永久凍土
永久凍土(えいきゅうとうど)とは少なくとも2冬とその間の1夏を含めた期間より長い間連続して凍結した状態の土壌を指す。
英語では、永久凍土のことを permafrost と表記するが、permanently frozen ground(永久に凍った土壌)の省略語で1945年に S. W. MULLER[1]によって使われた[2]。
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解説
永久凍土は北半球の大陸の約20%に広がっている[3]。永久凍土の厚さは数百m(アラスカの Prudhoe Bay では650m[2])にも及ぶこともある。永久凍土の上部には夏の間融けている活動層があり、ポドゾルという酸性の土壌となり、タイガや草原となっている。活動層の厚さは年や場所によって変化するが、典型的なものでは0.6-4mの厚さである。
日本では、富士山頂上付近[4]および大雪山頂上付近[5]、北アルプスの立山[6]などに永久凍土が確認され、槍ヶ岳・穂高連峰の大キレットカール内に存在している可能性が高いと報告されている[7]。
永久凍土の形成と分布
永久凍土は、氷河や氷床を形成するような大量の降雪が無ければ、年平均気温が氷点下より低いあらゆる気候、典型的にはツンドラ気候で形成され、その規模は気候に応じて変化する。しかし、季節ごとの地面の温度変化が気温の変化より平均的に小さくなれば(上層が融けて)その深度は深くなる。もし年平均気温が0℃に近い温度まで上昇すると凍土は部分的に融解し、点在して分布するようになる。これを不連続永久凍土という。一般に、永久凍土は年平均気温が-5℃から0℃の間の気候下条件で不連続になる。年平均気温-5℃以下では凍土の融解はおこらず連続永久凍土地帯が形成される。氷期に例外的に「非氷河地域」だったシベリアやアラスカは(冬は)現在より11℃寒冷であり、現在の凍土の深さは当時の気候状態を保存している。
北半球の連続永久凍土境界は、極東から北方向の地域に分布する。この境界の北ではすべての地面は永久凍土もしくは氷河・氷床に覆われる。東西方向の広がりを見ると、場所によって地域的な気候の影響を受け、境界が北や南へ遷移する。南半球の場合、もしも陸地があったなら連続永久凍土境界は南極海とほぼ平行して、氷河氷床に覆われていなければ大陸のほとんどが連続永久凍土地帯であったと思われる。
最終氷期最寒冷期には連続永久凍土が現在よりもはるかに広く地上を覆っていた。ヨーロッパの氷に覆われていないすべての土地、南はポーランドのセゲドから、乾燥し干上がっていたアゾフ海まで、中国では北京まで広がっていた。日本では中部から東北にかけての高地や、北海道のほとんどが連続もしくは不連続凍土に覆われていた。北アメリカでは氷床の南端、緯度にしてニュージャージー州からアイオワ州南部、ミズーリ州の北部のきわめて狭い一帯のみにしか分布していなかった。南半球でもこの時期、ニュージーランドのオタゴ中央やアルゼンチンのパタゴニアで永久凍土が形成されたいくつかの証拠がある。だが、きわめて高緯度の地域以外では不連続で、高度が極めて高い場所に限られていたようである。
永久凍土地帯に見られる特徴的な地形
永久凍土の分布する地域には、いくつかの特徴的な地形が発達する。
- 氷楔 (ひょうせつ、ice wedge)
- 凍土の亀裂に染み込んだ水が楔(くさび)状に凍ったもの。
- ポリゴン構造 (polygon)
- 地下に氷楔があるため、氷の溝で地表が多角形(polygon)のように見える地形[8]。
- エドマ (edoma)
- 氷楔が何年もかけて成長したもの。エドマ氷の含有率が高い土壌は、日本語ではエドマ層と呼ぶこともある[9]。
- ピンゴ (pingo)
- 窪地に溜まった水が地表下で氷になり、地上を押し上げた地形[10]。
- アラス (alas)
- 地下氷が融けて沈んだ窪地。
永久凍土の融解
永久凍土の分布と深度を計測することで、近年(1998、2001年)アラスカとシベリアの永久凍土の融解が報告されたように、地球温暖化の指標になる。カナダのユーコン準州では、連続永久凍土帯が1899年以来100km北へ移動した。しかし正確な記録は30年しかさかのぼれない。永久凍土にはメタンハイドレートが含まれており、融解すると、強力な温室効果ガスであるメタンや他の炭化水素を大気に放出し、世界的な温暖化を激化させると考えられている[11][12][13]。また永久凍土は北極地方の平原を安定させているが、温暖化によって侵食や建築地盤の沈下などが進むと予想される[14][15]。
永久凍土と生物
夏季を中心に、地表近くが凍結していない永久凍土地域では、タイガ(針葉樹林帯)または草やコケ植物などが生えるツンドラが広がっている[16]。そこを生活圏とするトナカイのような動物もいる。
シベリアの永久凍土層からは、マンモスのような絶滅種を含む動物の死骸が良好な状態で発見されて貴重な研究資料となっており、ホラアナライオンが見つかったこともある[17]。
一方で、2016年にロシア連邦ヤマル半島で発生した炭疽菌感染は、永久凍土の融解により地表に露出したトナカイの死骸から菌が人間にも広がったと推測されている。地球温暖化に伴い、他の病原微生物が地上に再び現れるリスクも指摘されている[18]。
永久凍土地域の建築
永久凍土上での建物やパイプラインの建設はそれらの排熱で凍土が融解して沈み込むために技術的に困難を伴う。この対策として基礎に木材やパイルを打ち込む、石材を厚く(1 - 2mの厚さ)敷き詰めた上に建造する、無水アンモニアのヒートパイプを使用するなどしている。アラスカ縦断パイプラインでは、パイプラインが永久凍土に沈むのを防ぐために断熱ヒートパイプを使用している。ヤクーツクの永久凍土研究所は、大きな建物が凍結した地面に沈むのを効果的に防ぐ方法として支柱を深度15m以下まで伸ばすのが有効であるとした。この深さまで行けば季節変化の影響を受けず、内部の温度はおよそ-5℃のまま変化しない。
脚注
- ↑ Muller, S W. PERMAFROST OR PERMANENTLY FROZEN GROUND AND RELATED ENGINEERING PROBLEMS US Geol. Surv. Spec. Rept., Strategic Eng. Study No. 62, 2 nd, 231 pp.
- ↑ 2.0 2.1 木下誠一、永久凍土調査 地学雑誌 Vol.85 (1976) No.1 P10-27
- ↑ 『北極圏のサイエンス』(赤祖父俊一著、誠文堂新光社)p.18
- ↑ 藤井理行、樋口敬二、富土山の永久凍土 雪氷 Vol.34 (1972) No.4 P173-186
- ↑ 岩花剛ほか、大雪山系における永久凍土観測 -2005~2010年- 雪氷研究大会(2011.長岡)セッションID:C3-1
- ↑ 福井幸太郎、岩田修二、立山, 内蔵助カールでの永久凍土の発見 雪氷 Vol.62 (2000) No.1 P23-28
- ↑ 青山雅史、気温・地温観測結果からみた飛騨山脈槍・穂高連峰における山岳永久凍土の分布状況 地理学評論 Series A Vol.84 (2011) No.1 p.44-60
- ↑ 吉岡美紀(国立極地研究所)永久凍土の地形平塚市博物館「火星大接近2003」、2017年12月26日閲覧
- ↑ 地下氷コア解析によるアラスカ永久凍土域の環境動態解明(平成29年度)国立環境研究所・研究紹介、2017年12月26日閲覧
- ↑ 吉岡美紀(国立極地研究所)永久凍土の地形平塚市博物館「火星大接近2003」、2017年12月26日閲覧
- ↑ 国立環境研究所「シベリア凍土地帯における温暖化フィードバックの研究」
- ↑ New Scientist "Climate warning as Siberia melts" 11 August 2005
- ↑ AFPBB News「永久凍土の炭素は予想の1.5倍以上、溶解で温暖化を加速か」2008年8月26日、「シベリアの永久凍土がメタンガスを放出、温暖化加速の不安要因に」2008年9月1日、「永久凍土の融解は長期的脅威、CO2排出量は10億トン」2009年6月1日
- ↑ 独立行政法人海洋研究開発機構「シベリアの凍土融解が急激に進行~地中の温度が観測史上最高を記録し地表面で劇的な変化が発生~」2008年1月18日
- ↑ MSN産経ニュース「シベリアの永久凍土、急速に解け始める」2008年1月19日
- ↑ 飯島慈裕「永久凍土って何ですか?」海の研究探検隊JAMSTEC、webナショジオ(2017年12月27日閲覧)
- ↑ 絶滅ライオンの子ども、氷漬けで発見 シベリア永久凍土朝日新聞DIGITAL(2017年11月15日)2017年12月27日閲覧
- ↑ 解ける永久凍土と目覚める病原体、ロシア北部の炭疽集団発生フランス通信(AFP)日本語サイト(2016年8月15日)2017年12月27日閲覧
参考文献
- 赤祖父俊一 『北極圏のサイエンス』 誠文堂新光社。ISBN 4-416-20635-6。
関連項目
外部リンク
- International Permafrost Association (IPA)
- What is Permafrost?, Geological Survey of Canada