オリンピックエンブレム
オリンピックエンブレム(英: Olympic emblem)は、近代オリンピックの各大会ごとに制定されるエンブレム(シンボルマークやロゴ)。時代とともに創作条件(制約)が異なってきている。
概要
IOC(国際オリンピック委員会)によると、エンブレムが本格的に使用され始めたのは、1932年冬季レークプラシッド大会からという[1]。
1「トップエンブレム」2「ワードマーク」3「五輪マーク(オリンピックシンボル)又はパラリンピックマーク(パラリンピックシンボル)」の3要素で構成されるが[1][2]、1に他の2要素を内包したデザイン例も過去にあった(2012年夏季ロンドン大会)。
日本の大会組織委員会では3を除いたものを「ロゴ」、含んだものを「エンブレム」と定義区分している[3][4]。
オリンピックポスターなどに用いられ、大会スポンサーなども使用する。逆にいうと、無断で使ってはいけない[5]。近年ではエンブレムの右下側などに™(商標:トレードマーク)を小さく表示させることが多い。
事前の大会招致エンブレム[6][7][8]と本大会用とは、デザインが異なる(改めて募集)ことが基本となっている。国際オリンピック委員会(IOC)が規定で「エンブレムは招致ロゴに取って代わるもの」などと定めているといわれる[9]。また、招致用は広く無料配布され、大会スポンサーにとって「有償でライセンス展開するのは難しい」と営業面でのデメリットもあるという[10]。
同時期に開催されるパラリンピックのエンブレムも、一緒に制定されることがある。
篠塚正典によると、夏季・冬季の両方をデザインしたデザイナーも、2回オリンピックのデザインをしたデザイナー自体も、これまでいないという(2011年時点)[11]。
日本では計4回のオリンピック開催があるが、すべて日本人デザイナーの作品が選ばれている[12](同じく複数の開催があるアメリカなどの状況は不明)。
選定方法
近年は、デザイン選定に際して、世界各国で類似意匠のマークがすでに商標登録されていないかを、IOCと情報交換しながら時間をかけて、大会組織委員会が候補作をチェックする(IOCの承認を得て最終決定)[15]。最初案に似たものが見つかり、デザイナー本人の修正で対応することもあった(2020年夏季東京大会の初回公募)[16]。
国際コンペ(デザイン会社のみ或いは個人も対象にする場合も)などによって、大会組織委員会(マーケティング局などが所管[17])が決める。指名コンペの場合もある(1972年冬季札幌大会など)。ふるいにかけた応募資格条件が事前に設けられることもあり、2020年夏季東京大会の初回公募では、計104作品のうち海外からの応募は4作品(イギリス、中国、香港、シンガポール[18][19])にとどまった[20]。応募は「一人一作品」とすることもある[19]。
2020年夏季東京大会では仕切り直し後の選定の際、候補作(4作品)を事前公表したが、五輪史上初の試みといわれる[21]。
2012年夏季ロンドン大会や2016年夏季リオ大会では、およそ開催の5年前に、エンブレムが決定・発表された。なお、夏冬ごとに、オリンピックの閉会式では、(4年後の)開催都市への引き継ぎイベント「ハンドオーバーセレモニー」が実施され[22]、エンブレムが世界中の目に触れる一つの機会となる。
オリンピック・デジグネーション
オリンピック・デジグネーションは、オリンピックに関わる映像または音声を意味する[23]。オリンピック憲章第1章「オリンピック・ムーブメントとその活動」の「規則7-14 付属細則」には、「4. NOC、OCOG によるオリンピック・エンブレムの創作と使用」(4.1から4.10.5まで)がある。
- 4.3 オリンピック・エンブレムに含まれるオリンピック・シンボルが占める面積は、そのエンブレムの総面積の3分の1を超えないもの[注 2]とする。オリンピック・エンブレムに含まれるオリンピック・シンボルは、完全な形で表さなければならず、どのようにも改変してはならない。
などの内容。
上述の「オリンピックシンボル・パラリンピックシンボルをアレンジしたもの」の他、「聖火[注 3]やメダルをアレンジしたもの」も、規定で禁じられているという[14]。
1968年夏季メキシコ大会や1976年夏季モントリオール大会は「トップエンブレムと一体化」、2012夏季ロンドン大会は「トップエンブレムに内包」、2014冬季ソチ大会は「トップエンブレムが無いようなデザイン」。これらのデザインは、その後の大会エンブレム制作では、認められなくなったという(2015年時点)[14]。
モチーフ
オリンピックメダルの連想からか、金色や銀色が部分的にしばし用いられた。ポスターなどでは特色印刷にすることもある。
カラフルなものも増えてはいるが、2008年北京大会や2020年東京夏季大会[25]など、単色(+白)の場合もまだある。
2度開催されたインスブルックオリンピック(オーストリア)。1976年大会では1964年大会のエンブレムが、かなり踏襲された。
開催国の国旗がモチーフになることもある。日本では計4回のオリンピック開催のうち、はじめの2大会で日の丸が用いられた。他の国でも、アルベールビルオリンピック(フランス)で赤・白・青のトリコロールが使われ、2度開催されたロサンゼルスオリンピック(アメリカ合衆国)はどちらも星条旗を彷彿とさせるものだった(星自体はアトランタオリンピックでも使われた)。
走る人(選手)を表現したエンブレムもいくつかある(バルセロナ、シドニー、北京など)[26]。
冬季オリンピックでは、雪の結晶マーク(雪華模様)もしばしば見られる。
開催年の数字をモチーフにしたのが2012年のロンドンオリンピック。招致エンブレムにおいても幾つか見られる(2000年立候補のイスタンブール[27]や2024年立候補のパリ[28])。
なお、例えば富士山など「『社会の共有財産』と見なされるものと混同させるようなデザインを含まない」とのIOC規定が、あるともいわれる[29][30][31]。
脚注
出典
- ↑ 1.0 1.1 読売新聞 2016年3月8日朝刊31面 先読み東京五輪「記憶に残るエンブレム」
- ↑ 2.0 2.1 東京 2020 大会エンブレム デザイン募集のご案内(応募要項) 2015年10月16日
- ↑ 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会がスローガン及びポスターを発表! - 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
- ↑ IOC・JOCの定義による「エンブレム」と「ロゴ」の違い
- ↑ マーケティング 「オリンピック・パラリンピックに関する知的財産等の無断使用および不正使用ないし流用は法的にも罰せられます。」 - TOKYO 2020
- ↑ 2016年のオリンピック候補地となっている4都市の招致ロゴ - GIGAZINE、2009年8月6日
- ↑ シリーズ銀座×人 VOL.7 東京芸術大学 大学院生 島峰 藍 - Ginza Official、2013年1月17日
- ↑ WORKS 東京オリンピック・パラリンピック招致エンブレム(2020招致) - GK Graphics
- ↑ 五輪招致ロゴに熱視線も IOC規定では使えず - 東京新聞、2015年9月3日 朝刊
- ↑ 「招致の桜」エンブレム、継続使用はダメ なぜ?【東京オリンピック】 - ハフィントン・ポスト、2015年9月3日
- ↑ 想像力のメダリスト!デザイン王 - ヒーローズインタビュー、2011年1月18日
- ↑ 東京2020大会エンブレム、開幕5年前にあたる7月24日にいよいよ発表 - デザイン情報サイト[JDN]、2015年7月23日
- ↑ Paralympic Games - Rio 2016 Summer Paralympics
- ↑ 14.0 14.1 14.2 応募に関するFAQ 「エンブレムの制作条件」 - エンブレム選考特設ページ #東京2020エンブレム>>TOKYO 2020
- ↑ 五輪エンブレム 似たデザインに問題なしの見解 - NHKニュース、2015年7月30日
- ↑ 選考のあり方にさらに疑問に感じさせた佐野さんの最初のデザイン案 - BLOGOS(大西宏)2015年8月29日
- ↑ 編集長インタビュー - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
- ↑ 東京2020エンブレムを一般公募にしなかった理由 #ブレーン編集部 - AdverTimes、2015年8月27日
- ↑ 19.0 19.1 8月28日 五輪エンブレム選考過程に関する記者ブリーフィング・質疑応答(全文) 『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』 - 聞文読報、2015年8月28日
- ↑ 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会エンブレムを発表 - TOKYO 2020、2015年7月24日
- ↑ エンブレム最終4候補を公開 東京五輪・パラ組織委 - 産経フォト、2016年4月8日
- ↑ あと4年 東京五輪ムード一段と高まる年に - 日テレNEWS24、2016年1月1日
- ↑ OLYMPIC CHARTER オリンピック憲章〔2011年7月8日から有効〕 14 オリンピック・デジグネーション - JOC
- ↑ 歴代五輪エンブレム(3)アトランタ - 人民網 日本語版
- ↑ 選考委員・夏野剛さん新五輪エンブレム決定の“ウラ”明かす WEBとくダネ!、2016年4月26日
- ↑ 歴代五輪エンブレム - 人民網日本語版
- ↑ A History Of Olympic Logos: 1896 – 2008 And Beyond MB Web Design - Part 6
- ↑ パリ五輪招致活動エンブレムもパクリ騒動 - スポニチ、 2016年2月15日
- ↑ 013 判断の論拠 - HIRANO KEIKO’S OFFICIAL BLOG(平野敬子)
- ↑ これが公正? 新「五輪エンブレム選考」またデキレースか - 日刊ゲンダイ、2016年4月3日
- ↑ 過去数十年分の五輪エンブレム - 藤本貴之
注釈
- ↑ 2012年夏季ロンドン大会や2014年冬季ソチ大会では、オリンピックとパラリンピックで「色違いで同じフォルムのエンブレム」が用いられたが、2015年時点では「両者が混同されるおそれのあるデザイン」として禁止されているという[14]。
- ↑ 2020年夏季東京大会ではオリ / パラシンボルのサイズは、応募条件に「エンブレムの総面積の1/3程度の面積」と指定された[2]。
- ↑ 1996年夏季アトランタ大会のエンブレムは、聖火トーチのようなデザインになっていた[24]。
関連項目
外部リンク
- Official site of the Olympic Movement - Images and information on every game since 1896
- Athens Info Guide - A list of past emblems
- 歴代五輪エンブレム - 人民網日本語版
- 五輪エンブレム 写真特集 - 時事ドットコム
- 過去数十年分の五輪エンブレム - 藤本貴之