ウィリアム・ジェームズ
生誕 |
1842年1月11日 アメリカ合衆国・ニューヨーク州ニューヨーク |
---|---|
死没 |
1910年8月26日(68歳没) アメリカ合衆国・ニューハンプシャー州キャロル郡タムワース |
時代 |
19世紀の哲学 20世紀の哲学 |
地域 | 西洋哲学 |
学派 |
プラグマティズム 機能心理学 根本的経験論 |
研究分野 | プラグマティズム、心理学、心の哲学、宗教哲学、認識論、意味論 |
主な概念 | 信じる意志、根本的経験論Radical empiricism、ジェームズ・ランゲ説、心理学者の誤謬 |
影響を受けた人物:
| |
影響を与えた人物:
|
ウィリアム・ジェームズ(William James、1842年1月11日 - 1910年8月26日)は、アメリカ合衆国の哲学者、心理学者である。意識の流れの理論を提唱し、ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』など、アメリカ文学にも影響を与えた。パースやデューイと並ぶプラグマティストの代表として知られている。弟は小説家のヘンリー・ジェームズ[1]。著作は哲学のみならず心理学や生理学など多岐に及んでいる。
日本の哲学者、西田幾多郎の「純粋経験論」に示唆を与えるなど、日本の近代哲学の発展にも少なからぬ影響を及ぼした。夏目漱石も、影響を受けていることが知られている。後の認知心理学における記憶の理論、トランスパーソナル心理学に通じる『宗教的経験の諸相』など、様々な影響をもたらしている。
ジェームズは1875年には、アメリカで初の心理学の講義を開始し、研究室を設けた[2]。ドイツのヴィルヘルム・ヴントが研究室を用意したのは、この4年後の1879年である。
生涯
ジェームズは神学者ヘンリー・ジェームズ・シニアの長男として、1842年、ニューヨークに生まれた。1855年、裕福な一家はヨーロッパへ移転し、パリ・ジェノヴァなどで過ごす。年子の弟ヘンリー・ジェイムズは有名な作家となった。自由な家庭の雰囲気の中で育ち、7歳から3年間小学校に通って以降、大学までは学校教育を受けていない[3]。
1858年にアメリカへ帰国する。1860年に画家を志し、米国一流の画家であったウィリアム・モリス・ハントの門に入ったが、半年で才能がないことを自覚して断念した。
1861年に南北戦争が勃発するとジェイムズは奴隷制度に批判的であったにもかかわらず北軍への参加を躊躇する。結局、従軍するか否かを迷っている間に南北戦争が終結してしまい、このことがジェイムズに深い苦悩をもたらす。[4]
その後、シラキューズ大学を卒業する。1865年に博物学者ルイス・アガシのブラジル探検に参加した。そこで生物学に興味を持つようになり、ハーバード大学で医学を学び解剖の技術を身につけ、1872年に学位を取得した(30歳)。ハーバード大学で生理学・解剖学や心理学を講じる。
1875年には、アメリカでは初めて心理学の実験所を設立、米国の心理学の祖となる。同年にドイツで、ライプツィヒ大学の哲学教授となり、実験心理学を打ち立てたのが、ヴィルヘルム・ヴントである。1878年には、スタンレー・ホールにアメリカで最初の心理学の博士号を授与した。ジェームズはやがて、スペンサーの哲学(社会進化論)やシャルル・ルヌーヴィエの思想に興味を抱き、生理学だけでは人間の精神状態を説くのに十分でないと疑問を抱きはじめ、哲学の道を歩むことになる。
心理学の研究と並行して、1880年にはハーバード大学で哲学の助教授に、1885年に教授になる。ジョージ・ハーバート・ミードも彼の講義を受けたひとりである。1890年には、彼の記念碑的研究書『心理学原理』、1897年に講義録『信ずる意志』、1901年に『宗教的経験の諸相』をそれぞれ刊行した。1904年に『純粋経験の世界』、1907年に『プラグマティズム』を刊行、当時のアメリカを代表する哲学者になった。心理学の面では、彼の誘いでヒューゴー・ミュンスターバーグが1897年に、ハーバード大学の応用心理学の教授となった。
1910年に心臓病で死去したが(68歳)、その後遺作といえる『根本的経験主義』(1912年)、『哲学の諸問題』(1911年)が刊行された。
生涯の多くをハーバード大学の教授として過ごした。また、ヨーロッパ各地へ旅行し、フランスのアンリ・ベルクソンやウィーン学派の人々などとも交流を深め、自身の哲学にも影響した。ジェームズを通して、シャルル・ルヌーヴィエ、ホッジスン、フェヒネル、パース、サンタヤナ、パピニ、シラー、デューイ、ミュンステルベルク、パウルゼン、ブゥトルーなどの新旧の思想家がアメリカ学会に紹介された。当時アメリカで出版されたばかりの内村鑑三『余はいかにしてキリスト教徒となりしか』に興味を持ち、それを推薦した人からもらった感謝状が残っている。教師としての業績も卓越しており、ソフトで魅力的な語り口のジェームズの講義は、当時の学生たちを引き付けたといわれている。著名人では作家のガートルード・スタイン、ジャーナリストのジョン・リード等が講義をうけている。最高裁判事として有名なオリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニアなどと親交があった。
哲学
ジェームズは「生理学、心理学および哲学におけるまたその間の最初の思想家」である[5]と言われる。
ジェームズはパースと共に[6]徹底的に新しい哲学思考法に精緻化される親しみやすい姿勢を具体化するものおよびディレンマを解決するものとしてプラグマティズムを見ていた。1910年の著書『プラグマティズム:思索の古い方法につけた新しい名称』(英文)で次のように書いている。
我々の思考全ての根にある理解できる真実ははっきりしていても微妙であり、それらのどれも優れたものではないので実際に可能な差異以外の何物にも依存しない。ある対象に関して我々の思考に完全な明晰さを得るには、その対象が持っている実用的な種類の認識できる効果をのみ考える必要がある。つまりそれからどのような感覚を期待し、どのような反応を用意しなければならないかである。
ジェームズは対象間の関係は対象自体と同じくらい現実であると主張するその徹底的プラグマティズムでも有名である。また真理には実際に複数の正しい答えがあると考えることでは多元論者でもある。真理の対応理論を拒否し、真理には信念、世界についての事実、その他背景的信念およびこれら信念の将来的結果を含むと主張した。ジェームズはその後半生で、究極の実在はある種のものであり、精神的でも肉体的でもないという見解である中立一元論を採用するようになった[7]。
超常現象
超常現象に対しても興味を持ち、「それを信じたい人には信じるに足る材料を与えてくれるけれど、疑う人にまで信じるに足る証拠はない。超常現象の解明というのは本質的にそういう限界を持っている」と発言。コリン・ウィルソンによってこれを「ウィリアム・ジェームズの法則」[8]と名づけられた。ウィリアム・ジェームズは神秘体験の4つの特徴として、1.言語化できず体験した本人にしかわからない、2.認識的性質つまり真理の深みを洞察する、3.暫時性つまり長時間続かない、4.受動性つまり自分の意志の働きがなく高貴な力につかまれているように感じる、と定義している[9]。
著書(日本語訳)
- The Principles of Psychology(1890年)
- Psychology,briefer course(1892年)
- Pragmatism: A New Name for Some Old Ways of Thinking(1907年)
- The Varieties of Religious Experience: A Study in Human Nature(1902年) - 通年のギフォード講義を元にした。
- Some Problems of Philosophy: A Beginning of an Introduction to Philosophy(1911年)
- Essays in Radical Empiricism(1912年)
- 『論文集 世界大思想全集(哲学・文芸思想篇)15』 今田恵訳、河出書房、1956年
- 1960年代に『ウィリアム・ジェイムズ著作集』(日本教文社、全7巻)が刊行。(2014-15年に「宗教的〜」以外がオンデマンド版で刊行)
- 『心理学について、教師と学生に語る』(大坪重明訳)
- 『信ずる意志』(福鎌達夫訳)
- 『宗教的経験の諸相』(全2巻)(桝田啓三郎訳、新版:1988年)
- 『プラグマティズム』(桝田啓三郎訳)
- 『多元的宇宙』(吉田夏彦訳)
- 『哲学の諸問題』(上山春平訳)
参考文献
- 伊藤邦武 「第一章 源流のプラグマティズム 2 ジェイムズ」『プラグマティズム入門』〈ちくま新書〉2016年、64-87。ISBN 9784480068705。
脚注
- ↑ フローレンス・ウィリアムズ 『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』 NHK出版、2017年。ISBN 978-4-14-081718-6。
- ↑ 「訳者あとがき」 W. ジェームズ『心理学〈上〉』今田寛訳、岩波文庫。1992年。ISBN 400336404X。334-335ページ。
- ↑ 清水書院「新訂版 倫理 資料集」211ページ
- ↑ 宇野重規著『プラグマティズム』(『政治哲学』岩波書店)
- ↑ "William James" at SEPRetrieved on July 30, 2009
- ↑ See "Pragmatism (Editor [3])", c. 1906, especially the portion published in Collected Papers v. 5 (1934), paragraphs 11-12.
- ↑ "Neutral Monism" at the Stanford Encyclopedia of Philosophy Retrieved September 9, 2009
- ↑ コリン・ウィルソン 『コリン・ウィルソンの「来世体験」』 三笠書房、1991年、225頁。ISBN 4-8379-5472-3。
- ↑ 高橋紳吾『超能力と霊能者』1997年、岩波書店、ISBN 4-00-026078-2、39-40頁。
- ↑ http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/759764