諏訪哲史
諏訪 哲史(すわ てつし、1969年10月26日 - )は、日本の小説家・批評家・随筆家。
来歴
愛知県名古屋市出身。幼少期には宮城県仙台市で5年ほど過ごした。小学校時代から1週間に10冊の本を読んだ。
愛知県立名古屋西高等学校、國學院大學文学部哲学科卒業。大学在学中から卒業後まで独文学者の種村季弘に文学・美術・宗教・思想など広範な分野にわたり個人指導を受ける。卒論は西欧十九世紀末芸術ラファエル前派論[1]。哲学科では美学者の谷川渥にも師事した。
1992年から名古屋鉄道で勤務する傍ら、種村季弘に読んでもらうために詩作を行なう。1998年、名鉄を退社し、2年間引きこもった末に書き上げた初の小説「アサッテの人」で種村季弘に認められる。30歳で再就職。2004年、種村季弘が死去。2006年、諏訪の実父が死去。この時期、亡父と同じ躁鬱病(双極性障害)を発症し、生涯にわたる治療が始まる[2]。失意の内に初めて投稿した「アサッテの人」が、2007年に第50回群像新人文学賞を受賞。同年に同作品で第137回芥川龍之介賞を受賞する。この2つの賞の同時受賞は村上龍以来の31年ぶり。脱稿から8年後の受賞だった。この作品には、幼いころ吃音に苦しんだ経験が投影されている。
変幻自在な文体を駆使し、<自意識の哲学>を追究する作風であると評される。小説集『領土』では詩的な文体と物語の幻想性を同居させている。
2012年刊の『スワ氏文集(すわし・もんじゅう)』ではコラムニスト、随筆家として、2014年刊の『偏愛蔵書室』では詩・小説・漫画などを対象に批評家としての仕事を行なう。谷川渥は『偏愛蔵書室』について、「批評家」諏訪哲史の面目躍如、と評した[3]。
連載中のコラムに「スットン経」(中日新聞、2016年4月~、毎月第1金曜朝刊)がある。
2009年から3年間愛知淑徳大学文化創造学部准教授、2012年から3年間同大学の学部名変更によりメディアプロデュース学部准教授[4]、2016年から東海学園大学人文学部教授を務める。
人物
作風や文体など、小説という形式に対して常に疑問を抱き、執念深く自問自答する姿勢から、「小説狂」・「文学的テロリスト」などと評されることもある。[5]
諏訪の随筆によれば、40歳でそれまでの読書量が1万冊を超えたものの、種村季弘は同じ年頃にその倍は読んでいたらしいと思い至り、絶望したとある。[6]。
第137回芥川賞贈呈式(2007年8月22日)では、アカペラで細川たかしの「心のこり」の1番を歌った[7]。
高校時代から一人旅を始め、大学時代に鉄道等で日本各県を踏破、海外も50カ国以上を放浪した[8]。
自身も車掌を務めた経験のあるパノラマカー(名鉄7000系電車)の引退に伴い、かつて勤務した名鉄からの依頼により、ホームページの特設サイトにてエッセイを掲載している[9]。
諏訪のサイン(著書への署名)は「一筆書きツァラ」と称され、ルーマニア生まれのダダ詩人トリスタン・ツァラが片目に片眼鏡を嵌めた戯画を一筆書きするというもの。そこに「Suwa」の文字が添え書きされる。作家になるずっと前から友人らへの書簡の末尾に用いてきた[10]。
2017年『岩塩の女王』出版時のインタビューでは、「十年以上前に双極性障害になってから、自己同一性や文体的な<自分性>が年を経るごとにとらえられなくなってきました」といい、「自分の<身体>・<文体>が長く統一できないのです」と言語的苦悩を吐露している[11]。
詩吟や謡曲好きな父親の影響で幼時から「雅楽の越天楽や能楽、浄瑠璃や民謡など」が身近にあり、「ロックやジャズ、クラシックやボサノヴァ、フレンチ・ポップスやキューバ音楽も好き」だが、「ここ十年くらいは主にノイズ音楽」を聴いている[12]。
政治や社会思想の話題は若い頃から極力避けてきたが、避けては通れない情勢になったとして、「文学的には<観念的アナーキズム>の立ち位置」を標榜し、「アナーキーとは自分自身も含め各個人それぞれが国家であって他の誰にも統治されない状態を指し、だからこそアナーキズムは<無政府主義>と訳され、無意味の芸術ダダとも接近する」と語っている[13]。
受賞歴
単行本
小説
- 『アサッテの人』(2007年、講談社、2010年、講談社文庫)
- 初出:『群像』2007年6月号
- 『りすん』(2008年、講談社、2011年、講談社文庫)
- 初出:『群像』2008年3月号
- 『ロンバルディア遠景』(2009年、講談社、2012年、講談社文庫)
- 初出:『群像』2009年5月号
- 『領土』(2011年、新潮社)
- 『岩塩の女王』(2017年、新潮社)
批評
- 『偏愛蔵書室』(2014年、国書刊行会)
- 『紋章と時間 ―― 諏訪哲史文学芸術論集』(2018年、国書刊行会)
- 言語芸術論――音楽と美術の精神からの文学の誕生 書き下ろし
- 点点点丸転転丸(てんてんてんまるてんてまる)所収 (初出:展示『本迷宮 本を巡る不思議な物語』。東京創元社『年刊日本SF傑作選2016』に再録)
随筆・エッセー
編著
- 『種村季弘傑作撰Ⅰ ― 世界知の迷宮』(2013年、国書刊行会)
- 『種村季弘傑作撰Ⅱ ― 自在郷への退行』(2013年、国書刊行会)
- 『新編・日本幻想文学集成1』(2016年、国書刊行会)収録4作家のうち日影丈吉を担当
関連項目・人物
- 種村季弘-恩師
- 谷川渥-同上
- 清水義範-高校の先輩
- ゼロ次元-岩田信市と懇意
- 古井由吉
- 柄谷行人
- 莫言
- 林静一
- 吉田知子
- 山口椿
- 四谷シモン
- あがた森魚
- 宇野邦一
- 佐々木幹郎
- 多和田葉子
- 松浦寿輝
- 堀江敏幸
- 山尾悠子
- 天野天街-『りすん』を舞台化・演出
- 東雅夫
- 安藤礼二
- 山崎ナオコーラ-大学の後輩
- 野口あや子-教え子
脚注
- ↑ 群像2007年9月号「芥川賞受賞記念対談+谷川渥」
- ↑ 文學界2007年9月号随筆「神々との里程」
- ↑ 図書新聞2015年1月10日付
- ↑ 毎日夫人2015年7月号「うたかたの日々」
- ↑ 2011年新刊JPインタビュー http://www.sinkan.jp/special/interview/bestsellers37.html
- ↑ 文學界エセー2011年9月号
- ↑ asahi.com2007年8月29日付
- ↑ 毎日夫人2015年2月号「うたかたの日々」
- ↑ http://www.meitetsu.co.jp/train/guidance/museum/panorama_car/essay/
- ↑ すばる2007年9月号「一筆書きツァラのこと」
- ↑ 2017年新刊JPインタビュー https://www.sinkan.jp/news/8036
- ↑ 2017年新刊JPインタビュー https://www.sinkan.jp/news/8040
- ↑ 2017年新刊JPインタビュー https://www.sinkan.jp/news/8040