シキミ
シキミ(樒、櫁、梻、学名:Illicium anisatum L.[1])は、マツブサ科シキミ属に分類される常緑小高木-高木の1種[2]。有毒で、実の形状は中華料理で多用される八角に似る。仏事に用いるため寺院に植栽される。別名が、「ハナノキ」と「ハナシバ」[2][3]。
特徴
常緑樹で、高さは10メートル程度、胸高直径は30センチメートルとなる。樹皮は暗い灰褐色になり、老木になると縦の裂け目を生じる。若枝は緑色。
葉は、枝の先端に集まってつき、短い葉柄を持つ楕円形から倒卵形を帯で、長さ5-10センチメートル、深緑色でつやがある。葉の質はやや厚く、何となく波打ったようになることが多い。葉の先端は急に突き出して鈍端。
花は葉の付け根から一つずつ出て春に咲く。花びらは淡黄色で細長く、ややねじれたようになる。果実は扁平で周囲に8本の突起が出ている。上面が裂開し種子が出る。種子は褐色でつやがあり、小さいドングリを押しつぶしたような形をしている。
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花の細部(正面)
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花の背面
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毒性
花や葉、実、さらに根から茎にいたるまでの全てが毒成分を含む。特に、種子にアニサチンなどの有毒物質を含み、特に果実に多く、食用すると死亡する可能性がある程度に有毒である[4]。実際、下記のように事故が多いため、シキミの実は植物としては唯一、毒物及び劇物取締法により劇物に指定(毒物及び劇物指定令(昭和40年政令第2号)第2条第1項第39号「しきみの実」)されている。
シキミの種子はややシイの実に似ている(なれていれば間違えない程度)ため、誤って食べて死亡した例がある。また、後述するように、スパイスの一種であるトウシキミの果実(八角)がシキミの果実に非常によく似ているため、シキミの果実をトウシキミの果実と誤認して料理に使用し食べることで中毒を起こす事故が多い[4][5]。また、第二次世界大戦以前はシキミの果実を実際に「日本産スターアニス」として出荷し海外で死亡事故などが発生している[6][5]。
中毒症状は嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、意識障害等で、最悪は死亡。[5]
ただし、近縁のトウシキミ Illicium verum には毒性分が無く、果実を香辛料(スターアニス、八角(はっかく)または大茴香(だいういきょう)という)として用いる。
家畜においてもシキミの毒性は、問題視されることがある。たとえばウシは放牧中、毒性のある草を選択して食べないことが多いが、シキミに関しては誤食する可能性があることが指摘されている[7]。
その他の成分
1885年、ヨハン・エイクマンによってシキミの果実からシキミ酸 (Shikimic acid) が発見された[8]。この物質は、芳香族アミノ酸の前駆物質であり、タンニンの主要成分である没食子酸の前駆体でもある。
分布と生育環境
日本では本州(宮城県、石川県以西)、四国、九州、沖縄に分布する[3]。
名称に関して
地方によりシキビ、ハナノキ(カエデ科にも別にハナノキがある)、ハナシバなどともいう。学名にはリンネが命名したIllicium anisatum L.と、シーボルトが命名したI. religiosum Sieb. et Zucc.("religiosum"は「宗教的な」という意味)が存在するが、リンネのものが有効となっている。
シキミの語源は、四季とおして美しいことから「しきみ しきび」となったと言う説、また実の形から「敷き実」、あるいは有毒なので「悪しき実」からともいわれる。日本特有の香木とされるが、『真俗仏事論』2には供物儀を引いて、「樒の実はもと天竺より来れり。本邦へは鑑真和上の請来なり。その形天竺無熱池の青蓮華に似たり、故に之を取りて仏に供す」とあり、一説に鑑真がもたらしたとも言われる。
中国では莽草(ピン音:mǎngcǎo)、厳密には日本莽草(ピン音:rìběn mǎngcǎo)と呼ばれている。生薬としては日本でも莽草(ボウソウ)の名称を使う。
伝承
シキミ(樒)は俗にハナノキ・ハナシバ・コウシバ・仏前草という。空海が青蓮華の代用として密教の修法に使った。青蓮花は天竺の無熱池にあるとされ、その花に似ているので仏前の供養用に使われた。なにより年中継続して美しく、手に入れやすいので日本では俗古来よりこの枝葉を仏前墓前に供えている。密教では葉を青蓮華の形にして六器に盛り、護摩の時は房花に用い、柄香呂としても用いる。葬儀には枕花として一本だけ供え、末期の水を供ずる時は一葉だけ使う。納棺に葉などを敷き臭気を消すために用いる。茎、葉、果実は共に一種の香気があり、日本特有の香木として自生する樒を用いている。葉を乾燥させ粉末にして抹香[3]・線香[3]・丸香としても使用する。樒の香気は豹狼等はこれを忌むので墓前に挿して獣が墓を暴くのを防ぐらしい。樒には毒気があるがその香気で悪しきを浄める力があるとする。インド・中国などには近縁種の唐樒(トウシキミ)があり実は薬とし請来されているが日本では自生していない。樒は唐樒の代用とも聞く。樒は密の字を用いるのは密教の修法・供養に特に用いられることに由来する。
古代にはサカキと同様に神社でも用いられたといわれるが、神式での「榊」(=サカキ)のように「梻」(木偏に佛、「佛」は仏の旧字体)と書く国字もある。現在でも京都市の愛宕神社などの神事には榊でなく、シキミが使われている。シキミを挿した水は、腐りにくいのである。
脚注
- ↑ 引用エラー: 無効な
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タグです。 「YList
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ 2.0 2.1 2.2 林 (2014)、91頁
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 林 (2011)、200頁
- ↑ 4.0 4.1 東京都薬用植物園. “トウシキミ(八角)とシキミ(有毒)”. 東京都健康安全研究センター. . 2013閲覧.
- ↑ 5.0 5.1 5.2 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 (2012年12月7日). “シキミ”. 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構. . 2013閲覧.
- ↑
「 」 - ↑ 有毒植物およびウシが食べない植物(公益社団法人山口県畜産振興協会・山口型放牧研究会ホームページ)2014年11月22日閲覧
- ↑ L.B.Enrich et al.,"Liquidambar styraciflua:a renewable source of shikimic acid" Tetrahedron Letters,49,2008,p2503.
参考文献
- 北村四郎・村田源、『原色日本植物図鑑・木本編II』、(1979)、保育社、ISBN 4-586-30050-7
- 林弥栄 『日本の樹木』 山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2011-11-30、増補改訂新版。ISBN 978-4635090438。
- 林将之 『樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』 山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2014-04-15、山溪ハンディ図鑑14。ISBN 978-4635070324。