廻し

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廻しを締めて相撲をとる力士(左・豊ノ島大樹、右・安美錦竜児

廻し(まわし)は相撲競技で用いられる用具。で作られ、相撲競技者の腰部を覆い、重心部となる腰や腹を固めて身を護り、更に力を出すために用いられる[1]ふんどしの一種。まわし回し締め込み、相撲褌とも表記され、

稽古廻しや幕下以下の力士、アマチュア競技者が締める廻しは雲斎木綿または帆布と呼ばれる硬い木綿布で出来ている。これは転倒時の怪我の防止と身体の保護や取組みでの技を掛けることを目的としている。

廻しの締め方

廻しは相撲にとっては欠かせない用具であるので調製は念入りに、丁寧な取り扱いを必要とされる。締め込む際は心身共に緊張させ、邪念、汚心を去り、清明、明朗の心境を以て締め込まなければならない[2]

着装の際には通常補助者を必要とし、以下の手順で着装する(アマチュア用木綿廻しの場合)。

  • 長さは6m(青年男子用)程度、幅45cm程度の帆布(消防のホース生地などに用いられる)を四つ折りにして、前部(前袋)は二つ折りで前端を押さえて陰部を覆い、八折りにして股間を跨ぎ、その後の腰回り部分(横褌)から再び四つ折りにして左回りに身体に3〜4回巻き付けて、最後に後端を八折りにして縦褌(たてみつ)に巻き付けて結ぶ。基本は前垂れ式の六尺褌の締め方に似ているが前垂れは畳んで横褌に挟み込み、わずかに覗かせるだけである。補助者は、後立褌の下に巻き終わりの先端を通して上に引っ張り上げる。着装者は腰を落とし締め上げる。ここを疎かにすると競技中に廻しが解けてしまう原因となる。ただし体に負担が掛かるほど締め上げる必要はない。解く時はその逆となる。

長さは自分のウエストの約7〜10倍の長さとされ[3]、4.5m〜9m程度と個人の体型によって異なる。主に白色が多いが、一部では黒色や水色等がアマチュア相撲競技者の間で用いられている[4]。大相撲に於ける廻しの色に関しては後述する。

着装時には下に何も着けないことが原則であるが、力士の場合は化粧廻しを締める際には下に六尺褌を締めているといわれる[5]

廻しは確実に締め込まなければならない。「ゆるふん」は故意に相手を不利に陥れようとする狡猾なる手段として、相撲道に反する最も戒むべき行為であるとされている[6]

廻しの取り扱い

新品の廻しはが効いていて、非常に堅く、稽古を通して発汗する汗を吸い込むことで身体に馴染むようになる。廻しに付く汗や泥の汚れが各競技者で違うことで廻しの使用者の特徴が出てくる。このため、相撲道場などで干し掛けられた各競技者の廻しの中から容易に自分の廻しを見分けることができると言われている。

締め込みは材質の問題から、洗濯を重ねると生地がへたって廻しの持つ身体の保護機能を失ってしまうため、また験担ぎ(げんかつぎ)の意味からも、廻しは基本的に洗濯をしない。ただし、木綿製のものは新品だと型崩れ防止のため洗濯糊で糊付けされている場合があるので、これを落とすために洗うことがある。一度洗って糊を落とすかまたは何も処理せずに使い始めるかに関しては、各競技者の好みの問題でもある。その他、自分の師匠が亡くなった時だけは例外的に廻しを洗濯することが認められている。

洗濯しない理由は、特に安価な木綿廻しの場合、使用に耐えないほどの汚れの場合には廃棄して新調してしまうからという側面もある。洗濯を実施している相撲教室などもある。

なお、洗濯しないからと言って湿ったまま放置して良い訳ではなく、使用後は泥を落として天日干しをすることが推奨される。前袋、立褌になったところの内側(陰部が当たっていたところ)を消毒用アルコールで清拭することもある。

アマチュア相撲では原則として廻しの下には何もつけず、素肌に締める。しかし廻しの衛生対策は日干しをする程度だけで、原則洗濯を行わないことから、衛生上の理由で相撲用サポーターや六尺褌、または水着を用いて、その上から廻しを締める競技者もいる。また、近年では相撲が海外や女性(新相撲)の間でも普及するようになったことから、競技者の一部には臀部の露出を嫌い、スパッツショートパンツレオタードの上から廻しを締める例も出ている。

わんぱく相撲までは全国で5万人を越える参加者がありながら、中学生以上になると競技者人口が激減していることから、アマチュア相撲を統括する、財団法人日本相撲連盟は中学生以上の競技人口を増やす措置として、競技規則を改正し、「児童及び生徒は廻しの下に紺又は黒色のアンダーパンツを着用することを原則とする」と2007年に競技規則を改正した。ただし、「国技館での競技はこの限りではない」として、小中学生の相撲競技ではアンダーパンツの着用を義務付けた。また、後述する相撲パンツ・簡易廻しといったものを利用する事も容認されている[7]

大相撲では廻しの下には何もつけず、素肌に締めているが、負傷箇所を保護するための包帯やテーピング等を着ける事までは制限されていない。十両以上の関取は稽古用の白い廻し(泥廻し、木綿)と取組用の繻子廻し(締め込み・取り廻し、)の2種類を使い分ける。幕下以下の力士は取り廻しと稽古廻しの区別はなく、本場所でも稽古廻しを使用する。

大相撲では稽古廻しの色は厳密に区別されており、十両以上の力士だけが白色で、幕下以下の力士は黒色の廻しと決められている。上下関係が厳しい番付社会の相撲界で、力士は初めて白い稽古廻しを締めたことで自分の番付が昇したことを感じると言われている。なお、普通の稽古廻しを締めた力士に混ざって締め込みで稽古をする力士の映像が存在するがこれは新十両が決定した力士や締め込みを新調した力士が締め込みに慣れる目的で行なっているものである。

関取の取り廻しは日本相撲協会による規定では紺・紫色系統のものを使用することと定められているが、カラーテレビの普及と共に色とりどりの廻しが咲き乱れることとなり、実際は白でなければ黙認されており、事実上自由となっている。昭和32年11月場所で玉乃海太三郎が締めた金色の廻しが「カラー廻し」の始まりとされる。昭和33年9月場所、協会規定により関取資格者は廻しの色を黒か紺に統一することにしたが、その後も輪島高見山など個性的な色調の廻しで人気を博した関取は少なくない。

北の富士の現役時代には、体になじむまで何年もかかるという考えから、取り廻しは1人につき1本だけしか持たないのが普通であり、痛んだらそのたびにミシンで修繕した[8]

前垂れ・さがり

かつて幕内力士の取組には、後述の化粧廻しが使われていたことが当時の錦絵等の記録に残されているが、前垂れの部分が邪魔になり不便であったことから、現在の締め込みに変わった。その際に外された前垂れの名残として、さがりが取り付けられた。かつてはただの紐であり、前垂れ同様に廻しに固定されていたため、これで指を負傷する力士が多く、この対策として現在の抜けるさがりになった。なお現在関取のさがりはふのりで固められている。取組中に折れることが多いが、濡らした後まっすぐに戻して干しておけば直る。本数は力士の体格によって変わるが、17本前後が原則で、必ず奇数と決められている。幕下以下の力士も取り組みの際にはさがりをつけて土俵に上がるが、こちらはふのりで固められておらず縄のれんのようになっている。幕下以下の場合、さがりの色は原則自由[9]

「さがりが取組前に外れると反則負けになる」という俗説があるが、そのような事実は無い。そもそも、さがりは取組中の激しい動きによって外れるため、意識的に外さない限り取組前に外れることはまず無い。そのため、実際に取組前にさがりが外れた事例はほとんど無い。最初の取組中にさがりが外れた後、物言いを経て取り直しとなった場合は外れたさがりをつけ直すことはなく、さがり無しで取り直している。

廻しをめぐる戦術と勝負規定

廻しは、相撲の取組中において、力士が握りこんで力を出すために使われる。主として相手力士のそれを摑んで引き寄せつつ、押し込む。あるいは廻しを片手に摑んで投げる。

廻しは基本的に固く締めるが、わざと緩めに締めたり、柔軟な体質のためにすぐ緩んだりして、廻しを取った相手の力を十分に出させない戦術を使う者もいる(例:照國大麒麟若嶋津旭富士武双山、など)。「ユルフン」と呼ばれ、ときに非難の対象となる。「ユルフン」の対義語として顕著に固く締め込む「カタフン」という概念もあり、2代目若乃花千代の富士貴闘力琴奨菊などがその代表である。多くの場合小兵が廻しを切りやすくするための努力として行う。

相手の前袋を摑んで引いたり、横から指を突っ込むことは禁じ手とされている。後立褌の場合は、行司(審判)が注意して組み手を変えさせられる。

相撲規則の勝負規定では廻しが緩んで前褌(まえみつ)が外れ落ちる、局部が露になった場合と反則負けとされている[10](いわゆる不浄負け)。

一方、廻し前部の垂れ(前垂れ)が砂についたとしても、局部が露にならない限り負けとなることはない[10]。2017年3月26日、大相撲春場所の千秋楽の取組で西山(尾上部屋)の緩んだまわしの前部が土俵についたため審判員が反則負けを通告したが、後日誤審と見なされ同取組の審判員5人が当時の二所ノ関審判長より厳重注意処分を受けた[10]

化粧廻し

化粧廻し(けしょうまわし)は、大相撲の関取土俵入りの際に締める儀式用の廻しである。長さ8m、幅68cmの長い博多織の布の先端に豪華な刺繍と馬簾(ばれん)の付いたエプロンのような大きな前垂れを持つ高価な廻しである。

横綱の場合は本人の分の他に太刀持ち、露払い役の力士の分も含めた三つ揃い(いわゆる三点セット)である。協賛企業や出身校などのスポンサー(後援会、タニマチ)から贈られるものが多い。

新弟子前相撲を終え、新序披露される際にも化粧廻しを着けて土俵に上るが、その際には部屋の兄弟子や親方から借りて着用している。

なお、前垂れ部分のみで構成され、エプロン状に仕立てられたものが祭用や子供用に作られる。歌舞伎や一部の歌舞伎舞踊でも使われ、伊達下がりと呼ばれる。

現在では関取になればすぐに新品の化粧廻しが後援者から贈られるが、1960年代の頃は関取に定着するまで兄弟子のおさがりを使用することがあった。北の富士の場合は兄弟子の佐田の山の化粧廻しをしばらく流用し、元の名前の書いてあるところの刺繍を剥がして自分の名前にして使用していた[11]

化粧廻しの馬簾の色にを使えるのは、横綱・大関・元大関及び横綱土俵入りの太刀持ち・露払いを務める者に限られている。紫以外の馬簾の色については特に制限はない。

簡易廻し・相撲用サポーター等

学校で相撲を履修している場合やアマチュアの選手の場合においては、スパッツやショートパンツの上から締めたり、相撲パンツと呼ばれる腰部に横廻しと同じ位の太さのベルトが巻かれたショートパンツで代用する事もある。

小学生以下用に簡易廻しと呼ばれる、ショートパンツの上から着装する専用のものもある。最近は相撲用サポーターという商品も販売されている。

なお、ショートパンツの上から廻しや簡易廻しを着装する場合には、格闘技である事を考慮して、なるべく体に密着したものを使うことが望ましい。同様にボタンやフックのような金具類が付いていないほうが受傷し辛いと言える。

スパッツやショートパンツの上から締める場合や相撲パンツ、簡易廻し、サポーターを使用するメリットは、

  1. 汗などを吸い取ってくれるため、清潔を保ちやすい。
  2. デリケートな部分であるため、直接締めると予期せぬダメージを負う可能性があり、これを低減できる。
  3. 臀部を露出することに抵抗のある人であっても相撲を楽しむことが出来る(小学生女子の場合は体操着に簡易廻しという組み合わせが、新相撲競技に於いてはレオタードに廻しの組み合わせが一般的)。
  4. 廻しの下に一枚あるため、万が一解けてしまっても局部露出のリスクが低減できる。ただし、局部が見えなかったからといって「不浄負け」の反則が回避されるわけではない。
  5. 相撲パンツ、簡易廻しに限ったことだが、極めて安価であるため、金銭的な負担が少ない。ただし、廻しそのものも高級品を除けば他のスポーツのユニフォームと比べて特に高価という事もない。

「廻し」に関連した諺や成句

  • 他人の褌で相撲を取る。
  • 緊褌一番
そのほか、前出の「ユルフン」なる語句は、政府などが外交問題などで弱腰な態度を取っている際に新聞・雑誌記事では、その事に対する批判的な文脈で登場することがある。

参考文献

脚注

  1. [佐渡ヶ嶽高一郎著 相撲道教本 135ページ]
  2. [佐渡ヶ嶽高一郎著 相撲道教本 135ページ]
  3. 一部の通販サイトでの表記に拠ると少年用で自身のウェストサイズの4倍+100cm、成年用で自身のウェストサイズの4倍+160cmが一応の目安との表記あり。
  4. 1990年代より日本大学相撲部は黒色、2000年代より埼玉栄高校はスクールカラーの橙色、報徳学園高校は同じくモスグリーンの廻しを大会出場時に使用。
  5. 4関取の化粧廻し
  6. [佐渡ヶ嶽高一郎著 相撲道教本 135ページ]
  7. [月刊武道 2010年2月号 191ページ]
  8. 北の富士勝昭、嵐山光三郎『大放談!大相撲打ちあけ話』(新講舎、2016年)p31
  9. 週刊ポスト2018年3月23・30日号
  10. 10.0 10.1 10.2 土俵にまわし「前袋」、反則負けに…実は誤審でした 朝日新聞、2017年3月26日
  11. 北の富士勝昭、嵐山光三郎『大放談!大相撲打ちあけ話』(新講舎、2016年)P133

関連項目

フォーク歌手・なぎら健壱の楽曲。取り組み中に汗で湿った廻しが滑って落ちる、という内容のコミックソングだが、実際には、廻しは濡れた方が滑りにくくなる。

外部リンク

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