エゴマ

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エゴマ(荏胡麻、学名:Perilla frutescens)はシソ科一年草シソ(青紫蘇)とは同種の変種。東南アジア原産とされる。地方名にジュウネンがあり、食べると十年長生きできるという謂れから。古名、漢名は、(え)。

食用または油を採るために栽培される。シソ(青紫蘇)とよく似ており、アジア全域ではシソ系統の品種が好まれる地域、エゴマ系統の品種が好まれる地域、両方が栽培される地域などが見られるが、原産地の東南アジアではシソともエゴマともつかない未分化の品種群が多く見られる。

葉などには香り成分としてペリラケトンPerilla ketone)やエゴマケトン(Egoma ketone、3-(4-Methyl-1-oxa-3-pentenyl)furan)などの3位置換フラン化合物が含まれ、大量に摂取した反芻動物に対して毒性を示す。

生態

高さは60-100cm程度。は四角く、直立し、長い毛が生える。葉は対生につき、広卵形で、先がとがり、状にぎざぎざしている。付け根に近い部分は丸い。葉は長さ7-12cm。表面は緑色で、裏面には赤紫色が交る。花序は総状花序で、白色の花を多数つける。花冠は長さ4-5mm。花弁は4枚で下側の2枚が若干長い。

利用

日本ではインド原産のゴマよりも古くから利用されている。エゴマをはじめとするシソ属種実の検出が縄文時代早期から確認されており、1974年には長野県諏訪市荒神山遺跡から「エゴマ種実」が検出されている[1]。長野県では大石遺跡からもエゴマ種実が出土しており、当初は「アワ類似炭化物」とされていたが、1981年にシソ科のエゴマであると鑑定された。

縄文時代にはクッキー状炭化物からも検出されていることから食用加工されていたと考えられており、栽培植物としての観点から縄文農耕論においても注目されている。中世から鎌倉時代ごろまで、搾油用に広く栽培され、荏原など、地名に「荏」が付く場所の多くは栽培地であったことに由来する。

種子

種子は、日本ではゴマと同様に、炒ってからすりつぶし、薬味としたり、「エゴマ味噌」などとして食用にされる。

岐阜県の飛騨地方では、エゴマのことを「あぶらえ」と呼び、味噌に混ぜて五平餅や焼いた餅に付けたり、茹でた青菜や煮たジャガイモにあえて食べるなど、生活に密着して食用されている。

エゴマが比較的多く栽培されている福島県には、じゅうねん味噌やしんごろうかりんとう饅頭など種子を用いた料理・菓子が多く存在するほか、エゴマを餌に混ぜて育てたエゴマ豚の飼育も行われている。

他に、十味唐辛子の成分として加えられる例もある。

種子を噛みつぶし、しもやけの患部に塗ると治るという伝統的な民間療法が長野県開田地方に残る[2]

エゴマ(100g中)の主な脂肪酸の種類[3]
項目 分量(g)
脂肪 38.79
飽和脂肪酸 3.34
16:0(パルミチン酸 2.3
18:0(ステアリン酸 0.94
一価不飽和脂肪酸 6.61
18:1(オレイン酸 6.5
多価不飽和脂肪酸 28.83
18:2(リノール酸 5.1
18:3(α-リノレン酸 24

テンプレート:Infobox oil

油脂

エゴマ油は種子から絞った油で荏の油(えのあぶら、えのゆ、荏油〈じんゆ〉)ともいわれ、食用に、また乾性油なので防水性を持たせる塗料として油紙、番傘などに用いられてきた。

中世末期に不乾性油の菜種油が普及するまでは日本で植物油と言えばエゴマ油であり、灯火にもこれが主に用いられ、安定的に確保、供給するために油座という組織が作られた。しかし、菜種油の普及と共に次第にエゴマ油の利用は衰退し、乾性油としての特質が不可欠な用途に限られていき、知名度は低くなっていった。しかし、朝鮮などでは、トゥルギルム(들기름)と称して日本よりも一般的に使用されつづけている。

1990年代後半以降、エゴマ油が人体に不可欠な必須脂肪酸であるα-リノレン酸を、他の食用油に比べ類を見ないほど豊富に含んでいることから、健康によい成分を持つことが注目され、再び日本の食品市場に現れるようになった。しかし、エゴマ油の知名度が低かった日本では商品展開上不利と見たのか、「シソ油」の商品名で市販されていることが多かった。。これは朝鮮においても同様で、日本のシソ油をチャソオイル(자소 오일)などと称して別の物のように扱う例がある。

工業用では塗料樹脂の原料、リノリウム、印刷インキポマード、石鹸などの原料として利用される。伝統的にはに塗って防水紙とする用途も重要で、韓国ではそれを屋内のオンドルの上に敷くなどの使い方もされた。

なお、2004年には国民生活センターが、また2008年日本即席食品工業協会スチロール製容器を使用するカップ麺に入れた場合、容器が溶ける事があるとして注意を呼びかけている[4][5]

ファイル:Korean cuisine-Myeolchi bossam-02.jpg
韓国のミョルチボッサム(カタクチイワシ包み)に使った例

シソ系統の品種群の香りが好まれてきた日本においては、エゴマ特有のペリラケトンの臭いを不快と感じる人が多く、一部の漬物用を除いて、葉を野菜として利用することはほとんどなかった。

しかし、朝鮮・韓国料理ではむしろ好まれ、エゴマを野のゴマを意味する「トゥルケ(들깨。野のゴマの意)」と称し、特に香りのよい種類は「ケンニプ(깻잎。ゴマの葉の意)」と称し、サンチュなどと同様にサムギョプサルなどの肉料理と一緒に食べることが多い。や漬けた食品を葉で包むこうした食べ方は、サム()と呼ばれる。エゴマのサムは、特に咸鏡北道咸鏡南道済州道で盛んである[6]

その他、チャンアチ장아찌)と称して、葉を酸っぱい醤油漬けにして食すこともあり、済州道などではこれもサムの食材とする。

近年、福島県などで、若葉を乾燥させ、他の薬草などと茶外茶として利用する例もみられる。

変種

野生の変種にはレモンのような香りのあるレモンエゴマ(P. frutescens var. citriodora)があるが人間による利用はされていない。ニホンザルはこの種子をよく食べていることが知られている。

広島県の宮島に分布するレモンエゴマは、ここの系統にのみ含まれるエゴマケトンの強い臭気により、ニホンジカの食害を免れている[7]。近縁種のトラノオジソP. hirtella、画像は[1]を参照)も同様の臭気を持つ。

ギャラリー


脚注

  1. 縄文時代のシソ属種実については、松谷暁子「エゴマ・シソ」『縄文文化の研究2生業』(1983年、雄山閣)
  2. 『信州の民間薬』全212頁中47頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
  3. http://fooddb.jp/result/result_top.pl?USER_ID=18345
  4. 農林水産消費安全技術センター (2004年5月)
  5. ニュース|インスタントラーメン ナビ_一般社団法人 日本即席食品工業協会 (2008年10月)
  6. 鄭大聲、『朝鮮食物誌―日本とのかかわりを探る―』、pp43-44、1979年、東京、柴田書店
  7. 広島県宮島および対岸の廿日市における シソ近縁野生種レモンエゴマの探索農業生物資源ジーンバンク

関連項目

外部リンク