター研究報告 (25), p.223-287, 2008-12, NAID 80020170109
  8. 8.0 8.1 北田修一、種苗放流の効果と野生集団への影響 本水産学会誌 Vol.82 (2016) No.3 p.241-250, doi:10.2331/suisan.WA2284

外部リンク