チャモロ語
チャモロ語(英語: Chamorro language)またはチャモル語(チャモロ語: Fino' Chamoru)とはグアム・北マリアナ諸島(北マリアナ連邦)の現地人の母語で、VSO型言語である。
どちらの国でも公共の場では英語が、また観光業に従事する人を中心に日本語も使われているが、依然チャモロ語も話されている。チャモロ語はアメリカの本土に移住した人々とその子孫の一部にも使われている。
概説
チャモロ語の多くの単語はスペイン語を語源としている。例えば、店を意味するテンダ(tenda)は、スペイン語のティエンダ(tienda)から来ている。この他にスペイン語の影響で、一部の名詞では男性形と女性形の区別がみられる。例えば、アメリカ人男性はアメリカヌ(Amerikanu)、アメリカ人女性はアメリカナ(Amerikana)である[1]。しかし、すべての名詞が男性形と女性形で区別されているわけではなく、日本人は男性女性共にツァパネス(Chapanes)である[2]。このようにチャモロ語は語彙に関してはスペイン語の影響を強く受けている。
しかし、チャモロ語の借用語の利用は非常にミクロネシア語的である。例えばボール遊びを意味するブモボラ(bumobola)という言葉は、スペイン語から借用したbola(ボール)にチャモロ語の接中辞 umと語根の重複(reduplication)が組み合わされている。とはいえスペイン語の影響は大きく、数詞を含む基本語彙にまで及んでいる。
クレオール言語と断言はできないが、それに近いとみなされることもある。なお、一部に現在のチャモロ語をスペイン語に『征服』された言語だとし、チャモロ語古来の単語を復活させようとする純化運動も存在する。
なお、スペイン語ほどではないが日本語由来の単語もあり、例えば茶葉は"chaba"、白菜は"nappa"と言う[3]。
およそ5万から7万5千人のチャモロ語話者がマリアナ諸島の全域にいる。チャモロ語は北マリアナ諸島の家庭では今でも一般的に使われているが、グアムではアメリカ統治下でアメリカ英語のピジンがもっぱら使われるようになり、チャモロ語の流暢な話者が大幅に減少している。
チャモロ語はフィリピン諸語の一部と文法上最も近縁な関係にある。それらの言語とは、語彙だけでなく、文法的にも多くの類似点があると指摘されている。
アルファベット
' (グロッタル・ストップ), A, Å, B, Ch, D, E, F, G, H, I, K, L, M, N, Ñ, Ng, O, P, R, S, T, U, Y
このうち、Yはスペイン語(カステリャーノ)の一部方言と同様に、かなで書くとジャに近い発音となる。また、Chは通常tsh(チュ)よりもts(ツ)に近い発音となる。AとÅは必ずしも区別して書かれる訳ではなく、しばし単にAと書かれていることがある。NとÑも同様である。このため、グアムの地名Yoñaは、ヨナではなくジョニャと発音される。
人称代名詞
人称代名詞はすべて接尾辞である。なお、一人称複数形の代名詞は、聞き手を含む場合(包括形)と聞き手を含まない場合(排除形)で区別される。これは中国語やインドネシア語にも見られる特徴である[4]。
単数形 | 複数形 | ||||
---|---|---|---|---|---|
一人称 | hu,guahu,yo' / -hu | 私 / 私の | 包括形 | ta,hit,hita / -ta | 私たち / 私たちの |
排除形 | ham,hami / (n)mami | 私たち / 私たちの | |||
二人称 | un,hagu,hao / -mu | あなた / あなたの | en,hamyo / -(n)miyu | あなたたち / あなたたちの | |
三人称 | gue' / ña / -ña | 彼、彼女、それ / 彼、彼女 / 彼の、彼女の | siha / -ña / -(n)ñiha | 彼ら、彼女ら、それら / 彼らの、彼女らの / それらの |
基本表現
チャモロ語 | 読み方 | 日本語 | 英語 | スペイン語 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
Håfa adai. | ハファ ダイ | こんにちは(やあ) | Hello.(Hi.) | Hola. | |
Diu re go hai. Buenas dihas. Buenas tåtdes. Buenas noches. |
デゥレ ゴハイ ブエナス ディアス ブエナス タディス ブエナス ノーツェス |
おはようございます こんにちは こんばんは |
Good morning. Good afternoon. Good evening. |
Buenos días. Buenas tardes. Buenas noches. |
スペイン語由来だが、名詞性区別が失われている。 |
Håfa tatatmanu hao? | ハファ タタマヌ ハウ | お元気ですか?(1人に対して) | How are you? | ¿Cómo estas? | |
Maolek ha'yu'. | マオレック ハァ ジュ | 元気です | I'm just fine. | Estoy muy bien. | |
Hayi na'an-mu? | ハジ ナァン ムゥ | あなたのお名前は何ですか? | What's your name? | ¿Cómo te llamas? | |
Nå'ån-hu si Taro. | ナァン フゥ スィ タロウ | 私の名前はタロウです | My name is Taro. | Mi nombre es Taro. | |
Ginen manu hao? | ギネン マヌ ハウ | どこから来たのですか? | Where are you from? | ¿De dónde vienes? | |
Ginen Chapan yu'. Despensa yo', señot. Manu nai gaige guini i Punta de los dos Amantes? |
ギネン ツァパン ジュ ディスペンサ ジョ セニョゥト マヌ ナイ ガイゲ グイニ イ プンタ デ ロス ドス アマンテス |
日本から来ました。 すみません、恋人岬はここですか? |
I'm from Japan. Excuse me, sir. Where is the Two lovers point here?y |
Soy de Japón. Disculpe, señor. ¿Dónde está el Punto aquí dos amantes? |
|
Hunggun. / Ahe'. | ホングガン / アーヒ | はい / いいえ | Yes. / No. | Sí. / No. | |
Si Yu'us ma'åse'. | スィ ジュウス マアセ | ありがとう | Thank you. | Gracias. | |
Buen probecho. | ブエン プロベーチョ | どういたしまして | You're welcome. | De nada. / No hay de qué. | スペイン語で「召し上がれ」を意味する"Buen provecho."に由来 |
Ådios. | アディオス | さようなら | Good bye. | Adiós. | スペイン語由来 |
Fanatåtte. | ファナタッテ | さようなら | Good bye. | Adiós. |
基本単語
以下にチャモロ語の月と曜日に関する表現をまとめた。[7]
チャモロ語 | 読み方 | 日本語 | 英語 | スペイン語 |
Ineru | イネル | 1月 | January | Enero |
Fibreru | フィブレル | 2月 | February | Febrero |
Matsu | マツー | 3月 | March | Marzo |
Abrit | アブリッ | 4月 | April | Abril |
Mayu | マズー | 5月 | May | Mayo |
Huniu | フュニュ | 6月 | June | Junio |
Huliu | フリオ | 7月 | July | Julio |
Agustu | アグストゥ | 8月 | August | Agosto |
Septiembri | セプティンブリィ | 9月 | September | Septiembre |
Oktubri | オクトゥブリィ | 10月 | October | Octubre |
Nobiembri | ノーブエンブリィ | 11月 | November | Noviembre |
Disiembri | ディーセンブリィ | 12月 | December | Diciembre |
チャモロ語 | 読み方 | 日本語 | 英語 | スペイン語 |
Damenggu | ダメング | 日曜日 | Sunday | Domingo |
Lunis | ルネス | 月曜日 | Monday | Lunes |
Mattis | マティス | 火曜日 | Tuesday | Martes |
Mietkolis | ミェットコリス | 水曜日 | Wednesday | Miércoles |
Huebis | ヒェビス | 木曜日 | Thursday | Jueves |
Bietnis | ビエットニス | 金曜日 | Friday | Viernes |
Sabulu | サーバル | 土曜日 | Saturday | Sábado |
数詞
チャモロ語にはかつて日時などを数える基本的な数詞、生きた物を数える数詞、静止物を数える数詞、長い物を数える数詞の区別(日本語の助数詞による区別に相当)があったが、現在ではスペイン語起源の数詞が借用されて一般に使われている[7]。
数字 | 現代チャモロ語[8] | スペイン語 | タガログ語 | 古代チャモロ語 (基本的な数詞) |
古代チャモロ語 (生きた物を数える数詞) |
古代チャモロ語 (静止物を数える数詞) |
古代チャモロ語 (長い物を数える数詞) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | un, unu(ウン、ウヌユ) | uno(ウノ) | isa | hacha | maisa | hachiyai | takhachun |
2 | dos(ドス) | dos(ドス) | dalawa | hugua | hugua | hugiyai | takhuguan |
3 | tres(トレス) | tres(トレス) | tatlo | tulu | tato | to'giyai | taktulun |
4 | kuatro(クアトロ) | cuatro(クアトロ) | apat | fatfat | fatfat | fatfatai | takfatun |
5 | sinku(シンク) | cinco(シンコ) | lima | lima | lalima | limiyai | takliman |
6 | sais(サイス) | seis(セイス) | anim | gunum | guagunum | gonmiyai | ta'gunum |
7 | sietti(シエッティ) | siete(シエテ) | pito | fiti | fafiti | fitgiyai | takfitun |
8 | ochu(オチュー) | ocho(オーチョ) | walo | gualu | guagualu | guatgiyai | ta'gualun |
9 | nuebi(ヌエビィ) | nueve(ヌエベ) | siyam | sigua | sasigua | sigiyai | taksiguan |
10 | dies(ディエス) | diez(ディエス) | sampu | manot | maonot | manutai | takmaonton |
脚註
- ↑ Donald M. Topping. p348
- ↑ Donald M. Topping. p28
- ↑ Donald M. Topping. p360
- ↑ Donald M. Topping. p40
- ↑ 藤波. p38
- ↑ Donald M. Topping. pp10-15
- ↑ 7.0 7.1 7.2 グアム観光局チャモロ語講座・日本語
- ↑ Rafael Rodríguez-Ponga, Del español al chamorro: Lenguas en contacto en el Pacífico. Madrid, Ediciones Gondo, 2009, www.edicionesgondo.com
参考文献
- 藤波隆一(1977年). 『ブルーガイド海外版 グアム島ーサイパン・テニアン・ロター』, 実業之日本社.
- Donald M. Topping. SPOKEN CHAMORRO with Grammatical Notes and Glossary SECOND EDITION, University of Hawaii Press, 1980, ISBN 978-0-8248-0417-6
関連項目
外部リンク
- グアム観光局チャモロ語講座・日本語
- https://web.archive.org/web/20131223170220/http://ns.gov.gu/language.html
- http://www.offisland.com/cham.html
- https://web.archive.org/web/20031119062318/http://www.chamorro.com/fino/fino.html
- Chamorro - English Dictionary: from Webster's Online Dictionary - the Rosetta Edition.
- Dictionary and Grammar of the Chamorro Language of the Island of Guam, by Edward R. von Preissig, Ph.D. From ChamorroBible.org (http://ChamorroBible.org).
- The Chamorro Language of Guam: A Grammar of the Idiom Spoken by the Inhabitants of the Marianne or Ladrones, Islands, by William Edwin Safford. From ChamorroBible.org (http://ChamorroBible.org).