海外需要開拓支援機構
株式会社海外需要開拓支援機構(かいがいじゅようかいたくしえんきこう、英語:Cool Japan Fund Inc.[1])は、株式会社海外需要開拓支援機構法(略称「クール・ジャパン法」)に基づき設立された官民ファンドの登記社名である[1]。一般には「クールジャパン機構」と呼ばれる[1]。
Contents
概要
日本経済の持続的な成長をはかることを目的として、日本における衣・食・住に関わる生活文化の特徴・特色を生かした魅力ある商品・サービスを海外展開することを支援・推進していくため[2]に、2013年(平成25年)11月25日に出資金375億円を集めて設立された。
日本企業の円滑な海外展開を可能とするため、海外事業への投資の呼び水としてリスクマネーを供給することで、漫画やアニメなどのコンテンツ、ファッション、食、伝統工芸品など、「ジャパン・ブランド」の商材やノウハウを、官民一体となって海外に売り込んでいくこととしている。機構の設置期間は、概ね20年間[3]とされている。
活動目標
基本的には民間だけで事業化ができない分野に対しての支援を行うものとし、機構の支援が海外展開意欲を持つ民間事業者に対して、投資の呼び水となることを目指している。
支援内容
- プラットフォーム整備型事業 - 日本の魅力ある商品・サービスが世界戦を勝ち抜き、ブランドを創出し市場での地位を獲得するための販売プラットフォームを構築する。
- 例)商業施設や小売の店舗展開を通じて行う衣食住関連商品等の展開、現地の放送枠の獲得を通じて行うコンテンツの配信事業等。
- サプライチェーン整備型事業 - 川上から川下までの周辺産業が連携し、海外マーケットに日本の高品質な製品・サービスの提供を継続して行い、現地市場での競争力を保ち続けるための流通の幹を構築する
- 例)現地の流通ネットワークをM&Aにより取得し、日本の衣食住関連商品等を流通させる事業等。
- 地域企業等支援型事業 - 上記とのタイアップ等により、地域の魅力を世界へ展開する。これにより地域のものづくりを支え、地域の中堅・中小企業や創造的なクリエイターやデザイナー等の活躍の場を創り、中長期的なクールジャパンの基盤を維持・確立する。
出資
機構には、2013年11月設立時点で官民が合わせて375億円を出資している(内訳は政府が300億円、民間企業が75億円)。
- 主な出資者(2017年3月31日時点、50音順)
- アサツー ディ・ケイ
- ANAホールディングス
- エイチ・ツー・オー リテイリング
- 大垣共立銀行
- 京葉銀行
- ジェイティービー
- J.フロント リテイリング
- 商工組合中央金庫
- 大日本印刷
- 太陽生命保険
- 大和証券グループ本社
- 髙島屋
- 電通
- 凸版印刷
- 博報堂DYグループ
- パソナグループ
- バンダイナムコホールディングス
- フジ・メディア・ホールディングス
- みずほ銀行
- 三井住友銀行
- 三井住友信託銀行
- 三越伊勢丹ホールディングス
- LIXILグループ
- 日本政府(経済産業省)
投資基準
投資にあたっては機構内に設置する「海外需要開拓委員会」が評価を行い、投資決定を判断する。また、経済産業大臣が業務を監督し、事業年度終了毎に、事業評価を行うこととなっている。投資規模は、当初は1件当たり100億円以下の投資を想定している[4]。
機構の投資を受けるにあたっては、下記の基準を満たす事業とされている(詳細は「支援基準」を参照)。
- 出資を受けようとする企業が満たすべき基準(投資基準)
- 政策的意義
- 収益性等の確保
- 波及効果
- 機構が定める事項
- 投資事業全体としての長期収益性の確保
- 目的の範囲内における適切な分散投資
- 民業補完の徹底、民間資金の確保
- 民間のノウハウを最大限活用した運用、ガバナンス確保
- 政府の関係施策等との連携
出資案件
- 発足時には、2013年度内にも最初の出資案件を決める予定[5]としていた。
- 2014年
- 4月[6]
- 東南アジアでのメディア事業等展開 - スカパーJSAT
- 東南アジア(シンガポール等)でのジャパンフードタウン事業展開 - 一般社団法人日本外食ベンチャー海外展開推進協会
- 中華人民共和国(浙江省寧波市)における商業施設展開 - エイチ・ツー・オー リテイリング、杉杉集団有限公司
- 9月25日
- 世界に向けて日本のポップカルチャーの魅力を発信するメディア事業およびEC 事業[7] - トーキョーオタクモード(Tokyo Otaku Mode Inc.)、3年間で15億円
- ベトナムにおけるコールドチェーン整備のための物流事業[8] - 日本ロジテム、川崎汽船、7.35億円相当
- マレーシアにおけるクールジャパン発信の拠点となる商業施設事業(ISETAN The Japan Store)[9] - 三越伊勢丹ホールディングス、9.7億円相当
- 中国(寧波市)におけるジャパン・エンターテイメント型の大規模商業施設事業[10] - エイチ・ツー・オー リテイリング、杉杉集団有限公司、110億円
- 10月30日
- 正規版日本アニメの海外向け動画配信およびEC事業[11] - アニメコンソーシアムジャパン(バンダイナムコホールディングス・アサツー ディ・ケイ・アニプレックスによる新会社)、10億円
- アジア地域におけるジャパン・エンタテインメント・コンテンツの創造・発信事業[12] - MCIPホールディングス(吉本興業・電通・ドワンゴ・ソニー・ミュージックエンタテインメント・滋慶学園・イオンモールによる新会社)、10億円
- 12月8日
- シンガポール(オーチャード地区)におけるジャパンフードタウン事業[13] - 一般社団法人日本外食ベンチャー海外展開推進協会(JAOF)および本事業のサポーターとなる民間企業、7億円
- 世界主要都市(欧米豪)に日本食の魅力を発信する外食事業[14] - 力の源ホールディングス、出資7億円+融資13億円
- 4月[6]
- 2015年
- 2月19日 - ジャパン・コンテンツの海外展開を加速する映像ローカライゼーション事業[15] - イマジカ・ロボット ホールディングス、住友商事、75億円
- 3月4日 - 海外におけるジャパン・チャンネル事業[16] - スカパーJSAT、44億円
- 3月30日 - 海外におけるクリエイター人材育成スクール事業[17] - KADOKAWA Contents Academy、4.5億円
- 4月6日 - 米国における長崎県発「日本茶カフェ」事業[18] - 長崎県の企業を中心とするコ ンソーシアム、2.6億円
- 11月12日 - パリにおける日本各地の地域産品の欧州展開支援事業[19] - SAS ENIS、1億円
- 2016年
- 3月23日 - 瀬戸内地域における観光産業活性化のためのファンド[20] - せとうち観光活性化ファンド、10億円
- 3月25日 - 中東向け日本の「食」・「農」輸出促進支援のためのファンド[21] - Gulf Japan Food Fund、4000万US$
- 4月21日、下記の - 外国人旅行者に対応した民泊仲介サービス事業[22] - 百戦錬磨、3億円
- 6月20日 - 中東における日本の「食」・「小売」の多店舗展開事業[23] - Cipher Investment L.L.C.、3億円
- 9月9日 - 台湾・中国における日系外食企業向け食材加工事業[24] - アトム、3億円
- 12月9日 - 革新的ICT ベンチャーの創出・支援を目指すファンド[25] - グローバル・ブレイン、50億円
- 2017年
- 3月9日 - 「和」の魅力を世界に伝える日本発ファッションブランドの海外事業[26] - フォーティファイブアールピーエムスタジオ、8.2億円
- 4月27日 - 香港における日本の青果物の輸出販売事業[27] - 農業総合研究所、3.66億円
- 4月28日 - アジア広域でのライブホール展開事業[28] - Zeppホールネットワーク、50億円
- 6月15日 - 海外需要開拓を狙うベンチャー企業を支援するファンド[29] - 500 Startups JP, L.P.、11億円
- 10月3日 - ロンドンにおける日本食文化の魅力を発信する飲食・小売事業[30] - Japan Centre Group Ltd.、3百万ポンド
- 12月20日 - ASEANにおける中小外食企業の出店支援事業[31] - G-FACTORY、5億円
- 2018年
- 3月9日 - ミャンマー連邦共和国における地上波放送向けの日本コンテンツ発信事業[32] - 日本国際放送(JIB)、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)、Shwe Than Lwin Media Co.,Ltd.(STLM)、17.5億円
- 3月23日 - 大阪城公園における日本のエンタテインメント発信事業[33] - MBS メディアホールディングス、朝日放送、関西テレビ放送、讀賣テレビ放送、テレビ大阪、エイチ・アイ・エス、JTB、NTTぷらら、KADOKAWA、滋慶、電通、UFI FUTECH、吉本興業、12億円
- 5月8日 - ヘルスケア・先端テクノロジー分野を中心に世界で活躍できるベンチャー企業の創出・育成を目指すファンド[34] - みやこ京大イノベーション投資事業有限責任組合、10億円
- 8月3日 - 海外展開を目指す日本の映像コンテンツ制作を支援するファンドを設立[35] - NTTぷらら、YDクリ エイション、文藝春秋、イオンエンターテイメント、51.5億円
業務提携先
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)[36]
- 放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)[37]
- 日本政府観光局(JNTO)[38]
- 九州経済連合会[39]
- 四国経済連合会[40]
- 北海道[41]
- 鳥取県[42]
クールジャパン推進に関する政策評価
2018年5月18日、総務省行政評価局はクールジャパンの推進に関する政策について、「クールジャパン推進に関する政策は、相当程度進展」との全体評価をした上で、一部の施策に対し改善のための勧告を行った。クールジャパン機構への出資については「案件ごとに5年から10年程度の投資期間が想定されていることから、引き続き効果の発現状況を注視」とした[43]。
不祥事
2018年2月13日、元派遣社員の20代女性が、幹部らからセクハラを受けたとして、機構と男性幹部、派遣会社など3人に対し、計2000万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたと報じられた。クールジャパン機構は「これまで法律事務所の支援の下、関係法令・社内規定等に基づき、適切に対応するとともに、元派遣職員本人と誠実に対話するための機会を設け、話し合いを続けて参りましたが、訴訟提起がなされたとすれば、誠に残念であります。 今後の対応は、訴状を受領次第、検討することとなりますが、引き続き、適切に対応して参ります」との声明を公表した[44][45]。
訴状によると、原告女性は、15年7月、社内歓迎会の帰りに、幹部から肩に手を回されたり、手を握ろうとされたりした。16年7月には、女性社員4人を指名し開いたカラオケ店での親睦会で、役員は女性社員にあらかじめ用意していた手作りのくじを引かせた。女性が引いたくじには、機構幹部との「映画鑑賞」や「博覧会」と書かれており、他にも「あたり 監査役とのワインディナー」「ハズレ 罰ゲーム 監査役に手作りプレゼント」と書かれたくじもあった。幹部は親睦会の翌日に秘書に女性がどのくじを引いたのか聴取させ、秘書に「店などが必要なら予約をするように」と命じた。女性は17年、セクハラ被害を訴え同僚と共に労働組合を結成。機構側にセクハラ防止を求めて、団体交渉の申し入れをしたが、同年10月下旬に派遣会社を通じて11月からの出勤停止が通知された。女性はそれまで19回にわたって1〜3か月ごとに派遣契約を更新してきたが、11月末を最後に更新されなかった。女性側は、契約更新を拒否されたのは、労働組合での活動を理由にしたもので、不当労働行為にあたるとも主張している。[46]
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 会社概要(クールジャパン機構)
- ↑ クール・ジャパン推進機構(仮称)(株式会社海外需要開拓支援機構)について経済産業省(平成25年6月)
- ↑ クールジャパン機構の活動の基本方針 経済産業省ホームページ(平成25年12月) P3
- ↑ クールジャパン機構社長インタビュー ロイター通信 2013年11月25日配信記事
- ↑ クールジャパン推進機構が発足 日本の文化を輸出 産経新聞 2013年11月25日付配信記事
- ↑ 事業支援に関する基本合意等のお知らせ 2014年4月24日付プレスリリース
- ↑ 世界に向けて日本のポップカルチャーの魅力を発信するメディア事業およびEC 事業へ出資 2014年4月25日付プレスリリース
- ↑ ベトナムにおけるコールドチェーン整備のための物流事業へ出資 2014年9月25日付プレスリリース
- ↑ マレーシアにおけるクールジャパン発信の拠点となる商業施設事業へ出資 2014年9月25日付プレスリリース
- ↑ 中国(寧波市)におけるジャパン・エンターテイメント型の大規模商業施設事業へ出資 2014年9月25日付プレスリリース
- ↑ 正規版日本アニメの海外向け動画配信および EC 事業へ出資 2014年10月30日付プレスリリース
- ↑ アジア地域におけるジャパン・エンタテインメント・コンテンツの 創造・発信事業へ出資 2014年10月30日付プレスリリース
- ↑ シンガポールにおけるジャパンフードタウン事業へ出資 2014年12月8日付プレスリリース
- ↑ 世界主要都市(欧米豪)に日本食の魅力を発信する外食事業へ出資 2014年12月8日付プレスリリース
- ↑ ジャパン・コンテンツの海外展開を加速する映像ローカライゼーション事業へ出資 2015年2月19日付プレスリリース
- ↑ 海外におけるジャパン・チャンネル事業へ出資 2015年3月14日付プレスリリース
- ↑ 海外におけるクリエイター人材育成スクール事業へ出資 2015年3月30日付プレスリリース
- ↑ 米国における長崎県発「日本茶カフェ」事業へ出資 2015年4月6日付プレスリリース
- ↑ パリにおける日本各地の地域産品の欧州展開支援事業へ出資 2015年11月12日付プレスリリース
- ↑ 瀬戸内地域における観光産業活性化のためのファンドへ LP 出資 2016年3月23日付プレスリリース
- ↑ 中東向け日本の「食」・「農」輸出促進支援のためのファンドへLP出資 2016年3月25日付プレスリリース
- ↑ 訪日外国人旅行者に対応した民泊仲介サービス事業へ出資 2016年4月21日付プレスリリース
- ↑ 中東における日本の「食」・「小売」の多店舗展開事業へ出資 2016年6月20日付プレスリリース
- ↑ 台湾・中国における日系外食企業向け食材加工事業へ出資 2016年9月9日付プレスリリース
- ↑ 革新的ICT ベンチャーの創出・支援を目指すファンドへLP 出資 2016年12月9日付プレスリリース
- ↑ 「和」の魅力を世界に伝える日本発ファッションブランドの海外事業に出資 2017年3月9日付プレスリリース
- ↑ 香港における日本の青果物の輸出販売事業へ出資 2017年4月27日付プレスリリース
- ↑ アジア広域でのライブホール展開事業に出資 2017年4月28日付プレスリリース
- ↑ 海外需要開拓を狙うベンチャー企業を支援するファンドへLP 出資 2017年6月15日付プレスリリース
- ↑ ロンドンにおける日本食文化の魅力を発信する飲食・小売事業へ出資 2017年10月3日付プレスリリース
- ↑ ASEAN における中小外食企業の出店支援事業へ出資 2017年12月20日付プレスリリース
- ↑ ミャンマー連邦共和国における地上波放送向けの日本コンテンツ発信事業へ出資 2018年3月9日付プレスリリース
- ↑ 大阪城公園における日本のエンタテインメント発信事業へ出資 2018年3月23日付プレスリリース
- ↑ ヘルスケア・先端テクノロジー分野を中心に世界で活躍できるベンチャー企業の創出・育成を目指すファンドへLP出資 2018年5月8日付プレスリリース
- ↑ 海外展開を目指す日本の映像コンテンツ制作を支援するファンドを設立2018年8月3日付プレスリリース
- ↑ 日本貿易振興機構と海外需要開拓支援機構との業務連携について 2014年3月13日記者発表資料
- ↑ 放送コンテンツ海外展開促進機構と海外需要開拓支援機構との業務連携について 2014年3月24日記者発表資料
- ↑ 日本政府観光局(JNTO)とクールジャパン機構との業務連携について 2014年9月5日記者発表資料
- ↑ 九州経済連合会とクールジャパン機構との業務連携について 2014年10月8日記者発表資料
- ↑ 四国経済連合会と海外需要開拓支援機構との業務連携について 2016年5月31日記者発表資料
- ↑ 北海道とクールジャパン機構との業務連携について 2015年1月28日記者発表資料
- ↑ 鳥取県とクールジャパン機構との業務連携について 2016年3月25日記者発表
- ↑ 総務省クールジャパンの推進に関する政策評価 2018年5月18日
- ↑ “くじ引くと「幹部と映画へ」…元派遣社員がセクハラ提訴”. 毎日新聞. 朝日新聞社 (2018年2月16日). . 2018閲覧.
- ↑ 一部報道について 2018年2月15日付
- ↑ クールジャパン機構・セクハラ訴訟初弁論、原告女性「被害者に寄り添っていない」と訴え2018年4月18日
関連項目
外部リンク
- 株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)
- 株式会社海外需要開拓支援機構法(平成25年法律第51号)
- 同法23条に定める「支援基準」
- クールジャパン機構の活動の基本方針経済産業省ホームページ(平成25年12月)(英語版)
- クール・ジャパン法 〜日本の魅力をビジネスへ〜 - 経産省が2013年7月5日に公開したPR動画。若手官僚手作りのエヴァンゲリオン風動画。