ダランベール演算子

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ダランベール演算子 (ダランベールえんざんし、: d'Alembert operator) とは、物理学特殊相対性理論電磁気学波動論で用いられる演算子作用素)であり、ラプラス演算子ミンコフスキー空間に適用したものである。ダランベール作用素ダランベルシアン (d'Alembertian ) あるいは wave operator(波動演算子)と呼ばれることもあり、一般に四角い箱のような記号 □ ([注釈 1]) で表される。この名称はフランスの数学者・物理学者ジャン・ル・ロン・ダランベール (Jean Le Rond d'Alembert) の名に由来する。

定義

標準座標系 (ct, x, y, z) で表されるミンコフスキー空間において、ダランベール演算子は次の形で定義される。

[math] \begin{align} \Box & := \partial_\mu \partial^\mu = g_{\mu\nu} \partial^\nu \partial^\mu \\ &= \frac{\partial^2}{\partial (ct)^2} - \frac{\partial^2}{\partial x^2} - \frac{\partial^2}{\partial y^2} - \frac{\partial^2}{\partial z^2} \\ & = \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 }{\partial t^2} - \nabla^2 =\frac{1}{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2} - \Delta \end{align} [/math]

ここで [math]g_{\mu\nu}[/math]ミンコフスキー計量 である。すなわち、[math]g_{00} = 1[/math], [math] g_{11} = g_{22} = g_{33} = -1[/math], その他 [math]\mu \neq \nu[/math] については [math] g_{\mu\nu} = 0[/math] の値をとる。μνアインシュタインの縮約記法にしたがう総和のための添字であり、0, 1, 2, 3 のいずれかの値をとる。また、2 = Δ はラプラス演算子である。

文献によっては負の計量符号数 [− + + +] すなわち [math]\eta_{00} = -1,\; \eta_{11} = \eta_{22} = \eta_{33} = 1[/math] を用いている場合もある。この場合、符号を反転させて

[math]\Box = \Delta - \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2 }{\partial t^2}[/math]

とする。また、光速度 c1 とするような単位系を用いる場合も多く、その場合は、

[math] \frac{1 }{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2} \longrightarrow \frac{\partial^2}{\partial t^2} [/math]

という置き換えをする。さらに波動方程式などにおいて、光速度 c の部分を一般の波の伝播速度 s などに置き換える場合もある。

ローレンツ変換はミンコフスキー計量を不変に保つ。ゆえに、ダランベール演算子はローレンツスカラーEnglish版である。したがって、先に用いた座標表現は、あらゆる慣性系における標準座標に対し有効である。

別の記法

ダランベール演算子の記法は複数存在している。最も一般的なのは、記号 [math]\Box[/math] を用いた表記である。箱形の四つ角が時空の四次元を表している。[math]\Box^2[/math] として、自乗項によるスカラー的特性(スカラー積)を強調することもある(ラプラス演算子Δ でなく 2 で表現する場合に似ている)。この記号はナブラ記号 (∇; nabla) の四 (quadri-) 次元版として quabla と呼ばれることもある。ラプラス演算子の三角形記法にならって ΔM が用いられることもある。

平らな標準座標におけるダランベール演算子を記述するもう一つの方法として、[math]\partial^2[/math] を用いたものがある。この記法は場の量子論で広く用いられている。場の量子論では、多くの場合偏微分記号に添字が付されている。二乗の偏微分記号において添字が無い場合、それはダランベール演算子の存在を伝えている。

記号 [math]\Box[/math] は、四次元におけるレヴィ=チヴィタの共変微分を表すのに用いられることもある。この場合、記号 は空間微分を表すのに用いられるが座標チャートに依存する。

応用

通常の波動方程式

小規模な振動に関する波動方程式は、ダランベール演算子を用いて、次のように表される。

[math] \Box_{s} u (\mathbf{x},t) := \frac{1}{s^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2}u - \nabla^2u = 0, [/math]

ここで u(x, t)変位であり、s は伝播の速度を表す。

電磁場の波動方程式

真空における電磁場の伝播を記述する波動方程式は、ダランベール演算子を用いて、次のように表される。

[math]\Box A^{\mu}(\mathbf{x},t) = 0[/math]

ここで Aμベクトルポテンシャル である。

クライン–ゴルドン方程式

ダランベール演算子を用いて、クライン–ゴルドン方程式は次のように書き表せる。

[math](\Box + \mu^2)\psi = 0.[/math]

ここで、μ

[math]\mu =\frac{mc}{\hbar}[/math]

で定義される定数である。

グリーン関数

ダランベール演算子に関するグリーン関数 G(xx′) は、次の方程式を満たすものとして定義される。

[math] \begin{align} \Box G(x-x')& = \delta(\mathbf{x}-\mathbf{x}') \delta(ct-ct') \\ & =: \delta^{(4)} (x-x'). \end{align} [/math]

ここで δ(4)(xx′) はミンコフスキー空間でのディラックのデルタ関数であり、x = (ct, x)x′ = (ct′, x′) はミンコフスキー空間における2つの点である。

上式を満たすグリーン関数として、遅延グリーン関数

[math] \begin{align} D_{\text{ret}}(x-x') & = \frac{1}{4\pi |\mathbf{x} - \mathbf{x}' |} \delta (ct- ct' - |\mathbf{x} - \mathbf{x} |) \\ & = \frac{1}{(2\pi)^4} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{ e^{ik(x-x')} }{\mathbf{k}^2 - (k_0 + i \epsilon)^2} d^{4}k \end{align} [/math]

並びに、先進グリーン関数

[math] \begin{align} D_{\text{adv}}(x-x') & = \frac{1}{4\pi |\mathbf{x} - \mathbf{x}' |} \delta (ct- ct' + |\mathbf{x} - \mathbf{x} |) \\ & = \frac{1}{(2\pi)^4} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{e^{ik(x-x')} }{\mathbf{k}^2 - (k_0 - i \epsilon)^2} d^{4}k \end{align} [/math]

をとることができる。但し、

[math] \begin{align}k(x-x')&:=\mathbf{k} \cdot (\mathbf{x}-\mathbf{x}')- k_0(x_0 -x_0 ')\\& =\mathbf{k} \cdot (\mathbf{x}-\mathbf{x}')- ck_0(t -t ')\end{align} [/math]

であるものとする。

遅延グリーン関数 Dret は、

[math] t-t'= \frac{1}{c} |\mathbf{x}-\mathbf{x}'| \geq 0[/math]

以外では 0 の値を、先進グリーン関数 Dadv は、

[math] t-t'= -\frac{1}{c} |\mathbf{x}-\mathbf{x}'| \leq 0[/math]

以外では 0 の値をとる性質を有する。

符号位置

記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+29E0 - ⧠
⧠
SQUARE WITH CONTOURED OUTLINE

注釈

  1. Unicode: U+29E0. SQUARE WITH CONTOURED OUTLINE (縁取り付き四角形) [その他の数学記号B]

参考文献

関連項目

外部リンク

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