コロポックル
この項目には、JIS X 0213:2004 で規定されている文字が含まれています(詳細)。 |
コロポックル(アイヌ語: コㇿポックㇽ korpokkur)は、アイヌの伝承に登場する小人である。アイヌ語で、一般的には「蕗の葉の下の人」という意味であると解される。
アイヌ語では [p] と [b] は同一の音素であり区別しないため、コロボックル (コㇿボックㇽ) とも言われる。
アイヌの小人伝説は広く北海道や南千島や樺太に流布しており、名称もこのコテンプレート:小書きポックテンプレート:小書き・コテンプレート:小書きボックテンプレート:小書きのほかに、トィチセウンクテンプレート:小書きやトィチセコッチャカムィやトンチ(これらはみな「竪穴に住む人」の意)などと呼ばれることもある。
またアイヌ人の民俗研究者である違星北斗は、「石の下の人」という意味で、クルプンウンクテンプレート:小書き(Kurupun, unkur)という発音を記録している。
伝説
アイヌ人の小人伝説は北海道や南千島、樺太に広く流布しており、地域によって差もあるが、大体次のようなものである。
アイヌがこの土地に住み始める前から、この土地にはコロボックルという種族が住んでいた。彼らは背丈が低く、動きがすばやく、漁に巧みであった。又屋根をフキの葉で葺いた竪穴にすんでいた。
彼らはアイヌに友好的で、鹿や魚などの獲物をアイヌの人々に贈ったりアイヌの人々と物品の交換をしたりしていたが、姿を見せることを極端に嫌っており、それらのやりとりは夜に窓などからこっそり差し入れるという形態であった。
そんなある日、あるアイヌの若者がコロボックルの姿を見ようと贈り物を差し入れる時を待ち伏せ、その手をつかんで屋内に引き入れてみたところ、美しい婦人のなりをしておりその手の甲には刺青があったという(なおアイヌの夫人のする刺青はこれにならったものであるといわれている)。
コロボックルは青年の無礼に激怒し、一族を挙げて北の海の彼方へと去ってしまった。以降、アイヌの人々はコロボックルの姿を見ることはなくなったという。現在でも土地のあちこちに残る竪穴や地面を掘ると出てくる石器や土器は、彼らがかつてこの土地にいた名残である。
伝説は地域によって差異があり「コロボックルは怠け者でアイヌが彼らに食べ物を与えていた」「コロボックルの手にあった刺青は捕らえたアイヌの人々が奪還を懼れて施したものであって元来からアイヌの風習である」などの変化が見られる。
十勝地方に残る伝説では、コロボックルはアイヌに迫害されたために土地を去ったといわれ、去り際にアイヌに言った呪いの言葉「トカップチ(水は枯れろ、魚は腐れの意)」が十勝の地名の由来とされる[1]。
コロボックルの正体
考古学者の瀬川拓郎は、コロボックルの特徴として語られる「交易の際、相手との接触を避ける(沈黙交易)」、「竪穴式住居に住む」、「土器を製造、使用し、陶土を求めて他所の地にまで進出する」などの事例が北千島に住むアイヌの習俗と共通することに着目し、さらに北海道から樺太、南千島に広く伝わるコロボックル伝説が北千島に限っては伝承されていないことから
「コロボックルの正体は、北千島のアイヌである」との説を提唱している[2]。
なお北千島のアイヌは、北海道アイヌや和人と大きな体格差はない。このことで千島アイヌの認識としては、次のようなことが語られている。鳥居龍蔵はパラサマレックという34、5歳の千島アイヌの世話をしていたが[3]、北海道アイヌと身長差が大してないにもかかわらず、小人扱いされ、千島アイヌを侮蔑した物語として創ったものと認識して激怒していたという[4]。
なお「蕗の葉の下にいる」という伝承のイメージから多くのメディア媒体では手のひら大の小人として描かれることが多いが北海道には2m以上になる品種のラワン蕗が自生しており、元々のアイヌの伝承に出てくるコロポックルの身長はアイヌより少し小柄な程度である。
コロポックル論争
1886年、渡瀬庄三郎が『人類学会報告』創刊号にて札幌周辺に見られる竪穴住居の跡とみられるものがコロボックルの手によって作られたものであり、アイヌ人の前にコロボックルがかの地に居住していた証拠であるという旨の発表を行い、それに坪井正五郎が『人類学会報告』第9号にて大筋賛成という意見の表明を行った。しかし『人類学会報告』9号にはさらに白井光太郎による匿名での坪井への反論が掲載され以降、小金井良精・浜田耕作・佐藤伝蔵・鳥居龍蔵・喜田貞吉など多くの研究家がこの議論に参加した。結局この論争は1913年、坪井がロシアのペテルスブルクで客死するまで続く。
コロポックルをテーマにした作品・派生物
- 1959年に佐藤さとるがコロポックルをテーマにした『だれも知らない小さな国』を出版。現在のコロポックルのイメージの礎となっている。この作品は『コロボックル物語』としてシリーズ化され、『豆つぶほどの小さないぬ』『星からおちた小さな人』『ふしぎな目をした男の子』『小さな国のつづきの話』などの続篇が書かれた。
- 1995年発売のスーパーファミコンソフト『聖剣伝説3』では、アストリアの西にコロボックルの村が存在する。
- 1998年連載開始の漫画『シャーマンキング』作:武井宏之(のちアニメ化) - アイヌのシャーマン・ホロホロの持ち霊として、コロポックルのコロロが登場する。
- 2006年にカプコンが発売した『大神』の主人公はコロポックルの一寸と天照大神である。コロポックルは豆粒程の光る人型の妖精とされている。
- 2014年に放送されたTVアニメ『天体のメソッド』のヒロインのノエルがコロポックルであると思しき描写がある。
- 2015年版の『雪ミク』がコロポックルをイメージしたものとなっている。
- ヤマハ音楽教室の教材「プライマリー」に「ソックス・コロボックル」という歌がある。教材のセットで添付されたLPレコードで聴くことができる。
- 米子市と境港市を結ぶ西日本旅客鉄道(JR西日本)境線各駅には妖怪名を採った愛称が付されており、博労町駅に「コロポックル駅」の愛称が付けられている。