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姶良カルデラ(あいらカルデラ)は、鹿児島湾北部(湾奥)において直径約20kmの窪地を構成しているカルデラである。南九州のカルデラ群のひとつで、加久藤カルデラと阿多カルデラの間に位置する。現在のカルデラを形成した姶良噴火は、約3万年前と推定されている[1]。桜島火山のマグマ供給源とされる。
概要
鹿児島湾と桜島を囲む巨大カルデラである。カルデラの中心は新島(燃島)付近。
1940年代に松本唯一が提唱したが、現在では単一のカルデラではなく、大崎カルデラ(北西部)、若尊カルデラ(北東部)[2]、浮津崎カルデラ(南東部)など複数のカルデラが複合したものと考えられている。全体が一度に形成されたものではなく、150万年前から活動が有り[3]、少なくとも北側の一部分は80万年以上前から存在している形跡がある[4]。入戸火砕流と姶良Tn火山灰などを噴出した約3万年前の姶良大噴火でおおむね現在の形になり、約2.6万年前に後カルデラ火山の桜島火山が誕生した。また淡水性生物化石が出土していることから形成当初は淡水で満たされていたが、約1万年前の最終氷期以降の海面上昇とカルデラ南壁の崩壊により海水化している。
現在もカルデラ内部にも噴気活動が観察される若尊などの海底火山や隼人三島(神造島)などの火山島が形成されている。
地下100kmのプレート境界で作られたマグマが上昇し、カルデラ中央部地下10kmにマグマだまりを形成している。
九州南部に広く分布するシラス層の起源を説明するため1930年代に姶良火山と呼ばれる大きな火山の存在が仮定されたが、その後の調査結果等から現在ではそのような仮定は必要ないとされている。但し、姶良大噴火以前においてカルデラ北東部に淡水湖が存在していた形跡があり、何らかの隆起地形が存在していたとの説もある。
カルデラに隣接して鹿児島市や霧島市などの市街地が形成されている。カルデラ壁は鹿児島市竜ヶ水地区や垂水市牛根地区で急斜面となっており、大雨によってしばしばの土砂災害が発生している。
姶良火砕噴火
長岡ら(2001)によれば約2.9万年前[5]、Smith et al.(2013)によれば約3万年前[1]、地質学的には比較的短い期間(数ヶ月以内)に相次いで大噴火が発生した。一連の噴火は総称して姶良火砕噴火と呼ばれ、噴出物の総量は450-500km3と推定されている[4]。
はじめに現在の桜島付近で大噴火が発生し、軽石(大隅降下軽石)や火山灰が風下の大隅半島付近に降り積もった。続いて数回にわたって火砕流(妻屋火砕流[6]、垂水火砕流[7])が発生し、カルデラ周辺に粒の細かい火山灰が降り積もった。ここで一旦、数ヶ月程度活動が中断した後、破局的な巨大噴火が発生した。
この噴火は現在の桜島付近で始まった。次第に火道が拡張されるとともに岩盤が粉砕されて空中に放出され周辺に落下した。粉砕された岩塊(亀割坂角礫)は現在の霧島市牧之原付近を中心とした地域に最大30メートルの厚さで降り積もり、中には直径2メートルの巨礫も含まれている。
最後にカルデラ北東部の若尊付近から大量の軽石や火山灰が一度に噴出した。素材となったマグマは温度が770-780℃、圧力が1600-1900気圧であったと推定されている。噴出物は巨大な火砕流(入戸火砕流)となって地表を走り九州南部に広がっていった。一方、空中に吹き上げられた火山灰(姶良Tn火山灰)は偏西風に流されて北東へ広がり日本列島各地に降り積もった。関東地方で10cmの厚さの降灰があったとされる。
主な噴出物
姶良カルデラ周辺には、加久藤火砕流堆積物(0.34Ma)以前の1~0.5Ma頃の火砕流堆積物として、鹿児島市周辺の久木田・伊敷・花野・蒲ヶ原・磯・吉野、カルデラ北縁における国分層群の鍋倉・小浜・小田・吉田寺などが知られている[5][8]。これらの火砕流堆積物の噴出源は判明していないが、国分層群の鍋倉、小浜、小田では水中火砕流の噴出に伴い、大規模な陥没が発生した可能性が指摘されている[9]。その後0.5~0.1Maは活動が低調な期間が続き、0.1Ma以降再び活動が活発になった。
年代 | 噴出物 | 噴出量(DRE km3) | 主な岩石 | 噴火様式 | 噴出源 |
---|---|---|---|---|---|
90.5ka | 福山降下軽石 | 24 | 安山岩~流紋岩 | 降下軽石 | 若尊付近[10] |
61ka | 敷根安山岩 | 1.3 | 安山岩 | 溶岩流 | |
60ka | 岩戸テフラ | 14.72 | 流紋岩 | ウルトラプリニー式噴火:降下軽石、火砕流、火砕サージ(一部溶結) | 若尊付近[10] |
32.5ka | 大塚降下軽石 | 0.54 | 流紋岩 | プリニー式噴火:降下軽石 | |
31ka | 深港テフラ | 4.5 | 流紋岩 | プリニー式噴火:降下軽石(深港)、火砕流(荒崎) | |
29ka | 大隅降下軽石 | 60 | 流紋岩 | ウルトラプリニー式噴火:降下軽石、火砕流(垂水) | 桜島付近[10] |
妻屋火砕流 | 2.88 | 火砕流 | 若尊付近[10] | ||
入戸火砕流 | 128 | 火砕流(一部溶結) (妻屋火砕流収束から数ヶ月以内に噴出) | |||
姶良-丹沢テフラ | 90 | 降下火山灰(Co-ignimbrite ash) | |||
4.67~29ka | 古期北岳山体 | 34.73(合計) | 安山岩 | 溶岩流 | 桜島北岳(古期) |
26ka | P17(桜島-高崎6テフラ) | 0.66 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
25ka | P16(桜島-高崎5テフラ) | 0.18 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
24ka | P15(桜島-高崎4テフラ) | 0.12 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
19.1ka | 高野ベースサージ | 不明 | ベースサージ(姶良カルデラ噴出物に類似) | 若尊 | |
16ka | 新島火砕流 | 不明 | 流紋岩 | 火砕流(姶良カルデラ噴出物に類似) | |
12.8ka | P14(桜島-薩摩テフラ) | 6.6 | プリニー式噴火:降下火砕物、ベースサージ(VEI 6) | 桜島北岳(新期) | |
10.6ka | P13(桜島-高崎3テフラ) | 0.78 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
9ka | P12(桜島-上場テフラ) | 0.08 | デイサイト | プリニー式噴火:降下火砕物 側火口溶岩(権現山溶岩 P12と同時期に噴火) | |
8.2ka | 姶良-住吉池スコリア | 0.03(合計) | マグマ水蒸気噴火:降下スコリア | 住吉池 | |
8.1ka | 姶良-米丸テフラ | マグマ水蒸気噴火:降下火砕物 | 米丸 | ||
8ka | P11(桜島-末吉テフラ) | 1 | プリニー式噴火:降下火砕物(VEI 5) | 桜島北岳(新期) | |
7.7ka | P10 | 0.06 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
7.5ka | P9 | 0.06 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
6.5ka | P8 | 0.06 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
5ka | P7(桜島-高崎2テフラ) | 0.7 | プリニー式噴火:降下火砕物(VEI 4) | ||
4.84ka | P6 | 0.06 | プリニー式噴火:降下火砕物 | ||
4.67ka | P5 | 0.26 | デイサイト | プリニー式噴火:降下火砕物、火砕流(武、溶結)(VEI 4) | |
0~4.5ka | 桜島-南岳火山砂 南岳主成層火山体 |
3(合計) | 安山岩 |
ブルカノ式噴火:降下火砕物 溶岩流、火砕岩 |
桜島南岳 |
4ka | 宮元溶岩 | 0.39 | 安山岩 | 溶岩流 | |
3ka | 観音寺溶岩 | 0.3 | 安山岩 | 溶岩流 | |
1-3ka | 有村溶岩 | (3に包含?) | 安山岩 | 溶岩流 | |
1-3ka | 黒神川溶岩 | (3に包含?) | 安山岩 | 溶岩流 | |
AD764~766 | P4(天平宝字噴火) | 0.27 | 安山岩~デイサイト | プリニー式噴火:降下火砕物、マグマ水蒸気爆発(蝦ノ塚火砕丘、鍋山火砕丘)→溶岩流(長崎鼻) | 桜島東側山麓(元海域含む) |
AD950頃 | 太平溶岩 | 0.1 | デイサイト | 溶岩流 | 桜島山頂(引ノ平) |
AD1200頃 | 中岳溶岩, 火砕岩 桜島-中岳火山砂 |
(3に包含?) | デイサイト | 溶岩流、降下火砕物 ブルカノ式噴火:降下火砕物 |
桜島中岳 |
AD1471-1476 | P3(文明噴火) | 0.77 | デイサイト | プリニー式噴火:降下火砕物→溶岩流(VEI 5) | 桜島北東山麓及び南西山麓 |
AD1779-1782 | P2(安永噴火) | 1.86 | デイサイト | プリニー式噴火:降下火山灰、降下軽石(溶結)→溶岩流(VEI 4) | 桜島南側山麓及び北東山麓 |
AD1914-1915 | P1(大正噴火) | 1.58 | 安山岩~デイサイト | プリニー式噴火:降下火山灰、降下軽石(溶結)→溶岩流(VEI 4) | 桜島西側山麓及び東側山麓 |
AD1946 | 昭和噴火 | 0.096 | 安山岩 | ブルカノ式噴火:降下火砕物,溶岩流(VEI 2) | 昭和火口 |
参考文献
- 荒牧重雄 「鹿児島県国分地域の地質と火砕流堆積物」 『地質学雑誌第75巻第8号』 日本地質学会、1969年
- 大木公彦 『かごしま文庫61 鹿児島湾の謎を追って』 春苑堂出版、2000年、ISBN 4-915093-68-9。
- 国分郷土誌編纂委員会編 『国分郷土誌 上巻』 国分市、1997年。
- 町田洋、新井房夫 『新編 火山灰アトラス − 日本列島とその周辺』 財団法人東京大学出版会、2003年、ISBN 4-13-060745-6。
- 横山勝三 『シラス学 − 九州南部の巨大火砕流堆積物』 古今書院、2003年、ISBN:4-7722-3035-1。
出典
- 姶良カルデラ堆積物の層序と年代について 鹿児島県新島(燃島)に基づく研究 第四紀研究 Vol.44 (2005) No.1 P15-29
- 長岡信治、奥野充、新井房夫:10万~3万年前の姶良カルデラ火山のテフラ層序と噴火史 地質学雑誌 Vol.107 (2001) No.7 P432-450
- 小林哲夫、佐々木寿:桜島火山 地質学雑誌 Vol.120 (2014) No.Supplement p.S63-S78
関連項目
脚注
- ↑ 1.0 1.1 Smith et al. (2013-05-01). “Identification and correlation of visible tephras in the Lake Suigetsu SG06 sedimentary archive, Japan: chronostratigraphic markers for synchronising of east Asian/west Pacific palaeoclimatic records across the last 150 ka”. Quaternary Science Reviews 67: 121-137 . 2017閲覧..
- ↑ 若尊[わかみこ Wakamiko(鹿児島県)] 気象庁
- ↑ 周藤正史、宇都浩三、味喜大介、石原和弘、姶良カルデラ周辺部の火山活動の時間空間変遷 日本火山学会講演予稿集 2001(2), 3, 2001-10-01, doi:10.18940/vsj.2001.2.0_3
- ↑ 4.0 4.1 周藤正史、宇都浩三、味喜大介 ほか、姶良カルデラ周縁部に分布する火山岩のK‐Ar年代測定-爆発的な姶良火砕噴火以前の火山活動史-京都大学防災研究所年報(2000), 43, B-1, P.15-35, hdl:2433/80463
- ↑ 5.0 5.1 長岡信治,奥野充,新井房夫 (2001-07-15). “10万~3万年前の姶良カルデラ火山のテフラ層序と噴火史”. 地質学雑誌 107 (7): 432-450. doi:10.5575/geosoc.107.432 . 2017閲覧..
- ↑ 福島大輔、小林哲夫:妻屋火砕流の噴出堆積機構と噴火地点について 日本火山学会講演予稿集 1996(2), 187, 1996-11-05, doi:10.18940/vsj.1996.2.0_187
- ↑ 福島大輔、小林哲夫:大隅降下軽石に伴う垂水火砕流の発生・堆積様式 火山学会誌 火山 45(4), 225-240, 2000-08-28, NAID 110003041195
- ↑ 内村公大, 鹿野和彦, 大木公彦 (2014). “南九州,鹿児島リフトの第四系”. 地質学雑誌 120 (Supplement p.): 127-153. doi:10.5575/geosoc.2014.0017 . 2017閲覧..
- ↑ 香川淳, 大塚裕之 (2000). “鹿児島湾北岸地域, 中期更新世国分層群の層序と火山-構造性イベント堆積物”. 地質学雑誌 106 (11): 762-782. doi:10.5575/geosoc.106.762 . 2017閲覧..
- ↑ 10.0 10.1 10.2 10.3 上野 龍之 (2016). “姶良カルデラ妻屋火砕流堆積物の特徴,噴出量と給源”. 火山 61 (3): 533-544. doi:10.18940/kazan.61.3_533 . 2017閲覧..
- ↑ 29)桜島-姶良カルデラ 産業技術総合研究所, 2016年2月9日閲覧。 (PDF)
- ↑ 日本に分布する第四紀後期広域テフラの主元素組成 - K2O-TiO2 図によるテフラの識別 産業技術総合研究所 地質調査研究報告 Vol.57 No.7/8 (2006) (PDF)
- ↑ 90. 桜島 気象庁, 2016-02-15閲覧。 (PDF)
外部リンク
- 桜島火山地質図(第2版) 産業技術総合研究所
- 井口正人:物理学的観測により明らかになった桜島火山の構造とその構造探査の意義 物理探査 Vol.60 (2007) No.2 P145-154
- 姶良カルデラの地形 (株)防災地質研究所