しゃぶしゃぶ
しゃぶしゃぶは、ごく薄く切った肉を食卓の専用鍋に煮え立たせただし汁に数回くぐらせて加熱し、タレにつけて食べる日本の鍋料理である。タレはポン酢とゴマダレが一般的である。
概要
肉は主として牛肉であるが、その他にも豚肉や鶏肉、またフグ、タコやブリ、タイ、ズワイガニなどの魚介類も用いられる。牛肉を用いたものを「牛しゃぶ」、豚肉を用いたものを「豚しゃぶ」ともいう。生肉として食せる鮮度の肉を使用する。
肉を別途加熱したあとで冷やして野菜など他の食材とともに盛りつけて提供するものは冷しゃぶと呼ばれる。
日本各地のしゃぶしゃぶ
- 北海道 - タコを用いた「たこしゃぶ」や羊肉を用いた「ラムしゃぶ」、キンキ(キチジ)を用いたキンキのしゃぶしゃぶがある。
- 名古屋 - 名古屋コーチンを用いた「鶏しゃぶ」がある。
- 富山県 - 鰤を用いた「鰤しゃぶ」がある。
- 関西地方 - 鱧の身を使った「鱧しゃぶ」がある。
- 鹿児島県 - かごしま黒豚を用いた「黒豚しゃぶ」などがある。
歴史
名称
「しゃぶしゃぶ」の名称は、1952年(昭和27年)に大阪の永楽町店スエヒロの三宅忠一が、自店の料理として出す時に命名したもので、従業員がたらいの中でおしぼりをすすぐ様子が鍋の中で肉を振る様子と似ていることや、その際に立つ水の音がリズミカルで新鮮に響いたことが始まりとされている[1]。1955年(昭和30年)に商標登録されているが、スエヒロが商標登録したのは「しゃぶしゃぶ」ではなく、「肉のしゃぶしゃぶ」である。しゃぶしゃぶ専用調理鍋の中央にある煙突状の円筒は、開発当時七輪で鍋を加熱した際に要した排気経路である。鍋の直径が七輪のそれよりも大きいため、不完全燃焼を回避する必要から設けられたが、煙突効果によって火力が増強される副次効果も得られた。元々はそこから炭を入れるためのものでもあった。
起源
しゃぶしゃぶは日本料理であるが、起源については諸説ある。
フビライ・ハーンの侍医である忽思慧の考案によるとされる[2]北京の火鍋料理に「涮羊肉(シュワンヤンロウ、ピンイン:shuàn yáng ròu)」という羊肉でしゃぶしゃぶする料理がある[3][4]。
1944年(昭和19年)に初代が廃業した京都の料理屋「十二段家」[5][6]を1945年(昭和20年)9月に再興した二代目の西垣光温に、鳥取市出身で民芸運動の指導者であった吉田璋也が、戦時中に軍医として赴任していた北京の料理を伝え、西垣は、吉田の他、交流のあった柳宗悦や河井寛次郎らの助言を得て、羊肉を牛肉に替え、日本人に合うゴマダレを開発し、鍋を熱伝導の良い銅で作り、2年近く試行錯誤を重ねて、今日の形となったという[7]。そして1947年(昭和22年)に「牛肉の水炊き」として売りに出され、新しい味は評判を呼び、さらに民芸運動に携わる人たちによっても、日本全国に広まっていった。
ただ、中国の鍋料理である火鍋に用いられる食材は、日本のしゃぶしゃぶのように、すぐに火が通るものばかりではなく、しばらく煮込む必要がある食材も多い。なお、吉田によるしゃぶしゃぶの原型「牛肉のすすぎ鍋」は、鳥取市のたくみ割烹で供されている。
脚注
- ↑ ニュースリリース(2003年11月28日) - ミツカングループ企業サイト
- ↑ 辰巳洋「医在厨房:金元時代の食文化」、『漢方と診療』第1巻第4号、2010年11月、 p.280、 ISSN 1884-5991。
- ↑ 『「火鍋」とは?』 モラタメ.net ハウス食品株式会社
- ↑ 元来は羊肉を使ったイスラム料理の一種。
- ↑ “十二段家WEBサイト”. 2014年12月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2014閲覧.
- ↑ 読売新聞夕刊2014年12月9日2面「はじまり考」
- ↑ 「しゃぶしゃぶの極意」 日本料理としゃぶしゃぶの店 禅八