青潮
青潮(あおしお、せいちょう)には三義ある。
- 海水に含まれる硫黄がコロイド化し、海水が白濁する現象である。これが発生している海は薄い青色に見えるので、赤潮と対比して青潮と呼ばれているが、実際に青い色をしているわけではない。夏~秋に東京湾で多く発生することが知られている。赤潮と同様に魚介類の大量死を引き起こす事がある。
- 青潮(あおしお)は対馬暖流(対馬海流)の愛称である。黒潮(日本海流)の分流であるゆえ、黒潮同様に透明度が高く、漆黒(濃紺)の深い色合いをなす海流である。高温なため、冬の北西季節風と邂逅して日本海岸各地に多量の雪を降らせ、日本文化の基底を形成する重要な因子となってきた。青潮流域には、青潮岳(鹿児島県下甑島)、青潮の里(長崎県対馬)など、この海流が語源となって命名された古くからの地名や文物がある。1980年代の中頃、市川健夫によってその使用が提唱された。(→青潮文化論)
- 青潮(せいちょう、あおしお)と読み、俳句で夏の季語として知られる。夏潮、青葉潮ともいい、山口県の青潮(せいちょう)短歌会はこの季語にちなんだものである。
上記1の原因
富栄養化により大量発生したプランクトンが死滅して海底に沈殿し、バクテリアによって分解される過程で海中の酸素が大量に消費される。その結果、溶存酸素の極端に少ない貧酸素水塊が形成される。通常、この水塊は潮流の撹乱により周囲の海水と混合されて分散するが、内湾ではこの力が弱い。また、東京湾などでは浚渫工事に伴う土砂の採集跡が海底に窪地として残されており、ここに溜まった水塊は貧酸素環境が特に保たれる。貧酸素水塊中では嫌気性細菌が優占する。嫌気性細菌の硫酸還元菌が大量の硫化水素を発生させる。この硫化水素を大量に含んだ水塊が湧昇すると、水中の酸素によって硫化水素が酸化され、硫黄或いは硫黄酸化物の微粒子が生成される。微粒子はコロイドとして海水中に漂い、太陽光を反射して海水を乳青色や乳白色に変色させる。多くの場合、青潮は未酸化の硫化水素による独特の腐卵臭を伴う。
貧酸素水塊が上昇する主な原因は対流であるとされている。表層付近の海水が強風により外洋へ流されて離岸流が発生すると、それを補うように底層の水塊が上昇してくる。東京湾では北~北東の風が吹く時期に青潮が起き易い。他に、底層水が直接外洋水によって押し上げられて青潮となる場合もある。
近年発生した青潮では、2002年に三河湾で発生した青潮がよく知られる。この青潮で沿岸のアサリの大量死が起きた。対策としては、海底の天然の浚渫窪地を埋め、貧酸素環境が生じやすい環境をもとに戻すことによって青潮の発生が抑えられると唱える学者もいる。現在三河湾では海底の天然の窪地の人工的な埋め工事が行われている。
青潮文化論
青潮(対馬暖流)の存在を、日本文化形成の大きな要因とみる日本文化論の立場。流量では黒潮に遠く及ばないものの、日本海沿岸を北海道まで北上するその流域において、黒潮以上に日本に温暖湿潤な影響を強く与えてきた。また、その水温の高さゆえに、冬の北西季節風と邂逅して日本海岸各地に多量の雪を降らせ、稲作地域を形成させる要因ともなった。さらには、狭い対馬海峡部を通過することにより、朝鮮半島および中国本土からの文化的要素を伝える推進力ともなってきた。これらは黒潮にはみられない青潮固有の側面であり、それを重く評価しようとするのが青潮文化論といえる。
参考文献
- 赤潮、青潮について - 千葉県環境研究センター
- 特集(三河湾に生き物を呼び戻すために“貧酸素水塊”の発生を防ぐ)-エムワン49号:国土交通省 中部地方整備局 三河港湾事務所
- 市川健夫編(1997):『青潮文化―日本海をめぐる新文化論』古今書院
- 戸井田克己(2016):『青潮文化論の地理教育学的研究』古今書院