医学部
医学部(いがくぶ)は、大学において医学に関する研究・教育を行っているところ。また医学を専門に学ぶ課程である。
Contents
概説
医学部の社会的責務は教育・臨床・研究の3つであると言われる。
- 医療教育は、実際に患者に触れて心理や倫理を学ぶ事ができる附属病院を有している方が効果的であるため、医学部の責務とされる。また医学教育は、高度先進医療を行う病院には「まれな疾患ではあるが病態を理解しやすい難病」の患者が集まり、この様な病院の方が効果的であるため、医学部の責務とされる、学部学生の臨床実習、卒業後の研修等が行われる。
- 高度先進医療は、世界中から最先端の知見を集めて地域の医療レベルの向上に資するため、またそれには研究を行っている学者がいる病院である方が効果的であるため、また最新の医学を学生に学ばせるために、医学部の責務とされる。
- 研究は、現在の医学では治せない難病に対して実験的治療が行える高度先進設備と学者が揃った病院で行ったほうが効果的であるため、医学部の責務とされる(特定機能病院)。
日本における医学部
学科
医学部に付属する学科は以下のようなものがある。
- 医学科
- 医学科は医師を養成するための6年制の学科である。医学科は「歯学」を除く医学(内科学、外科学、放射線医学など)を履修する課程であり、歯学科とは異なる。
- 健康科学・看護学科
- 東京大学医学部保健学科が1992年に学科名を変更して設置された。看護学コースと健康科学コースを有し、必ずしも看護師となるわけではない。保健医療の学際的アプローチを目指している。4年制。
- 看護学科
- 以前は附属看護専門学校として多かった看護学科は看護師や保健師を養成するための4年制の学科である。
- 保健学科
- 診療放射線技師、臨床検査技師、作業療法士、理学療法士等を養成するための4年制の学科である。これらに加え、看護師や保健師の養成課程を持つところもある。
- 医科栄養学科
- 管理栄養士を養成するための4年制学科である。2017年4月現在、徳島大学にのみ設置されている(2014年4月までは「栄養学科」だった)。
- 総合薬学科
- 薬剤師を養成するための6年制の学科である。薬学科は当初医学部に設置されていたが、ほとんどが学部として独立し、唯一最後までこの形態で残っていた広島大学も薬学教育6年制移行を機に薬学部として独立した。
- 生命科学科
- 医学の基礎知識を習得した生命科学者を養成するための4年制の学科で、1990年鳥取大学に設置され、2007年には九州大学にも新設された。
2012年の報告によれば日本のすべての大学の医学部にて東洋医学の講義が行われているが[1]、日本の医学部には東洋医学の学科は無い。
資格
医師養成課程(医学部医学科・6年制)を卒業した者には「学士(医学)」の学位(1991年以前は「医学士」の称号)が授与されるが、学士(医学)及びその他の6年制学部卒業者や修士号取得者は医学系の大学院に入学することが可能で、「博士(医学)」の学位を取得することが出来る。すなわち、医師養成課程を経ずとも博士(医学)の学位を取得できる。
博士(医学)の学位を取得できる大学院は、医師養成課程を持つ大学に設置される。博士(医学)の学位を取得するためには、それらの大学院医学研究科に入学する必要があり、さらに、自ら執筆した論文の評価によって博士の学位が授与される。医学研究科は4年制であるが、社会人大学院に入学した場合は3年以上の授業料納付と博士(医学)と認められるのに充分な論文の提出が必要である。
なお、博士(医学)は学位であり医師免許とは無関係なので、医師ではない博士(医学)の者は医業を行うことはできない。また、医学部医学科を卒業せずに、博士(医学)の学位だけを取得しても、医師国家試験の受験資格はない。医師となるには、医学部医学科を卒業予定あるいは卒業した者が、医師国家試験を受験して合格する必要がある。
教育
医学部の医学科は2016年時点で日本では80大学にあり、1学年100人前後の入学者数で構成される[2]。1973年の「無医大県解消構想」の閣議決定があり医学部定員は増加を続けたが、1982年に医師数過剰を防ぐためとして定員は抑制され、2003年から2007年まで7625人に据え置かれた[3]。。
各大学発表の収支報告書によると、基本的に授業料収入が教育経費を上回っている。 私立大学医学部の高額な学費は、教育費に加え大学病院の赤字補填費や研究費に充てられる。私立大学医学部の6年間総額納入金の平均額は約3,300万円[4]である。最高額は川崎医科大学医学部で卒業までに約4,600万円が必要。一方で自治医科大学のように、卒業後に一定の条件を満たせば授業料がほとんど無償という大学もある。
卒業時には卒業論文はなく「卒業試験」に合格することで修了となる(一部例外あり)。
2017年現在、最も歴史の浅い医学部は国際医療福祉大学医学部で2017年(平成29年)開設である。
また、近年の医師不足の背景から、私立大学に医学部の設置を検討する動きが出てきており、同志社大学が複数の地方自治体と連携して、医学部設置を目指す動きを2012年に表明していた[5]。しかし、2013年、文部科学省は、東日本大震災復興支援として、東北地方に所在する大学一校にのみ、新設を認める方針を取ったことから、同志社大学は医学部設置を断念した[6]。その後の審査で、文部科学省の審査会は、医学部を新設する大学として、東北薬科大学を選定し、2016年度に東北医科薬科大学医学部が設置された。
入試
近年は少子化による大学入試の易化[7]や理系離れが指摘されているが、バブル崩壊後長く続いた不況による企業の倒産やリストラの影響などもあり、医学部志望者が大幅に増え、特に国公立大学の医学部の入学試験が難化する傾向にあり、景気回復後も人気が高止まりしている。国公立大学医学部は、私立大学医学部に比して学費が圧倒的に安い為(年間約50万)、医学部志望者への人気が非常に高い。総合大学では、他学部と同じ問題を出題している大学がほとんどであり、センター試験、二次試験共に合格最低点や入試偏差値は同大学他学部と比して極めて高く、最難関学部(学科)と称されている。さらに2006年度入試から国公立大の医学部において、理科3科目(化学、物理、生物)全てを受験しなければならない大学も出てきたが、現在では縮小傾向にあり九州大学のみとなっている。また、ほとんどの医学部では面接を課している。
卒業後
2004年度から卒後臨床研修にあたって研修医自身が研修先を選べるようになったところ、研修内容が充実する傾向にある都市部の病院への希望者が集中するようになった[8]。このため2010年度から地域別の人数に上限が設けられた[8]。2016年の研修医のマッチング実績では大学病院で研修する者が全体の42.6%、市中病院が58.3%だった[9]。
定員
入試年度 | 定員 |
---|---|
1998年(平成10年) | 7,640 |
1999年(平成11年) | 7,630 |
2000年(平成12年) | |
2001年(平成13年) | |
2002年(平成14年) | |
2003年(平成15年) | 7,625 |
2004年(平成16年) | |
2005年(平成17年) | |
2006年(平成18年) | |
2007年(平成19年) | |
2008年(平成20年) | 7,793 |
2009年(平成21年) | 8,486 |
2010年(平成22年) | 8,846 |
2011年(平成23年) | 8,923 |
2012年(平成24年) | 8,991 |
2013年(平成25年) | 9,041 |
2014年(平成26年) | 9,069 |
2015年(平成27年) | 9,134 |
国(官)公私立大学医学部(医専)等の一学年分の定員の合計は、1945年(昭和20年)に10,533人(うち医専が8,225人)[† 1]だったが、医専を廃止するなどして1948年(昭和23年)に2,820人まで減らした[10]。この定員数は固定化されていたが、1960年(昭和35年)には2,840人に増やされ[10][11]、1961年(昭和36年)の国民皆保険達成による医療需要増加に合わせて医学部の新設が始まり、1965年(昭和40年)には3,560人[11]、1970年(昭和45年)には4,380人[11]、1975年(昭和50年)には7,120人[11]、1980年(昭和55年)には8,260人となった[11]。
最後の新設医科大学となった琉球大学医学部が医学科生受け入れ開始した[12]1981年度(昭和56年度)には8,280人にまで増加[13][14]。すると、厚生省の医師需給見通しに基づいて、1982年(昭和57年)に定員抑制の閣議決定がなされ、1985年(昭和60年)の8,340人をピークに定員削減が始まった[11]。バブル景気を背景に進学率が上昇し、団塊ジュニア世代が受験した1990年(平成2年)には7,750人まで削減され[11]、大学志願者数が1992年(平成4年)に92万人でピークとなる[15]と1995年(平成7年)には7,710人[11]、さらに1997年(平成9年)の閣議決定に基いて削減は進み、2003年(平成15年)以降は7,625人で固定化された[16]。
しかし、2004年(平成16年)から始まった卒後臨床研修義務化などを契機に勤務医不足や医師の地域的・診療科的偏在の深刻化から医師の需要が増大した。そのため、2008年(平成20年)度入試で定員を7,793人に増員し[16]、2009年(平成21年)は過去最高の8,486人に増員された[17]。政権交代後も毎年増員がなされ、2015年(平成27年)度入試における定員は9,134人となっている[18]。なお、大学志願者数は2006年(平成18年)以降、70万人を割っている[15]。
医学部が設置されている日本の大学の一覧
国立大学
公立大学
私立大学
省庁大学校
医学部に類する名称
- 医学所・医学院・医学校・医学館
- 医学校
- 医学部
- 医科大学
- 1886年の帝国大学令から大学令施行までは、帝国大学の医学系分科大学を指した。
- 大学令施行後は、医学部の単科大学を指した。看護師やコ・メディカルを養成する学科、歯学部や薬学部などの医療系学部を持つ場合もある。
- 医学専門学校
- 医療大学
- 医師を養成する学部が無いが、それ以外の医療従事者を養成する学部を持つ大学が名乗る例が見られる。
- 保健学部医学科
欧米における医学部
ドイツにおける医学部
ドイツには2014年現在37の医学部があり、その内訳は州立が35校、私立が2校である[19]。
歴史
ドイツでは1388年にハイデルベルク大学で医学部教育が始まったのをきっかけに医学分野で世界をリードした[19]。しかし、ドイツの医学教育は権威主義的で堅く閉ざされていたとも言われており、戦後、アメリカ、カナダ、イギリス、オランダなどの医学教育を見習う必要があると指摘されるようになった[19]。
医学教育改革が行われ2003年に医師免許に関する規制法が発効した[19]。
教育
ドイツの医学部は6年制だが学年制ではなくセメスター制が採用されている[19]。6年間のカリキュラムは、多くは基礎科学に2年、臨床医学に3年、臨床実習が1年である[19]。セメスター制も多くは前期と後期の2セメスターである[19]。
ドイツの医師国家試験は第1回目試験(2年終了時)と第2回目試験(5年終了時の筆記試験及び6年終了時の口頭試験)が実施される[19]。
入試
ドイツの医学部の入試には多彩な選抜方式が採用されている[19]。
- アビトゥーア - 医学部の約2割はアビトゥーアの上位成績者から選抜される[19]。
- 大学独自の選抜制度 - 医学部の約6割は大学ごとの書類選考及び面接試験により選抜される[19]。
- 待機期間制度(waiting time) - ドイツ特有の選抜法で看護学実習や市民活動に参加しながら医学部入学のチャンスを待つ制度で医学部の約2割が選抜される[19]。
アメリカ合衆国における医学部
1910年から1920年にかけ米国では医学教育改革が行われ、医学校は A、B、Cの3段階に格付けされた[20]。同時期に医学教育審議会が設置され後に文部省の諮問機関として認められた[20]。そして医学教育の新基準を満たす見込みのない医科専門学校の多くがこの時期に閉鎖された[20]。
なお、米国の医師国家試験の受験資格は2023年からアメリカ医科大学協会(AAMC)か世界医学教育連盟(WFME)の認証を受けた医学部の卒業生のみに限られる予定である[20]。
脚注
注釈
- ↑ 入学者数
出典
- ↑ 今津嘉宏 金成俊 小田口浩 柳澤紘 崎山武志 80大学医学部における漢方教育の現状 日東医誌 Kampo Med Vol.63 No.2 121-130, 2012
- ↑ 医学部医学科の入学定員一覧(平成28年度)
- ↑ これまでの医学部入学定員増等の取組について 2011年 文部科学省高等教育局医学教育課
- ↑ 私大医学部、学費下げ競争 学生確保「人気あるうちに」(朝日新聞デジタル 2013年2月4日)
- ↑ 同志社が医大新設を検討 79年以来、認可は不透明(日本経済新聞 2012年11月30日)
- ↑ 同志社、医科大開設を断念(日本経済新聞 2014年4月21日)
- ↑ 18歳人口及び高等教育機関への入学者数・進学率等の推移(文部科学省)
- ↑ 8.0 8.1 医師の都市集中歯止め? やりがい・厚遇で地方へ 2016/7/3 NIKKEI STYLE
- ↑ 大都市圏以外に過去最多の研修医、2016年度マッチング最終結果 2016年10月20日 高橋直純(m3.com編集部)
- ↑ 10.0 10.1 日本の保健人材開発史の考察 (PDF) (独立行政法人国際協力機構)
- ↑ 11.0 11.1 11.2 11.3 11.4 11.5 11.6 11.7 医師数抑制政策の推移と方向の転換について(日本アルトマーク「医師学(いしまなぶ)」 2009年01月30日)
- ↑ 沿革概要(琉球大学)
- ↑ これまでの医学部入学定員増等の取組について (PDF) (文部科学省 高等教育局 医学教育課 2011年1月18日)
- ↑ 平成26年度医学部入学定員の増員計画について (PDF) (文部科学省 2013年12月16日)
- ↑ 15.0 15.1 近年の受験環境(河合塾 Kei-Net)
- ↑ 16.0 16.1 医学部定員500人増へ 文科省(産経新聞 2008年8月5日)
- ↑ 医学部定員、693人増へ=77大学で来年度から-文科省(時事通信 2008年11月4日)
- ↑ 平成27年度医学部入学定員の増員計画について (PDF) (文部科学省 2014年10月22日)
- ↑ 19.00 19.01 19.02 19.03 19.04 19.05 19.06 19.07 19.08 19.09 19.10 19.11 “ドイツにおける医学教育と医師国家試験”. 国立研究開発法人科学技術振興機構. . 2017閲覧.
- ↑ 20.0 20.1 20.2 20.3 “医療教育の国際化の必要性”. 比較法研究センター. . 2017閲覧.
関連項目
- 進学課程 (医歯学部)
- OSCE
- 医学研究科
- 全日本医科学生体育大会王座決定戦(全医体)
- 東日本医科学生総合体育大会(東医体)
- 西日本医科学生総合体育大会(西医体)
- 国際医学生連盟