地方隊

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地方隊(ちほうたい)とは、海上自衛隊に属する防衛大臣直轄の部隊であり、主として担当の警備区域[1]の防衛・警備及び自衛艦隊等の後方支援にあたっている部隊である。旧海軍鎮守府陸上自衛隊方面隊に相当する。

の5つが置かれている[2]

概説

沿革

日本の領海を5つ程度の海軍区に区分して、各々に海軍の拠点(鎮守府)を置く考えは1886年制定の海軍条例に端を発している。同条例では現在の地方総監部と同じ位置に鎮守府が置かれるものとされていた(但し大湊ではなく室蘭であった[3])。

  • 1952年(昭和27年)8月1日:保安庁が創設され海上警備隊警備隊に改編されたのと同時に横須賀及び舞鶴にそれぞれ地方隊が新編された。
  • 1953年(昭和28年)9月16日:佐世保及び大湊に新たに地方隊が新編された。
  • 1954年(昭和29年)7月1日:防衛庁が創設され海上自衛隊が発足されたのと同時にに地方隊が新編された。
  • 2008年(平成20年)3月26日:海上自衛隊体制移行による部隊再編。
    • 地方隊隷下の護衛隊は護衛艦隊隷下に編成替え。
    • 大村・大湊・小松島航空隊は廃止され、所属機は第21航空群第22航空群等に編入された。
    • 護衛艦隊司令官と航空集団司令官がフォースプロバイダー(練度管理責任者)として平時の練度管理を一元的に行い、地方総監は2桁番号の護衛隊のフォースユーザー(事態対処責任者)として有事などに事態対処を行うことになった。

任務

  • 担当警備区域における防衛・警備等
    • 防衛:沿岸の防衛、海上交通の安全確保等
    • 警備:海上における治安の維持、人命財産の保護
    • 災害派遣・航空救難
    • 機雷その他爆発性危険物の処理
  • 自衛艦隊等に対する後方支援(人事教育補給造修医務・衛生

特色

海上自衛隊の人的・物的基礎として

地方隊は内陸県(群馬・栃木・埼玉・長野・山梨・岐阜・滋賀・奈良県)を含めて国内の全ての陸上及び領海を分担している。

准海尉以下の海上自衛官の任免は、地方総監が行うものとされている。そのこともあり、自衛官候補生課程及び練習員課程・海曹候補生課程・海曹予定者課程は各地方隊(大湊地方隊を除く)に置かれている教育隊が担当している。

また、自衛艦その他の船舶は、必ずいずれかの地方総監部に籍を置くものとされている。自衛艦に掲揚される自衛艦旗は、当該自衛艦が除籍される日又は支援船に区分変更される際に返納されるが、これは当該自衛艦在籍地の地方総監が受領し、返納された自衛艦旗は、籍を有していた地方総監が記念自衛艦旗として保存に当たる。

このように地方隊は、単に沿岸区域の警備を担うのみならず、海上自衛隊の人的・物的基礎となっている組織である。

また、地方隊の組織ではないが、海上幕僚長の指揮監督を受ける自衛隊病院もまた、各地方総監部所在地に置かれている。

沿岸警備

機動運用が行われる自衛艦隊と異なり、沿岸警備に従事するのは主に旧型の汎用護衛艦(DD)及びあぶくま型などの小型の護衛艦(DE)や高速航行可能なミサイル艇が中心となる。なお、護衛艦は護衛艦隊に所属しており、地方隊の隷下に配備されている艦艇はミサイル艇や掃海艇等の小型艦艇のみである。海上自衛隊の地方隊は、独立した沿岸警備組織がなかった戦前に沿岸警備を行っていた「海軍鎮守府」の伝統を受け継いだ組織である一方、海上保安庁は、戦後にアメリカ沿岸警備隊をモデルに誕生した組織であり、創立時から、それぞれの職域が大きく重複していた。近年、不審船事件の発生などを受けて海上保安庁の体制が拡充しており、地方隊と海上保安庁との海上警備任務の線引きが曖昧になってきている。

能登半島沖不審船事件では、自衛艦隊隷下の護衛艦隊第3護衛隊群所属の護衛艦や舞鶴地方隊所属の護衛艦が、海上保安庁の巡視船と共に出動した。この事件に出動した護衛艦は、高速の工作船相手の追跡に向いていなかったため、現在は、はやぶさ型ミサイル艇が配備されている。

編成

地方総監

地方隊の長は地方総監である。地方総監は、防衛大臣の指揮監督を受け[2]、地方隊の隊務[4]を統括し、また地方総監部の事務を掌理する。地方総監は、護衛艦隊司令官や航空集団司令官などのフォースプロバイダー(練度管理責任者)から提供された護衛艦や回転翼機を、フォースユーザー(事態対処責任者)として運用する。

地方総監は海将をもって充てられており[5]海上幕僚長自衛艦隊司令官などとともに、人事に内閣承認を要する者である(舞鶴地方総監及び大湊地方総監を除く。)。 横須賀地方総監及び佐世保地方総監[6]は、自衛艦隊司令官と並ぶ指定職第5号であり、海上幕僚長に異動することも多い。

部隊の編成

  • 地方総監部
  • 基地隊(司令は海将補又は1等海佐。基地隊本部・水中処分隊・基地分遣隊・磁気測定所・警備所・掃海隊・基地隊の長の直轄する自衛艦をもって編成される。)
  • 教育隊(司令は1等海佐、副長は2等海佐。自衛官候補生一般曹候補生及び技術海曹として新たに採用された者(航空学生を除く)等を教育訓練することを任務とする。)
  • 警備隊(司令は1等海佐。警備隊本部・陸警隊・港務隊・水中処分隊・警備所・基地分遣隊・連絡所・ミサイル艇隊・警備隊の長の直轄する自衛艦をもって編成される。)
  • 防備隊(司令は1等海佐。防備隊本部・警備所・ミサイル艇隊をもって編成される。)
  • 掃海隊(司令は1等海佐又は2等海佐掃海艦又は掃海艇2以上若しくは掃海管制艇2以上をもって編成される。)
  • ミサイル艇隊(司令は2等海佐。ミサイル艇2以上をもって編成される。)
  • その他大臣の定める部隊
    • 基地業務隊(司令は1等海佐又は2等海佐。)
    • 基地分遣隊(隊長は2等海佐又は3等海佐。基地の警備及び管理を担当する。基地隊の分遣隊的な扱いであり規模はそれよりも小さい。)
    • 衛生隊(隊長は1等海佐又は2等海佐。医療、保健衛生に関する業務を担当。)
    • 音楽隊(隊長は2等海佐、3等海佐又は1等海尉。)
    • 警備所(基地隊・警備隊・防備隊の指揮・監督をうけ、沿岸水域、港湾及び水路の安全確保を担当する。)
    • 造修補給所(所長は1等海佐。艦船や武器、需品等の保管・補給・整備等を担当する。)
    • 弾薬整備補給所(所長は1等海佐又は2等海佐。弾薬や化学器材等の保管・補給・整備等を担当する。)

地方総監部の編成

地方総監部に1人置かれる。幕僚長は、海将補をもって充てる。幕僚長は、地方総監を補佐し、地方総監部の部内の事務を整理する。
  • 参事官
横須賀地方総監部及び佐世保地方総監部にそれぞれ一人が置かれ、事務官をもって充てる。
  • 管理部(総務課・人事課・厚生課・援護業務課・施設課)
  • 防衛部
    • 第1幕僚室(庶務人事担当)
    • 第2幕僚室(情報担当)
    • 第3幕僚室(運用担当)
    • 第4幕僚室(兵站担当)
    • 第5幕僚室(通信担当)
  • 経理部(経理課・契約課・原価計算課・監査課・原価監査官)
  • 技術補給監理官
造修補給所長が兼補される。1等海佐。
地方総監の命を受け、監察並びに安全及び事故調査に関する事務をつかさどる。
地方総監の庶務をつかさどる。渉外事務を行う際には、特に制服に副官飾緒を着用する。

内部組織の沿革

  • 1952年(昭和27年)08月01日:地方隊発足時の総監部の編成(総務部、警備部、航路啓開部、経理補給部、技術部)
  • 1953年(昭和28年)10月16日:航路啓開部の廃止。調査室の設置、通信所が警備部から昇格
  • 1955年(昭和30年)
    • 10月01日:各地方隊隷下に通信隊が新編
    • 11月01日:横須賀地方総監部に副総監を設置
  • 1959年(昭和34年)06月01日:横須賀基地警防隊、佐世保基地警防隊をそれぞれ横須賀警備隊、佐世保警備隊に改称
  • 1961年(昭和36年)02月01日
    • 総監部組織の改組(総務部を廃止し人事部を新設、防衛部に第1~第4幕僚班を設置)
    • 各地方隊隷下に補給所及び工作所が新編
  • 1962年(昭和37年)07月01日:佐世保地方総監部に副総監を設置
  • 1970年(昭和45年)
    • 03月02日:総監部組織の改組(横須賀及び佐世保地方副総監を廃止し、横須賀、呉、佐世保地方総監部に幕僚長を設置。人事部を管理部に改称、第1~第4幕僚班を幕僚室に改称、第5幕僚室を新設、監察官を新設)、各地方隊隷下に造修所を新編、各地方隊隷下の工作所を廃止
    • 10月01日:舞鶴及び大湊地方総監部に幕僚長を設置
  • 1987年(昭和62年)07月01日:各地方隊隷下の警備隊を改編し、基地業務隊を新編
  • 1998年(平成10年)12月08日:補給整備部門の組織改編が行われ各地方隊隷下の補給所と造修所を統合し造修補給所に改編。水雷整備所と誘導弾整備所も統合され弾薬整備補給所に改編。木更津航空補給所、鹿屋、八戸、下総航空工作所を廃止
  • 2002年(平成14年)03月22日:各地方隊隷下の通信隊がシステム通信隊に改編されシステム通信隊群隷下に編成替え
  • 2006年(平成18年)04月03日:最後の連絡所(警備隊の指揮・監督を受け、警備・補給等の連絡、救難業務の支援を担当する。)である徳山連絡所が閉鎖された。
  • 2007年(平成19年)03月28日:衛生監理官が廃止
  • 2017年(平成29年)04月01日:横須賀及び佐世保地方総監部の政策補佐官を参事官に改組[7]

隷下の自衛艦

ミサイル艇

はやぶさ型(200トン)
2002年(平成14年)3月に1番艇が就役し、2004年(平成16年)3月までに6隻が就役した。舞鶴地方隊、佐世保地方隊、大湊地方隊で運用されている。

輸送艇

輸送艇1号型(420トン)
1988年(昭和63年)3月に1番艇が、1991年(平成3年)10月に2番艇が就役した。横須賀地方隊及び佐世保地方隊で運用されている。

多用途支援艦

ひうち型(980トン)
2002年(平成14年)3月に1番艦が就役し、2008年(平成20年)2月までに5隻が就役した。各地方隊に1隻ずつ配置され訓練支援等に使用されている。

過去に隷下にあった主な自衛艦

護衛艦

くす型(1,450トン)
1953年(昭和28年)1月から日米船舶貸借協定により貸与が始まり計18隻が貸与された。草創期の海上自衛隊の主力であった。
わかば(1,250トン)
帝国海軍橘型駆逐艦が引き上げられて使用された。1956年(昭和31年)5月31日に再就役し、主に横須賀地方隊に所属、1971年(昭和46年)3月31日に除籍された。
あけぼの(1,060トン)
1956年(昭和31年)3月20日に就役、地方隊では横須賀地方隊に所属し、1981年(昭和56年)3月31日除籍。
いかづち型(1,070トン)
1956年(昭和31年)3月5日と5月29日に2隻が就役した。地方隊では両艦とも呉地方隊に所属し、1977年(昭和52年)3月15日に最後の同型艦が除籍された。
いすず型(1,490トン)
1961年(昭和36年)7月29日に1番艦が就役し、1964年(昭和39年)1月までに4隻が就役した。1993年(平成5年)11月16日に最後の同型艦が除籍された。「いすず」他。
ちくご型(1,470トン~1,500トン)
1971年(昭和46年)7月31日に1番艦が就役し、1977年(昭和52年)6月までに11隻が就役、1980~90年代の地方隊所属の護衛隊の主力であった。2003年(平成15年)3月に最後の同型艦が除籍された。
いしかり(1,290トン)
1981年(昭和56年)3月28日に就役し、一貫して大湊地方隊に所属し、2007年(平成19年)10月17日に除籍された。
ゆうばり型(1,470トン)
1983年(昭和58年)3月18日に1番艦が就役し、翌1984年(昭和59年)2月に2番艦が就役した。両艦とも大湊地方隊に所属したが、2008年(平成20年)3月の体制移行による部隊改編により、両艦とも護衛艦隊隷下に編成替えとなった。2010年(平成22年)6月25日に両艦同時に除籍された。なお、両艦とも一貫して大湊に在籍した。「ゆうばり」・「ゆうべつ」。
あぶくま型(2,000トン)
1989年(平成元年)12月に1番艦が就役し、1993年(平成5年)2月までに6隻が就役した。当初は舞鶴、大湊、佐世保の各地方隊隷下の護衛隊に配属されたが、2008年(平成20年)3月の体制移行による部隊改編により全艦、護衛艦隊隷下に編成替えした。2017年(平成29年)3月現在、全艦が就役中。「あぶくま」他。
はつゆき型(2,950トン)
1982年(昭和57年)3月に1番艦が就役し、1987年(昭和62年)2月までに12隻が就役した。護衛隊群の基本構成艦であったが、新型艦の就役により1990年代中頃から地方隊隷下の護衛隊に編成替えとなり、2006年までに練習艦に種別変更された1隻を除いた11隻が転籍され沿岸警備の主力艦となった。2008年(平成20年)3月の体制移行による部隊改編により再び護衛艦隊隷下に編成替えした。
2017年(平成29年)3月現在、練習艦3隻とあわせて5隻が就役中。「あさゆき」他。

ミサイル艇

ミサイル艇1号型(50トン)
1993年(平成5年)3月に1,2番艇が就役し、1995年(平成7年)3月に3番艇が就役した。2010年(平成22年)に最後の同型艇が除籍された。一貫して大湊地方隊で運用された。

脚注

  1. 自衛隊法施行令(昭和29年6月30日政令第179号)第27条 別表第4
  2. 2.0 2.1 自衛隊法(昭和29年6月9日法律第165号)第17条及び第19条
  3. もっとも結局、室蘭鎮守府は置かれなかった
  4. 自衛艦隊その他の大臣直轄部隊に対する補給等を含む
  5. 自衛隊法施行令(昭和29年6月30日政令第179号)第19条
  6. 佐世保地方総監は防衛省の職員の給与等に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成29年3月31日政令第104号)により指定職4号から5号に昇格
  7. 防衛省令第四号(平成二十九年四月一日施行)

関連項目

外部リンク