ヒュロス
ヒュロス(古希: Ὕλλος, Hyllos, 英: Hyllus)は、ギリシア神話の人物である。英雄ヘーラクレースとデーイアネイラの息子で、クテーシッポス、グレーノス、オネイテース[1]、マカリアーと兄妹[2][3]。イオレーとの間にクレオダイオスをもうけた[4][5][6]。
ヘーラクレイダイの一代目であり、ミュケーナイ王エウリュステウスを戦って破るものの、ペロポネーソス半島から追放される憂き目にあった。
神話
ミュケーナイ軍との戦い
ヒュロスはヘーラクレースとデーイアネイラの間に生まれ、両親が死亡した後、エウリュステウスによって迫害されていた。彼は、ヘーラクレース直系の息子であるヒュロスによって自らの王位が奪われることを恐れていた。ヒュロスは最初、トラーキースのケーユクス王の元に身を寄せていたが、エウリュステウスの脅しによって国を追われ、最終的にアテーナイのマラトーンにあるゼウス神殿へと逃げ込んだ。当時、アテーナイ王であったデーモポーンは彼らを見捨てないことを約束し、エウリュステウス率いるミュケーナイ軍と全面対決をすることになった。
ヒュロス軍は「ペルセポネーに由緒ある家柄の娘を生贄に捧げる」ことで勝利を得られるという神託を聞き、ヘーラクレースの娘マカリアーが自ら命を絶った。年老いていたイオラーオスは天上にいるヘーラクレースとその妻ヘーベーに祈りを捧げると、天から二つの星々が降ってきて黒雲が彼の周りを包み込んだ。黒雲に包まれたイオラーオスはたちまち若返り、かつての力を取り戻した。青年となったイオラーオスはその武勇をいかんなく発揮し、敵将を撃破してエウリュステウスを追い詰めると、スケイローンの岩の傍らでエウリュステウスをひっ捕らえた。エウリュステウスはアルクメーネーによって処刑された[7]。
ペロポネーソス半島征服と撤退
エウリュステウス撃破後、ヒュロスはペロポネーソス半島へと攻め入り、その領土を手に入れた。しかし、至る所で疫病が蔓延し、神託を伺ったところ、定められた運命よりも早くペロポネーソスへと帰還してしまったことが原因であった。ヒュロスはしぶしぶペロポネーソスから撤退し、マラトーンへと戻った[8]。
苦難の始まり
ヒュロスはデルポイに赴き、ペロポネーソス帰還に関する神託を伺った。そこで「3度の収穫の後に帰還すべし」という神託を得、ヒュロスはこれを「3年後」と解釈し、3年後に軍を結集させて再びペロポネーソスへと攻め込んだ[8]。コリントス地峡で両軍対峙した。そこでヒュロスは戦争をせずに一騎討ちをすることを提案し、「もし私が勝利すればヘーラクレイダイはペロポネーソス半島に帰還して父祖の権利を主張できるが、もし負ければ今後100年間、帰還しない」と約束した。ペロポネーソス軍であったテゲアー王のエケモスがそれに志願してヒュロスと一騎討ちを展開した。その結果、ヒュロスはエケモスに敗れ、その生涯の幕を閉じた[9]。
この一騎討ちの結果により、ヘーラクレイダイはペロポネーソス半島から再び遠のくこととなった。ペロポネーソス半島への帰還はテーメノスの代に果たされることになる。
系図
脚注
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア悲劇III エウリピデス(上)』、ちくま文庫(1986年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヘロドトス『歴史(下)』松平千秋訳、岩波文庫(1972年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)