靴
くるぶし(踝)が見える程度の丈のものを短靴といい[1]、それよりも丈の長いものを長靴という。それぞれシューズ (shoes) とブーツ (boots)として分類されることもある。ただしアメリカでは、ブーツをシューズに含めることがある。その場合、短靴を特にローシューズ (low shoes) という。
また、室内で履かれるものは室内履きと呼ばれる[1]。「靴」は文脈によっては、それ以外の屋外でも使われる外履き一般(日本語で言う「土足」)を意味することもある(例:ここで靴を脱いでください/靴のままお上がりください)。
日本では中世以降ほとんど靴が使われなかったため、現代では靴といえば西洋靴を意味することが多いが、日本の伝統的な靴もある。ただしその意味では履や沓と書いて区別することもある。
かかと(踵)の部分が開放あるいはストラップのみのものはサンダルに分類され[1]、さらに室内用のものであればスリッパに分類される[1]。
靴は基本的に靴底を備えており、靴下、足袋のような、1枚布もしくはそれに似た構造のものは靴に含めない。地下足袋も、足袋の範疇に含め靴に含めないことが多い。
靴はそれ以外の履物に比べ覆う面が多いため、足を保護する効果が高い。他方、通気性や足の運動性は劣る。特に足指の運動がほとんどできないものが多い。
なお、日本では家庭用品品質表示法の適用対象となっており、雑貨工業品品質表示規程に定めがある[2]。
Contents
歴史
人類が何時頃から靴を履き始めたのかは定かではない。現存する最古の靴は2008年にアルメニアの洞窟で発見された紀元前3500年頃の革の紐靴とされている[3]。
また、古代エジプトのピラミッドからは、紀元前2500年頃の鼻緒の付いたサンダル形態の物が発掘されている他、ツタンカーメン王の墓からは黄金で出来たサンダルが出土している。
日本では、正倉院御物として、奈良時代の室内用靴「繍線鞋」(ぬいのせんがい)が現存している[4]。
靴の素材
皮革が歴史が長く、使用も多い。
他に、人工皮革、ナイロン、布、プラスチック、木、パナマ草等が使われる。
日本では、布製の靴(特に運動靴)をオランダ語で布地を指す「ズック」(doek)と呼ぶこともある[5]。
靴の素材による分類として、革靴、木靴、布靴、ゴム靴、ビニール靴などがある。
靴の装着
靴には緊締部のあるものと、無いものとがある[1]。緊締部としては、靴紐[1]、スライドファスナー[1]、面ファスナーなどがある。ただし、単に装飾目的のものもある[1]。
以下、紐靴の構造を中心に解説する。
鳩目(アイレット、小穴)
- 紐靴において紐靴を通すための穴で、一般的な既製品では5個が多い。
- 鳩目の数と靴紐の長さ
- 鳩目の数が2対 約50cm~60cm
- 鳩目の数が3対 約55cm~65cm
- 鳩目の数が4対 約60cm~70cm
- 鳩目の数が5対 約65cm~75cm
- 鳩目の数が6対 約70cm~80cm
靴の結び方
- シングル
- フォーマルやビジネスに用いる結び方、片方だけを締め付ける。
- パラレル
- フォーマルやビジネスに用いる結び方、両側を締め付ける。
- オーバーラップ
- スニーカーなどに用いる結び方、締めにくいが緩みにくい。足高の人にも合いやすい。
- アンダーラップ
- スニーカーなどに用いる結び方、締めやすいが緩みやすい。靴と足が合いやすい。
靴紐の分類
- 丸紐(丸紐の方がやや改まった物になるが、紐が解けやすく靴に合うのが難しい)
- 平紐(平紐はややカジュアルになるが、紐が解けにくく靴に合いやすい)
- ガス引き(ガス紐)
- 石目(編み紐)
- スニーカーやワークブーツに使われることが多い。
なお、靴紐の両端はアグレットに加工されていることが多い。
履き口
足を差し入れる部分を履き口という。履き口には装飾付きのもある[1]。
履き口の高さ
- ローカット
- ローファーや紐無しの靴に多い
- オックスフォード
- 紐ありの靴に多い、正装に用いる。
- ハイライザー
- 紐ありの靴に多い、正装に用いる。
靴底
靴底は滑り止めとなっているものが多い。スパイク金具付きのものもある[1](スパイクシューズ)。
靴底の厚さ
- シングルソール
- 靴底を1枚で構成したもの。3mm~6mm辺りの厚さ。
- ダブルソール
- 靴底を2枚で構成したもの。丈夫で水に強いが、重く馴染みが遅く爪先が減りやすい。
- ハーフミッドソール
- 前面(土踏まずより前)だけ2枚の革で構成したもの。
- トリプルソール
- 靴底を3枚で構成したもの。一番、丈夫だが重い。
中敷き
緩衝を目的とする靴の部品[1]。防臭等の機能を付加したものもある[1]。
羽根飾り
- 有り
- 華やかな外見になる、ビジネスやカジュアルに用いられる。
- 無し
- 正装に用いられる。
踵
短靴にはヒールのあるものとないものがある[1]。
踵の高さ
- ハイヒール(高さが約6〜7cm以上のもの[1])
- ミディアムヒール (中ヒール、高さが約3〜7cm程度のもの[1])
- ローヒール(高さが約3cm以下のもの[1])
- カッターシューズ (特に1~2cm前後のもの)
踵の形状
靴のサイズ
足は一日の中でも時間と共に大きさが変わる部位である。最も大きくなるのは15時頃で、起床直後と比べて体積が約19%大きくなる。
日本では、「靴は夕方に買った方が良い」と言われる。これは、むくんだ状態の足に合わせておけば、昼間買った靴が夜には小さくなっていた、という間違いを防ぐ事が出来ることを示している。しかし、逆の見方をすれば日中は靴が大き過ぎることになる。他国は靴文化の歴史が長いため、靴を夕方に購入する習慣はない。
靴のサイズについては国ごとに、また男女別で表示方式がかなり異なっている(たとえば日本では25cmの紳士靴に相当するサイズは米国では7、イギリスでは6 1/2、大陸欧州では39、オーストラリアでは6.5)。日本国外で靴を買ったり、個人輸入などの形で国外から靴を輸入する場合には、各国のサイズに注意する必要がある。
靴のサイズの単位に日本では昔、文(もん)があり、2.4cmを表す。詳しくは文 (通貨単位)#長さの単位を参照。
日本
- 靴のサイズは足囲と足高で決まる。
- 足囲
- AAA~A~E~EEE~Gまで、AはAの数が多いほど幅が狭くなる。EはEの数が多いほど、また、アルファベットの順番が遅くなるほど幅が広くなる。
- 足高
- 24や25など、0.5単位で大きくなるがまれに0.25単位で大きくなる物もある。
縫い目の分類
- 内縫い
- 縫い目が目立た無いので正装にも用いられる。
- 外縫い
- 縫い目が見えるのでビジネスからカジュアルに用いられる。
靴の種類
素材別の分類
ただし、実際には部位によって素材が異なる靴も多い。
- 前ゴムシューズ
- ゴム底布靴
- 甲がプラスチックで底が他の材料の靴、もしくは逆
用途別の分類
- 雨靴
- 長靴
- ガロッシュ:防水・防寒・防汚用 靴の上に履く靴
- 地下足袋
- 安全靴
- 静電靴、静電気帯電防止靴: JIS T 8103:2010準拠の靴[7]
- 半長靴
- スノーシュー
- かんじき
- 綱貫
- 雪沓(雪靴、藁ぐつ)
- マリンブーツ(マリンシューズ、ウォータースポーツブーツ、ヨットブーツ、セーリングブーツ、ダイビングブーツ、ジェットブーツ、ジェットシューズ)
- デッキシューズ:船上で水で滑らないよう工夫された靴
- 乗馬靴[6]
- ハンティングブーツ
- バイク用靴(ライディングブーツ、ライディングシューズ)
- 自動車用靴(ドライビングブーツ)
形状別(ファッション・伝統)の分類
- 一般用革靴[6]
- パンプス
- ローファーズ
- オックスフォードシューズ
- ブローグシューズ
- カンフー映画で見掛ける靴、表地は綿、靴底はゴムで出来ている。
- 老北京靴(ラオペイジンシエ)
- 上記と同じく男性用で紐が無くスリッポンの形をしている。
- 女性用の中国の靴。
スポーツ専用靴
スポーツ用途の靴はスポーツ専用靴に分類される[6]。
- バレーボール靴[6]
- バスケット靴[6]
- テニス靴[6](テニスシューズ)
- ボウリング靴[6]
- ダンス靴[6](ダンスシューズ)
- ヨット靴[6]
- ゲートボール靴[6]
- 体操靴[6]
- アイススケート靴[6]
- ローラースケート靴[6]
- スキー靴[6]
- 登山靴[6]
- チロリアンシューズ
- トレッキングシューズ
- バレエシューズ
- 運動靴
その他の用途
靴と文化
- アラブ世界では、靴で人(その人を表す絵画や写真や銅像などでも同様)を踏みつける、靴を投げつける、靴で叩くことは、その人に対する最大の侮辱・屈辱行為に当たるので注意が必要である。
- 湾岸戦争の後、イラクのバグダッドにあるアル・ラシードホテルAl Rasheed Hotel入口にはジョージ・H・W・ブッシュ(父)のモザイク画が踏み絵となるように描かれていた(イラク戦争後は米軍によりサダム・フセインのモザイク画に置き換えられた)。
- イラク人ジャーナリストのムンタゼル・アル=ザイディは、バグダッドで行なわれたジョージ・W・ブッシュ大統領の記者会見中、履いていた靴をブッシュに投げつけた。
- アラブ世界でのデモ行進では、靴を掲げたり、人の顔のイラストの隣に靴を描いたりすることで、政権への嫌悪感を抱くイメージ付けをしている。
- 日本では靴を脱いで入ることを前提とした家に、家人の同意を得ずに靴のまま入る事をしては絶対にしてはいけない。(つまり靴を脱ぐべき事を意味する段差が設けられた家に「上がる」)土足で家を汚すことは、家人に掃除の手間をかけさせるだけでなく、その家の尊厳に対する挑戦的な行為と看做される。
- 転じて「土足で(ふさわしくない場所に)上がる」という比喩は非常に攻撃的で敵対的なニュアンスをあらわしている。例えば「心に土足で上がり込む」というのは人の尊厳を否定するような意味になり、「土足で踏みにじった」となると実際に尊厳を傷つけたような意味になる。具体例を挙げれば「国土に土足で踏み込んだ」は侵略者が軍事的に侵攻してくるイメージである。「体を土足で踏みにじった」だと性的暴行の暗喩になったりする。
- 逆に靴を脱がずに家に上がる文化圏の場合、いたずらに靴を脱ぐことはマナーとして好ましくない。なぜなら、そういった文化圏の場合、靴は服などと同様に身嗜みの一部であり、それを脱ぎ去ることは「乱れ」とされるからである。
- 家に靴を脱いで上がる文化圏の玄関扉は必ず「外開き」、脱がずに上がる文化圏の扉は必ず「内開き」である。ホテルは西洋の形式を踏襲しているため客室の扉は全て内開きであり、靴を履いたままベッドに寝転がってもシーツが汚れない用にフットスローが足元に掛けられている。
- 日本では客宅で脱いだ靴は玄関の端に寄せるのがマナーとされる。理由は玄関の真ん中の部分は家主が使用するスペースであり、他人(訪問者)がそのスペースを奪ってはならないから。
- 日本では、夜に新しい靴をおろすと、キツネになってしまうという言い伝えがある。
- エイブラハム・リンカーンの言葉「大統領でも靴磨きでも世のため人のために働く公僕だ。世の中に卑しい業などない」などにも見られる様に「靴磨き」を生業とする人々は底辺社会・貧困社会のステレオタイプ的な存在であった。これは主に貧しい少年達が露天商として営むことが多かったことに加え、靴磨き作業中は客から常に上から見下ろされる構図であることに起因する。これに転じて「自分の靴すら磨かない」(靴を他人に磨かせる)行為はブルジョワジーや権力者の象徴として表現されることがある。
- 日本語でも「足元を見る」(旅人の足袋や草履を見て宿泊客の経済力や地位を見る様子から転じた慣用句)と言われるように、世界各国で靴のグレードや種類は、使用者の富や権力の象徴とされることが多い。「安い靴でエレガントになろうとするのは到底不可能」「おしゃれは足元から」といった決まり文句が数多く存在するのはその為である。
脚注
- ↑ 1.00 1.01 1.02 1.03 1.04 1.05 1.06 1.07 1.08 1.09 1.10 1.11 1.12 1.13 1.14 1.15 意匠分類定義カード(B5) 特許庁
- ↑ “雑貨工業品品質表示規程”. 消費者庁. . 2013閲覧.
- ↑ アルメニアで発見の靴は「世界最古」=研究チーム ロイター 2010年6月10日
- ↑ 聖武天皇愛用の鏡など56件「正倉院展」開会式読売新聞ニュースサイト(2018年10月26日)2018年10月26日閲覧。
- ↑ ズックで始まるすべて辞書一覧 - goo辞書
- ↑ 6.00 6.01 6.02 6.03 6.04 6.05 6.06 6.07 6.08 6.09 6.10 6.11 6.12 6.13 6.14 6.15 エコマーク商品類型No.143 分類A.革靴 公益財団法人日本環境協会
- ↑ 静電気帯電防止靴の試験方法の評価と改正(PDF)発行:独立行政法人労働安全衛生総合研究所
関連項目
- 国鉄EF55形電気機関車 - 「ドタ靴」などと呼ばれていた。