映画
映画(えいが)とは、長いフィルムに高速度で連続撮影した静止画像(写真)を映写機で映写幕(スクリーン)に連続投影することで、形や動きを再現するもの[1]。活動写真、キネマ、シネマとも。
なお、本来の語義からははずれるものの、フィルムではなくビデオテープなどに磁気記録撮影されたものや映画館で上映される動画作品全般についても、慣例的に映画と呼ばれている。
Contents
語としての映画
映画という語の本来の意味は「画を映すこと」あるいはそうして「映された画」ということである。そのため、近世末期においては写真と同義に用いられていた[2]。そこから転じて、「(スクリーンなどに)画像を映し出すこと」や「映し出される画像」、さらに長いフィルムに撮影された「動きのある画像」に対しても用いられるようになっていった。
なお、『日本国語大辞典第二版』における映画の項目には、以下のように記載されている。
- カメラなどで映し撮ること。また、その画像。
- 明治時代、幻灯で映写する画像やフィルムのこと。
- フィルムにより高速度(標準一秒間に二四こま)で撮影した画像を映写幕に連続投影し、見る者に連続した動きを見ているような感じを与える仕組み。活動写真。キネマ。シネマ。ムービー。
別称
活動写真
「活動写真」は英語「motion picture」の直訳語で、元来は幻灯機のことを指すが、後に意味が変じて、映画を指すようになった。
シネマ
「シネマ」は、フランス語の「cinemaに由来する語で、映画の意味である(現在の口語フランス語では映画作品をfilm と呼び、cinema は映画館の意味である)。語源はギリシア語の「κινηση[3](「動く」という意味)」。リュミエール兄弟が開発したシネマトグラフの「シネマト」から派生したと言われている。アメリカではアート作品を「シネマ」と呼び、娯楽作品には「ムービー」と区別して呼ぶ傾向がある。
キネマ
戦前の日本では、映画は「キネマ」とも呼ばれた。当時から続く映画雑誌(『キネマ旬報』(キネマ旬報社)など)にこの名前が残っている他、懐古的な情緒が好まれる時にも用いられる。
概説
映画館が普及して以降、一般的に映画というと専用施設(映画館等)の中でスクリーンに投射して公開する作品を指すことが多い。ただしその撮影工程は特に問われない。20世紀に大きな発展を遂げた表現手段であり、映画は今や芸術と呼ぶべき水準に達している。また、古来からの芸術である絵画、彫刻、音楽、文学、舞踊、建築、演劇に比肩する新たな芸術として「第八芸術」ないし、舞踊と演劇を区別せずに「第七芸術」とも呼ばれる[4]。また、映像やストーリー、音楽など様々な芸術の分野を織り交ぜてひとつの作品を創造することから「総合芸術」の一種としても扱われる。日本映画の父と言われたマキノ省三によると、映画には三要素があり、『スジ・ヌケ・ドウサ』の順であるとした。スジは脚本、ヌケは映像美、ドウサは役者の演技を指す。
表現の対象とする分野からは大きく、フィクションとノンフィクションに大別される。
上述したように、映画は映画館等の専用施設で上映されることを前提とした表現様式であるが、最初からテレビでの放映を目的に映画フィルムで撮影される映画作品もある。このような作品をテレビ映画と呼び、1960年代のアメリカではテレビ番組の主力として西部劇やホームドラマが多く製作された。これらはアメリカにおいて広く鑑賞されたが、日本にも数多く輸入され、特にホームドラマは日本の生活文化に無視できない影響を与えた。ただし、この種のものが今日の日本で新しく撮影・製作されることはまれである。
また、劇場公開されず、ビデオテープ等の媒体に収録されて販売・レンタルの対象となる作品をビデオ映画、オリジナルビデオ等と呼ぶ。近年は、ブロードバンドの普及を始めとした動画配信の方法が発達したことや、時代背景の変化などにより、これまで映画と呼ばれてきた作品の種類や範囲が多様化してきている。
写真フィルムで撮影した素材をデジタル化し、加工・編集する技術も20世紀末以来、用いられるようになった。21世紀に入ってからは、HD24p等のデジタル機器で撮影、編集され、その後フィルムに変換されたうえで劇場に納品される音声情報も映画館の多チャンネルサラウンド化に伴い、フィルムに焼き付けずにCD-ROMなどで納品される場合が増えてきた。
ただし、いくつかの例外がある。資金面で余裕のあるハリウッドメージャーの場合、映画や大型テレビドラマは未だ35mmフィルム撮影の方が圧倒的に主流である。一方、日本のテレビドラマ製作会社はデジタル化以前にアナログ磁気テープ方式のビデオテープレコーダー(ベータマックス)収録に切り替えられ、一部の時代劇のみがセットの質感をぼかすために35mmフィルム収録として残っていたが、それも最後まで採用していたナショナル劇場枠の作品(『水戸黄門』など)がデジタル収録化以前にVTR収録に切り替えられ、HDTV規格での収録に切り替えられるまで用いられた。
日本国内の映画の動向については日本映画のページにて詳述する。
1990年代以降、地上波テレビでの映画の放送は減少傾向にあるが、BS・CSでの映画の放送はむしろ増加傾向にある。
2010年代以降、Netflixが大量の"オリジナル映画"を製作し日本を含む世界各国で配信するようになった。これらの作品は、劇場では公開されずに、直接ネットにより配信される。Netflixでは、ストーリーのある作品のうち、複数エピソードにわたるものを「テレビ番組・ドラマ」(英語ではTV Shows)と呼び、1エピソードだけのものを「映画」(英語ではMovies)と表記しているため、Netflixの"オリジナル映画"のほとんどは、日本では単発ドラマあるいは二時間ドラマのジャンルに属する、テレビ映画であるとも言える。これらの"オリジナル映画"が映画祭に出品されることが増えて論議を引き起こしている。カンヌ映画祭では、これらの"オリジナル映画"を審査対象から外すため、2018年度からはフランスの映画館で上映された作品のみを審査対象とすると決定し論争となった[5]。以前からテレビ映画のジャンルが活発であるアメリカでのアカデミー賞やゴールデングローブ賞映画部門などの映画賞は、応募資格を映画館で上映すること、あるいはペイパービューで配信する事などと限定してテレビ映画を排除している。一方で、アメリカのエミー賞やゴールデングローブ賞テレビ部門などのテレビ番組賞には、テレビ映画を対象とする賞が別枠で設けられている。
映画史
映画は19世紀に生まれ、20世紀に大きな発展を遂げた、いわば新しい芸術である。しかし、20世紀から21世紀にかけての科学技術や産業の大きな発展、社会の変容を受けて、今の映画はリュミエール兄弟が発明した当時とは大きく異なる様相を見せている。
映画表現において大きな画期となったのは、1920年代の「トーキー」の登場、それに続いて行われたいわゆる「総天然色」映画の登場が数えられよう。これらはそれぞれ、それまでの映画の形式を最終的には駆逐するにいたった。例えば、今では「トーキー」以前の形式である「サイレント」が新たに発表されることはほぼない。また、今「モノクローム」で撮影された映画が発表されることは極めてまれである。
20世紀前半に行われたこれらの映画技術の進展とは異なり、20世紀後半の映画技術の発展は映画表現の多様性を増す方向に作用した。
戦後、普及した映画の撮影技法には、例えば「特殊撮影」「アニメーション」「コンピュータ・グラフィクス」が挙げられる。これらの新たな撮影技法は、それ以前の方法を駆逐することによって普及したのではなく、それが登場する以前の撮影技法と共存しつつ独自の分野を成す形でそれぞれの発展を遂げている。
1970年代からはVTRが普及したが、フィルムとビデオとの基本的な表示方式の違いから映画は35mmフィルムによる撮影が一般的であった。21世紀に入った頃から商業作品もデジタルビデオカメラで撮影され、フィルムを使わずコンピュータ上で編集される例が増加している。詳しくはデジタルシネマを参照。
映画産業
映画産業は、アメリカでは「不況に強い」産業となっている[6]。また、ビデオやDVDの普及、ファイル共有ソフトの隆盛が「映画産業を破滅に追い込む」といった考えは「誤った思い込み」であり、現実では観客動員数は減るどころか、逆に増えているという[6]。こうした観客動員数の増加については、「大画面で見た方が楽しめる大作を作ることによって、観客の足を映画館へ運ばせている」との指摘がある[6]。しかしながら、移民の増加によって人口が増え続けているアメリカで観客動員数が増えているからと言って、それが直ちに映画産業の好調を示すものではないことに留意する必要がある。映画産業も他の産業同様、全体として需給のバランスが崩れ始めれば衰退が始まる。需給バランスの客観的な指標としては、観客動員数や総興行収入や全国のスクリーン数ではなく、国民一人当たりの年間映画館利用回数を用いるべきだという指摘もある[7]。
原作と映画
原作を映画は超えることができないとか、原作を台無しにしたとか、原作と映画の間には越えがたい問題がある。文字メディアと映像メディアと表現する器が違うのだから、比べること自体が問題である。文字にはできないこと、映像にはできない限界がある。例えば、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『アンナ・カレニナ』では冒頭の「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」(望月哲男訳)相当部分を文字で示さざるを得なかった。逆に、映画の小説化(ノベライゼーション)が原作を超えてヒットすることもない。
例えば、『砂の器』やジャン・ルノワール監督の『ピクニック』など原作とは異なる内容、古典文学を原作としない、短編小説を原作とした映画の方が「名作」とされることが多い。
沼野充義は「単純にスローガン的に、文学を原作にした映画の効用」として3つあげている[8]。
一つは「原作と違うといって文句を言える」こと。
二番目に「文学では見てはいけないものを映画にすると見ることができる」ということ。例えば、ワレーリイ・フォーキン監督 『変身』など、カフカが映像化したくなかったかもしれないものを映像化している。
三番目は「読み切れない作品を二時間程度で読んだ気になれる」ということ。例えば『戦争と平和』などは7時間あるが、絢爛豪華な歴史世界を映画で見ることができるし、いつか原作を読もうという気持にさせる。
個人制作の映画
現在、個人ないし少人数のアマチュアグループでの映画撮影は、カメラ一体型VTRで行われるのが普通である。2000年代前半からDVDやメモリー素子に記録することで、磁気テープを使用しないデジタルビデオが普及しているが、DVビデオも現役である。
アナログ式のビデオテープレコーダが普及する以前は、8ミリフィルムで撮影するのが主流であった。業務用の35ミリフィルムは、個人では機材の調達が困難(カメラに限っても、購入だと数百万円必要であり、「保守に信用がおけない」ため、個人向けのレンタルはほとんど行われていない)であり、またフィルムも高価であった。よって、個人向けに、小さなフィルムを使うことでフィルム代や現像代といった感材費をおさえた。
一方、1980年代にベータカムが普及するまでは、テレビ局での野外撮影や、上述のテレビ映画には16ミリフィルムが用いられることが多かった。16ミリであれば、35ミリに比較すれば安価な制作が可能であり、個人でも「手を伸ばせば、何とかなる」ものであったため、「16ミリでの映画制作」が、「アマチュアにおけるゴール」とみなされてきた時代が長く続いた。
更に安価で手軽になった8ミリフィルムでの映画制作については、8ミリ映画の項も参照のこと。
デジタル式ビデオカメラとPCベースのノンリニア編集機材の低価格化により、アルビン・トフラーの『第三の波』に登場する生産消費者が台頭しつつある。またプロユースでもノンリニア編集システムと連動した映像管理ソフトなどが利用されている。
YouTubeなど動画サイトを用いた、誰でも簡単に表現する場ができて、映像の個人製作をめぐる状況が大きく変化してきている。上映する場所もプロジェクションマッピングなどの発達とともに、「映画」と「映像作品」の距離が縮まっている。
日本では、明治時代から個人撮影の映画が制作され始めた。戦前から一部でカラーフィルムで撮影が行われ、NHKで2003年に『BSプライムタイム 映像記録 昭和の戦争と平和 カラーフィルムでよみがえる時代の表情』前編後編、『NHKスペシャル 映像記録・昭和の戦争と平和~カラーフィルムでよみがえる時代の表情~』、2006年に『BS特集 カラー映像記録 よみがえる昭和初期の日本』[9]前編後編と計3本で取り上げられた。
脚注
- ↑ 『岩波国語辞典第三版』岩波書店、1983年、『広辞苑第六版』岩波書店、2008年他。
- ↑ ダグロン原著、柳河楊江訳述、柳川春三訳『写真鏡図説』1867年
- ↑ ギリシア語ラテン翻字: kinein
- ↑ 1911年『第七芸術宣言』(リッチョット・カニュード)
- ↑ “カンヌ映画祭のネットフリックス作品除外で論争続く” (2017年5月18日). . 2017閲覧.
- ↑ 6.0 6.1 6.2 「今夏の売上は好調:映画業界は不況にもファイル交換にも強い?」WIRED VISION、2008年9月3日付配信
- ↑ 西周成著『映画 崩壊か再生か』、アルトアーツ/星雲社、ISBN 978-4-434-15949-7、2011年、41-42頁。
- ↑ 『やっぱり世界は文学でできている』(光文社p.115f)。
- ↑ ハイビジョン特集 カラー映像記録 よみがえる昭和初期の日本 - NHK名作選(動画・静止画) NHKアーカイブス
関連項目
- 映画の配信媒体
- 映画の著作物
- 映画の分類
- 映画学
- 映画評論
- 映画史
- 映画用語
- 映画会社
- 映画学校
- 映画プロデューサー - 映画監督 - 映画俳優 - 映画スタッフ
- 映画祭
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- アニメ - アニメーション映画 - コンピュータアニメーション
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- サイレント映画 - トーキー
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