5-メチルシトシン
5-メチルシトシン(5mC)はDNA塩基の一つであるシトシンがメチル化されたもので、遺伝子転写の調整に関与している。
シトシンがメチル化されると、転写過程に変化はないが遺伝子発現に変化が生ずる。(この分野の研究はエピジェネティクスと呼ばれる。)
5mCはヌクレオシドに取り込まれて5-メチルシチジンとなる。
5mCでは、メチル基は六員環の5位の炭素原子に付加される。(図の6時方向の窒素原子(NH)から反時計回りに数える。2時方向からではない。) このメチル基はシトシンと5mCとを区別する特徴である。
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発見の経緯
1898年、結核菌から細菌性毒素を単離しようとしていた時、新たな核酸が発見され、ツベルクリン酸と命名された[1]。 この核酸は、チミン、グアニン、シトシンとは違う、メチル化された塩基を持つヌクレオチドであった。 1925年、少量のメチル化シトシンがツベルクリン酸の硫酸加水分解物として生成された[2][3]。 この報告はピクリン酸結晶の光学特性のみに基づいていた上、他の科学者達に再現できなかったので酷評された[4]。 しかし1948年、仔牛胸腺のDNAから従来のシトシンやウラシルとは異なるメチルシトシンがペーパークロマトグラフィーにより単離され、存在が決定的となった[5]。 それから70年後、RNA分子中に一般に存在することが明らかとなったが、正確な役割は不明であった[6]。
In vivo
5mCはDNAメチルトランスフェラーゼによるエピジェネティックな修飾により生成される。
この物質の機能は生物種により大きく異なる[7]。
- 細菌の場合、5mCは様々な場所に存在し、しばしば自身のメチル化感受性の制限酵素からのDNA保護マーカーとなっている。
- 植物の場合、5mCはCpGサイト(CpHpGならびにCpHpH(H = A, C, T)の配列)に局在している。
- 真菌および動物の場合は、5mCは主にCpGジヌクレオチドとして存在する。多くの真核生物ではCpGサイトのメチル化はわずかであるが、脊椎動物の場合は70〜80%のCpGシトシンがメチル化されている。
シトシンが自発性に脱アミノ化するとウラシルとなり、DNA修復酵素により除去されるが、5mCが脱アミノ化するとチミンを生じる。 この塩基の転換(C→T)は塩基転位型突然変異を引き起こす。加えて、APOBECファミリーの酵素に拠るシトシンまたは5mCの脱アミノ化は、細胞内のプロセスや生物種の進化に関与している可能性がある[8]が、詳細は明らかではない。
In vitro
亜硝酸等により5-メチルシトシンから-NH2基を除去(脱アミノ化)するとチミンを生ずる。 同じ条件下でシトシンが脱アミノ化するとウラシルを生じる。
シトシンは重亜硫酸処理で脱アミノ化されるが、5mCは脱アミノ化されない。 この性質は重亜硫酸塩シークエンス技術を用いたシトシンのメチル化パターンの解析に利用される[9]。
出典
- ↑ Matthews AP (2012). Physiological Chemistry. Williams & Wilkins Company/RareBooksClub.com, 167. ISBN 1130145379.
- ↑ Johnson TB, Coghill RD (1925). “The discovery of 5-methyl-cytosine in tuberculinic acid, the nucleic acid of the Tubercle bacillus”. J Am Chem Soc 47 (11): 2838–2844. doi:10.1021/ja01688a030.
- ↑ Grosjean H (2009). Nucleic Acids Are Not Boring Long Polymers of Only Four Types of Nucleotides: A Guided Tour. Landes Bioscience.
- ↑ Vischer E, Zamenhof S, Chargaff E (1949). “Microbial nucleic acids: the desoxypentose nucleic acids of avian tubercle bacilli and yeast”. J Biol Chem 77 (1): 429–438. PMID 18107446.
- ↑ Hotchkiss RD (1948). “The quantitative separation of purines, pyrimidines and nucleosides by paper chromatography”. J Biol Chem 175 (1): 315–332. PMID 18107446.
- ↑ Squires JE, Patel HR, Nousch M, Sibbritt T, Humphreys DT, Parker BJ, Suter CM, Preiss T. (2012). “Widespread occurrence of 5-methylcytosine in human coding and non-coding RNA”. Nucleic Acids Res 40 (11): 5023–5033. doi:10.1093/nar/gks144. PMID 22344696.
- ↑ Colot V, Rossignol JL (1999). “Eukaryotic DNA methylation as an evolutionary device”. Bioessays 21 (5): 402–411. doi:10.1002/(SICI)1521-1878(199905)21:5<402::AID-BIES7>3.0.CO;2-B. PMID 10376011.
- ↑ Chahwan R., Wontakal S.N., and Roa S. (2010). “Crosstalk between genetic and epigenetic information through cytosine deamination”. Trends in Genetics 26 (10): 443–448. doi:10.1016/j.tig.2010.07.005. PMID 20800313.
- ↑ Clark SJ, Harrison J, Paul CL, Frommer M (1994). “High sensitivity mapping of methylated cytosines”. Nucleic Acids Res. 22 (15): 2990–2997. doi:10.1093/nar/22.15.2990. PMC 310266. PMID 8065911 .
参考文献
- Griffiths, Anthony J. F. (1999). An Introduction to genetic analysis. San Francisco: W.H. Freeman, Chapter 15: Gene Mutation. ISBN 0-7167-3520-2. (available online at the United States National Center for Biotechnology Information)