専守防衛

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専守防衛(せんしゅぼうえい、英語: Exclusively Defense-Oriented Policy[1])とは、第二次世界大戦後の日本で練られている防衛戦略である。戦略守勢とも言う。

概要

戦前の大日本帝国が「やられるかもしれないから先手を打つ」で世界を敵に回し日本を壊滅させかけた十五年戦争の反省から、専守防衛は戦後の日本(自衛隊)の基本的な防衛戦略とされてきた。自衛隊の基本戦略戦術思想の根幹を成している。防衛上の必要があっても相手国に先制攻撃を行わず(自ら戦端を開く事はそのまま武力衝突、状況によっては全面戦争につながる)、侵攻してきた敵を自国の領域において防衛力(軍事力のうち、予防的なものも含めた他国への攻撃力・打撃力を除いたもの)を以って撃退する方針のことを意味する。当時の吉田茂内閣の「近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成を具えるもの」と統一見解に由来する。

ここで言う近代戦争遂行に役立つ程度とは、「よそへ出て行つて戦争をするというのは、自衛のためであつても、何というか近代戦争を遂行するに足る能力がなければ、そこまで出て行つてはできない」「一般に外に出て戦い得るようなちやんとした装備と編成を持つているものは、やはり戦力の部類に入る」(岡崎国務大臣)の発言のように相手国に侵攻や攻撃する能力(攻撃力・打撃力)を指し、誘導弾の迎撃や侵攻部隊の撃退する能力(防衛力)は近代戦争遂行に役立つ程度には当たらない。

その内容は、全般的な作戦において、相手の攻撃を受けてから初めて防衛力を行使すること、その程度は自衛に必要最低限の範囲にとどめ、相手国の根拠地への攻撃(戦略攻勢)を行わないこと、国土(自国領域)及びその周辺(北海道周辺海域や日本海、東シナ海)において防衛を行なうことなどである。戦力不保持・交戦権否認を規定する日本国憲法第9条と整合性を持った受動的な防衛戦略とされている(もっとも、同条の解釈については種々の議論がある)。

なお、ドイツ連邦軍も、第二次世界大戦の反省から、かつては専守防衛を原則としてきた。しかし、1990年代カンボジアソマリアユーゴスラビアに派兵するようになっており、またドイツ最高裁判所は、議会の承認を得たものなら海外派兵は憲法違反ではないとの判断を下している。ドイツ軍が現地で殺害に加担したり、戦死者を出すようになっており、ドイツにおいては専守防衛の原則は過去のものとなっている[2]

問題

スタンドオフ攻撃への対応

専守防衛では戦略攻勢は認められておらず、自衛隊による攻撃型兵器(弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機潜水艦発射弾道ミサイルを含む原子力潜水艦、いわゆる攻撃型空母など)の保有はこの原則に反すると解されている。そのため、たとえば相手国が自衛隊の保有兵器よりも長射程の兵器で日本を攻撃(スタンドオフ攻撃)した場合、その射程を生かし自由かつ安全に攻撃を行うことが可能となるので、これに対抗することが必要となる。

日本の防衛戦略上、このような対抗手段として現在位置づけられているのは自衛隊による対空誘導弾による迎撃と日米安全保障条約に基づくアメリカ軍の攻撃力である。もっとも、このような攻撃力の行使は、アメリカ合衆国の意思に依存するものであり、また条約における日本防衛義務の趣旨についても争いがある。このため、有事において日本を防衛できない可能性を指摘されている(その反対に米国による戦争に巻き込まれるのではないかという危険も指摘されている。同盟のジレンマ)。 巻き込まれ論に対しては安保法制で自国の存立危機になれば密接な国の防衛も可能となり、何を持って自国の存立危機なのか非常にあいまいで時の政権が密接な国(米国など)の要求をはねのけることができずに巻き込まれるのではとの指摘がある

先制攻撃の禁止

日本は大陸とやや近い位置にあり、またその国土の形状は南北に長い一方で縦深性が低い。したがって、相手国による攻撃がなされた場合、初期段階で作戦地域となりうる範囲が広大になる可能性もあり、前記のような国土の形状のため、防衛上の時間的猶予は周辺海域(北海道周辺海域や日本海、東シナ海)がある為、多少あるが限られると指摘もされている。そのため、弾道ミサイルにはミサイル防衛で、戦略爆撃機を用いた攻撃に対しては空自のスクランブル(対領空侵犯措置)などで対処してるが、防衛が困難な地理的な環境にあると指摘もある。

このような分析を前提に、専守防衛による先制攻撃の禁止は、防衛を困難にしているという指摘がある。この弱点を克服するためには、一つは平素からの部隊配置でありこちらは日本の国土の要所に部隊配備は済んでおり、もう一つは相手国の軍事的な動向を迅速かつ正確に把握できる情報収集の体制を整備したうえ、本格的な侵攻の兆候に応じて迅速に部隊を展開できるようにすることが必要ということにある。日本はこの点での整備・能力向上は全国28か所のレーダーサイト早期警戒機早期警戒管制機情報収集衛星の整備により一通り完成(海自の、平素からP-3C哨戒機などにより、北海道周辺や日本海、東シナ海を航行する船舶などの状況を、空自の、全国28か所のレーダーサイトとE-2C早期警戒機E-767早期警戒管制機など、内閣衛星情報センター運用の情報収集衛星などにより、わが国とその周辺の上空を、また、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所など、24時間態勢で警戒監視)してるが、米国の情報収集能力(偵察衛星など)に依存もしていると指摘されている。

国民保護の重要性

国土(自国領域)及びその周辺(北海道周辺海域や日本海、東シナ海)において防衛を行なうために国民への被害が出るなどの指摘もある。そのため、住民の被害を最小化して国民生活を守り、効率的かつ円滑に作戦行動するために軍民一体の体制を整備することが必要であり、そのために有事法制国民保護法国民保護、国際的には民間防衛に相当)の整備がなされた。

議論

専守防衛により許容される攻撃の程度については曖昧さを含んでいるとされている。敵からどの程度の攻撃を受けたら反撃が可能なのか、またその際どの程度の攻撃までが可能なのかについては、度々議論がなされる。一般的には、この点の政府の考え方は拡大化の傾向にあると考えられている。個別的か集団的かに関わらず、自衛権とは必ずしも日本の領域に留まるものではないということは、従来の政府による国会答弁でも確認されている(在外邦人保護のための自衛権行使について公海上の自衛権行使の是非参照)。しかし、こうした政府解釈等に対しては、憲法解釈上の問題も指摘されており、反対論や異論が存在している。

武力攻撃事態における自衛権

議論の中で今日、最も大きな議論は敵基地攻撃の合憲性等についてである。有事法制をめぐる議論において、日本政府は、弾道ミサイル攻撃や核兵器攻撃に対し他国を攻撃する以外に自国を守る手段がない場合であれば他国への攻撃も攻撃の着手があれば自衛権の行使の範囲内であり、日本国憲法9条に抵触しないという見解を示している。ただし、専守防衛で相手国の根拠地への攻撃(戦略攻勢)を行わないとされており敵基地攻撃は不可能であり、憲法とその整合性を持った受動的な軍事戦略の専守防衛の考えにより迎撃能力向上が望ましいとされ能力向上に努めてきた。 なお、2005年7月22日、改正自衛隊法の成立により、発射の兆候なしにミサイルが飛来した場合、緊急対処要領に基づき防衛庁長官(現・防衛大臣)の権限により現場指揮官への迎撃命令が可能とされた。

専守防衛に関する誤解

専守防衛を本土決戦と同義だと言われることがあるがこれは誤解である。専守防衛は国土(自国領域)及びその周辺海域(北海道周辺海域や日本海、東シナ海)において防衛を行なうことで、本土決戦とは第二次世界大戦時の日本本土への連合軍陸上戦闘に対する日本側の呼称でこれは現在で言うところの着上陸侵攻にあたり、周辺海域で防衛する専守防衛と本土決戦は明確に違う。

また、専守防衛は弱いと言われることもあるがこれも誤解で専守防衛の場合、まず始めに周辺海域で海自の第1~第4護衛隊群潜水艦、各地域を担当してる空自の飛行隊により侵攻部隊を迎撃する。これを突破したとしても地域配備されてる第11~第15護衛隊や地方隊の艦艇、飛行隊、陸自の地対艦誘導弾で迎撃し、これも突破された場合に着上陸侵攻が行われる。車両など着上陸できるような場所はかなり限られており、上陸される場合も陸自の水際地雷(機雷)、対戦車地雷対人障害システムなどによる地雷原、普通科保有の対戦車誘導弾小銃迫撃砲多目的誘導弾戦闘ヘリコプター戦車又は機動戦闘車、各種自走砲・多連装ロケット又はりゅう弾砲による集中砲火による殲滅、防空に関しては飛行隊や長SAM(PAC-2)中SAM(中距離地対空誘導弾)短SAM(短距離地対空誘導弾又は基地防空用地対空誘導弾)近SAM(近距離地対空誘導弾携帯地対空誘導弾など)による3重、4重の迎撃態勢と冷戦時ソ連を相手に大規模侵攻があると予想した上で考え抜かれた防衛戦略で諸外国と比べても練度や装備の質が高水準で防衛力が非常に強力で島国かつ国土の約73%が山地が占めると言う侵攻しづらい地形的有利もあり日本に侵攻は非常に困難と言える。

脚注

  1. Fundamental Concepts of National Defense”. 防衛省. 2016年11月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2017閲覧.
  2. ジェーソン・オーバードーフ (2013年11月12日). “専守防衛を捨てたドイツ軍の行く先は”. ニューズウィーク. http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2013/11/post-3098.php . 2016-1-31閲覧. 

関連項目