オキシトシン
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IUPAC命名法による物質名 | |
3-(19-amino-13-sec-butyl-7-(carboxymethyl)-4-(2-(1-(carboxymethylamino)-5-guanidino-1-oxopentan-2-ylcarbamoyl)pyrrolidine-1-carbonyl)-16-(4-hydroxybenzyl)-6,9,12,15,18-pentaoxo-1,2-dithia-5,8,11,14,17-pentaazacycloicosan-10-yl)propanoic acid | |
臨床データ | |
胎児危険度分類 | A(AU) |
法的規制 | POM (UK) ℞-only (US) |
投与方法 | 点鼻、点滴静注、筋注 |
薬物動態的データ | |
生物学的利用能 | nil (oral) |
代謝 | 肝臓(オキシトシナーゼ) |
半減期 | 1-6 分 |
排泄 | 胆汁、腎臓 |
識別 | |
CAS登録番号 | 50-56-6 |
ATCコード | H01BB02 |
PubChem | CID 439302 |
DrugBank | BTD00016 |
KEGG | D00089 |
化学的データ | |
化学式 | C43H66N12O12S2 |
分子量 | 1007.19 g/mol |
オキシトシン(Oxytocin, OXT)は、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである (Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly)。「幸せホルモン」、「愛情ホルモン」とも呼ばれ、ストレスを緩和し幸せな気分をもたらす[1]。
Contents
基本的特徴
2つのシステインとチロシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギンで大きな環を作っており、環の中の2つのシステインのそれぞれの硫黄原子がジスルフィド結合をし、1つのシステインから3つのアミノ酸(プロリン、ロイシン、グリシン)が分岐した構造を取っている。
同じく下垂体後葉ホルモンであるバソプレッシンと構造が似ており、アミノ酸2つだけが違う。
作用
オキシトシンには末梢組織で働くホルモンとしての作用、中枢神経での神経伝達物質としての作用がある。
末梢組織では主に平滑筋の収縮に関与し、分娩時に子宮収縮させる。また乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促すなどの働きを持つ。このため臨床では子宮収縮薬や陣痛促進剤をはじめとして、さまざまな医学的場面で使用されてきており、その歴史は長い。最初は女性に特有な機能に必須なホルモンとして発見されたが、その後、男性にも普遍的に存在することが判明している。また、視床下部の室傍核 (PVN) や視索上核 (SON) にあるニューロンから分泌され、下垂体後葉をはじめ様々な脳の部位に作用し機能を調節している。
分泌調節
オキシトシンの分泌調節はまだわかっていないことが多いが、PVNやSONでのオキシトシン合成量が、血液中へのオキシトシン放出と関係していると考えられている。愛撫や抱擁などの皮膚接触や性交渉による子宮頚部への刺激によっても放出されるため、『抱擁ホルモン』と呼ばれることがある。
何らかの刺激によりPVNやSONのニューロンからオキシトシンが分泌されると、近隣や自己細胞のオキシトシン受容体を通じて、オキシトシン合成がさらに促進される。合成されたオキシトシンはさらに近隣細胞を刺激し、オキシトシン合成量は飛躍的に上がる。このポジティブフィードバックによりある一定の量が合成されると、やがて下垂体後葉にオキシトシンが分泌される。
末梢に放出されるオキシトシンは、神経伝達物質としてのオキシトシンと違いPVN、SONのニューロンでは分泌顆粒の中で前駆体として存在する。この前駆体が視床下部から下垂体後葉へと分泌されると酵素の作用により、オキシトシンになる。このオキシトシンは下垂体後葉に刺激が伝わったときに血液中に放出される。
受容体
オキシトシンの受容体は、Gタンパク質共役受容体でありGqタンパクと結合し、ホスホリパーゼCを活性化させる。バソプレシンとも強い親和性を持つ。中枢神経、子宮、乳腺のほか、腎臓、心臓、胸腺、膵臓、脂肪組織でも発現が確認されている。
人への投与についての研究
オキシトシンは良好な対人関係が築かれているときに分泌され、闘争欲や遁走欲、恐怖心を減少させる。オキシトシンをヒトに投与する実験が行われたが、鼻からの吸引によるこの実験では金銭取引において相手への信頼が増すことが判明。盲目的に信頼したといえ、損害を蒙ってもオキシトシンが再投与されれば再び相手を信頼し、不利な取引契約を締結してしまう[2]。
2010年4月24日、金沢大学「子どものこころ発達研究センター」が知的障害のある自閉症患者にオキシトシンを投与したところ自閉症患者の症状が改善したと発表。主治医の棟居俊夫特任准教授は「知的障害のある患者で効果が確認された例は初めて」とコメントした。またアスペルガー症候群でも効果が確認されたとの報告もある。これを知った同センターに通院する20代の男性が2008年にオキシトシンの点鼻薬を輸入・服用(数か月間)したところ、主治医の目を見て話す、対話中に笑顔を見せる、IQテストが受けられるようになるなどの症状の改善が見られ、その後10か月間の投与でも改善の持続が確認された。男性は3歳で自閉症の診断を受け、以前は他者と目を合わせることができず、オウム返しの反応しかできなかった[3]。
2014年には東京大、金沢大、福井大、名古屋大の4大学で大規模な臨床試験が行われた[4]。また2018年には、オキシトシンを鼻にスプレーすることによってコミュニケーション能力を改善するという治験が開始される[5]。
日本をはじめ世界のすべての国でオキシトシンを自閉症治療に使用することは薬事法で認められていない[6]。
欧州などで授乳促進の適応で承認されているオキシトシン経鼻剤は、我が国においては、授乳促進のための医療目的でも使用を認められていない、国内未承認薬である。自閉症スペクトラム障害に対して、対人コミュニケーションや社会生活の困難さを軽減するような目的でオキシトシン経鼻剤を使うことについては、その安全性や有効性が検証されている途中の段階にあり、そのために現在、臨床試験などが行われている。したがって、効果があるかどうかも、安全かどうかも、まだ確認出来ていない状況にある。この様な安全性や有効性が確認できていない状況での未承認薬の自己使用は容認されるものではない。
オキシトシンの分泌
ヒトの場合、スキンシップによりオキシトシンを分泌させることができる。母親が赤ちゃんを抱っこする、恋人同士が手をつなぐ、性行為などにより大幅に分泌が増加されオーガズムの瞬間には男女ともに分泌される。そのほか、マッサージ、リフレクソロジーなど人により心地よく触られる行為やペットをなでることも効果がある。また直接肉体的なふれあい以外でも、会話、家族団らん、井戸端会議、居酒屋などでの交流などおしゃべりもオキシトシンを分泌させる。こうした行為は人が日常生活において普通に行っていることであり、人は無意識に心のバランスを取っていると考えられている。これらは「グルーミング行為」と呼ばれ、動物が自分自身の毛づくろいをするように人も自分自身の心のケアをしている[1]。
効能・効果
分娩誘発、微弱陣痛、弛緩出血、胎盤娩出前後、子宮復古不全、帝王切開術(胎児の娩出後)、流産、人工妊娠中絶。
参考文献
- ポール・J・ザック 『経済は「競争」では繁栄しない: 信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学』 ダイヤモンド社、2013年。ISBN 978-4478021620。
出典
- ↑ 1.0 1.1 Rhythm(リズム) - オキシトシン分泌を増やす方法とは!? 専門医師が解説! vol.2 有田秀穂 東邦大学医学部名誉教授更 2016.02.24
- ↑ アメリカ「ニューロン」誌『哲学に影響を及ぼす脳科学』
- ↑ 毎日新聞 2010年4月24日付
- ↑ 自閉症で大規模臨床試験 ホルモン投与の効果調べる 共同通信 2014年10月10日付
- ↑ 読売新聞 2018年3月7日 37面。
- ↑ 金沢大学「子どものこころ発達研究センター」オキシトシンの広場