直交行列
直交行列(ちょっこうぎょうれつ, orthogonal matrix)とは、転置行列と逆行列が等しくなる正方行列のこと。つまりn × n の行列 M の転置行列を MT と表すときに、MTM = M MT = E を満たすようなMのこと。ただし、 E は n 次の単位行列。
有限次元実計量ベクトル空間の直交変換は、実直交行列(成分が全て実数の直交行列)によって定まる線形変換である。ただし、直交変換とは(必ずしも有限次元でない)実計量ベクトル空間 V において内積を変えない(等長性をもつ)線形変換 f のことである。すなわち、 v, w を V の任意のベクトルとするときに、(f(v), f(w)) = (v, w) が成り立つ。ただし、(·, ·) は内積を表す。
定義
[math]n[/math]次正方行列 [math]M[/math] の 転置行列 [math]M^T[/math] が [math]M[/math]の逆行列になっているとき、すなわち[math]M^T = M^{-1}[/math]を満たすとき、[math]M[/math] は直交行列であるという。
直交行列は内積を保つ線型変換としても定義できる。実計量ベクトル空間 [math]V[/math] の任意のベクトル [math]v, w[/math] に対し、内積を [math](v, w) = v^T w [/math] とする。[math]v, w[/math] が行列 [math]M[/math] により [math]Mv, Mw[/math] に変換されたとき、内積は
- [math] (Mv, Mw) = (Mv)^T Mw = v^T M^T M w = v^T w = (v, w) [/math]
となるので、行列 [math]M[/math] が直交行列であるのは計量ベクトル空間 [math]V[/math] の内積を変えないとき、かつそのときに限る。
n 次直交行列全体の集合を n 次直交群といい、[math]O(n)[/math]と書く。行列式の値が1となる直交行列全体の集合を特殊直交群といい、[math]SO(n)[/math]と書く。
例
- 回転行列
2次元ユークリッド空間において、原点を中心に角 θ の回転をあらわす2次直交行列は以下で表される。
- [math]\begin{bmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{bmatrix} [/math]
- 置換行列
2次の正方行列において、1行目と2行目を置換させる置換行列は以下で表される。
- [math]\begin{bmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix} [/math]
- 反射行列
反射行列 [math]H[/math] は、単位ベクトル [math]u[/math] を以下のように反転させる性質を持ち、ハウスホルダー変換に使用される。
- [math]Hu=-u[/math]
性質
- 直交行列の行列式の値は ±1 である。実際、行列 A が直交行列なら行列式の性質から
- [math]1 = \det (E) = \det (A A^{-1}) = \det (A A^T) = \det (A) ^2[/math] となる。逆は必ずしも真ではない。
- n 次行列 A を n 個の列ベクトル(行ベクトル)[math]v_1, v_2, ... , v_n[/math] を並べたものとみなしたとき、直交行列の定義 AAT=E は [math]v_1, v_2, ... , v_n[/math]が正規直交基底になる条件と同値である。
- n 次の直交行列 A 、n 次の列ベクトル x が与えられた時、ノルムを ‖•‖ で表せば、 ‖Ax‖ = ‖x‖ である。
参考文献
- 齋藤 正彦 『線型代数入門』 東京大学出版会〈基礎数学〉、1995年。ISBN 978-4130620017。
- 佐武 一郎 『線型代数学』 裳華房〈数学選書〉、1974年。ISBN 978-4785313012。
- Gilbert Strang (2007). Computational Science and Engineering. Wellesley-Cambridge Press. ISBN 978-0961408817.
関連項目
- ユニタリ行列: エルミート内積に関して上と類似の性質を持つ行列
- 置換行列: 直交行列
- 回転行列: 直交行列
- QR分解: 正方行列から直交行列を作る手法
- 特異値分解: あらゆる行列を直交行列と特異値による対角行列へ分解 A = UΣVT