原子力推進

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原子力推進(げんしりょくすいしん、英語: Nuclear propulsion)とは、原子力をエネルギー源とする推進のこと。各種の方式がある。乗り物(無人ヴィークル含む、むしろ、放射線のことを考えるとそちらの応用のほうが有力かもしれない)としては、原子力船原子力飛行機、各種の原子力ロケット宇宙船などが考察されており、一部は実用化されているものもある。

種類

原子力蒸気機関推進

原子力蒸気機関推進は、原子炉を熱源としたボイラにより、(高圧)蒸気を発生し、その蒸気で各種蒸気機関を駆動する機関ないし推進方式。

原子力電気推進

原子力電気推進 (Nuclear electric propulsion) は、いわゆる原子力発電(原子力蒸気機関による発電)ないし、原子力電池(これはどちらかというと、崩壊熱電池)などによる電力を使用し、推進手段として電気による推進(電動機や、イオンロケットなどの電気ロケット(電気推進)による)を用いる方式[1]。1957年に建造されたレーニンおよびその後建造された原子力砕氷船の例がある(これは電動機による推進)。プロメテウス計画では電気エネルギーによるロケット(電気推進)が計画・実験された[2]

核熱ロケット推進

核熱ロケット (nuclear thermal rocket) は、熱ロケット (thermal rocket) の一種で熱源に核反応を利用するものであり、核分裂炉又は核融合炉の高熱により直接推進剤(通常は水素[3])を加熱膨張させ、ノズルから噴出して推進する方式[4][5]宇宙開発競争の最中、米ソ両国により研究が行われたが、実用化にはいたっていない。アメリカではNERVA計画で、サターンロケットの上段で使用するというコンフィギュレーションが検討された。ソ連では1960年代から1980年代にかけて研究されていたRD-0410の試験がセミパラチンスク核実験場で行われている。RD-0410は「Kurchatov Mars 1994」と呼ばれている火星飛行計画で使用例の検討があった。(詳細は英語版 en:Nuclear thermal rocket を参照)

なお日本では、「熱核兵器」といった語があるためか「熱核ロケット」という表現がよく見られるが、熱核兵器は thermonuclear weapon であり、前述のようなその構成からも nuclear thermal rocket という英語に適切に対応している表現は「核熱ロケット」である。なお、「熱核ロケット」としたほうが正確となる thermonuclear rocket という表現(意味的にも nuclear thermal rocket とは少し異なる)もそれなりに用例はあるようなので、「核熱ロケット」と「熱核ロケット」という表現については、対応する英文がある場合にはそちらも確認する等の注意が必要である。

核パルス推進

核パルス推進 (Nuclear pulse propulsion) は、ロケット後方で核爆発を繰り返し発生させ、その衝撃で推進する方式。オリオン計画ダイダロス計画で研究が行われた。原爆を使用する場合は核分裂パルス推進水爆を使用する場合は核融合パルス推進ともいう。

核融合ロケット推進

核融合ロケット (Fusion rocket) 推進は、エネルギー源として核融合を使用するロケットによる推進の総称。推進手段は電気推進や核パルス推進となる。

バサード・ラムジェット推進

バサード・ラムジェット(: Bussard ramjet)は、核融合ロケットの燃料として星間物質水素を使用する理論上の推進方式である。宇宙船前方に設けられた直径数キロメートルの集積装置で水素を集め、それを燃料として核融合を行う。

歴史

ファイル:Nuclear thermal engine NRX A-1.png
NRX A-1原子力ロケットエンジン
ファイル:NASA-NERVA-diagram.jpg
NERVA原子力ロケットエンジン

原子力船原子力機関車などもあるが、ここでは航空宇宙関係を中心に扱う。

アメリカ合衆国空軍原子力飛行機計画から述べる。1955年9月から1957年3月まで原子力飛行機NB-36Hによる原子力搭載前飛行実験が47回行なわれたが、1961年には計画そのものが破棄された。1950年代後半から1964年7月までプルート計画English版として原子力エンジンを搭載した巡航ミサイルの開発が進められていた。ICBMの進歩により必要性がなくなり中止された。

ソ連も原子力飛行機を開発しており、改造Tu-95ターボプロップ戦略爆撃機に小型原子炉『クズネツォフNK-14原子力エンジン』を搭載したTu-119で試験していた。実際に飛行中に原子炉を稼動させ、1965年に初飛行したといわれている。また、一部情報によれば48時間連続して原子炉を稼動させることに成功したとされ、乗員は被曝せず生還できたという。

一時期、ソ連科学誌の記事からの連想か、ミヤシチョフ設計局の試作超音速戦略爆撃機M-50を“ソ連の原子力飛行機”とする誤報が流布し、(噂を利用するためか)1961年7月のツシノ航空ショーで実際には亜音速機だったM-50を公開し、ソ連の航空技術に対する過大評価と脅威を与える事に成功したが、やはり、実戦配備可能な原子力飛行機は開発されなかったとされる。

近年、原子力発電や原子力潜水艦の炉心のような一般的な原子炉を利用するのではなく、「核異性体転移」という現象をX線照射で人工的に制御する事で膨大な熱量を得て空気の薄い超高空でも飛行可能で、長期間燃料交換の必要がない『TIHE(Triggered Isomer Heat Exchanger)[6][7]』と言う概念の原子力推進が研究されている。TIHE反応炉は、一般ジェットエンジンの燃焼室に当たる位置に置かれるモノで、ルテチウムハフニウムタンタルいずれかの核異性体で出来た細いチューブ状に成形された炉剤が鉛製反応炉に蜂の巣のように詰め込まれる。X線照射の調節により、始動・停止・スロットリング(推力調整)の確実な調整が可能である。

例えば、長時間偵察飛行を要求されるRQ-4 Global HawkクラスのUAVに採用した場合、一回の燃料補給(炉剤交換)で数週間から数ヶ月もの滞空時間が得られるが、核異性体製造には加速器などが必要なため莫大なコストが掛かり、微量とはいえ若干の放射能汚染は避けられないため、実用化にはほど遠い段階である。

平和利用としては、NASAで核分裂反応を利用するNERVA(Nuclear Engine for Rocket Vehicle Application)計画でロケット飛翔体応用原子力エンジン(原子力ロケット)という技術が考案されていた。原子力ロケットは燃焼実験(核反応でも燃焼と言う)も行われていた。ソビエトではRD-0410エンジンが試験されていた。2003年にNASAは探査機の用途にプロメテウス計画を始めたが2年後に中止した。

原子力推進の登場する作品

ほぼすべての作品において、「作中の未来では技術の進歩によって、放射線の問題は解消した」ことが暗黙の前提とされている。

2001年宇宙の旅
映画2001年宇宙の旅」のディスカバリー号は原子炉をエネルギー源としたプラズマ駆動である。アーサー・C・クラークの小説版によると推進剤は出力では液体水素が理想だが沸点が高くタンクからの流出ロスが少ないという理由で液体アンモニアが用いられている。原案段階では上記の「核パルス推進」が採用される予定だったが、核兵器に対する世論が激しさを増していたため、変更されたという(また情景があまりにも滑稽な上、キューブリックの前作「博士の異常な愛情」の通り、彼が水爆を本気で愛するようになったのではないか?という噂を懸念した)。
ディープ・インパクト (映画)
映画「ディープ・インパクト」に登場するアメリカとロシアが共同で開発した大型宇宙船「メサイア」が実験的な原子力推進システムを搭載しているという設定になっている。劇中でも「オライオン計画」に関する台詞が見られる。
マクロスシリーズ
マクロスシリーズに登場する可変戦闘機は熱核反応タービンエンジンを搭載し、大気圏内外での飛行を可能にしている。
ガンダムシリーズ
ガンダムシリーズのうち宇宙世紀に登場するほとんどの宇宙船やMSは核融合炉を動力源としている。またスペースコロニーの移動時や一部の小惑星は核パルスエンジンを搭載している。
プラネテス
木星往還船「フォン・ブラウン号」がタンデム・ミラー型D-3He核融合エンジンを搭載。また火星往復にサーキット・コイル型核融合エンジンが実用化されている。
ARIEL
ARIELに登場する女性型の巨大ロボット兵器ARIELは核融合炉と可変サイクル式スクラムジェットエンジンを組み合わせる事により、垂直離着陸および超音速巡航能力を実現している。
ラジヲマン
あさりよしとおによるギャグ漫画作品。原子力カー、原子力ミサイルなど様々なアイテムが登場する。なお、放射能の問題は解消していない。
サンダーバード
第1話、12話、21話に原子力超音速旅客機「ファイヤーフラッシュ号」が登場する。最高速度マッハ6で亜成層圏を飛行することができる原子力ターボジェットエンジンを搭載しているが、このエンジンは、約2時間おきに安全カバーを交換しないと放射能漏れを起こす。

注・出典

関連項目

外部リンク


テンプレート:宇宙機の推進方法