打順
打順(だじゅん)、バッティングオーダーとは、野球、ソフトボール、ゲートボール、クリケットにおいて選手が打撃・攻撃を行う順番のことである。
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野球
概要
野球やソフトボールでは、試合を始める前に、両チームでそれぞれ、9人の攻撃時の打順と、守備時の守備位置を決定しておく。投手の代わりに指名された選手が打撃を行う指名打者(DH)ルールを使用する場合には、投手の打順の代わりに指名打者とその打順を決定しておく。試合開始時における9人の選手及び指名打者はスターティングメンバー(スタメン)と呼ばれる。また、選手は、チーム内で打順が早いほうから順に、一番打者、二番打者というように呼ばれる。
打順表
野球の場合、試合開始前に両チームの監督が打順表と呼ばれるものを作成し、打順表に記載されている順番で打撃が行われる。打順表は、以下の手順で審判員に渡され、両チーム間で交換される(公認野球規則4.01)。
- 試合開始5分前に審判員が競技場に入り両チームの監督に迎えられ、両監督は2通の打順表を球審に手渡す。
- 球審は、受け取った打順表を確認し、2通が同じであること、打順表に明らかな誤記が無いことを確認する。
- 球審は、1通を正本として手元に残し、もう1通を副本としてそれぞれ相手チームの監督に手渡す。この時点で打順表が確定する。
なおNPBでは、試合開始の約40分前に打順表の交換が行われることが慣例となっている[1]。
打順を誤った場合の規定
打者が打順表の通りに打撃を行わなかった場合、誤った打順で打席に入った打者(不正位打者)が打撃を完了する(走者として一塁に達するかアウトになるか)以前であれば、正規の打順の打者(正位打者)と交替し、ストライクとボールのカウントをそのまま受け継いで打撃を継続することができる。
誤った打順の打者が打撃を完了した場合、相手側がこの誤りを発見してアピールすれば、正規の打順にあたる打者がアウトとなる。このとき、誤った打順の打者の打撃によって起こったプレイは全て無効になる。ただし、不正位打者の打席中に起こった盗塁・暴投・ボーク・捕逸による走者の進塁・得点は、打撃とは関係ないので無効にならない。そして、正規の打順にあたる打者の次の打順の打者が正しい次打者となる。
打順の間違いを指摘するアピールは、次の打席に立った打者に対して投球したり、走者に対して牽制球を投げたりするプレイ(ただし、これ以外にアピールプレイがある場合、アピールプレイのための送球などはここでいうプレイには含まない)の前までに行わなければならない。1つでもプレイが行われると、打順を誤った打者の打撃は正当化されてプレイが続行され、アピールしても認められない。アピールがなく打順を誤った打者の打撃が正当化された場合、その正当化された打者が位置している打順の次の打順の打者が正しい次打者となる。
打順に対する考え方
日本のプロ野球における考え方
日本においては、各打順について理想の選手像があり、それにチーム内の選手を当てはめるという起用が好まれる。一般的には、一・二番でチャンスを作り、三・四・五番で返すという日本で理想とされる攻撃パターンを実現することを目的として、それに求められる能力を有した選手が当てはめられる(最も、これには例外もあり、特に外国人監督の場合には、こういった日本独特の起用法を用いないことが多々ある)。他のアジア諸国でもこのような考え方が好まれるようである。
たとえば、一番打者はトップバッター[2](和製英語)、あるいはリードオフ・マン、リードオフ・ヒッター(leadoff man, leadoff hitter)とも呼ばれる[3]。出塁して、盗塁を決め、そして本塁に生還することが最重要視される[3][4][5]。そのため、高い走力と打撃技術、四球を選ぶ選球眼が求められる[4][5]。その役割から「切り込み隊長」「核弾頭」といった比喩がメディアで使用される。二番打者も同様の傾向があるが、近年の日本のプロ野球ではバントが多用される傾向にあるため、長打はないがバントが上手い技巧派の打者が多く用いられる。
一番打者の役割
まずランナーとして出ることが最大の役割。イメージとしては打率・出塁率が高く盗塁やゲッツーを崩せる足の速さが求められる。チームによっては一発長打の打てる強打者を持ってくることもある。
二番打者の役割
おおよそ一番とほぼ同じような役割を持つが、特に日本ではバントなどの小技を駆使できるバッターが座ることが多い。一番打者がランナーとして出ていれば送りバントなどでランナーを進め、出ていなければ自らヒットを打ってクリーンナップへ繋ぐ。チームプレイが求められる打順である。近年では日本でも二番打者に一発長打の打てる強打者を置く打線を組むチームも存在する。
三番打者の役割
大抵のチームではホームランバッターを置く事が多いポジション。チームによっては四番を凌ぐ実力の持ち主がこの打順に入るほど期待が高い。打率や本塁打数の高さに加え、チャンスを広げられる走力があるバッターが理想的である。
四番打者の役割
日本の野球ではホームランを打てる最強のバッターを置くイメージが強く、チームの花形とされることが多い。四番に入る打者は期待と知名度を背負って打席に立つ事になるため、長打力はもちろん重圧に耐えうるメンタルも求められる。読売ジャイアンツのように歴代の四番打者がすべて記録されているケースもある。
五番打者の役割
長打力を持つバッターが入ることが多い。四番が返しきれなかった前のランナーを生還させたり、四番が凡退したり、敬遠されたりした時の備えとしての役割を担う。長打力はないが打率が高い、いわゆるアベレージヒッターを入れるチームも少なくない。
六番打者の役割
クリーンナップの次の打順だが下位打線の為三番・四番・五番より格の下がる選手の入る打順とされる。打撃に秀でた選手の多いチームには此処にもホームランバッターが入る事もある。ここからの打順からは遊撃手・二塁手・捕手などの守備の重要度の高い選手が着く場合が多くなり打撃にそれほどの実力が無くても守備に自信があるならレギュラーを獲得する場合も。
七番打者の役割
打率もホームランも無い選手が入る事が多くプロではほぼ守備型の選手がこの打順に入る。出塁した五番、六番を進塁させるための走力、右打ちなどの技術があると望ましい。確実性は低いながらも長打力が高かったり、打撃成績自体は凡庸であっても勝負強い、意外性のある打者が入る場合もあり、その場合は『恐怖の七番打者』と呼ばれる。
八番打者の役割
打撃の優先順位が高くない捕手は守備への負担も考慮しここに入る場合が多い。個人間のレベル差が激しい草野球などでは、攻守に能力が劣る選手が八番右翼手(いわゆる「ライパチ」)で起用されることがある。DH制を採用していない場合は九番に投手を置くことが多いため、敬遠されることも少なくない。
九番打者の役割
DH制を採っていないならば投手がこの打順に座る(打撃能力に期待出来ないため)。一番打者へのつなぎの役割を重視し出塁能力や走力に長けたバッターを置くこともある(特にDH制を採用している場合)。
ほかに、六番打者は、筑波大学の研究データによれば四番の次にチャンスで打順が回る確率が高く、打ち損じの少ない打者を入れるのが最適と考え実践する方法もある。もっとも、これは日本プロ野球における統計データを分析したものであり、五番打者に強打者を置くという日本独自の慣習があるからこそ六番打者にチャンスで回るだけであり、六番打者に強打者を配すれば六番打者にチャンスで回る確率は減るという指摘もある[6]。
投手の打順
草創期のプロ野球では、投打に秀でた投手が五番などを任されることもあったが、通常は下位打線、とりわけ打撃力のない投手の場合は八番に入っていた。しかし、投手は守備で最も体力を使うため、打席数を減らして負担を軽くしようという意図から、徐々に九番で起用されることが増えた。近年では、投手が九番以外を打つことはほとんどなく、その理由としては、打撃力のない投手の打席数が増えるのは不利であるからとされることが多い。一方で、八番に投手を置き九番に野手を入れることで、一番打者とのつながりを重視する戦法も存在し、川上哲治監督がしばしば導入していた。現在でもたまに見られる戦法である[7]。なお、メジャーリーグにおいて打順を統計的に解析した結果では、最強打者からもっとも遠い打順に投手を置くのが効率的であると言われており、例えば二番打者に最強打者を置くならば投手は七番打者、三番打者に最強打者を置くならば投手は八番打者にすべきであると指摘されている。
アメリカにおける考え方
メジャーリーグベースボール(MLB)球団、ブルックリン・ドジャースのスプリングトレーニングの訓練係を担当していたアル・キャンパニスが当時の「多くの優れた野球人」からの意見も採り入れて1954年に著わした野球技術書『ドジャースの戦法』によると、一番打者はストライクゾーンをよく判断出来る人が最適であり、足が速くて優れた走塁が出来てバントが上手ければ尚良しとされている。二番打者はヒットエンドランの出来る人でなければならず、バントが上手で足が速いことも必要だとしている。三番打者はチームの中で最も確実性が高い打者であり、足も速くて長打力も相当あるものでなければならないとしている。四番打者は足の速さは必須ではなく、最も長打力がある打者で塁上に走者がいる時に相手投手を威圧出来るような打者でなければならないとしている。五番打者は2番目に長打力がある打者で逆境時に頼りになる打者でなければならないとしている。六番打者は第一候補として3番目に長打力がある打者を置き、適した強打者がいない場合は一番打者タイプの打者を置く。七番打者は確実性はそれほど必要としないが、時には打たなければならないとしている。八番打者はレギュラーの中で最も打力の低い打者であるのが普通だが、場合によっては併殺を防ぐために走者の後ろに打たなければならないとしている。九番打者は普通は投手であるが、投手はおおむね打力が低いためにバントの練習を積まなければならないとしている[8]。
しかし、近年のMLBなどでは打順ごとの特定の印象は薄く、チームの選手構成に応じて最適と考えられる打順を組むことが多い。そのため、チームによって強打の長距離打者が三番であったり四番や二番であったりする。もっとも、日本に比べれば弱いながらも、やはり打順ごとのイメージは存在するようであり、一番や二番には出塁率の高い選手やときには足の速い選手が起用され[3][4][5]、三番に最強打者が置かれることが多い。実際に、MLBでの通算本塁打上位5人は3番打者としての出場がもっとも多いという数字が残っている。
ただ、アメリカでは統計的に最適な打順を研究する学者も数多くいるため、最強の打者の最適な配置は選手構成によって異なり、通常は三番打者、偏った選手構成の場合には二番や四番になることもあるという結論が得られている。また、攻撃力を集中することが効率よく得点するためには最重要とされ、最強打者の前後に強打者を固め(すなわち、三番打者を最強打者とした場合には、二番打者や四番打者に準最強打者を置く)、最弱の打者はなるべく最強打者から遠い打順に置くのが良いとされる。すべての監督がこの結論を信用しているわけではないが、こういった統計的な結果を采配に反映させるチームは増えているため、打順に対するこだわりはなくなりつつあるとする意見もある。
ゲートボール
ゲートボール#戦術を参照。
ゴルフ
卓球のダブルス
「卓球#ダブルス」を参照。
脚注
- ↑ 試合の基本ルール/野球のルール.com
- ↑ トップバッターは、転じて、物事を最初に始める人に使用されることもある。日本放送協会の『紅白歌合戦』では、紅組・白組の最初に歌を披露する歌手を「トップバッター」と表現することがある。
- ↑ 3.0 3.1 3.2 “lead-off batter” (英語). Baseball Dictionary and Research Guide. . 2009年1月4日閲覧.
- ↑ 4.0 4.1 4.2 谷口輝世子 「First Impact ― リードオフマンのお仕事」 『月刊スラッガー No.22 , 2000年2月号』 日本スポーツ企画出版社、6-13頁。
- ↑ 5.0 5.1 5.2 スラッガー編集部 「Top of the World ― 1番打者タイプ別徹底分析」 『月刊スラッガー No.62 , 2003年6月号』 日本スポーツ企画出版社、36-39頁。
- ↑ 落合博満 週刊ベースボール2013年12月30日号
- ↑ 2017年のアレックス・ラミレス監督の様にシーズンを通して八番に投手を据え続けていた事例もある
- ↑ キャンパニス(1957年) pp.275-276
関連項目
参考文献
- Al Campanis(著), 内村祐之 (翻訳) 『ドジャースの戦法』 ベースボール・マガジン社、1957年。