電子工学
電子工学(でんしこうがく、英: Electronics、エレクトロニクス)は、電気工学の一部ないし隣接分野で、電気をマクロ的に扱うのではなく、またそのエネルギー的な側面よりも信号などの応用に関して、電子の(特に量子的な)働きを活用する工学である。なお、電気工学の意の英語 electrical engineering に対し、エレクトロニクス(electronics)という語には、明確に「工学」という表現が表面には無い[1]。
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工学
電子工学(英: Electronic engineering)は、非線型な能動素子(特にトランジスタ、ダイオード、集積回路といった半導体素子)を利用して電子回路、電子部品、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラなどの電子システムを設計する工学の一分野である。一般には、プリント基板に基づく受動素子も設計する。
他学問との関係
電気工学と対比させた場合、電気工学で扱う発電、送電、電力の制御や応用といったものを強電といい、電子工学で扱うものは弱電という。
今日、ほとんどのエレクトロニクス技術では半導体素子を使って電子を制御するため、半導体素子やそれに関連する工学、物理学と関係が深い。より応用に近い電子回路の設計や構築は電気工学と関係が深い。
電子工学に熟達するには、回路解析の数学にも熟達する必要がある。回路解析は、回路内の特定の点の電圧(電位)や特定経路を通る電流といった値を変数として、一般に連立一次方程式から値を求める技法を指す。このための解析ツールとして、SPICE回路シミュレータなどがある。また、電子工学の理論には電磁気学も重要である。
歴史
リー・ド・フォレストが三極管を発明した1906年ごろ、電気工学から電子工学が派生した。
三極管は、電気信号を増幅可能な初の機械的でない能動素子である。この分野は1950年ごろまで無線工学とほぼ同義であり、無線送信機と受信機、それらに使用する真空管をはじめとする電子管についての設計や理論的研究が中心だった。
下位(あるいは上位)区分
電子工学は以下のような下位区分を含む。あるいはむしろこれらは上位分野で、それを下支えするのが電子工学である。
教育
日本では、大学や高等専門学校、工業高校など技術系学校の学科名(の固有名詞)の1つとして「電子工学科」が定着している。また、情報通信電子工学科あるいは電子情報通信工学科といった名前の学科では、電子工学のみならず、電気工学全般を学ぶが、従来の「電気工学科」に比べて、情報通信関連の教科にも重点が置かれる。
電子素子と電子部品
電子部品は、電子システム内で電子の振る舞いやそれに関わる力場に決まった形で影響を与え、システムが意図した機能を果たすようにするものである。電子部品は一般に何らかの配線部品(プリント基板にはんだ付けするなど)で相互接続され、増幅回路、発振回路、フィルタ回路など特定の機能を持った電子回路を構成する。電子部品は個別にパッケージングされる場合と、集積回路の形で複合的にパッケージングされる場合がある。よく見られる電子部品としては、コンデンサ、抵抗器、ダイオード、トランジスタなどがある。電子部品はトランジスタやサイリスタなどの能動素子と、抵抗器やコンデンサなどの受動素子に分類される。
回路の種類
電子機器・システムは次の部分に分けられる。
- 入力 - 電子的・機械的なセンサ(または変換器)で、温度、圧力、電磁場等の物理量をシステムの外部から取得し、電流信号や電圧信号に変換する。
- 信号処理回路 - 組み合わされた電子素子により信号を操作し、解釈したり、変換したりする。
- 出力 - アクチュエータや他の素子(変換器も含む)により、電流・電圧信号をシステム外の利用者にとって有用な形態に再変換する。
テレビ受像機を例に挙げると、入力はアンテナやケーブルテレビから得られた放送信号である。テレビ受像機内部の信号処理回路は、放送信号から輝度や色や音声の情報を取り出す。出力は、電気信号をブラウン管やスピーカーによって映像や音声の形態に変換することによって実現される。
電子回路や装置は、アナログとデジタルに分類される。両者の橋渡しを担当するアナログ-デジタル変換回路と、デジタル-アナログ変換回路もある。
アナログ回路
ラジオ受信機などのアナログ電子機器の多くは、数種類の基本回路の組み合わせで構成されている。アナログ回路は連続的な範囲の電圧を使う。
電子回路は1個から数千個の部品で構成されるため、これまでに考案されたアナログ回路は使用している部品の違いを考慮すれば膨大な数になる。
アナログ回路には線型回路もあるが、非線型な効果を持つミキサ回路、変調回路なども多数存在する。アナログ回路の典型例として、真空管やトランジスタを使用した増幅回路、演算増幅回路、発振回路などがある。
最近では完全にアナログだけの回路は滅多にない。アナログ回路であっても性能を改善するためにデジタル回路やマイクロプロセッサ技術を利用していることが多い。そのような回路は一般に "Mixed Signal" と呼ばれる。
アナログ回路もデジタル回路も線型な素子と非線型な素子を使っているため、区別の難しい場合もある。例えばコンパレータは連続的に変化する電圧を入力としながら、デジタル回路のような2つの電圧レベルのどちらかを出力する。
デジタル回路
デジタル回路はいくつかの離散的な電圧レベルをとる電子回路である。デジタル回路はブール論理を物理的に実装した最も一般的な形態であり、すべてのデジタルコンピュータの基盤である。ほとんどのデジタル回路は2つの電圧レベルをとり、"Low"(0) と "High"(1) として使用する。"Low" は0V付近ということが多く、"High" は電源電圧に依存して決まる。
コンピュータ、デジタルクォーツ時計、プログラマブルロジックコントローラ(生産工程の制御で使用)などはすべてデジタル回路で構成されている。他にはデジタルシグナルプロセッサもある。
基本回路としては以下が挙げられる。
高集積部品としては以下が挙げられる。
- マイクロプロセッサ
- マイクロコントローラ
- ASIC (Application-specific integrated circuit)
- デジタルシグナルプロセッサ (DSP)
- FPGA (Field-programmable gate array)
放熱
電子回路は熱を発生するため、誤動作を防ぎ長期間の信頼性を確保するには放熱が重要となる。放熱技法としてはヒートシンクやファンによる空冷、コンピュータの放熱に見られる水冷などがある。放熱システムの設計にあたっては、対流、熱伝導、熱エネルギー放射などを利用する。
ノイズ
電子回路にはノイズが付き物である。この場合のノイズとは、電気信号に重なっている好ましくない変動で、電気信号の内容である情報を不明瞭にする傾向がある[2]。ノイズは回路に起因する信号の歪みとは異なる。ノイズは電磁気や熱によって発生し、回路の温度を低く保てば低減させることができる。その他のノイズとしてはショットノイズなどがあるが、これは電子回路の物理特性の限界に起因するため、除去できない。
CAD(コンピュータ支援設計)
今日のエレクトロニクス設計技師は、電源回路、半導体素子(トランジスタなど)、集積回路といった既存の要素を組み合わせて電子回路を設計する。その際に使用するEDA(電子設計自動化)ソフトウェアは、回路エディタ機能やプリント基板設計機能を備えている。
組み立て技法
電子部品を相互接続するに当たっては、さまざまな技法が長年使われてきた。例えば、初期の電子システムでは部品を木製の板(ブレッドボード)に固定し、それらを空中配線することで回路を構成していた。他にもコードウッド型配線(図参照)やワイヤラッピングなどが古くから使われてきた。現在ではガラスエポキシ基板などのプリント基板が主流で、より安価な紙フェノール基板(黄色から茶色の色が特徴)も使われている。近年、電子機器の健康や環境への影響が懸念されるようになってきており、特に欧州連合(EU)向けの電子機器についてはRoHS指令やWEEE指令が2006年7月に施行されている。
団体
- 業界団体
-
- EIA(アメリカ電子工業会)
- JEITA(電子情報技術産業協会)
脚注・出典
参考文献
- Paul Horowitz and Winfield Hill (1989), The Art of Electronics (Second ed.), Cambridge University Press, ISBN 9780521370950
- Online course on Computational Electronics on Nanohub.org
関連項目
- エレクトロニクス用語一覧
- 電気工学・電気計測工学・電力工学・電磁気学
- 通信工学・無線工学・伝送工学・交換工学
- コンピュータ・情報工学・計算機工学
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