自閉症
従来からの呼称である自閉症(じへいしょう、英語: Autism)、DSM-IVにおける診断名の自閉性障害(Autistic Disorder)
幼児自閉症infantile autismまたは小児自閉症childhood autismともいう発達障害で、広範かつ重篤な全人格的発達障害pervasive developmental disorderの中核的存在とされる障害。出生からほとんど例外なく30か月以内にみいだされる症候群で、現時点ではまだ原因不明であるが、おそらくは生来性のハンディキャップによるものらしいというのが、現在国際的にほとんど一致した見解である。したがって、どのような意味でも生後に発病するものではない。
聴覚ならびに視覚刺激に対する反応は異常であり、通常、話されたことばの理解に重篤な困難がある。言語の発達はほとんど認められない場合もあれば、通常の場合より遅れることが多く、発達する場合でも反響言語(おうむ返し)やそれに基づく代名詞の反転(あなたと私が逆になったりする)、未熟な文法的構文および抽象語を用いることの稚拙(ときに不能)などによって特徴づけられる。ほかの障害児では、たとえば、ことばによるコミュニケーションが障害されている場合にはなにか他の方法(身ぶりなど)でコミュニケートしようとする努力が認められるが、自閉症児の場合にはそういうことを行おうとするところに大きな障害があって、できないわけである。こうした人間関係の障害は5歳以下の場合もっとも重篤であり、それには、まなざしをあわせること、社会的な触れ合い、および他児(他人)との共同の遊びなどを行う発達が妨げられることも含まれる。また奇妙な儀式的なふるまいがよくみられ、それには異常な一定のパターン、変化に対する抵抗、奇妙な物体や生物などに対する愛情、恐れや遊びの常同的パターンなどが含まれる。
抽象的または象徴的思考や想像的遊びの能力は低い。知能は著しい低格から正常またはそれ以上の限られた面の優秀さを示すことがあるが、平均すると水準以下に機能している。また行動は通常、単純記憶や視覚空間的技能を要するもののほうが、象徴的ないし言語的技能を要するものよりも優れているし、この傾向は前述の知能についてもいえる。
原因はまだ不明であるが、おそらくは脳に器質的ななにかがあるに違いないという考え方に変わってきている。頻度はだいたい児童人口1万に対して3人か4人といわれていたが、自閉症概念の変化とともに若干大きい数字になっていると考えてよい。男女比は4対1、場合によっては10対1で断然男に多い。
治療としては、行動療法を軸とした治療教育が現在ではもっとも効率の高い治療と考えられている。従来の精神分析学的方向づけをもつ精神療法は、少なくとも第一の選択ではなくなった。薬物療法は現在研究段階であり、なにかが発見されたとしても、それが原因療法になるか、便宜的な対症療法であるかについては、臨床的にも慎重な検討を必要とする。
将来への見通しについては、約15%内外の子がほとんど独立の生産的生活をすることができるようになるが、25%くらいはだれか保護者の介助を得てわずかながらでも半独立の方向に向かえばよしとしなければならないであろう。残りの60%内外は精神科病院児童病棟、または特殊な施設の長期患者としてとどまることになろう。だいたい5歳までに周囲の人とコミュニケーションの役を果たせることばが出た子や、知能水準の平均が高い子は、見通しが明るい、すなわち予後はよいといわれている。