多角数定理
多角数定理(たかくすうていり、polygonal number theorem)とは、「すべての自然数は高々 m 個の m 角数の和である」という数論の定理である。m = 3 の場合を三角数定理、m = 4 の場合を四角数定理というが、五角数定理といえば全く別のオイラーの五角数定理を指す。多角数定理は1638年にフェルマーによって定式化されたが、 三角数については1796年にガウスによって、 四角数については1772年にラグランジュによって、一般には1813年にコーシーによって証明された。
多角数
k 番目の m 角数とは、次の公式
- [math]P_m(k)=\frac{(m-2)k^2-(m-4)k}{2}[/math]
で与えられる数のことである。直観的には、たとえば石を、一辺に k 個ある正 m 角形の形に敷き詰めて並べることができるとき、石の総数が k 番目の m 角数になっている。
これは古代ギリシャ人たちが名づけた名前であって、素数はどのような図形にも並べることができないことから、直線数とも呼ばれていた。
例えば、三角数とは 1, 3, 6, 10, 15, … のことである。また四角数は平方数の列 1, 4, 9, 16, … に他ならない。1番目の m 角数は 1 であり、2番目の m 角数は m である。
精密化
N = 2m - 1 を表すには Pm(2) + (m - 1)Pm(1) とするより他にないから、m 個未満の m 角数の和では表されない自然数がある。N = 9n + 8 は二個の三角数の和で表されない(法 9 の計算で自明)から、三個未満の三角数の和で表されない自然数は無数にある。N = 8n + 7 は三個の四角数の和で表されない(法 8 の計算で自明)から、四個未満の四角数の和で表されない自然数は無数にある。しかし、五角数以上について、m 個未満の m 角数で表されない自然数は有限個である。m ≥ 6 のとき、十分に大きな自然数 N ≥ 108(m - 2) は m - 1 個の m 角数の和で表される。また、m ≥ 5 が奇数のとき、十分に大きな自然数 [math]N\ge\tfrac{4(m-2)^3}{14-4\sqrt{3}}[/math] は四個の m 角数の和で表される。また、m ≥ 6 が偶数のとき、十分に大きな奇数の自然数 [math]N\ge\tfrac{(m-2)^3}{14-4\sqrt{3}}[/math] は四個の m 角数の和で表される。
証明
三角数
三平方和定理により
- [math]8N+3=(2x+1)^2+(2y+1)^2+(2z+1)^2 \,[/math]
と表されるから
- [math]N=\frac{x(x+1)}{2}+\frac{y(y+1)}{2}+\frac{z(z+1)}{2}[/math]
となる x, y, z が存在する。したがって、全ての自然数は高々三個の三角数の和に表される。
四角数
四角数の場合については、ラグランジュの四平方定理と等価である。
五角数以上
十分大きな N に対してのみ証明する。m ≥ 5, N ≥ 108(m - 2) とすれば
- [math]\sqrt{\frac{8N}{m-2}-8}-\sqrt{\frac{6N}{m-2}-3}\gt 3.86\gt \frac{23}{6}[/math]
であるから
- [math]0\lt \frac{1}{2}+\sqrt{\frac{6N}{m-2}-3}\lt 2d\pm1\lt \frac{2}{3}+\sqrt{\frac{8N}{m-2}-8}[/math]
となる二個の奇数 2d ± 1 が存在する。 N ≡ b + r (mod m - 2) となるように
- [math]b\in\{2d\pm1\},\ r\in\{e\in\mathbb{Z}|0\le{e}\le{m-4}\}[/math]
を選び、
- [math]a=2\left(\frac{N-b-r}{m-2}\right)+b[/math]
とする。a, b は共に奇数であるから、4a - b2 ≡ 4 - 1 ≡ 3 (mod 8) であり、三平方和定理により、
- [math]4a-b^2=x^2+y^2+z'^2 \,[/math]
となる三個の奇数 x ≥ y ≥ z′≥ 0 が存在する。b + x + y - z ≡ 0 (mod 4) となるように z = ± z′の符号を決め、
- [math]w_1=\frac{b+x+y-z}{4}[/math]
- [math]w_2=w_1-\frac{y-z}{2}=\frac{b+x-y+z}{4}[/math]
- [math]w_3=w_1-\frac{x-z}{2}=\frac{b-x+y+z}{4}[/math]
- [math]w_4=w_1-\frac{x+y}{2}=\frac{b-x-y-z}{4}[/math]
とすれば
- [math]w_1+w_2+w_3+w_4=b \,[/math]
- [math]w_1^2+w_2^2+w_3^2+w_4^2=\frac{b^2+x^2+y^2+z^2}{4}=a[/math]
- [math]\begin{align}N &=\frac{(m-2)a-(m-4)b}{2}+r\\ &=\frac{(m-2)(w_1^2+w_2^2+w_3^2+w_4^2)-(m-4)(w_1+w_2+w_3+w_4)}{2}+r\\ &=P_m(w_1)+P_m(w_2)+P_m(w_3)+P_m(w_4)+rP_m(1) \end{align}[/math]
となる。ただし
- [math]P_m(k)=\frac{(m-2)k^2-(m-4)k}{2}[/math]
とする。0 ≤ r ≤ m - 4 であるから、wn ≥ 0 であれば N ≥ 108(m - 2) が高々 m 個の m 角数で表されることになる。以下において wn ≥ 0 であることを証明する。
- [math]b\lt \frac{2}{3}+\sqrt{\frac{8N}{m-2}-8}\lt 2\left(\frac{m-4}{m-2}\right)+\sqrt{\frac{8N-8r}{m-2}}=b'\qquad(\Leftarrow{m\ge5,r\le{m-4}})[/math]
であるから
- [math]\begin{align}b^2-4a&=b^2-4\left(2\left(\frac{N-b-r}{m-2}\right)+b\right)\\ &=\left(b-2\left(\frac{m-4}{m-2}\right)\right)^2-4\left(\frac{m-4}{m-2}\right)^2-8\left(\frac{N-r}{m-2}\right)\\ &\lt \left(b-2\left(\frac{m-4}{m-2}\right)\right)^2-8\left(\frac{N-r}{m-2}\right)\\ &\lt \left(b'-2\left(\frac{m-4}{m-2}\right)\right)^2-8\left(\frac{N-r}{m-2}\right)=0\\ \end{align}[/math]
である。同時に
- [math]b\gt \frac{1}{2}+\sqrt{\frac{6N}{m-2}-3}\gt \left(\frac{1}{2}-\frac{3}{m-2}\right)+\sqrt{\frac{6N-6r}{m-2}-3}=b''\qquad(\Leftarrow{m\ge5})[/math]
であるから
- [math]\begin{align}b^2+2b+4-3a&=b^2+2b+4-3\left(2\left(\frac{N-b-r}{m-2}\right)+b\right)\\ &=\left(b-\left(\frac{1}{2}-\frac{3}{m-2}\right)\right)^2-\left(\frac{1}{2}-\frac{3}{m-2}\right)^2-6\left(\frac{N-r}{m-2}\right)+4\\ &\gt \left(b-\left(\frac{1}{2}-\frac{3}{m-2}\right)\right)^2-6\left(\frac{N-r}{m-2}\right)+3\\ &\gt \left(b''-\left(\frac{1}{2}-\frac{3}{m-2}\right)\right)^2-6\left(\frac{N-r}{m-2}\right)+3=0\\ \end{align}[/math]
である。4a - b2 = x2 + y2 + z2 を固定して x + y + z が最大となるのは x = y = z のときであるから
- [math]x+y+z\le\sqrt{3(4a-b^2)}\lt \sqrt{4(b^2+2b+4)-3b^2}=b+4[/math]
- [math]b-x-y-z\gt -4 \,[/math]
w4 は整数であるから
- [math]w_4=\frac{b-x-y-z}{4}\ge0[/math]
x ≥ y ≥ |z| により
- [math]{w_1}\ge{w_2}\ge{w_3}\ge{w_4}\ge{0}[/math]
である。
平方数と三角数の和
三平方和定理により、8N + 1 は高々三個の平方数の和で表されるが、法 8 で考え、一個の奇数の平方数と二個の偶数の平方数の和であるから
- [math]8N+1=(2x+1)^2+(2y)^2+(2z)^2 \,[/math]
- [math]N=\frac{x(x+1)}{2}+\left(\frac{y+z}{2}\right)^2+\left(\frac{y-z}{2}\right)^2[/math]
となる x, y, z が存在する。法 8 で考え、y, z は共に偶数か共に奇数である。したがって、全ての自然数は高々一個の三角数と二個の平方数の和で表される。同じく三平方和定理により、4N + 1 は高々三個の平方数の和で表されるが、法 8 で考え、一個の奇数の平方数と二個の偶数の平方数の和であるから
- [math]4N+1=(2x+1)^2+(2y)^2+(2z)^2 \,[/math]
- [math]N=\frac{(2x+1)^2+(2y)^2+(2z)^2-1}{4}=\frac{(x+y)(x+y+1)}{2}+\frac{(x-y)(x-y+1)}{2}+z^2[/math]
となる x, y, z が存在する。したがって、全ての自然数は高々二個の三角数と一個の平方数の和で表される。
2008年4月23日、孫智偉らは「すべての正整数は、平方数と奇数の平方数と三角数との和として表せる」ことを示したと発表した[1]。