株式公開

提供: miniwiki
2018/6/11/ (月) 19:25時点におけるja>Asadoukiによる版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先:案内検索

株式公開(かぶしきこうかい)とは、未上場会社の株式証券市場(株式市場)において売買可能にすること。株式を(公募売出しによって)新規に公開することから新規公開、IPO (initial public offering) とも呼ばれる。

日本においては、かつて、証券取引所上場する方法と、日本証券業協会の登録銘柄となる方法(店頭登録)とがあったが、後者の制度が廃止されてジャスダックに移行したため、現在では、前者の方法のみが存在する。

公開のメリットとデメリット

株式の公開により、会社企業)は証券市場における機動的な資金調達(直接金融)による事業資金の調達が可能になり、既存株主にとっては株式の市場売却によって投下資本の回収が容易になるなどの利点がある。また、上場によって企業の知名度や相対的な信用度のアップが図れ、事業の展開の円滑化や、優秀な人材の確保がしやすくなるなど副次的な利点も多くあげられる。さらに、市場の厳しい評価にさらされ、投資家への説明責任を求められることから事業の改革を通じた競争力の強化や、環境問題企業の社会的責任(CSR)などへの積極的な取り組みにつながるなどのメリットがあると考えられている。

反面、会社の株式の価値を日々、市場投資家が判断することから、経営者が株主価値の向上について、どの程度の力量・資質なのか資本の論理から厳しく問われることになる。また、どのような人物であっても資金さえあれば株式を取得できることから、経営陣にとって友好的でない株主による敵対的買収などの可能性がある。しかし、これらのデメリットについては株主と経営者との間に緊張関係が保たれることや、株主価値向上のための経営が志向されるようになることから一概に否定的に論じるべきではないとの意見もある。また株主代表訴訟金融商品取引法等で法的責任を負うことや取締役の解任などで役員の地位が極めて不安定なものになるおそれがあるリスクがある。また会計をガラス張りにしなければならないこと等から節税蓄財等がしにくくなることから同族企業の多くは一部を除き株式を公開していない。

長く非公開だった大塚製薬出光興産コーセーなども株式公開し、ある程度知名度のある企業は、ほとんど全部が公開企業となっている。結果的に、メディア系企業に非公開会社が多い。いわゆる大手出版社のうちKADOKAWAグループ以外はすべて非公開である。

なお日本の電波法放送法航空法金融商品取引法およびNTT法の規定において、放送・通信事業者の一部、証券市場開設者と航空会社には、外国人の出資比率が一定以下に制限(外資規制)されている企業がある(NTT(通信)、スカパーJSATホールディングス(通信衛星)、各テレビ局、大阪証券取引所全日本空輸など)。

IPOディスカウント

新規公開企業については財務諸表や株主構成の確認に十分な留意が必要であることや、過去に売買されていた他社銘柄と比較して時系列のデータ及び株価などの指数情報が不足していることから、同業他社と比較して公募価格が低く設定されることが一般的であり、上場後一定期間を経て同業他社並みの評価を得るようになる傾向が見られる。こうした株価形成のあり方をIPOディスカウントと称し、不透明な情報に関するリスクを株価に織り込むマーケットメカニズムの一端といえる。IPOディスカウントは一般的に主幹事がリテール向けサービスの一環として割安な価格で配分する狙いがある。このディスカウントの影響から、個人投資家をはじめとする一般投資家の間では、IPO銘柄を投資における「プラチナチケット」とする見解もある[1][2][3]

日本における株式市場の特色

日本の株式市場は大まかに、売買値付率の良い優良企業を多数有する東証一部銘柄、堅実な中堅〜中小規模の企業が多く所属する地方・二部銘柄、地方銘柄(札証、福証への単独上場銘柄)、実績に乏しい半面、資金投下と事業状況によっては将来性に希望が持てる新興市場銘柄、特定投資家(いわゆるプロ)向け市場(TOKYO PRO Market)に分けられる。

これら国内証券取引所上場会社数は約4000社に上る反面、実際に日々売買されている銘柄はその1割から2割程度に留まっている(証券会社のアナリスト継続ウォッチ銘柄は、会社によって異なるが300~400社程度である)。これは日本の証券市場が、厳しい上場審査を課して上場を規制する反面、上場維持については特に厳しい規制は無いものの上場廃止になる場合が会社の倒産や吸収合併粉飾決算などの特異なケースに限られており、市場からの退出も少ないという新陳代謝の起こりにくい構造上の問題があるためである。この点については、J-SOX法規制の法制化に伴い上場維持コストが高くなるため、積極的に自主的上場廃止(ゴーイング・プライベート)を選択する動きも見られるようになり、事態は流動的といえる。

また、かつてはジャスダックが正式な証券取引所でなかったため、店頭登録から数年内に東証等への移籍上場を目指す会社が多く見られたが、ジャスダックが証券取引所化されたことから敢えて東証を目指すのではなくジャスダック市場の優良銘柄として留まる例も多く見られるようになっている。こうした動きに対してジャスダック証券取引所も「J-ストック銘柄」と称する優良銘柄を選定する制度を整備している。

なお、日本の証券市場も資本の国際化に伴い、提携買収の動きが出てきており、東証がニューヨーク証券取引所との提携を行っている。

株式公開前準備

日本の株式公開は、資本政策の策定、社内体制の整備および申請書類の作成など、おおよそ3年以上を要する準備作業が必要になる。主な業務としては、

  1. 監査法人の決定
  2. 会計制度の整備
  3. 内部監査体制の確立
  4. 社内体制の整備
  5. グループ会社の整備
  6. 上場申請書類の作成
  7. 有価証券届出書目論見書の作成
  8. 元引受証券会社の決定
  9. 資本政策の立案

等がある。

内部監査体制の確立

株式公開にあたって、監査法人または公認会計士による監査、監査役による監査、そして内部監査組織による監査の3つを実施する必要がある。内部監査とは、内部統制と共に重要な構成要素で、「内部監査室」との名称を使う場合もある。内部監査は、株式公開審査において運用実績が求められる事項で、公開前1年間前後の運用実績が審査対象となる。「内部監査室」は各部門との独立性が強く求められ、社長直属の部署として設置される場合もあり、社長室や経営企画室にその機能を持たせるケースもみられる。一般的な監査項目として下記表のような項目がある。

一般的な監査項目
販売監査 購買監査 生産監査 在庫監査 組織・人事・労務監査 経理監査 関連会社監査

内部監査のサイクルとしては、

  1. 監査計画の立案、監査計画書の作成
  2. 監査を実施、監査調書を作成
  3. 実施結果に関して、実施部門への報告会
  4. 報告書を作成し社長へ提出
  5. 監査実施部門に対して、改善勧告
  6. 改善内容の確認

となっている。改善が実施されていない場合は、1.に戻り重点的に監査計画を立案し、また新たな課題を加味するサイクルとなっている。

社内体制の整備

社内体制の整備とは、同族会社や少数株主の場合、社長がほとんどの決定権を有する場合もあるが、株式公開後は「取締役会」、「株主総会」の決議を得て決定する必要がある。つまり「出資したお金が有効かつ効率的に運用されているか」が重要となる。株式公開後は不特定多数の株主が参入することになり、利益情報をはじめ公表された情報を基に意思決定を行うため、「出資した資金を有効かつ効率的に運用できる組織」に整備する必要がある。社内整備としては主に3点。

  1. 組織体制の整備
  2. 管理体制の整備
  3. 意思決定機構の整備

株主公開に際しては、組織的、経営管理がおこわれるのに必要十分な組織体制かどうかが問われるので整備が必要となる。株式公開に関しては、組織体制が十分という企業も一部あるものの、組織変更が必要な企業が大半である。一人の人間にあまりに多くの権限を与えると、不正や誤謬を未然に防止出来にくい危険性がある。そこで、組織を「分業化」する事で、職務内容や事業内容ごとに分散化し、職務内容も明確にすると、専門性も高まる。また責任の所在も明確になる。分業化の次には「職務分掌の決定」と「職務権限の付与」となる。「職務分掌の決定」は、社内にある部や課といった単位での業務範囲を明確にすることであり、「職務権限の付与」とは、そのような部や課単位で、効率的に業務を遂行できるように権限を委譲する事を指し、それが明文化されているかどうかが重要となる。

その他に社内体制の整備の重要なポイントとして、「職務の兼任はなるべく避ける」「職務内容に応じて適正な人員配置を目指す」「社長に過度な権限が集中していない」「入り組んだ組織や権限は簡素にする」が重要となる。

また社内体制の一環として内部統制がある。内部統制とは、不正や誤りを早期に発見する以外にも、外部に対してもそのような危険がないという事を示す仕組みを指す。主な内部統制とは、

  1. 適正な財務諸表の作成
  2. 法令順守
  3. 資産保全
  4. 事業活動の効率的な遂行

を達成するために不可欠な機能となる。内部統制とは、「内部牽制機能」の事で、機能別に分担された各業務が相互にチェック仕合い、それによって、不正や誤りを早期発見、防止する事が出来る。

また株式公開の審査において、社内規程の内容とその運用状態がきちんと経済活動として関連されているかチェックの対象となる。社内規程は「会社の業務が個々の人の行動から離れ、組織的に運営されるために必要不可欠なルールが明文化したもの」であるため、社内規程において、業務内容がもれなく規定されているかどうかが審査対象となる。

一般的な社内規程
1.基本規程 2.組織規程 3.人事労務規程 4.管理業務規程 5.その他の規程
定款,取締役会規程,監査役会規程,監査役監査規程,株式取扱規程,規定管理規程 組織規程,組織図,業務分掌規程,稟議規程 就業規則,人事考課規程,給与規程,退職金規程,退職年金規程,役員退職慰労金規程,パートタイム等就業規則,安全管理規程,育児休業規程,旅費規程,慶弔見舞金規程,従業員貸付金規程,社宅等管理規程,出向規程 経理規程,原価計算規程,販売管理規程,棚卸資産管理規程,固定資産管理規程,有価証券等運用規程,予算管理規程,外注管理規程,関係会社管理規程,内部監査規程,品質管理規程 インサイダー情報管理規程,印章管理規程,文章管理規程,車両管理規程,防火管理規程

これら社内規程は、株式公開申請書類の添付資料として提出が要求される。審査の主なポイントは、

  1. 申請会社の実態に応じて作成され、有効に運用されているか
  2. 内部統制が有効に働いているか
  3. 他の規程と整合性があるか
  4. 事務フローチャートと整合性があるか

となっている。

申請書類等の作成

株式公開する申請時には、大量の書類の提出が必要となる。昨今はディスクロージャーの範囲や内容が格段と広がっているので、準備には十分備えておく必要がある。実際の書類申請時には、主幹事証券会社やディスクロージャー印刷専門会社が、書類の書き方や申告漏れを防止するなどのサポート業務を行う。株式公開申請書類は、一般的には下記の2つを指す。

  • 上場申請のための有価証券報告書 Ⅰの部
  • 上場申請のための有価証券報告書 Ⅱの部

Ⅰの部とは、有価証券報告書と比較的に類似した内容と、株式公開に関する内容から構成されている。Ⅱの部とは、Ⅰの部と比べ文章で説明する事が多く求められる。Ⅰの部やⅡの部、その根拠となる資料、会計計算書、法人税申告書などの資料との整合性に配慮を払って作成する必要がある。また審査機関に提出する書類には、

  1. 所定の事項がもれなく記載され、記載事項はすべて真実である
  2. 1.について重大な違反事実が判明した場合には、取引所が行う一切の措置に異議はないこと

という誓約書を提出する。2.の「取引所が行う一切の措置」とは、上場廃止も含まれている。上場申請書類は、概ね3回程度、改稿する必要がある。第1次原稿は、例えば会社の沿革は総務部で、経理の状態は経理部で記載する等、各部門で分担し作成していく。第2次原稿は、第1次原稿を基に更に各記載項目について、詳細に書き込んでいく必要がある。事業の内容を深く理解することで、上場審査質問事項の回答書作成に適切、且つ短時間で返答する事が出来る。第3次原稿は、証券会社、監査法人、ディスクロージャー印刷専門会社等の専門家によるアドバイスをうけて、更に内容を詰め申請書類を仕上げていく。作業量的には、Ⅰの部の書類作成には2カ月、Ⅱの部は3カ月だが、根拠となる調査や情報収集も含めると、Ⅰの部には6カ月、Ⅱの部は1年間程度必要となる場合がある。

Ⅰの部

Ⅰの部は、「企業内容等の開示に関する内閣命令」第8条第2項の規定よる第二号形式に従って作成する必要がある。数値による開示部分が多いため、決算数値確定後、集中的に処理する事になる。Ⅰの部は4部構成となっている。

Ⅰの部記載事項
部項目名 項目名
第一部 証券情報 事業の概況等に関する特別記載事項
第二部 企業情報 第一 企業の概況
第二 事業の状況
第三 設備の状況
第四 提出会社の状況
第五 経理の状況
第六 提出会社の株式事務の概要
第七 提出会社の参考情報
第三部 特別情報 提出会社及び連結子会社の最近の財務諸表
第四部 株式公開情報 第一 特別利害関係者などの株式移動状況
第二 第三者割当等の株式などの発行の内容
第三 株主の状況
Ⅱの部

Ⅱの部は、会社内容を詳細に記載した説明書と言われている。Ⅱの部は、Ⅰの部に比べると全般的で詳細な記載が必要となり、Ⅱの部は上場する各証券取引所が定める記載要領に従って記載する。上場審査は、Ⅱの部を中心に行われ、Ⅱの部の内容いかんでは上場審査にかかる審査期間に変化がある。

ジャスダック Ⅱの部における主な記載項目
部項目名 項目名
上場申請のための報告書1 1.上場申請に当たっての申請会社代表者の考え方
2.上場準備の過程
上場申請のための報告書2 1.会社の沿革
2.役員等資本的関係者及び大株主等
3.労務の状況
4.事務の組織及び運営
5.経理の状況
6.人的・資本的関係会社等
7.その他
上場申請のための報告書3 1.事業の内容
2.事業及び製・商品等の特徴
3.申請会社グループが属する業界について
4.申請会社グループの外部環境及び内部環境に関する分析(SWOT分析)
5.全社戦略
6.主要セグメント別の戦略
7.業績の推移
8.今後2年間の利益計画
9.申請期における利益計画の進捗状況
10.セグメント別の設備投資計画と経営戦略の関連
11.資金計画

IPOバブル

日本の株式市場が好転しはじめた2003年頃から、新規公開銘柄の初値が軒並み公開価格を上回る状態となった。中には初値が公開価格の数倍となる銘柄まで出現した。このため、一部雑誌などが「ノーリスク・ハイリターン」「宝くじより確実」など株式市場の常識を逸脱する記事を組み、初心者を煽り立てて新規公開銘柄に多くの投資家が群がる異常事態となった。この時期にIPOが簡単に当選するなどと謳い文句にヤフーオークションを利用して個人が高額の攻略本を30万円近くで販売する情報商材詐欺などが横行した。


大型上場

上場規模が大きかったり、知名度が高い大企業が上場することを大型上場と呼ぶことがある

上場ゴール

株を保有している経営陣が創業者利得を得ることが目的のように見える上場など、本来の目的とは違ったように思われる上場のことを「上場ゴール」と呼ぶことがある[5]

脚注

参考文献

  • 野海英『株式上場準備マニュアル』すばる舎、2008年5月、16-225頁。

関連項目

外部リンク