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屠蘇器。左が盃台に乗せられた盃、右が銚子。

(さかずき)は、主に日本酒を飲むために用いる器。あるいは酒坏とも書く[1]。小さなものは盞ともいう[1]

概要

盃の多くは、中心がくぼんだ状・円筒状で、皿部分の下に小さな円筒(高台)が付いている形状になっている。材質は、を塗った漆器製ガラス製切子等の装飾入りも)、ピューター)などの金属製陶磁器製、「かわらけ」とも呼ばれる土器製などがあり、大きさは様々である。

盃は、通常、を飲むために使用される。日常の飲酒から、神道結婚式神事などフォーマルな席まで、色々な場面で使用される。また、酒を飲む以外にも黒田節を舞うための道具、優勝した際に渡される賞品トロフィー)、勲章褒章などと共に授与される賜杯などとしても用いられる。

神道

神社や皇室では神饌の酒を盛るために盃を使用することがある。なお、この場合は三方、折敷、高杯等に盃を載せて供える。神道の盃は、上古は素焼土器であったが、後世は陶器、漆器、金器、銀器等も使用するようになった。「盞」「酒盞」「酒杯」とも書く[2]

組盃

大小複数の盃を一組にした盃を組盃という。重ね盃ともいう。一般的なものは三枚一組の三ツ組盃で盃台が付けられている場合が多い。

杯事

盃を用いて酒を酌み交わす杯事(さかずきごと)は、血縁の無い人間関係を確認し、強固にするためにも行われる。このため、盃を「絆」の意味で用いることもある。上下関係や席次を前提とする結縁の杯事では、上位者が先に口にした盃を、下位者が頂いて口にする慣わしがある。その後、飲み干した盃を下位者がそのまま拝領しに入れる作法もある。

神道の結婚式では、夫婦となる男女が神前で3種の盃を用いて酒を飲む三々九度と、列席した親族が共に盃で酒を飲む親族固めの杯の儀式が行われる。これにより、新たに作られる夫婦とその夫婦を取り巻く親戚関係が作られ、その結束を確認する意味を持つ。

また、日本の暴力団では、兄弟や親子など家族を模した関係が形成され、これを確認するために行われる杯事が重視される。正式に傘下に入ることを「盃を貰う」、傘下から離脱することを「盃を返す」などと言い慣わす。

さらに、後に死に別れて会うことが出来ないことが予測される場面などでは、酒ではなく水を酌み交わす水杯(みずさかずき)が行われることもある。近代においても第二次世界大戦中、特別攻撃隊の出撃前には水杯が酌み交わされた。

水が用いられた例としては他に、多人数で誓約を行う際に、各人が署名した起請文を神前で燃やし、その灰を盃に入れた「神水」に溶いて飲む一味神水がある。中世から近世にかけて一揆の結成に際してしばしば行われた。

北信流

長野県北信地方の一部には、「北信流」(真田十万石流ともいう)と呼ばれる宴席における盃事の風習があり、主宰者の功労をねぎらい、祝意を表するものである。これは安土桃山時代以来、真田氏の出陣の際に行われた「お盃の式」が松代藩に伝わり、大正6年(1916年)に旧藩関係者以外にも広くお披露目されたことに始まる。

宴席で場が暖まりお開きが近い頃を見計らい、参会者の中の年長者や主賓から「盃を差し上げたい」などと北信流を行おうという旨の動議が出され、同時に指名を一任する事の同意が求められる。参会者の賛同を得られたら、盃を受ける人とお酌をする人が指名され、謡の心得のある人が一人「お肴役」に指名される。お酌をする人とされる人は一組とは限らず、同時に複数で行なわれることもある。お酌の指名を受けた人はその日の功労者や主宰者(主に宴席の幹事など)に盃を持参し、お酌をする。そして「お肴」として宴席にふさわしい謡が披露される。「お肴」が終わると注がれた酒を飲み干し、その盃にはもう一度お酌がされ、これも飲み干す。そして今度は注いでもらった側が「盃返し」として、同様にお酌を受ける。

ゴマンサン

長野県東信地方の一部には、「ゴマンサン」と呼ばれる宴席における盃事の風習がある。席の最後に巨大な大盃に清酒を一升位入れて回し飲みをする。「ゴマンサンを回す」という表現もある[3]

その他

盃は、上記の朝顔状の他にも、いろいろな形が存在している。

可杯(べくはい)
可杯はすり鉢状の小ぶりの盃で、下に高台が付いていない。そのため、酒を注いだ後に床などに置こうとすると、酒がこぼれてしまう。盃を置く為には、注がれた酒を飲み干さないといけないという物である。
座興杯(ざきょうはい)
座興杯は可杯と同じ様に、酒を注いだ後に置くと酒がこぼれる杯で、こちらは器に穴が空いているため、飲み干すまで指でその穴を押さえて置かなけれいけない。座興杯はお座敷の遊びの為の杯で、大きさが大・中・小とある。サイコロのようなコマを回して、出た目の器に酒を注いでもらい、それを飲み干すのである。
馬上杯(ばじょうはい)
馬上で酒を飲みやすいように、ゴブレット状の足を付けた盃。
猪口
小ぶりの杯

脚注

  1. 1.0 1.1 岩井広實監修、工藤員功編 『絵引 民具の事典』 p.56 2008年
  2. 『神社有職故実』全129頁18頁昭和26年7月15日神社本庁発行
  3. 『佐久市志民俗編下』全1706頁中1373頁長野県佐久市 平成2年2月20日発行

関連項目