ちくま文庫
ちくま文庫(ちくまぶんこ)は、株式会社筑摩書房が発行している文庫レーベル。1985年12月より刊行開始した。基本的な装幀(フォーマットならびに安野光雅がデザインした。 ちくま文庫を立ち上げた松田哲夫は安野の教え子である。[1]それが縁で依頼したという。 なお、同音の「チクマ文庫」とは別。
特徴
ちくま文庫の柱は4本あり、「新教養」「古典」「ヤングアダルト」「全集」である[2]。文庫名を「筑摩文庫」でなく、敢えて平仮名で「ちくま文庫」と命名したのは、元々の筑摩書房のイメージから離れ、「ゆるやかな枠組みで作品を選んでいこう」という想い[3]に基づいている。 また文庫編集部員であった松田哲夫によると当時筑摩という漢字がよめない読者が数多くいたためひらがなにしたという。[4]
文庫レーベルは2種類に分けられ、「翻訳、古典、シリーズ」を扱う月マークと「現代日本の小説、エッセイ、評論、ノンフイクションほか」を扱う太陽マークが扉ページに描かれている。個人全集を多数出した版元として、文庫サイズでの個人全集(夏目漱石・芥川龍之介・森鴎外・太宰治・宮沢賢治など多数)が充実[5]しているのも特色である。
当初は、自社刊行物の囲い込み(自社自身での再刊)の意識が強かったが、1992年のちくま学芸文庫発足以降は、一般書籍の比重が高くなった(両レーベル共に、他社初版の再刊も多い)。創刊から25年以上を経過したため、品切れになった著名作品(チェーホフ全集、岡本かの子全集、坂口安吾全集など)も多く、初版のみで品切となった書目も多い。読者アンケートなどをもとに、不定期で復刊も行っている。
また、古典文芸作品では、マルセル・プルースト『失われた時を求めて』を1990年代前半に文庫化し重版、小説では、三島由紀夫『三島由紀夫レター教室』 [6]、ガルシア=マルケス『エレンディラ』など多くの再刊をしている。
一方で、赤瀬川原平『老人力』のような話題作や、都築響一による『珍日本紀行』や『TOKYO STYLE』、『賃貸宇宙』といった写真集や、なぎら健壱・藤木TDC・今柊二他多数の「食・酒場めぐり案内」など、硬軟両面の特徴をあわせ持っている。
なお2006年に、ちくま学芸文庫で数学、物理学、科学史などを扱う科学部門の「Math&Science」シリーズが発足した。
話題
- 三島由紀夫の「命売ります」が突然各書店で売れ始めた。担当編集者によると、異例の事態だという。
- ちくま文庫創刊30周年記念とし、月のノオトという自由に書き込めるノートを全国にまわし、何冊もどってくるか?という企画が催されていた。
著名な刊行書目(上記以外)
- 宮下志朗訳、フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワとパンタグリュエル』(全5巻)
- 松岡和子訳、シェイクスピア全集、(刊行中、2014年現在25巻目)
- 柳田國男全集(全32巻、ほぼ品切)
- 中島敦全集(全3巻)
- 梶井基次郎全集(全1巻)
- 夢野久作全集(全11巻、ほぼ品切)
- ロートレアモン全集(石井洋二郎訳、全1巻。マルドロールの歌ほか)
- 三国志演義(井波律子訳、全7巻)、品切
- 水滸伝(駒田信二訳、全8巻)[7]
- 詳注版シャーロック・ホームズ全集、全10巻+別巻(シャーロック・ホームズ事典)-詳細な解説・注入り(小池滋監訳)、品切。
- ノヴァーリス作品集(全3巻、今泉文子訳)
- 山田風太郎明治小説全集(全14巻)、『山田風太郎忍法帖短篇全集』(全12巻)[8]
脚注
- ↑ 松田哲夫編集狂時代
- ↑ 岡崎 (2000)、232頁。
- ↑ 岡崎 (2000)、231頁、文庫編集部員だった金井ゆり子の回想より。
- ↑ 松田哲夫編集狂時代より
- ↑ 岡崎 (2000)、233頁、一部を除き、全巻分売されるので、読者は好きな巻だけを買うことができ、宮沢賢治の場合は童話の収録された巻の売れ行きがよく、詩集の収録された巻は弱い。ただし、常備は難しいので品切の巻も多い。
- ↑ ミュージシャンの小沢健二が、テレビ番組で紹介したところ、火がついたように重版され、小沢のお気に入り本との紹介コピー入った帯が新たに付き、小沢自身も喜んだという。岡崎 (2000)、234-235頁
- ↑ 元版は「中国古典文学大系」で、講談社文庫(全8巻)版を再刊
- ↑ 前者は単行判全6巻と同時刊行、後者は文庫オリジナルでの全集判
参考文献
- 岡崎武志 『文庫本 雑学ノート[二冊目]文庫王のごひいき文庫ものがたり』 ダイヤモンド社、2000年、229-240頁。ISBN 4-478-95035-0。
- 編集狂時代本の雑誌社のち新潮文庫松田哲夫著
- ほか以下の書籍に詳しい。