リタッチ
リタッチ(英:retouch)とは、野球において、規則により走者が元いた塁に帰って、触れ直す行為をいう[1]。
Contents
概要
打者が飛球を打ち、これを野手が捕球した場合、走者は投球当時の占有塁(元いた塁)まで戻り、これに触れ直さなければならない。これを走者のリタッチの義務ということがある。走者が一旦リタッチを果たせば、その後に離塁(リード)して次塁への進塁を試みることは差し支えない。
リタッチの方法
飛球が捕球された際に走者が離塁(リード)していた場合、直ちに投球当時の占有塁に戻りこれに触れなおす。次塁に触れてさらに進んでしまっている状態では、その(通過した)塁も順番に触れなおした上で投球当時の占有塁まで戻らなければならない[2]。
過去に、触れ直しを忘れてアウトになったプロ野球選手が存在する。
- 長嶋茂雄(元読売ジャイアンツ) - 3回経験している。3回とも一塁走者で、初回が1960年6月25日の広島カープ戦、2回目が1964年5月21日の中日ドラゴンズ戦、3回目が1968年5月16日の大洋ホエールズ戦[3]。
- 阿部慎之助(読売ジャイアンツ) - 2013年8月29日、阪神タイガース戦(東京ドーム)。一塁走者[3]。
- イチロー(当時マイアミ・マーリンズ) - 2015年5月2日[4]。
- 糸井嘉男(当時オリックス・バファローズ) - 2015年9月26日[4]、北海道日本ハムファイターズ戦(京セラドーム大阪)。一塁走者。
- 重信慎之介(読売ジャイアンツ) - 2017年8月6日、中日ドラゴンズ戦(東京ドーム)。一塁走者。これにより試合終了・敗戦[3]。
リタッチ後の走者が次塁への進塁を試みる場合には、飛球の捕球前に帰塁しておき、塁に触れた状態で待機し、捕球もしくは野手が最初に飛球に触れたタイミングで次塁へスタートする、いわゆるタッチアップをおこなう。このタッチアップ行為における捕球タイミングでの離塁は、リタッチをしてその後にスタートしたものと認められる[5]。
走者アウト
リタッチの義務を怠ると、守備側のアピール(野手がその走者の身体もしくはその走者がリタッチを果たすべき塁に触球する)により走者はアウトになる[6]。
- 走者が正しくリタッチを果たす前に、野手がその走者の身体もしくはその走者がリタッチを果たすべき塁に触球した場合。内野へのライナー打球など、打撃から捕球までの時間が短く、離塁していた走者が帰塁する時間が無い場合。外野への飛球でも、野手が捕球できないであろうと判断して次塁へスタートしてしまった場合等で発生する。
- タッチアップを行うケースで、野手が飛球に触れるよりも走者の離塁のほうが早かった場合。
両者ともにアピールプレイである。
ファウルチップ
ファウルチップは飛球の捕球ではない。従って、盗塁が敢行された時にファウルチップが起こっても、リタッチの義務は発生しない。
ボールデッド時の帰塁
ファウルボールが捕球されなかった場合に、ボールデッドとなり、投球当時の占有塁に戻る場合もリタッチと呼ぶ[7]。球審は走者全員のリタッチを確認するまでボールインプレイの状態にしてはならない。ボールデッドの場合は、途中の塁を踏まずに投球当時の占有塁に戻ってもよい[2]。
帰塁しなければならない塁の基準
公認野球規則では7.08(d)項で、
フェア飛球、ファウル飛球が正規に捕らえられた後、走者が帰塁するまでに、野手に身体またはその塁に触球された場合。(走者はアウトになる)
と示されている。「投手の投球当時」とは具体的にいつかについては、公認野球規則には明記がないが、MLB審判マニュアルにおいて、投球当時とは、「投手が打者への投球動作を開始し、規則により、打者へ投球する以外にできなくなったとき」と定義されている。
- 日本においては、プロ野球ではMLBと同様の解釈を採っているのに対して、アマチュア野球では、長らく「投手が軸足を投手板上に位置したとき(オン・ザ・ラバー)」という解釈が長く採られてきた。しかし、2016年からアマチュア野球においても、MLBと同様の解釈に変更されることとなった。
基本的走塁法
野球において投手が投球モーションに入ったら、走者はハーフウェーまでリードを取って打撃を見届けるべきである。特に一塁走者がこの走塁法を怠ると、フォースアウトの可能性が増大して危険である。その一方で、エンドランの様にハーフウェーに止まる事無く占有塁から離れすぎるとアピールアウトの可能性が増大して危険である。
ただしソフトボールにおいては、投手が打者へ投球するまで、走者の離塁は禁じられている。
リタッチを考慮した基本的走塁法として、一般的に走者はハーフウェーで打撃を見届けた後に次の様な走塁を敢行する。
- 打球がゴロの場合、フォースの状態にある走者は進塁に努める。進塁義務の無い走者は、ボールが遠くに有れば進塁を試み、ボールが近くに有れば占有塁に戻る。
- 打球がライナーの場合、打球が外野まで到達すれば、走者はハーフウェーで待機し、外野手の守備を見届ける。打球が内野手の近辺に飛んで行けば、走者は占有塁に戻る。
- 打球が内野フライの場合、走者は占有塁に戻る。
- 打球が浅い外野フライの場合、走者はハーフウェーで外野手の守備を見届ける。
- 打球が深い外野フライの場合、走者はタッグアップに備える。但し、走者が一塁にしかいない場合、一塁走者はハーフウェーで外野手の守備を見届ける。
- バットに投球が当たらなかった場合、ボールを捕手が捕らえていれば、走者は占有塁まで戻る。ボールを捕手が見失っていれば、走者は進塁を試みる。
出典
『スポーツVコース 野球教室』石井藤吉郎編著(大修館書店)第16教程212~215ページ