タイ語

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タイ語(タイご、 [pʰāːsăː tʰāi])はタイ王国公用語。短縮形は「ไทย(タイ)」。タイ・カダイ語族カム・タイ語派に属する。

タイ・カダイ語族はシナ・チベット語族に属するとされてきた[1]が、独立した語族であるとするのが通説である。欧米の学者を中心に、タイ・カダイ語族をオーストロネシア語族と合わせる説(オーストロ・タイ語族)や、さらにオーストロアジア語族およびミャオ・ヤオ語族とも合わせる説(オーストリック大語族)もある。

概要

狭義では中央方言(中央タイ語)を指す。中央方言のなかでもアユタヤ県地方の方言をベースにした標準タイ語が文章やメディア、式典などで用いられる。ここではこの標準タイ語を狭義のタイ語として記述する。なお、標準タイ語とアユタヤ県の庶民の言語(バンコク語)には日本語で言う標準語東京方言程度の違いがある。

タイ語とラオス語は互いに方言関係にあり、純粋言語学的には同一言語の地域変種といえる。しかし、タイ語とラオス語はそれぞれ別国家の公用語と位置づけられ、またタイ人ラオス人の間には「同系」の意識はあっても「同じ民族」という意識がなく、使用する文字も異なる(起源は同じとされる)ため、タイ語とラオス語は政治的・社会言語学的には別言語とされている。とりわけラオスでは、タイからの政治的・文化的影響力を遮断し、国家の自立を守るため、意図的にラオス語のタイ語からの分離を謳うプロパガンダを作り上げてきた歴史がある[2]

タイ東北部で使用されているイーサーン語はラオス語との共通点が比較的多く、ラオス語とだいたい意思疎通が可能である。またタイ標準語とイーサーン語の違いも小さく、イーサーン地方以外の地域のタイ人であっても概ねイーサーン語を理解する。それは東京の人が大阪弁を聞いても概ね理解し通訳や字幕訳を必要としないのと同じである。イーサーン語は標準タイ語の影響が強まっており、似てはいてもイーサーン語とラオス語は同じではない。

ラオス人の多くはタイ語のテレビ・映画コンテンツを翻訳なしで子供のころから見ており、逆にラオス語のものはほとんど見ることがない。そのためラオス人の多くは特にタイ語の教育を受けていなくてもかなり上手にタイ語を話せる。ラオスの首都ビエンチャンなどの都市部では、タイ文字を読めるラオス人もいる。イーサーン語が標準タイ語化してきているのと同様に、ラオス語の口語もタイからの文化流入によりタイ語化してきている。

文法上は孤立語に分類される。サンスクリット語パーリ語からの借用語が多く、続いて英語クメール語モン語ミャンマー語中国語(主に潮州語などの南方方言)・マレー語日本語からの借用語が多数あり、外来語はタイ語の語彙の総数の3分の2を占めるとも言われる。タイ語は声調言語であり、標準タイ語では5つの声調をもつ。

日本語話者がタイ語を習得する場合、冠詞が無い・動詞が変化しないなど文法は容易であるが、発音が大きく異なるため、タイ語を少し習得した日本人が「どうして通じないのか」といった体験をすることが多い。これは日本語で区別のない

  1. 子音が異なっている([l]と[r],有気音と無気音)
  2. 声調
  3. 母音(日本語から考えると9種)

のうち2つ以上が正しくない場合が大半である。また、日本で使われるタイ語もほとんど無く、スープの「トムヤムクン」も正しく発音しないと現地では(日本人相手の職業の人以外には)通じない。

文字

タイ語の文字は、インド系の表音文字を用い、左から右へ横書きする。基本的にタイ語で文字とは子音字のことを指し、子音字は42文字存在する。この子音字の上下左右に母音を表す母音符号を付け、子音字と母音符号の組み合わせで発音を表記する。さらに、声調のパターンを表す声調記号を子音字の上に付ける。タイ語で文章を書く際は、英語のように単語の分かち書きはせず、全てつなげて書くこととなる。また必要に応じて適当なところで間隔を空ける。

ก(k- / -k) ข(kh- / -k) ค(kh- / -k) ฆ(kh- / -k) ง(ŋ- / - ŋ) จ(c- / -t) ฉ(ch- / -t) ช(ch- / -t) ซ(s- ) ฌ(ch- / -t) ญ(y- / -n) ฎ(d- / -t) ฏ(t- / -t) ฐ(th- / -t) ฑ(th- / -t) ฒ(th- / -t) ณ(n- / -n) ด(d- / -t) ต(t- / -t) ถ(th- / -t) ท(th- / -t) ธ(th- / -t) (n- / -n) บ(b- / -p) ป(p- / -p) ผ(ph- / -p) ฝ(f- ) พ(ph- / -p) ฟ(f- / -p) ภ(ph- / p) ม(m- / -m) ย(y- / -i) ร(r- / -n) ล(l- / -n) (w- / -u) ศ(s- / -t) ษ(s- / -t) ส(s- / -t) ห(h- ) ฬ(l- / -n) อ(ʔ- / -ɔɔ) ฮ (h- )

また、子音字には3種類あり、ここでは高級子音字、中級子音字、低級子音字として区別しておく。この子音字の種類は、それを頭子音とする語や音節の声調を決定する重要な要素となる。  最も数が多いのが低級子音字なので、高級子音字・中級子音字をしっかり覚えておいて、それ以外は低級子音字と考えればよい。

中級字(9字):ก จ ฎ ฏ ด ต บ ป อ

高級字(10字):ข ฉ ฐ ถ ผ ฝ ศ ษ ส ห

低級字(23字):ค ฆ ง ช ซ ฌ ญ ฑ ฒ ณ ท ธ น พ ฟ ภ ม ย ร ล ว ฬ ฮ

音韻構造

挨拶

「こんにちは」に当たる言語として、สวัสดีサワディー)などがある。この他時間によって「アルン・サワット(お早う)」などがあるが、ハリウッド映画の俳優の台詞で「Good morning」、「Good night」の訳語として使われるのが普通で、日常会話には出てこない。ちなみに、この語は近代になってから、サンスクリット語の「スワスティ(swasti、吉祥、の意。)」をもじって作った人造語で、タイのみで使われるため、諸外国のタイ諸語が使用される地域(ラオスなど)では使われない。

「さようなら」に当たる言葉も通常は(サワディー)でよい。ただし、余り会わないことが予想される相手、あるいは旅行に出る相手などには「Good luck」の訳語であるโชคดี(チョークディー)がよく使われる。子供の間では「バイバイ」が使われる。

「おやすみ」はタイ人は言う習慣が無かったが、近年「Good night.」の訳語として、ราตรีสวัสดิ์(ラートリー・サワット)を使う機会が増えた。また、恋人同士などでは「Sweet dream.」の訳語ฝันดี(ファン・ディー)が使われることもある。

「有難う」は「Thank you.」の訳語ขอบคุณ(コープ・クン)が使われる。明らかな目下に対してはขอบใจ(コープ・チャイ)が使われることがある。また、(コープ・チャイ)は、イーサーン語ラオス語に於いては、(コープ・クン)と同意である。

「ごめんなさい」は「Sorry.」の訳語ขอโทษ(コートート)が使われる。

目上の人に話す場合など丁寧さを表現する際、男性ならครับ(クラップ、カップ(二重子音のため「カップと聞こえるが、KとRとを瞬間的に発音するのが正しい))、女性ならค่ะ(カー)を付ける。目上の人や偉い人に対してこれを付けないとぶっきらぼうな物言いに聞こえる。

文法

修飾語後置修飾になる以外は中国語と非常によく似た性格を持つ。実は上代中国語も同じ修飾語後置であり、例えば「帝堯」は「堯の帝」、「草芥」は「芥の草」という意味になる。形容詞動詞の違いが曖昧でどちらも他の語を伴わずに助動詞を伴うことができ、他の語を伴わずに名詞を修飾することができる。また、動詞・形容詞は他の語を伴うことがあるが、基本的にはそのまま名詞として扱うことができる。また名詞も修飾語として、他の語を伴うこともあるが、基本的にはそのまま利用できる。語彙が中国語と同じく少ないので熟語が多い。

「学校へ行ってくるไปโรงเรียนมา)」、「本を持っていくเอาหนังสือไป)」など、「来る」、「行く」を表す助動詞的な語を付けてニュアンスを変える、ヨーロッパ言語ではあまり見られない方法がよく見られる。時制にはあまり厳しくなく、แล้วで完了、ได้で過去、จะで未来を表すが、あまり気にせずに使われる。

構文として

  • (時間を表す語) + 主語 (+ 形容詞) (+ 助動詞 A 群) + 動詞 (+ 副詞的な語) + 目的語 (+ 助動詞的な語) (+ 助動詞 B 群) (+ 時間を表す語)
  • 助動詞 A 群 → จะ, กำลัง, ต้อง, ได้,(過去)など。
  • 助動詞 B 群 → แล้ว, ได้(可能)など。
  • (例)วันนี้ฉันได้อ่านหนังสือมาดีแล้ว→今日私はよく(きちんと)本を読んで(勉強して)来た。

が一般的である。主語は省略されることもある。上の構文の括弧内は、必要に応じて加えられる。 形容詞が動詞にも名詞にもなりうるため、語順は絶対的だが、倒置表現もよく使われる。

一方

  • (例)ฉันขาหัก→私は足が折れた(骨折した)。

のように主語と述語における、述語部がさらに主語と述語に分けられる、中国語や日本語にはみられるが、ヨーロッパ言語にはみられない構文もある。

声調

タイ語の声調は5つあり、数では中国語の標準語と同じである。 中国語より声調が多いと誤解されることが多いが、それは中国語が軽声を声調にカウントしていないためである。 各声調のタイ語名は、1から4までの数値を表す単語をあてており中間の位置の音程だけは数値を当てず、スィアン・サーマン(日本語訳は「普通の声」)と呼ばれる。 日本人向けのタイ語教本の多くはタイ語の声調名を無視し独自に各声調に1から5までの数値を当てていることが多いがその番号の振り方は統一されていない。 タイ文字には声調記号があるが、それは声調の種類を直接あらわすものではなく記号がつく文字種や綴りなどによって声調は変わる。 タイ文字から声調を割り出すルールは複雑で例外などもあり、何が正解なのかはっきり定義されていないためタイ文字から声調を求めることは難しい。(基本ルールを用いて声調を割り出すことは可能) タイ人から見て外国人向けのタイ語教本には声調記号付きの発音記号が載っているものがあるが、声調に対する考えが違うため各教本間で声調は統一されていない。 以下がタイ語の各声調である。

  • スィアン・エーク 低声 (直訳:一声) เสียงเอก [sǐaŋ èek]
  • スィアン・トー 下声 (直訳:二声) เสียงโท [sǐaŋ tʰoo]
  • スィアン・ティー 高声 (直訳:三声) เสียงตรี [sǐaŋ trii]
  • スィアン・チャッタワー 上声 (直訳:四声) เสียงจัตวา [sǐaŋ càt ta waa]
  • スィアン・サーマン 平声 (直訳:普通の声) เสียงสามัญ [sǐaŋ sǎa man]

4つの声調記号(ハイフンは頭子音字)

-่ :第一声調記号(mái èek) 例:อ่น ฉิ่ง คลื่น
-้ :第二声調記号(mái thoo) 例:ต้ม ส้ม ครั้ง
-๊ :第三声調記号(mái trii) 例:โต๊ะ ปั๊ม แก๊ง
-๋ :第四声調記号(mái càttawaa) 例:แก๋ แจ๋ว

方言

タイ国内には以下の方言・グループ語がある。

タイ語のコンピュータ処理

タイ文字の記述方法が複雑であるため、タイ語では複雑なコンピュータ処理を必要とする。

タイ文字は子音と母音に分かれた表音文字であるが、母音の位置が子音に対して上下左右の四方向あり、上部に記号を複数、縦方向に書くこともある。縦方向にも母音と記号が伸びるため、正しくタイ文字を表示させるには上下に十分なスペースが必要である。上下方向に十分なスペースをとるにはラテン文字漢字などの文字の二行から三行分が必要であるが、文章によっては必ずしも上下方向に文字が伸びるとも限らず、伸びても一部の文字だけである。最初は上下方向に少ない領域を取り、上下方向に伸びた場合、上下の領域が広がるという処理をしているアプリケーションもあるが、こういう複雑な処理をしているアプリケーションは少ない。そのため、コンピュータの表示では上部または下部が欠けて見えない場合がある。

IE, Mozilla, Firefoxなどのウェブブラウザの一行入力欄でも、タイ文字の下部が欠けて見えないなどの問題が起こる。キーボード入力は、直接その文字に対応するキーを打つ方式をとっているが、文字数が多くシフトキーを多用するため慣れるのには時間がかかる。日本語のMicrosoft IMEATOKのようなインプットメソッドがタイ語にもあれば便利だという意見もあるが、少なくともマイクロソフトはそのような機能をサポートしておらず、現状はおそらく存在しない。

上下にも文字が伸びるため、内部表現における順序の統一やカーソル位置の処理も難しい。上下に複数の母音・声調等の記号が伸びる場合、打つ順番が違うと、表示上は同じになるにもかかわらず内部表現上でのコードの配列順序が異なることがある。この場合、同じ単語・同じ表示であるのに内部表現が異なるため、カーソルがユーザの意図と異なる動きをしたり、検索や置換などの処理が困難になる場合がある。最近では子音、母音、その他補助記号が順序通りに並べられないと正しく表示されないようになっているプログラムもあるが、すべてのプログラムで統一されているわけではない。このようにタイ語はコンピューター処理では発展途上である。文字に似た共通点のあるラオス語、カンボジア語も、同様の問題を持っている。

またタイ文字は単語と単語の間にスペースを入れないために、自動的に単語の終わりで改行させること(ワードラップ)が困難である。文章作成ソフトウェアでは、辞書を用いたり文法解析を行ってワードラップを行っている。より簡易的にはZero-width spaceという制御文字(U+200B)を単語間に入れておく方法も用いられる。

なお、Unicode以前から、タイ工業規格の文字コードTIS-620が広く使われてきた。これをサポートする代表的なタイ語ワードプロセッサソフトとしてチュラーロンコーン大学で開発されたCU-Writerがあり、Microsoft Office登場以前にはもっともよく使われていたワープロソフトであった。

脚注

  1. 『世界の言語と国のハンドブック』下宮忠雄(大学書林)
  2. 『国民語が「つくられる」とき-ラオスの言語ナショナリズムとタイ語』、ブックレット《アジアを学ぼう》11、矢野順子
  3. 中央タイ諸語English版とは異なる。
  4. 北部タイ諸語English版とは異なる。
  5. 参考:タイ南部で話されるマレー語の方言はジャウィ語(ヤーウィー語)という。

参考文献

  • 岩城雄次郎 『タイ語 二十八課』 1992年 大学書林 ISBN 4-475-01798-X
  • 水野潔鈴木玲子 『CDエクスプレス タイ語』 2000年 白水社 ISBN 4-560-00550-8
  • 水野潔 『今すぐ話せるタイ語 入門編』 2000年 東進ブックス ISBN 4-89085-167-4
  • 『タイ語のもと』 2006年 SARUDA ISBN 974-93747-3-8

関連項目

外部リンク