INSネット
INSネット(アイエヌエス ネット)は、日本のNTT(NTT東日本およびNTT西日本)の電気通信サービスの登録商標である。
国際的にはISDNと呼ばれる技術規格を採用しており、2本のBチャネル (=64kbps×2) と、1本のDチャネル (16kbps) を電話用の2本の銅線で重層伝送する「INSネット64」(2B1D、ISDNにおけるBasic Rate Interface)と、23本のBチャネル (=64kbps×23) と、1本のDチャネル (64kbps) を1本の光ファイバーで伝送する「INSネット1500」(23B1D、同Primary Rate Interface) の2つのメニューがある。
電話番号
かつてはINS回線と通常のアナログ加入電話回線では加入者線が収容される交換機が異なるために、移行時には必ず電話番号が変更となった(このため、市内局番の枯渇が生じたため、一部の市内局番の収容局番の少ないところを他の収容局で利用する嚆矢となった。例として秋田市の岩見三内収容局で使われていた883・884局は、何れも下4桁が2000番台しか当該収容局で使われていなかったため、2000番台以外の一部を前者は秋田大町収容局のISDN番号用、後者は新棟秋田収容局のISDN番号用に転用された。代わって、岩見三内収容局のISDN用番号は881-2xxxが割り当てられた)。
アナログ回線からINS回線への変更時に同番移行が全国で可能になったのは1997年4月末のことである[1]。この後もINSからアナログへの同番移行はアナログ→INS同番移行を行なった回線をアナログ回線に戻すときのみ可能であったが、2002年9月2日に全回線で可能となった[2]。
余談だが、かつてのVodafone 3GからISDN回線に発呼した場合、呼び出し音が異なっていたことがある(ソフトバンクモバイルとなってからしばらくして、この現象はなくなっている)。
歴史
サービス開始
旧日本電信電話公社によって1970年代から独自の研究が行われていた。高度情報通信システム (INS=Information Network System) と呼ばれ1984年、三鷹市・武蔵野市で現在のものと互換性のないYインタフェースで実用化試験が行われた。ちなみにYインタフェースでのINS (ISDN) 回線は回線構成が1B+1Dで通話と同時にFAXの送受信が行えないなど不便があったため、デジタルで通信を行う以外は旧来の電話と機能に変化が無いため現行のIインタフェースのISDN回線では回線構成が2B+Dになったらしい。
1988年4月19日に旧NTTによって「INSネット64」「INSネット1500]」の商標でIインタフェースによる商用サービスが開始され、1998年のNTT再編後はNTT東日本・西日本から提供されている。大阪市中央区淡路町にあるNTTのビルには「明日への通信 INS発祥の地 昭和63年4月」の石碑がある。また、2000年代に入り他の電気通信事業者のサービスも開始された。
登場当初はバーチャルコール方式パケット通信 (INS-P: INS-Packet switching service) による、大型コンピュータなどのパケット通信網 (DDX-P: Digital Data eXchange Packet switching service) へのアクセスなどから利用された。間欠送信であるアメダス・クレジットカードの信用照会 (CAFIS) などに、パケット通信特有のデータ量による課金体系であることを生かして使用された。
また「INSネット1500」1回線で23本の回線が取れることを生かして、インターネットサービスプロバイダのダイヤルアップ接続用アクセスポイントの拡充に使用された。
普及
1995年12月に、低価格のターミナルアダプタ「MN128」(NTT-TE東京(現NTT-ME)とビー・ユー・ジー(現ビー・ユー・ジーDMG森精機)の共同開発)が発売されたことが引き金となり、翌1996年に入ると日本電気やオムロンなどから低価格のターミナルアダプタの発売が相次ぎ価格が急速に低下。さらに深夜時間帯の市内・隣接地区の特定番号への通話が定額となる「テレホーダイ」サービスの開始もあり、それに伴いインターネットへのダイヤルアップ接続用途で個人や中小企業向けに一気に普及した。
また企業では構内交換機が比較的高価になるが「INSネット1500」1回線で23本、「INSネット64」1回線で2本の電話回線が取れることからアナログ電話回線を多数引き込むよりも電話加入権(施設設置負担金)や毎月の回線使用料(基本料金)が安くなるため、多数の外線電話を束ねる用途でも普及した。
契約数減少
2005年度末に734万回線であった契約数が、2015年度末に256万回線となった[3]。
大企業では、1990年代の公衆網と専用線との接続の自由化による外線本数の減少・交換設備の維持費の問題や料金の安いIPセントレックスの普及によって非常用通信の確保のための最低限の回線以外が解約されるようになった。i・ナンバー、ダイヤルインで電話・FAXそれぞれに番号を与えて1つのISDN回線で兼用していた中小事業所では、複数回線対応の0AB-J番号のプライマリIP電話への置き換えが進んでいる。
銅線の加入者線で高速・常時接続・定額料金のインターネット接続の可能なADSLが、2000年代に入るころから普及しはじめ、加入者線の共用が出来るアナログ電話回線に戻したりCATV・FTTH(光回線)も含めたブロードバンドインターネット接続によるIP電話への移行が増加し減少している。
またプロバイダにおいても前述のブロードバンドインターネット接続の普及によってダイヤルアップ接続用のアクセスポイント回線がナビダイヤルを使った全国共通番号回線などの形に移行されて縮減されており、通信事業用のISDN加入も減少傾向にある。
上記の状況において、あえてISDNを利用する主な目的としては以下の事例がある。[4]
- 通信販売や放送局などのような、大量のFAX受信を行う必要がある場合(IP回線ではG4やスーパーG3などの高速なFAX信号は正常に送受信できない場合が多い)。
- ラジオ放送のスポーツ中継・公開放送・道路交通情報センターなどの生中継や、系列外放送局への伝送・裏送り・送信所への伝送 - 光回線では臨時使用の工事対応に1か月以上かかったり、施設の設備の都合で光回線の敷設工事が不可能な場合がある。
- 銀行の企業向け決済サービス(エレクトロニックバンキング・ファームバンキング)、ATMの遠隔監視システム。
- 機械警備システム(セコム・セントラル警備保障ほか)。
- 既存機器の継続使用(カード決済端末・電子商取引・高音質音声中継など)。
- 利用地域でADSLなどのブロードバンドインターネット接続サービスが提供されていない、あるいは光収容回線や集合住宅などの何らかの事情によりブロードバンドインターネット接続サービスが利用できない場合の代替定額制接続手段(フレッツISDN)。
NGNへの置き換え
音声通話は、「ひかり電話」、デジタル通信モードは「オールIP対応端末」または、「変換アダプタ接続でISDN専用端末を使用」へ移行することが提案されている。
2011年6月にはISDNからの乗り換え向けに安価なプランの「フレッツ 光ライト」が開始された[5]。NTT東西のサービスであるINSネット64では2チャネルの同時通話が可能であるため、追加番号サービスと合わせて電話回線2本分の代わりとして、電話用とFAX用などとして小規模事業所などが活用しており、これらをひかり電話に移行させるには料金面でINSネット64の事務所向け料金よりも低廉なサービスを提供する必要があったためである。2012年5月にはISDN専用電話機等をひかり電話で使えるようにするNetcommunity VG230iも販売開始された[6]。
2018年11月30日を以って「フレッツ光」提供エリアにおいてフレッツ・ISDNの新規受付を終了する。[7][8]
移行が間に合わなかった場合、2024年初頭にメタルIP電話(ISDN相当)に、相当する付加サービスとともに、加入者が解約の意思表示をしない限り自動移行する[9]。
2027年頃まで、「メタルIP電話上のデータ通信」を提供する。新ノード(NS-8000)の加入者ISDN電話回線収容装置をIP変換アダプタで変換して中継IPルーターに接続するものであり、ISDNディジタル通信モードより通信速度などの品質が低下する。
NTTグループ以外の状況
電力系通信事業者では10社中、沖縄通信ネットワーク (OTNet) を除く9社が導入した。北海道総合通信網が2006年9月30日[10]・東北インテリジェント通信が2010年4月[11]・北陸通信ネットワークが2004年5月26日[12]・中部テレコミュニケーションが2015年9月30日[13]・エネルギア・コミュニケーションズが2011年 3月[14]・STNetが2011年3月31日[15]・九州通信ネットワークが2013年12月20日[16]にサービス終了した。0AB-J IP電話を提供していない北海道総合通信網・北陸通信ネットワークが、総務省から割り当てられた市内局番を返上している。
脚注
- ↑ 「INSネット同番移行」の提供拡大について
- ↑ INSネットから加入電話への同番移行の提供拡大等について
- ↑ 加入電話及びISDN契約数
- ↑ “電気通信事業政策部会電話網移行円滑化委員会(第15回)配布資料・議事録” (プレスリリース), 総務省, (2016年5月13日) . 2017-5-6閲覧.
- ↑ “フレッツ 光ライト」の提供開始について” (プレスリリース), NTT東日本, (2011年3月1日) . 2017-5-6閲覧.
- ↑ “ひかり電話」対応ISDN変換アダプタ「Netcommunity(ネットコミュニティ) VG230i」の販売開始について” (プレスリリース), NTT東日本, (2012年5月24日) . 2017-5-6閲覧.
- ↑ “「フレッツ光」提供エリアにおける「フレッツ・ISDN」の新規申込受付終了等について” (プレスリリース), NTT東日本, (2017年11月30日) . 2017閲覧.
- ↑ “「フレッツ光」提供エリアにおける「フレッツ・ISDN」の新規申込受付終了等について” (プレスリリース), NTT西日本, (2017年11月30日) . 2017閲覧.
- ↑ [http://www.ntt-east.co.jp/release/detail/pdf/20171017_01_01.pdf “固定電話のIP網への移行後のサービス 及び移行スケジュールについて”] (プレスリリース), NTT, (2017年10月17日) . 2017閲覧.
- ↑ 北海道総合通信網 沿革
- ↑ 東北インテリジェント通信 会社概要
- ↑ 北陸通信ネットワーク 『アステルPHS電話』および『総合デジタル通信(ISDN)』サービスの終了について
- ↑ 中部テレコミュニケーション総合デジタル通信サービス(ISDN)提供終了のお知らせ
- ↑ エネルギア・コミュニケーションズ 沿革
- ↑ STNet 総合デジタル通信(ISDN)サービスの廃止について
- ↑ 九州通信ネットワーク 沿革