石棒
石棒(せきぼう)は、縄文時代にみられる磨製石器の一種。男根を模した呪術・祭祀に関連した特殊な道具と思われる。
最大の石棒は長野県佐久穂町にある北沢大石棒で、長さ223cm、直径25cmである。
概要
横断面は円形ないし楕円形での棒状石製品で、両端または一部を瘤状につくりだしたものが多い。この瘤状部分を頭部と呼び、その位置と有無によって両頭・単頭・無頭石棒と呼び分ける。日本列島では東日本に多く、西日本ではまれにしか出土しない。また一部地域では石棒に似た土製品も造られている。
住居内の炉の側で出土する事例が見られ火熱による損壊変色があることから、石棒は火と関連する祭祀で用いられた祭祀具とする説がある。また、墓に副葬された石棒もあるように、幾通りもの呪術的機能を持っていたことが推定される。
変遷
縄文時代前期の秋田県・岩手県では、頭部に沈線をめぐらし、その先端に刻み目を入れた写実的な男根形石製品(長さ10~15cmほど)がつくられた。ただし少数派で、分布地域も限られ、短期間で姿を消す。
中期になって大型品が新たに出現する。直径が10cmを超え、長さが2mに及ぶものがあり、北陸・中部・関東に多い。佐渡の長者ヶ平遺跡の中期前半例のように、単頭石棒の頭部を写実的な亀頭形としたものがあり、石棒が男根の表象であることを示唆する。中期半ばには、北陸を中心に、大型で頭部にめぐる隆起帯の上下または下にいわゆる三叉文帯を彫る特徴的なものが発達し、これを女性器の表現とみる説もある。完形品は極めて希で、多くは半分に折れた状態で出土する。中期末~後期初頭には敷石住居の敷石や石囲炉に配置したものがあり、しばしば火熱による変色や折損がみられる。住居外の出土品では、土坑の中央や縁部に直立するものや施設を伴わず単独で直立するものもある。後期には住居跡内の大型石棒の発見例はなく、複数個が屋外の配石遺構に伴う事例が一般的となって、晩期に続く。
中期から続く太くずんぐりした大型石棒とは別に、後期半ば以降の北海道・東北では直径2~3cmのほっそりした小型の石棒が発達する。両頭式を原則とし、頭部を彫刻文様で飾る。細く華奢なつくりで、折れた状態で発見されるのが普通だが、北海道石狩平野を中心に発達した周堤墓の墓坑では完形品を副葬しており、この種の石棒と葬送儀礼の関連を考えさせる。晩期には、このほっそりした小型の類が関東・中部で継承されるが、ここでも完形品はほとんどなく、短く折れ、かつ火熱によって変色し、砕けたものが多い。