2012年5月20日の日食
本項では、2012年5月20日の日食(UTC、日本標準時など東アジア地域の時間では21日)について述べる。
この日食(観測地域により金環日食あるいは部分日食)は、中国南部、日本列島、太平洋、アメリカ合衆国西部などで、現地時間の2012年5月20日あるいは21日に観測された。20日・21日と2日間にわたっているのは食の経路が日付変更線をまたいだためで、先にアジア地域で21日の朝(現地時間)に見られた後、北米地域では20日の夕方(現地時間)に見られた事による。
Contents
食の周期と状況
項目 | 内容 |
---|---|
部分食の始まり(世界時) | 5月20日20時56分07秒 |
金環食の始まり(世界時) | 5月20日22時06分17秒 |
金環食の開始時の金環食帯の幅 | 324km |
子午線中心食(世界時) | 5月20日23時53分54秒 |
子午線中心食の場所 | アリューシャン列島中央の南方海域 |
子午線中心食の座標 | 北緯49度06分、東経176度18分 |
金環食最大継続時間 | 05分46秒 |
金環食最大継続時の金環食帯の幅 | 237km |
金環食の終わり(世界時) | 5月21日01時39分11秒 |
金環食の終了時の金環食帯の幅 | 323km |
部分食の終わり(世界時) | 5月21日02時49分21秒 |
- ※表での時間表示は協定世界時を用いているので、日本時間に換算する場合は9時間を加えればよい。
- ※数値については、資料により多少異なるものもある。
この金環日食はサロス[注 1]番号128番で、984年に南極で部分日食として始まり、徐々に北上して行ったものである。今回のサロスの3周期前に当たる1958年4月19日(日本時間)には2012年の場合より若干南を食の北限界線が通過したため、日本本土で金環日食を見る事はできなかったが、南西諸島北部から伊豆諸島北部では、好天に恵まれて金環日食が観測できた他、日本本土でも深い部分日食が見られた。その後、サロス番号第128の金環日食は、1976年には中心食帯が大西洋からアフリカ北西部を経て地中海から南アジアに達し、1994年には北太平洋東部から北アメリカを通過して大西洋を横断、北アフリカ西端に中心食帯が達した。2012年の次の周期に当たる2030年6月1日には食の経路は更に北上し、北海道を夕方近くに中心食が通る。
2012年5月の金環日食では、21日の夜明け(現地時間)と共に半影[注 2]が、スカンディナヴィア北部からユーラシア中部を通ってインドネシア付近にいたる広い範囲で地球に接し、擬本影(ぎほんえい)[注 3]の中心線は中国とベトナムの国境からやや東に行った南シナ海沿岸沖で地球に届いた。その後擬本影は中国の南シナ海沿岸に沿うように東進し、台湾北部をかすめて日本列島南部を通過、北太平洋を北上してアリューシャン列島中央部付近のすぐ南で子午線中心食となり、日付変更線を通過、5月20日に戻り、その後南寄りに進路を転じて[注 4]北アメリカに達し、カリフォルニア州とオレゴン州の境界付近に上陸、ニューメキシコ州南西部で日没と共に終わった。半影の前半は中心食に先行して北アメリカ大陸を東進したが、東海岸に達する前に日没となって地球を離れた。
- 参考文献:以上の内容は『理科年表 平成24年』(丸善出版株式会社・2011年)、『金環日食2012』(株式会社アストロアーツ・2012年)、Newton 臨時増刊『金環日食2012』(株式会社ニュートンプレス・2012年)等を参考とした。
日本での見え方
金環日食の中心食帯が日本列島の南側を通過し、九州地方南部、四国地方南部、近畿地方南部、中部地方南部、関東地方では金環日食の、また中心食帯の外側の日本列島の全域では部分日食の観測可能域となった。
日本気象協会ではJWA10日間予報を用いて作成した日食当日の朝における日本各地の天気予報が分かる予想天気マップを5月11日より20日まで毎日公開した[1][2]。多数の自治体・報道機関がよそ見などで事故を起こしたり目を痛めることのないよう注意を呼びかけた[3][4][5][6][7]ほか、登校時間をずらす小学校もあった[8][5]。
当日は日本の広い範囲で曇りとなるとの天気予報が出ていたが[9]、東京では雲の合間から金環日食が観測されるなど、多くの地点で金環日食や部分日食が観測された[10]。
この金環日食に伴い、日本では太陽観測用グラス(日食グラス)が爆発的に売れ、ビクセン製品は200万個を出荷[11]、ケンコー・トキナー製品のキャラクター付きグラスは100万個を販売した[12]。皆既日食と違い、金環日食では強い光を放つ太陽の光球がじかに見えるため裸眼での観測はもちろん、煤でいぶしたガラスやサングラス等でも目に危険で、この金環日食を観察した人の中には目に異常を訴えるものも現われ、1000人ほどが眼科を受診し、その内の一部で目に異常が継続している。日食網膜症に罹患した可能性も指摘されている[13]。また、金環日食の最中に男児が3階の窓から転落する事故が発生しており、この男児は金環日食を見ていて誤って転落した可能性がある[14]。
金環日食が見られた主な地点(都道府県庁所在地)は下記のとおり(いずれも時刻はJST)[15]。
地名 | 食のはじめ | 金環日食のはじめ | 食の最大時刻 | 最大食分 | 金環日食の終わり | 中心食継続時間 | 食の終わり |
---|---|---|---|---|---|---|---|
東京 | 6時19分05秒 | 7時32分02秒 | 7時34分32秒 | 0.968 | 7時37分02秒 | 5分00秒 | 9時02分37秒 |
静岡 | 6時17分43秒 | 7時29分44秒 | 7時32分13秒 | 0.969 | 7時34分42秒 | 4分58秒 | 8時59分10秒 |
京都 | 6時17分41秒 | 7時30分00秒 | 7時30分35秒 | 0.940 | 7時31分09秒 | 1分09秒 | 8時55分17秒 |
高知 | 6時15分24秒 | 7時25分11秒 | 7時26分46秒 | 0.946 | 7時28分21秒 | 3分10秒 | 8時49分35秒 |
鹿児島 | 6時12分49秒 | 7時20分05秒 | 7時22分11秒 | 0.954 | 7時24分17秒 | 4分12秒 | 8時42分26秒 |
- ※時間・食分については、資料により多少異なるものもある。
金環日食が観測されたのは、東京(島嶼部を除く)では173年ぶり[注 5]、大阪では282年ぶり[注 6]、名古屋では932年ぶり[注 7]となった。なお、日本国内において見られる次回の金環日食は北海道で2030年6月1日(土曜日)の夕方となる。
世界各地での見え方
日本を含む世界各国での観測予測時刻などがNASAの「Eclipses」サイトにある「JavaScript Solar Eclipse Explorer」[16]で算出可能。
例えば、今回の日食の場合、カナダのバンクーバー市(部分日食)では太平洋夏時間の2012年5月20日の16時58分41秒に始まり18時14分53秒に最大、アメリカ合衆国のロサンゼルス市(部分日食)では同17時24分59秒に始まり18時38分15秒に最大という予測がされていた。
アジア
中国西部・東南アジアの大部分で日出帯食となり、中心食帯はマカオ・香港・アモイ・台北を通過して金環日食が見られた。また、中国東部やシベリアなどでは日の出後に部分日食となった[17]。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国本土では、1994年5月10日以来となる金環日食であり[注 8]、かつ21世紀で最初の中心食であった[18][注 9]。アメリカ合衆国本土における次の金環日食は、2023年10月14日になる[18]。
- オレゴン州南部とカリフォルニア州北部からテキサス州東部にかけての地域では、夕刻に金環日食が観測可能であった[19]。
- カリフォルニア州南部のロサンゼルス市[21]、アリゾナ州フェニックス市[21]、コロラド州デンバー市[24]、アラスカ州[23]などでは部分日食が観測された。
- 東海岸地域では、日食前に日没を迎えたため見られなかった。
脚注
注釈
- ↑ ある日食が起きると、その18年と10日(その間に含まれる閏年の数によっては11日)と8時間後にまた太陽・月・地球がほとんど同じ位置に来るため、また日食が起こる。この周期をサロスと呼ぶ。
- ↑ 皆既日食又は金環日食(以上を中心食と呼ぶ)が見られる周囲に広がり、太陽が完全に月に重ならず、部分的に欠ける部分日食が見える。
- ↑ 皆既日食の場合は、月が太陽が完全に隠してその影(本影)が地球上に落ちるが、月の視直径が太陽より小さい場合には、本影は地球表面に達する前にいったん収束して、月の周囲から太陽が細いリング状に見える擬本影が伸び、地球上に落ちる。
- ↑ むろん、中心食帯はほぼまっすぐ進んでいるが、地球の地軸が傾斜した状態で自転しているなどの影響で、食の経路は曲線を描く。
- ↑ 1839年早朝に江戸を金環食帯が通過(渡邊敏夫 『日本・朝鮮・中国‐日食月食宝典』 雄山閣 1979年)。
- ↑ 1730年、朝鮮半島北部から近畿地方を通る金環日食があった(渡邊敏夫 『日本・朝鮮・中国‐日食月食宝典』 雄山閣 1979年)。
- ↑ 1080年、九州から関東地方まで広範囲を覆う金環食帯が通過した(渡邊敏夫 『日本・朝鮮・中国‐日食月食宝典』 雄山閣 1979年)。
- ↑ 今回の食であるサロス番号128番に属するもので、1サロス前の金環日食である。
- ↑ 1995年の金環日食、1997年の皆既日食など、中心食がアメリカ国内を通らないため部分日食しか見えなかった場合が何回かある。
出典
- ↑ トピックス:金環日食(5月21日)の天気予報を毎日発表(日本気象協会 2012年5月11日)
- ↑ 日直予報士(金環日食の天気マップを毎日発表)(日本気象協会 tenki.jp)
- ↑ 金環日食、安全な観察方法は 交通事故にも注意朝日新聞デジタル2012年5月21日5時6分配信(2015年12月17日閲覧)
- ↑ 金環日食を安全に楽しむために徳島県2012年5月17日配信(2015年12月17日閲覧)
- ↑ 5.0 5.1 金環日食に関する安全の確保について秦野市2012年5月14日配信(2015年12月17日閲覧)
- ↑ 環日食現象に関する安全確保について高原町(2015年12月17日閲覧)
- ↑ 173年ぶりの「金環日食」を横浜で見よう!横浜市文化観光局(2015年12月17日閲覧)
- ↑ 金環日食、登校時間ずらす 相模原市が事故防止で日本経済新聞2012年4月25日20時0分配信(2015年12月17日閲覧)
- ↑ 金環日食の天気マップ(2012年5月20日付予報、tenki.jp)
- ↑ “金環日食:見えた天空の輪 九州から東北で観測”. 毎日新聞. (2012年5月21日) . 2012閲覧.
- ↑ 失明の恐れある金環日食 インドでは外出禁止令が出たことも、NEWSポストセブン、2012年5月18日16:00。(『女性セブン』2012年5月31日号)
- ↑ 金環日食はプロポーズの好機? 指輪・器具…商戦花盛り、朝日新聞デジタル、2012年5月7日20:39。
- ↑ 金環日食で1000人が眼科を受診 80人は目に異常、MSN産経ニュース、2012年8月25日17:05。
- ↑ 観察中に2歳男児転落? マンション前に倒れ重体 東京・大田産経ニュース2012年5月21日12時31分配信(2015年12月17日時点のアーカイブ)
- ↑ 国立天文台暦計算室 日食各地予報 国立天文台 2011年12月12日閲覧)
- ↑ JavaScript Solar Eclipse Explorer NASA Eclipse Web Site 2012年5月10日閲覧 - 地域(geographic area)→都市(city)→世紀(century)の順に指定する。
- ↑ 『理科年表 平成24年』(丸善出版株式会社・2011年)、『金環日食2012』(株式会社アストロアーツ・2012年)、Newton 臨時増刊『金環日食2012』(株式会社ニュートンプレス・2012年)等による。
- ↑ 18.0 18.1 Annular eclipse of the sun – China to Texas – on May 20 or May 21 EarthSky 2012年5月20日付
- ↑ アジア太平洋各地で金環日食、光の輪くっきり CNN.co.jp 2012年5月21日付
- ↑ 【金環日食】海外では“世紀の夕焼け”も…(ANNニュース 2012年5月21日)
- ↑ 21.0 21.1 21.2 世界各国のお空に輝く 金環日食・ダイアモンドリング カラパイア 2012年5月21日付
- ↑ CNN写真特集 世界中の日食 MAASH 2012年5月22日付
- ↑ 23.0 23.1 Photos: The 2012 Annular Solar Eclipse Alaska Dispatch 2012年5月20日付
- ↑ In Focus - A Ring of Fire: The 2012 Annular Eclipse The Atlantic 2012年5月21日付
参考文献
関連項目
- 1997年3月9日の日食
- 2009年7月22日の日食
- 2010年1月15日の日食
- WONDER 3 - 1990年11月1日に発売されたDREAMS COME TRUEの3枚目のアルバム。収録曲「時間旅行」の歌詞で今回の金環日食に言及している。
外部リンク
- 2012年5月21日(月)朝 金環日食 - 国立天文台
- 2012年5月21日は金環食をみよう! 全国市区町村別 金環食・部分日食観測ガイド
- 金環日食の解説 2012年5月21日 - つるちゃんのプラネタリウム
- Eclipses During 2012 - NASA(英語)