証券取引等監視委員会

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証券取引等監視委員会(しょうけんとりひきとうかんしいいんかい、英語:Securities and Exchange Surveillance Commission、SESCまたはSEC)は、1992年に証券取引や金融先物取引等の公正を確保する目的で大蔵省に設置され、現在は金融庁に属する審議会等の一つ。

内閣総理大臣及び金融庁長官から委任された権限により市場分析審査、証券モニタリング、取引調査、開示検査を行い、また犯則事件の調査が必要なときは、金商法又は犯収法に基づき、質問、検査、領置といった任意調査を行うほか、裁判官の発する許可状による臨検、捜索及び差押え等の強制調査を行うこともできる。

現委員長は元広島高等検察庁検事長の長谷川充弘(2016年10月に就任)。

概要

組織法上は、内閣府設置法第54条及び金融庁設置法第6条に基づく合議制の機関。

設立当初は国家行政組織法第8条、中央省庁再編後は内閣府設置法第54条に規定する「審議会等」の位置付けである(金融庁設置法第6条第1項)。上位機関の金融庁は内閣府の外局であるが、この審議会は外局たる委員会(公正取引委員会など)に比べ所管庁からの独立性が弱いと言われており、その理由は委員会が国家行政組織法あるいは内閣府設置法49条の「外局たる委員会」ではないからであるとされている。

任務及び権限

証券監視委が行う監視事務は、市場分析審査、証券モニタリング、取引調査、開示検査及び犯則事件の調査の5つに分かれる。具体的には次のような事務を掌っている。

また、無登録での営業や無届での投資家募集、虚偽告知などの不法行為について、裁判所に禁止命令の請求や犯則事件の告発を行う。

米国の証券取引委員会との比較

営業禁止等の裁判所命令を
請求した件数[1]

無登録営業 
無届募集 
虚偽告知 


2010年度 2



2011年度 3



2012年度 1



2013年度 2



2014年度 6



2015年度 3



2016年度 1



2017年度 2



アメリカ合衆国の証券取引などの監視機関である証券取引委員会ecurities and Exchange Commission、SEC)に比べて捜査権が無いということはなく、実際は金融商品取引法第211条において強制調査権が与えられている。

ただし人員数が少ない、規則制定権が無い(金融庁が有する)、などの点は検討の余地があると指摘されており、特に2005年のジェイコム株大量誤発注事件ライブドア事件以降は、組織や倫理性の強化が唱えられている[2]

沿革

  • 1992年(平成4年) - 7月、国家行政組織法第8条及び大蔵省設置法第7条に基づき大蔵省に置かれる合議制の機関(八条委員会)として大蔵省に発足。
  • 1998年(平成10年) - 6月、金融監督庁の発足により、金融監督庁の審議会等となる。12月、金融監督庁と共に金融再生委員会に移管。
  • 2000年(平成12年) - 7月、大蔵省金融企画局の事務が金融監督庁に移管し、さらに金融監督庁の金融庁への改組により、金融庁の審議会等となる。
  • 2001年(平成13年) - 1月、中央省庁再編により金融再生委員会が廃止され、内閣府の外局として設置された金融庁の中の審議会等となる。

組織

犯則事件の告発件数[1]
1993年度1

1994年度3

1995年度2

1996年度2

1997年度9

1998年度6

1999年度7

2000年度5

2001年度4

2002年度13

2003年度8

2004年度12

2005年度11

2006年度10

2007年度12

2008年度12

2009年度17

2010年度8

2011年度15

2012年度7

2013年度3

2014年度6

2015年度8

2016年度7

2017年度4

証券取引等監視委員会の事務を処理させるために、証券取引等監視委員会事務局が置かれている。

  • 事務局長
  • 次長(2)
  • 市場監視総括官
    • 総務課
    • 市場分析審査課
    • 証券検査課
    • 証券検査監理官
    • 取引調査課
    • 開示検査課
    • 特別調査課

幹部職員

証券取引等監視委員会事務局の幹部は以下のとおりである[3]

日本証券業協会との関係

国内の全ての証券会社および登録金融機関が加盟する日本証券業協会特別の法律により設立される法人)は1992年の証券取引法改正により、委員会とほぼ同時に発足した自主規制団体であり、国内の有価証券市場における金融機関の円滑かつ公正な取引と投資者の保護を目的としている[5]

委員会と日本証券業協会との間では定期的又は随時に緊密な情報交換が行われている。委員会は内閣総理大臣金融庁長官又は財務大臣に対し必要施策を建議する権利に基づき、同協会の規則改良や個別金融会社への勧告を行っている(アナリスト・レポートの取扱い方法の改善やインサイダー防止施策の強化など)[6]

2004年には他の金融取引自主規制機関(大阪証券取引所など)の中にも未だ企業コンプライアンスの不徹底が伺えることを報告した[6]

人事問題

2016年には、証券取引等監視委員会の委員の1人に大和証券SMBC事業調査部長で大和総研専務理事であった引頭麻実が就任しており、金融会社を規制する側の委員としての利益相反の状態が生じた(10月25日衆議院、10月21日参議院、承認)。

さらに2017年になると日本証券業協会会長大和証券グループ本社会長の鈴木茂晴が就任し(7月1日、同協会理事会の推薦と総会選挙により就任[7][8])、民間自主規制団体とそれを規制する委員会に、同じ大和証券の人物が着任した状態となっている。

さらに2017年6月、退任した元委員の園マリが野村ホールディングス社外取締役に就任するという、これもまた利益相反的な状態が生じた[9]。このような人事は軽率であるとの批判に関しては、野村側が同委員の「社外取締役としての独立性には疑義はない」と表明したに留まっており、「証券取引等監視委員会委員としての独立性」については公式な見解が伺えない[10]

歴代委員長・委員

委員長及び委員は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣(大蔵省のときは大蔵大臣)が任命する[11]

衆議院
承認日
参議院
承認日
役職 氏名 職歴・所属等
1 1992年
6月18日
[法 1]
1992年
6月19日
[法 1]
委員長 水原敏博 東京地方検察庁検事、世界保健機関総会政府代表代理、法務総合研究所部長、法務大臣官房審議官最高検察庁検事、大阪高等検察庁検事長。(後職)水原法律事務所弁護士
委員 成田正路 (前職)総理府選挙制度審議会委員、日本放送協会考査室長。(後職)日本たばこ産業監査役、信金中央金庫監事
委員 三原英孝 (前職)会計検査院事務総長[12]
2 1995年
5月26日
[法 1]
1995年
5月31日
[法 1]
委員長 水原敏博 -
委員 佐藤ギン子 -
委員 成田正路 -
3 1998年
6月10日
[法 2]
1998年
6月10日
[法 2]
委員長 佐藤ギン子 (前職)労働大臣官房総務審議官、駐ケニア特命全権大使。(後職)女性労働協会会長、銀行等保有株式取得機構運営委員、国際教育振興会理事、日立製作所取締役、東京大学女子卒業生同窓会さつき会会員、日本放送協会情報公開・個人情報保護審議委員会委員。夫は日本ガス機器検査協会理事長佐藤満秋
委員 川岸近衛 一橋大学卒業、読売新聞論説副委員長、三菱自動車企業倫理委員会委員[13]
委員 高橋武生 -
4 2001年
6月5日
[法 3]
2001年
6月6日
[法 3]
委員長 高橋武生  -
委員 川岸近衛 -
委員 野田晃子 -
5 2004年
6月8日
[法 3]
2004年
6月11日
[法 3]
委員長 高橋武生  東京地方検察庁検事正、福岡高等検察庁検事長[14]
委員 水城武彦 経済ジャーナリスト。NHK記者、解説委員
委員 野田晃子 (前職)監査法人中央会計事務所代表、日本公認会計士協会会計制度委員会副委員長、公認会計士第2次試験試験委員、中央青山監査法人。(後職)中越パルプ工業監査役、レナウン監査役、東芝社外取締役
6 2007年
6月19日
[法 3]
2007年
6月20日
[法 3]
委員長 佐渡賢一  福岡高等検察庁検事長。東京地検特捜部同副部長
委員 福田眞也 等松・青木監査法人公認会計士、日本公認会計士協会常務理事。(後職)公認会計士福田眞也事務所、世紀東急工業取締役
委員 熊野祥三 (前職)野村証券取締役、野村ホールディングス取締役[15]
7 2010年
12月3日
[法 3]
2010年
12月3日
[法 3]
委員長 佐渡賢一 -
委員 福田眞也 -
委員 吉田正之 長島・大野・常松法律事務所弁護士
8 2013年
11月8日
[法 3]
2013年
11月8日
[法 3]
委員長 佐渡賢一  -
委員 吉田正之 -
委員 園マリ (前職)新日本有限責任監査法人公認会計士。(後職)野村ホールディングス取締役
9 2016年
10月25日
[法 3]
2016年
10月21日
[法 3]
委員長 長谷川充弘  法務省大臣官房会計課長、最高検察庁検事、広島高等検察庁検事長
委員 浜田康 あずさ監査法人理事、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授
委員 引頭麻実 大和証券SMBC事業調査部長、大和総研専務理事

脚注

出典
  1. 1.0 1.1 「裁判所への申立て実施状況」、証券取引等監視委員会『平成29年度版 証券取引等監視委員会の活動状況』。p.p.145。
  2. 井上光太郎加藤英明 (2006年11月9日) 『M&Aと株価』. 東洋経済新報社. 
  3. 金融庁幹部名簿(平成30年8月1日現在) 金融庁
  4. 金融行政動向『金融庁人事、異例の全局長留任』。2017年7月。
  5. “国債各銘柄の実勢金利はどのように算出するのですか”. 財務省. (2004年7月16日). オリジナル2018年7月29日時点によるアーカイブ。. http://archive.is/EUjbl. "日本証券業協会が公表する公社債店頭売買参考統計値(平均値単価)を用いて各銘柄の実勢金利(半年複利金利)を算出します。なお、平成14年7月以前については…" 
  6. 6.0 6.1 証券取引等監視委員会委員長高橋武生 (2004年8月27日). “証券取引等監視委員会の事務の処理状況の公表について”. 官報平成16年9月1日号外第193号 (国立印刷局). "日本証券業協会の「アナリスト・レポートの取扱い等について」(理事会決議)「13 対象会社に対する事前通知の禁止」では、「会員は、アナリスト・レポートの対象会社に対し、発表前のアナリスト・レポートを通知してはならない。」としてこの行為が禁止されている。(しかしながら会員が)発表前に、アナリスト・レポートの対象会社に対して、格付け、目標株価及び投資ハイライトの3項目を削除した抜粋レポートを送付し、事実関係に誤りがないかの確認を行っていたが、この3項目以外の部分について社内審査を行わず、事実関係の他、アナリストの個人的見解が記載された抜粋レポートを対象会社に送付していた。" 
  7. 大和証券グループ本社 (2017年1月30日). “大和証券グループ 役員人事について”. 大和証券グループ本社. http://www.daiwa-grp.jp/data/attach/2056_12_20170130b.pdf 
  8. 日本証券業協会 (2017年3月14日). “本協会の次期会長候補者の推薦について”. 日本証券業協会. http://www.jsda.or.jp/shinchaku/20170314/index.html 
  9. “証券取引等監視委から「招聘」 野村HDの社外取締役に批判噴出”. 選択. (2018年7月1日). https://www.sentaku.co.jp/articles/view/17013 
  10. “ISSレポートに対する当社の見解について”. 野村ホールディングス. (2017年6月2日). https://www.sentaku.co.jp/articles/view/17013 
  11. 大蔵省設置法第11条第1項、金融監督庁設置法第10条第1項、金融庁設置法第12条第1項
  12. “三原英孝氏が死去 元会計検査院事務総長”. 日本経済新聞. (2018年5月17日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30641320X10C18A5CZ8000/ 
  13. “三菱自動車「企業倫理委員会」について”. 三菱自動車. (2004年7月16日). https://www.mitsubishi-motors.com/jp/corporate/pressrelease/corporate/detail1091.html 
  14. “高橋武生氏が死去 元証券取引等監視委員会委員長”. 日本経済新聞. (2013年2月28日). https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2801Q_Y3A220C1CC0000/ 
  15. “熊野祥三氏が死去 SBI証券取締役”. 日本経済新聞. (2015年1月7日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07HAJ_X00C15A1CZ8000/ 
参考法令
  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 大蔵省設置法第11条第1項。
  2. 2.0 2.1 金融監督庁設置法第10条第1項。
  3. 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 金融庁設置法第12条第1項。

関連項目

外部リンク