アサリ

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アサリ浅蜊蛤仔: Japanese littleneck, Manila clam学名: Ruditapes philippinarum)は、異歯亜綱マルスダレガイ上科 マルスダレガイ科に属する二枚貝の一種[1]。食用として重要な貝の一つである。季語は「三春」。

広義にはアサリ属に属する二枚貝の総称で、日本でもアサリ以外にヒメアサリ(学名: Ruditapes variegata)もアサリと呼ぶ場合が多い。

形態

最大殻長6cmほどになる二枚貝。貝殻の模様は横しまや様々な幾何学模様など非常に変異に富み、色も黒無地、白黒、白茶、茶色無地、青無地、青白など多様で、同じ模様をした個体はいないほどである。ただし北海道の個体は大型で、貝殻には目立った模様がなく、一様に黄褐色がかった色をしている。

日本朝鮮半島台湾フィリピンまで広く分布する。地中海アドリア海ティレニア海)、フランスブルターニュ地方)、ハワイ諸島北アメリカ太平洋岸に移入されている。汽水状態を好み、成貝は海岸の潮間帯から干潮線下10mほどまでの、浅くて塩分の薄い砂あるいは砂泥底に分布する。

底質の選好は、稚貝は底質の泥率8%〜30%、成貝は砂質か泥質20〜30%、水中の有機物量の目安となる強熱減量6〜12%・COD15〜45が目安とされている。稚貝は泥分の少ない底質を好む。

生態

産卵によって増え、冬を除く通年産卵をするが、産卵時期はが一般的である。産卵条件として親貝が10ヶ月以上で、水温が春は19℃から24℃、秋は23℃から15℃程度で、かつ20mm〜25mm以上の大きさ、そして肥満度が重要。通常産卵と環境の変化に伴う産卵があり、雄が水中に精子を放出することによって雌が受精する。受精卵は10時間ほどで孵化し、浮遊幼生となり、1日目(トロコフォア)2日目(D状期0.1mm)、アンボ期、フルグロウン期0.2mmを経て2〜4週間で着底する。着底直後の稚貝は足糸を分泌して砂礫等に付着し、成長とともに足糸は退化する。その後、着底初期稚貝(0.25mm) 1〜1.5ヶ月稚貝(1mm) 4〜6ヶ月稚貝(10〜20mm) 8ヶ月〜1年貝(25〜30mm)、成貝1〜2年以上(35〜40mm以上)と成長していくが、成貝の大きさはすむ場所により大きく違いが出る。着底場所は地盤高が大潮干潮線から0.6〜0.9m、流れが穏やかで渦流の生じやすい、干出時間が2時間以内の砂あるいは砂泥層が多く、着底してからの移動距離は小さく数m程度。また、浮遊幼生が植物プランクトンを餌にするのに対し、稚貝・成貝は珪藻類・デトリタス(有機懸濁物)等を餌としている。一般的に岸寄りでは餌不足のため、貝が団子状になり丸く貝殻も厚く、沖側では薄く平べったくなり成長も早くなる。したがって、沖側の個体は貝殻が薄くなり割れやすくなるが、其の分肥満度も増し味も良好である。

食材

日本では古くから食用とされ、貝塚などから数多くの貝殻が出土する。

現在では、潮汁酒蒸し味噌汁和え物しぐれ煮とするほか、ヴォンゴレスパゲッティクラムチャウダーの具などにも用いる。ビタミンB1を破壊する酵素であるアノイリナーゼを含むため、生食には向かないとの見方もあるが、伝統的にポルトガルチリなどでは生で賞味されている[2]

貝殻の色が白黒、水色、茶色、紫色など模様や色がはっきりしているものや、前述した様に、沖側に棲息する、薄く平べったいものが美味とされる。また、秋〜早春のアサリは身が痩せ、品質が落ちる他、泥地に棲息する全体として黒っぽいものも、味が落ちるとされる。

着底後はほとんど移動しないという生態のため貝毒が蓄積されていることがあり、浜名湖アサリ貝毒事件のようにアサリの貝毒による集団食中毒事件も起こっている[1]

砂出し・砂抜き

アサリを「殻ごと」調理する前には下拵えとして砂出し・砂抜きをする必要がある。以下は、「殻ごと」調理する場合の方法である。剥き身で調理する場合は表面を水洗いするだけでよい。

効率的に砂出し・砂抜きをするためには海水を利用することが一番であるが、海水でなくとも真水(水道水)と食塩とによって作った濃度3.0% - 3.5%程度の塩水を利用しても容易に砂出しすることが可能である。また、ザルを利用するとアサリが吐き出したを再び吸い込むことがない。必要な時間は、一般的に夏場は2-3時間、冬場は8-12時間程度を要する。50℃前後の湯に漬けることで短時間(15分間程度)で砂出しすることが可能といわれている。また塩水にブドウ糖を加える(一般家庭で砂出しする場合は塩水に蜂蜜を一滴程度)と旨味成分のコハク酸が増加するという報告がある。

保存

保存が必要な場合には、数日間ならば冷蔵庫で保存し、長期間ならば殻付のまま冷凍保存するとよい。冷凍保存したものを解凍する際は、電子レンジや煮沸などで手早く加熱することによって解凍する。

水質浄化

アサリは濾過摂食者であるため、水質浄化機能が期待できる。成貝の濾水量はおおよそ、1個体で10L/日と多く、水質浄化と漁獲回復の双方を狙った干潟再生事業も少なくない。

アサリの現状

日本においては三河湾が一大産地となっており、愛知県は2004年より漁獲量日本一となっている[3]。 1960年代は全国で年間約10万トンの漁獲量があったが、1980年代の14万トンを頂点として減少し1994年には5万トン、2009年には2万トン以下まで減少した。減少の原因は「乱獲」や「生息域の埋め立て」などの他に、富栄養化や水質汚染に伴う環境悪化(青潮)、ナルトビエイツメタガイなどによる食害、輸入稚貝を原因とする「パーキンサス原虫」の感染に伴う繁殖力の低下などの可能性が指摘されている[4][5]

平成26年(2014)漁業・養殖業生産統計 アサリ漁獲量推移[6]
漁獲量 (単位=t)
2004 28,876
2005 26,727
2006 27,744
2007 25,550
2008 24,279
2009 18,065
2010 14,671
2011 17,322
2012 15,483
2013 12,773
2014 13,730

北海道など限られた水域を除く多くの産地で自然個体群の再生産が急速に悪化し、前述のとおり漁獲量が激減してきている。2001年にはそのことに危機感を抱く水産学者や海洋生物学者らによって、日本ベントス学会全国大会(函館市・北海道大学水産学部)にて「今、アサリが危ない」とのシンポジウムも開かれるに至った。アサリ漁場の回復のため、人工干潟の造成や、客土、覆砂事業、貧酸素水塊対策なども行われている。

また、北朝鮮韓国並びに中国などからの輸入品が直接販売されたり、これらの輸入品をかつての大産地の漁協が購入して干潟や浅瀬に畜養し、日本産として再漁獲して販売することが多くなってきている。また剥き身の冷凍品の形でも流通する。なお、北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会は、日本が輸入するアサリの65%余りが北朝鮮産であり、経済制裁に効果ありと捉え、不買運動を積極的に行っている。改正された油濁損害賠償保障法(船舶油濁損害賠償保障法)の影響により日本の港に来港する北朝鮮船籍の船が減ったこともあり、統計上は輸入量が激減しているが、畜養による合法的な産地偽造、または中国産と偽る非合法な偽装などが行われているかは不明。既にいくつかの業者が産地偽装の罪で摘発されている。(2005年4月7日時点)

1990年代後半からは、アサリの天敵である亜熱帯産のナルトビエイが海水温の上昇で瀬戸内海有明海でも生息数を増やしており、アサリの産地で有名な大分県福岡県山口県岡山県を中心に深刻な被害をもたらしている。特に壊滅的な被害を受けている大分県中津市では定期的にナルトビエイの駆除を行うなどし、県からの補助金で稚貝の放流を増やすなどして、産地復活に力を入れている。

養殖

人工増殖種苗を自然水域に放流した養殖[7]や遊休クルマエビ養殖池の利用研究[8]のほか、稚貝を網に入れ(牡蠣ホタテガイの様に)吊り下げての技術が開発され[9]養殖が行われている[10]

2012年度から世界自然保護基金などが、環境配慮型の養殖を認証する制度を設けるに当たり、ヤンマー等が国内認証第1号を目指す働きかけを行っている。また、大分県内で卵から孵化させた稚貝を全国に出荷する事により、日本固有種のアサリを保護すると同時に、純国内産のアサリを市場に普及させる事が期待されている。

アサリと名のつく他の二枚貝

いずれもマルスダレガイ科

関連項目

脚注

  1. 1.0 1.1 岡田稔 『化学大辞典』1、化学大辞典編集委員会(編)、共立、1981年10月、縮刷版第26版、56頁。
  2. 21世紀研究会・編『食の世界地図』281頁 文藝春秋社。
  3. 朝日新聞2018年5月15日
  4. 松川康夫、張成年、片山知史、神尾光一郎「我が国のアサリ漁獲量激減の要因について」、『日本水産学会誌』第74巻第2号、公益社団法人日本水産学会、2008年3月15日、 137-143頁、 doi:10.2331/suisan.74.137NAID 110006644789
  5. 関口秀夫、石井亮、「有明海の環境異変 : 有明海のアサリ漁獲量激減の原因について」 海の研究 12(1), 21-36, 2003-01-05, NAID 110003368785
  6. 平成26年漁業・養殖業生産統計
  7. 超低価格アサリの生産に成功 兵庫県 平成22年度県立農林水産技術総合センター試験研究成果
  8. 岸岡正伸、柿野純、井上隆彦 ほか、「遊休クルマエビ養殖池を活用したアサリの増養殖」 山口県水産研究センター研究報告 (13), 25-45, 2016-03, NAID 40020852219
  9. 浅海養殖生産性の生物学的研究 -(3)アサリの水中懸垂飼育に就いて (PDF)
  10. 日向野純也、アサリの天然採苗・垂下養殖技術について 水産総合研究センター (PDF)

外部リンク