グリーン関数

提供: miniwiki
移動先:案内検索

グリーン関数(グリーンかんすう)は

  1. ジョージ・グリーン (George Green) により導入された関数。微分方程式の解法を与える。本項で詳述。
  2. J. A. Green により導入された組合せ論的関数。グリーン多項式とも。有限シュバレー群(オリジナルは有限体上の一般線型群)の既約表現を記述する数学的対象である。

グリーン関数 (: Green's function) とは、微分方程式や偏微分方程式の解法の一つであるグリーン関数法に現れる関数である。グリーン関数法は、英国数学者ジョージ・グリーンによって考案された。

下の偏微分方程式の(初期値)境界値問題を例に考える。

[math]\text{L}y(\boldsymbol{x})=-f(\boldsymbol{x})\qquad \boldsymbol{x} \in \Omega[/math]
[math]y(\boldsymbol{x})=\bar{y_1}\qquad \boldsymbol{x} \in \Gamma_1[/math]
[math]\frac{\partial y}{\partial n}(\boldsymbol{x})=\bar{y_2}\qquad \boldsymbol{x} \in \Gamma_2[/math]

ここで、L は微分作用素、Ω は領域であり、領域の境界 Γ は、[math]\bar{y_1}[/math] が規定されている境界 Γ1 と、[math]\partial y/\partial n[/math] が規定されている境界 Γ2 からなり、Γ1 ∪ Γ2 = Γ、Γ1 ∩ Γ2 = ∅ であるものとする。また、n は境界での外向き法線方向を示す。

上記の問題に対するグリーン関数 G(x, x′) とは次の条件を満たす関数のことである。

[math]\text{L}G(\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}')=-\delta(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}')\qquad \boldsymbol{x} \in \Omega[/math]
[math]G(\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}')=0\qquad \boldsymbol{x} \in \Gamma_1[/math]
[math]\frac{\partial G}{\partial n}(\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}')=0\qquad \boldsymbol{x} \in \Gamma_2[/math]

ここに、x′ はソース点の位置を表す。

物理学数学工学各分野において非常に重要な関数であり、広い用途で使用される。プロパゲータ伝播関数と呼ばれることもある。また、無限領域におけるグリーン関数を基本解という。

ただし、境界が単純(無限領域、半無限領域、無限平板領域など)でない場合にはグリーン関数を解析的に求めるのは大変困難である。

物理学におけるグリーン関数

グリーン関数はもともと微分方程式の境界値問題に現れる関数であるが、量子物理学ではこれを拡張して使っている[1]。つまり物理学においてグリーン関数は2通りの意味で扱われている。[2]

  • 境界値問題における微分方程式の主要解を意味し、与えられた全ての境界条件・初期条件を満足する。
  • ある物理系を構成する個々の状態間の相関関数を与える関数として使われ、位置や時間などで指定されたある状態から他の状態への伝達(伝播)の特性を表す。

物理学では、微分方程式を直接解く代わりに、まず単純な点源問題の解であるグリーン関数を求めた後、重ね合わせの原理によって微分方程式の解をグリーン関数を用いて表す。

ポアソン方程式

電磁気学におけるポアソン方程式[math]\Delta \varphi(\boldsymbol{r})=-\rho(\boldsymbol{r})[/math]の解[math]\varphi(\boldsymbol{r})[/math]を求めたい。この方程式の解として積分方程式[math]\varphi(\boldsymbol{r})=\int G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r'})\rho(\boldsymbol{r'})d\boldsymbol{r'}[/math]を仮定し、ポアソン方程式に代入するとグリーン関数[math]G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r'})[/math]の満たすべき式が得られる。

[math]\Delta G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r'}) = -\delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r'})[/math]

これを解くために両辺をフーリエ変換すると、[math]G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r'})[/math]のフーリエ変換[math]g(\boldsymbol{k},\boldsymbol{r'})=\frac{e^{-i\boldsymbol{k \cdot r'}}}{\boldsymbol{k}^2}[/math]が得られる。これを逆フーリエ変換するとグリーン関数[math]G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r'})[/math]が求まる。

[math]G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r'})=\frac{1}{4\pi|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r'}|}[/math]

よってポアソン方程式の解は次のように求まる。

[math]\varphi(\boldsymbol{r})=\int \frac{\rho(\boldsymbol{r'})}{4\pi|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r'}|}d\boldsymbol{r'}[/math]

以上のことから、位置[math]\boldsymbol{r}[/math]の点電荷が別の位置[math]\boldsymbol{r'}[/math]に作る静電ポテンシャルを表したものがグリーン関数であり、これを重ね合わせたものが電荷分布[math]\rho(\boldsymbol{r})[/math]の作る静電ポテンシャル[math]\varphi(\boldsymbol{r})[/math]であることがわかる。

ダランベール演算子のグリーン関数

多体問題におけるグリーン関数

関連記事

参考文献

  1. 『物理学辞典』 培風館、1984年
  2. * 小泉義晴 『微分方程式と量子統計力学のグリーン関数<講義・演習>』 東海大学出版会、2010年。ISBN 978-4-486-01887-2。