非可換整域

提供: miniwiki
移動先:案内検索

数学の特に環論と呼ばれる抽象代数学の一分野における(非可換[注釈 1]整域あるいは(いき、: domain)とは、右または左零因子を持たない(つまり ab = 0 ならば a = 0 または b = 0 が成り立つ[2]零積律English版を満たすとも言われる)のことを言う。しばしば自明でない(一つよりも多くの元を持つ)ことを仮定する[3]が、域が乗法単位元を持つならば、この仮定は 1 ≠ 0 と同値[4]であり、この場合の域は「左または右零因子を持たない非自明な」のことになる。1(≠ 0) を持つ可換域は(可換)整域と呼ばれる[5][注釈 1]

定理 (Wedderburn)
有限域は自動的に有限体になる。

零因子について(少なくとも可換環の場合には)位相幾何学的な解釈をすることができる。環 R が可換整域となるための必要十分条件は、R被約環(つまり冪零元を持たない環)であり、かつそのスペクトル Spec R既約位相空間となることである。前者の性質はある種の無限小の情報を保有しているとしばしば考えられ、対して後者はより幾何学的な情報を与えている。例えば、体 k 上の環 kテンプレート:Bracket/(xy) は整域でない(x および y の属する類が零因子を与える)が、これは幾何学的にはこの環のスペクトルが既約でない(実際に、二つの既約成分である直線 x = 0y = 0 の和となる)ことに対応する。

域の構成

環が域であることを示す方法の一つは、特別な性質を持つフィルター付け(フィルトレーション)を提示することである。

定理 
Rフィルター付き環English版で、付随する次数環 gr R が域ならば、R 自身が域を成す。

この定理を利用するには、次数環 gr R を調べる必要がある。

群環と零因子問題

G K に対して、群環 R テンプレート:ColoneqqKテンプレート:Bracket は域となるかを考える。恒等式

[math] (1-g)(1+g+\cdots+g^{n-1})=1-g^n[/math]

から有限な位数 n を持つ元 g から R の零因子 1 − g が得られる。零因子問題(カプランスキーの零因子予想)とはこれ以外の方法で零因子が得られないかどうかを問うものである。即ち、

零因子問題
与えられた K捩れのない群 G に対して、「群環 Kテンプレート:Bracket は零因子を含まない」という主張は真であるか

今のところ反例は知られていないが、問題は一般には未解決のままである(2007年現在)。

様々な特定の群のクラスについては肯定的に解決されている。Farkas & Snider (1976)は「G が捩れの無い多重巡回×有限English版群 (polycyclic-by-finite group) で K標数 char K = 0 の体ならば群環 Kテンプレート:Bracket は域を成す」ことを証明した。後に Cliff (1980) が体の標数に関する制限を取り除いている。Kropholler, Linnell & Moody (1988) はこれらの結果を捩れの無い可解群および可解×有限群の場合にまで一般化している。それより早く Lazard (1965) の成した研究は(その重要性は20年もの間この分野の専門家に省みられることは無かったが)、Kp-進整数環GGL(n, Z)p-次合同部分群English版である場合を扱っていた。

注釈

  1. 1.0 1.1 ここでいう「非可換」は一般に「必ずしも可換とは限らない」の意味だが、可換でないことを強調する意味で非可換とつけることもあるので注意。本項では必ずしも可換でないという意味では単に「域」を用い、非可換であることを強調する意味で「非可換域」を用いた。広義には、integral domain の意味で domain を用いたり[1]、可換・非可換あるいは非零単位元の有無を問わず「整域 (integral domain)」という語を用いることも少なくないので、文脈に注意すべきである。

出典

  1. Weisstein, Eric W. “Domain”. MathWorld(英語). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  2. Polcino M. & Sehgal 2002, p. 65.
  3. Lanski 2005, Definition 10.18.
  4. Jacobson 2009, Section 2.2.
  5. Rowen 1994, p. 99.
  6. Lanski 2005, p. 343.

参考文献

  • (2001) A First Course in Noncommutative Rings, 2nd, Berlin, New York: Springer-Verlag. ISBN 978-0-387-95325-0. 
  • Lanski, Charles (2005). Concepts in abstract algebra. AMS Bookstore. ISBN 0-534-42323-X. 
  • (2002) An introduction to group rings. Springer. ISBN 1-4020-0238-6. 
  • Nathan Jacobson (2009). Basic Algebra I. Dover. ISBN 978-0-486-47189-1. 
  • Rowen, Louis Halle (1994). Algebra: groups, rings, and fields. A K Peters. ISBN 1-56881-028-8. 
  • Snider, D. (1976), “Ko and Noetherian group rings”, J. Algebra 42 
  • Cliff, G. H. (1980), “Zero divisors and idempotents in group rings”, Cañad. J. Math. 32 
  • Kropholler, P. H.; Linnell, P. A.; Moody, J. A. (1988), “Applications of a new K-theoretic theorem to soluble groups rings”, Proc. Amer. Math. Soc. 
  • Lazard, Michel (1965), “Groupes analytiques p-adiques”, Publ.Math.IHES 26 

外部リンク

関連項目