猟犬

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猟犬(りょうけん)は、狩猟に使役するの総称。

獲物の場所を猟師に指示する(ポイントする)・獲物を狩り出す・獲物との格闘・獲物の回収などに用いられる。一般的な猟犬の品種は上記の役割を専門に受け持つためや、狩猟の対象となる動物の生態や狩猟方法に適するように品種改良を重ねてきたものが多い。

星座の1つにりょうけん座がある。

狩猟に用いられる犬種とその役割

それぞれのタイプの犬種の詳細に関しては、各犬種毎の記事を参照。なお、このリストは主に欧米での区分である。

メインカテゴリ サブカテゴリ 犬種の例 概要
ハウンド 獲物の場所を見つけるのに使用される一次的感覚によって、ハウンド猟犬は主に視覚ハウンドと嗅覚ハウンドに大別される。探索犬として野兎アライグマタヌキキツネ等の小動物や、イノシシ等の大型動物の狩猟にも用いられる。
視覚ハウンド ウィペット 視覚ハウンドはサイトハウンドとも呼ばれ、発達した視力と素早い足の速さが特徴である。獲物は遠方からこの犬種によってしばしば見つけられ、忍び寄られ、追跡され、捕獲されることになる。視覚ハウンドは素早く静かに、かつ猟犬の集団からも独立した行動が可能である。
嗅覚ハウンド ビーグル 嗅覚ハウンドは、その優れた嗅覚を生かしてにおいで獲物を追う猟犬である。嗅覚ハウンドは、半矢になった獲物を追い詰めて仕留める格闘犬としてもしばしば用いられる。その多くは「追い鳴き」という習性を持ち、獲物を追いながら鳴き続け、ハンターを導きながら他の犬と共同で獲物を追い詰める。
ラーチャー ラーチャー(これはグレイハウンドスコティッシュ・ディアハウンドコリーの混血) ラーチャーは、サイトハウンド内もしくはその他の犬種の混血犬である。よってラーチャーは犬種ではなく、犬のタイプであり、多くのラーチャーはグレイハウンドの血を引いている。「密猟」と呼ばれる高効率の猟のため、これらの犬種は交配により作成される。
猟犬 猟犬は、散弾銃を使用するハンターによって、鳥猟や小動物・大物動物猟全般に使用される。鳥猟においては、獲物を発見してハンターに獲物の位置を知らせるポイント犬、撃ち落とした獲物を回収する回収犬として。獣猟においては、獲物を狩り出し、格闘して仕留める格闘犬として用いられることが多く、種類としては主にレトリーバー系やスパニエル系に分類される。日本においては、日本犬もこの中に分類されうる。
レトリーバー チェサピーク・ベイ・レトリーバー ウォータースパニエル犬として分類されるレトリーバーの第一の役割は撃ち落とされた鳥を発見し、ハンターの元に回収することである。レトリーバーは目視により撃ち落とされた鳥の位置を長い間記憶し、思い出すことができる知能を持つ。また、泳ぎを得意とし、湖や川に落ちた鳥を泳いで回収に行くこともできる。
セッター イングリッシュ・セッター セッターは高地の猟犬としての長い歴史を生きてきており、高地の狩猟鳥が潜む場所を見つける天賦の才能を持っている。セッターは獲物が逃げ出さないようにそっと近づき、ハンターの指示でハンターが射撃を行うのに最適な位置に鳥を追い出す(俗にセットすると言われる)役目を果たす。
スパニエル イングリッシュ・コッカー・スパニエル スパニエルは数百年の間に猟犬として改良され続けてきた品種である。その多くは狩猟対象の潜む場所を探索し、獲物を追い出すのに使用される。ブリタニー・スパニエルはポイントを行うことで知られる。
ポインター イングリッシュ・ポインター ポインターは、小獲物猟において狩猟対象を探索し、発見した獲物をハンターに指し示す(俗にポイントすると言われる)ように訓練された犬。ポイントできる対象はスパニエルより多くの範囲に渡り、主に鳥猟に用いられる。
ウォーター・ドッグ プードル ウォータードッグはレトリーバーの派生品種である。
ツリーイング・ドッグ デン-マーク・ファイスト ファイストに代表されるツリーイング・ドッグは、主にリス等の樹上に住む小動物を追う小型犬である。アライグマ等の大型動物を狩る狩猟に投入されることもある。ツリーイング・ドッグは群れを成して獲物を追い、獲物が樹上に逃げると木の下で何時間も粘り強く鳴き続け、ハンターに獲物の位置を知らせる。
テリア ボーダー・テリア テリアは、大小の哺乳動物を狩るのに使用される。テリアは狩猟対象の巣穴を見つけ出し、時に巣穴に潜り込んで直接獲物を捕獲したり、獲物を巣穴の外に追い出してハンターに射撃の機会を与える役割を果たす。
カーEnglish版 レパード・カー カーはテリアと同様に大小の哺乳動物を狩るのに使用される。テリアよりも大型哺乳動物を狩るのに使用される傾向が強い。
日本犬 柴犬 日本犬は日本で古来より狩猟のために飼育されてきた品種であり、日本の急峻で下生えの多い地形にも対応できる体躯と、飼い主に極めて従順な性質が特徴である。獲物の対象は鳥から大型哺乳類まで多岐に渡り、訓練によってはイノシシクマなどの大型動物とも対等に渡り合える勇敢さも秘めている。

猟犬の育成

猟犬を育成するためには、一般的な犬ののほか、それぞれの技能に応じた訓練が必要となる。訓練の方法は地域やハンターにより様々であるが、ここではごく一般的な技能に関すると思われる訓練法や飼育法につき、記述を行う。

現在では民営の猟犬訓練施設に預けて訓練するなどの方法もあるが、「一犬、二足、三鉄砲」の言い習わしどおり、ハンター本人の狩猟技能を正しく熟達させる意味でも、可能な限り自分で責任を持って指導と育成を行うことが望ましい。


犬種の選定

猟犬として使用される犬種は長い歴史の中で猟の目的に応じて品種改良が行われてきているため、その犬種が得意とする技能を習熟することが最も望ましいが、極論を言えばたとえ雑種や小型犬であっても猟に必要な技能を習得させることは可能である。

特定の品種を選定する場合であっても、雑種を使用する場合であっても、子犬の段階から愛情を持って丁寧に指導を行うことが大切である。

なお、猟犬の成長にしたがって「猟犬として不向き」であることが露見してくる場合もある。特に大型動物猟用の猟犬の場合、狩猟中の負傷などが原因で獲物に対するトラウマが猟犬に生じ、その狩猟に使えなくなってしまうことも珍しくはない。こうした場合であっても安易にその犬を見放すような真似はせず、鳥猟や小型動物猟などの他の用途で使用してみる、他の猟を行うハンターや愛玩犬を求める里親を捜すなどして、その犬の可能性を最大限見出してやる努力が必要である。虐待や放棄を行うなどの行為は絶対に行ってはならない。

猟犬の猟能はその犬の産まれながらの適性であるため、性別の差などは本来はあまり重要ではないが、もしもオスとメスを共飼いする場合には、必要に応じて去勢や不妊治療などを行う必要もある。また、集団猟でオスとメスが混在する場合に備えて異性へ必要以上に興味を示さないような躾や、オス犬の多い狩猟グループにはメス犬(特に発情期の前後の個体)は連れて行かない等の配慮も必要になる。

日常の訓練

最低でも「待て」「ハウス(犬小屋へ戻らせる)」等の躾を行うことは必要である。集団猟の場合、他のハンターや猟犬に必要以上に警戒しないように敵愾心を抑えるための育成を行うことも必要になる。番犬として用を成さなくなる、万一の場合猟犬が第三者による盗難に会う等のリスクもあるが、猟場で猟犬を放った際に他の猟犬と喧嘩をして猟の妨げになる、あるいは最悪の場合、通行人などに咬傷を負わせる危険性があることを考慮した場合、極端に言えば「人に対しては誰にでも懐く」くらいにしてしまった方が良い場合もある。

肥満などを予防し、猟場を歩き回る好奇心を持たせるためにも、散歩は毎日行うことが望ましい。散歩の範囲はできれば猟場に近い地形の場所を歩くことが望ましいが、街中を歩き回るだけでも運動量と外出に対する慣れは確保できる。

鳥猟の場合には猟の対象となる鳥の羽などを入手し、紐を結わえ付けて遊具としてやることで、鳥を探すための好奇心を養うことが可能である。また、回収やポイントなどの日常訓練を行う折にはハンターの意図した通りの動きを犬が行った場合、その都度菓子やビーフジャーキーなどの褒美を与えることで「こういうことをすればご褒美が貰える」ことを犬が覚え、ひいては猟場での役割を習熟させやすくなる。

食事

ドッグフードなどの一般的な食事のほか、獲物とする動物の肉や骨などを他のハンターから入手するか、猟期中に自分で捕獲した獲物を備蓄しておくなどして日頃から定期的に与えることが望ましい。獲物を解体して食した後の毛皮や骨、羽などの残骸を安易に廃棄せずに冷凍保存しておくことも良い方法である。

獲物とする動物の肉や骨を定期的に食べさせることで、「これは自分の食べ物としても有用である」ことを覚えさせ、猟に対する好奇心を伸ばすことにもつながる。鳥猟においてはキジやコジュケイ、ヤマドリなどの草食性の鳥のを与えることで、鳥のにおいに対する好奇心を持たせることが可能である(なお、カモ等の雑食性の鳥の腸は糞のにおいを忌避して食べないことが多い)。

イノシシクマなどの大型動物の場合、当初は肉や骨に対して猟犬が尻尾を巻く等の恐怖心を示す場合もある。これはにおいによって対象の強弱を判断する犬の本能に起因するものなので、徐々に慣らしを行っていく他にない。

探索の訓練

獲物を探索する能力を育成するためには、狩りの目的とする獲物の足跡などを探し、実際に獲物が潜んでいると思われる巣やねぐらの場所までリードを付けたまま連れて行くことで、「猟場で自分が何をすれば良いか」を身につけさせる。この際に重要なことは、猟場を歩かせる際には猟犬がミスをしても必要以上に叱らないことである。程度にもよるが、「猟場に出ることは楽しい」ことを覚えさせなければ猟に帯同させることは困難になってしまうからである。

この訓練には猟犬の生まれ持った猟能の多寡も重要であるが、ハンター自身の「獲物の足跡」を探す技能も極めて重要である。なお、クマ等の危険な動物やヤマドリなどの山奥深くに生息する鳥になればなるほど訓練の難易度や訓練の危険度が増していくため、たとえ猟期中ではない場合でも猟場を歩く際には十分な警戒を払うことが必要である。

鳥猟の場合には日頃の散歩の際にキジバトやコジュケイなどが出現しやすいコースを選定し、鳥の出現に対して猟犬が何らかの反応を見せた場合には必ず褒めてやることで、鳥猟における役割意識を育成できる。

回収の訓練

鳥猟の場合には重要な項目である。

鳥を撃ち落とした場合に猟犬が必要以上に強く鳥を咬まないよう、「やさしく獲物を銜えさせる」訓練が必要となる。

地域によってはかつてウズラなどの生きた鳥を業者から購入し、有刺鉄線を巻いて咬ませることで、「まだ生きている鳥を強く咬んではいけない」ことを覚えさせる訓練なども行われていたが、近年では動物愛護の観念上こうした訓練を行うことが難しいため、各自で工夫が必要となる。

湖沼や川などで水鳥の回収を担当させる場合には、日頃から入浴などを定期的に行い、水への恐怖心を取り去っておくことも望ましい。

銃声に対する慣らし

どの猟であっても猟犬が銃声に驚いて恐怖心を抱いてしまっては元も子もないため、銃声への慣らしは段階を踏んで必ず実行しなければならない。

一番簡単な方法はクレー射撃場へ犬を帯同させ、射撃場の駐車場から射撃場内、そして射台へ向かうといった行程で、銃から離れた場所から徐々に近づいていくことを繰り返していくことである。

帰巣本能の習熟

どの猟であっても、猟犬を猟場へ放した後でハンターの元へ戻って来られないようでは何もならない。

普段から餌付けの際に笛(犬笛でもよい)を吹くなどして、ハンターの合図で猟犬が自分の元へ戻ってくるような指導は絶対に必要になる。

また、猟の際に使用する車に犬を乗せ、エンジン音や車内のにおいなどを覚えさせることで、「ここが自分が戻ってくる場所である」ことを覚えさせることも必要である。なお、猟犬を車乗させる際には携帯式のケージを常時用いることが望ましい。万が一猟犬が猟場で行方不明になった際には、出発場所にケージと共にハンターの衣類などの所持品を置くことで、猟犬の帰巣を促すことが可能となるからである。

車に乗せる際にもケージに入れる際にも、猟犬がその行為に対して恐怖心を抱かず、「ここが自分にとって安全で、安心して休息できる場所である」ことを猟犬が自覚できるような配慮を、ハンター側が日頃から行うことが重要であることは言うまでもない。

鑑札などの明示

万が一猟犬が他者に保護された際にハンターへの連絡が行えるよう、各自治体に猟犬の登録を必ず行い、法定の鑑札を付けておくことは当然であるが、それ以外にも連絡先を打刻した鑑札を自作して首輪に付けておくことが望ましい。近年ではマイクロチップの注射による鑑札付加の方法がある。各自で工夫し、猟犬が猟場で行方不明になった場合には必ず追跡保護ができるような方策を講じておくべきである。

注意しなければならないことは、145MHzのアマチュア無線の周波数帯や140-150MHzの周波数を使ったドッグマーカーと呼ばれる発信器がよく使われるが、この機器を使用すると不法無線局の開設として電波法に違反する。また、GPS付きの首輪などもあるが、これは米国の規格であるMURSに準拠したものであり、これも電波法に抵触する無線機器である(首輪に取り付けたGPS受信機の位置情報をMURS規格に周波数で送信し、飼い主の手元の表示機に犬の位置情報を表示している)。これらの無線機器は、たとえ所轄の総合通信局に申請しても免許されることはない。

この状況をふまえ、2008年(平成20年)に免許不要な特定小電力無線局の一種として野生動物調査のために法制化された動物検知通報システム用特定小電力無線局が2012年(平成24年)に出力が最大1Wに緩和され、ドッグマーカーへの使用もできることとなった。周波数は142.94 - 142.98MHzの100kHz間隔5波である。日本国内ではこれを使用しなければならない。

負傷した場合に備えて

大型動物猟に使役する場合には、大型動物との格闘により猟犬が負傷する場合もある。たとえ鳥猟や小型動物猟などであっても、急峻な地形の猟場では滑落などにより足を骨折するなどの負傷を猟犬が負う場合もある。

こうした事態に備えて日頃から信頼できる獣医が所属する動物病院を探し、万一の際には(たとえ診療時間外であっても)速やかに入院や治療が行える信頼関係や受け入れ体制を病院側と構築しておくことが重要である。また、出猟の際にはファーストエイドキットを携帯することや、日頃から犬の生態的特徴や負傷に対する治療法などをハンターが習熟しておくことも必要である。

猟犬を用いた狩猟

日本では、平成14年2002年)に改正された鳥獣保護法により、猟犬に噛みつかせて捕獲する方法は禁止されることとなった。

猟犬による主な被害例

脚注

  1. 猟犬に襲われ飼い犬死傷、小平で咬傷事故相次”. 桐生タイムス (2015年2月11日). . 2018閲覧.
  2. 猟犬を放置した所有者を書類送検”. 和歌山放送ニュース (2017年1月24日). . 2018閲覧.
  3. イノシシ駆除の猟犬2匹、3歳児ら3人を襲う 兵庫・宍粟 命に別条なし”. 産経新聞WEST (2017年10月1日). . 2018閲覧.
  4. 猟犬にかまれ3女児重軽傷、徳島”. 共同通信社 (2018年3月18日). . 2018閲覧.
  5. 野犬にかまれ子牛の被害も 更別村や幕別町忠類 注意呼び掛け”. 十勝毎日新聞電子版 (2018年4月30日). . 2018閲覧.

関連項目