成金
成金(なりきん)とは、将棋において低位の駒が金将と同じ階級に変化することになぞらえ、急激に富裕になった人(ニューリッチ)を表す。
伝統的評価
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、成金の性質について大略次のように評している[1]。
- その性格を一言で言えば、幸運に恵まれた愚か者の性格である。
- 良いものをすべて持っている気になっているために、傲岸不遜である。
- 贅沢を見せびらかす。
- 金がすべての評価の基準になっている。
- 自分好みのものに囲まれて生活しているため、他人が別の好みを持っていることを忘れる。
- 自分が官職につくべき人間だと考える。
- 金持ちであることの心得がまだできていないために、金持ちであることにつきものの欠点を古くからの金持ちよりもっと悪い形で持っている。
- 成金が不正行為に手を染めるのは、悪意からではなく、傲慢や抑制力のなさからである。
語の由来
成金(成り金・なりきん)は、将棋に由来する言葉である。
玉将(王将)・金将以外の駒が敵陣(1段目〜3段目)を進入させるとき、その駒が「成る」ことを選択できる(詳細は将棋 を参照)。特に、歩兵、香車、桂馬、銀将が成った場合は、以降、金将と同じ動きとなる。駒が成ったことを明らかにするため、その駒を裏返すが、この4種の駒の裏側に書かれている文字はすべて「金」(を崩した文字)であり、たとえば歩の裏側の字はひらがなの「と」に見えるが、これも「金」の字を崩したものである(この「と」に見える文字は「今」の崩し字という説もある)。歩兵・香車・桂馬・銀将が成ったものを、それぞれ「と金」(ときん)・「成香」(なりきょう)、「成桂」(なりけい)、「成銀」(なりぎん)と呼ぶ。これらの金将と同じ動きができるようになった駒、特にと金を俗に「成金」ということがあるが、金将は成ることはできず、金将の裏には何も書かれていないので、「成金」という言葉は正式な将棋用語ではない。特にと金は金同様の動きをするにも関わらず奪取されても価値は歩のままであり、相手に取っては非常に脅威の存在となる。
上記の意味より転じて:
を指す。この意味での用法は江戸時代後期に始まったようであるが、明治維新後には、第一次世界大戦による大戦景気によって、急に富裕層に転じた者を指して使うようになり、一般に広まった。
一方で、事業や技術が成功して裕福になった者や、社会的地位が高い仕事の従業者、いわゆる「勝ち組」も憎恨の的として「成金」と呼ばれることもある。
金持ちになった要因を頭に付けて、炭鉱成金、船成金、土地成金、石油成金、事故成金、宝くじ成金、戦争成金、IT成金などと呼ぶこともあり、建てた家を同様に鰊御殿、小豆御殿などとも言う。
現代の用法
元来「成金」という語は、庶民や貧困層から富裕層に転じた人への称賛や愛慕を込めて用いられていた。しかし、第二次世界大戦後の混乱期には、俄に富裕層になった者への嫌悪感が、貧困層の間で強かった。それ故に現在では、当人以外が発する場合は、急に富裕層になった者への嘲罵や憎恨を込めて用いられるのが通例である。金に物を言わせて傲慢で態度が悪い人を指して「成金」と罵る場合などである。
「成金趣味」という語もあり、高級品を買い漁って豪華な装飾品を身に付けたり、内容を理解していないのに高尚な趣味を始めたりなど、金銭の力で上品を気取る態度を嘲る語である。暗闇の中で靴を探そうとする女中に対して、紙幣を燃やして灯りを取る成金の諷刺画が知られ、山本唯三郎が函館の料亭でその行為を行ったと伝えられている。ただ、実際にそうした富裕層が例外無くそういう金に飽かした生活であったわけではない。
当人が自らのライフスタイルをそう呼称する場合は、感慨や謙遜が入り交じった感情が含まれることが多い。
また、の日本社会では、「ブルジョワ」や「セレブ」(セレブリティ)という語に、この嘲罵や憎恨を表す「成金」の語意を含めている場合がある。この用法に対して、評論家の宮崎哲弥は、「『セレブ』は誤用であり、『成金』ときちんと言うべきである」と述べている。
英語では「new rich」と言うが、英語圏においてもフランス語を使って「nouveau riche」(ヌーヴォー・リシュ)と表現することが多い。なお、いずれの語も、日本語に直訳すれば「新しい金持ち」を意味する語である。
脚注
関連項目
- 内田信也(船成金で政治家)
- 勝田銀次郎(船成金で政治家)
- 山下亀三郎(船成金)
- 山本唯三郎(船成金で破天荒な放蕩を行う)
- 和田邦坊(成金を諷刺した漫画家)
- 成金饅頭 - 福岡県直方市の菓子。豆相場で巨利を得ようとして失敗し、その豆を使って作った饅頭。
- バブル経済
- 富裕層
- 大戦景気
- 勝ち組
- ヒルズ族
- 破産
- 小ブルジョア(プチブル) - ソビエト崩壊まで多く使われ、成金を指すこともあった。
外部リンク
- nouveau-richeの意味
- 『金と悪魔』徳久武治著 (修文社, 1928) - 近代日本の成金たち