重複度 (数学)

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数学において、多重集合の元の重複度(ちょうふくど、じゅうふくど、: multiplicity)は、それがその多重集合において現れる回数である。例えば、与えられた多項式方程式が与えられた点において持つの数など。

重複度の概念は、(「二重根」は二個と考えるなどの)例外を指定せずとも「重複度を込めて」(with multiplicity) と表現すれば正確に数えることができるという点で重要である。

重複度を無視する場合には、そのことを「相異なる根の個数」というように相異なる(あいことなる、: distinct)と言って強調することもある。ただし、(多重集合ではなく)集合を考える場合には「相異なる」と断らずとも自動的に重複度は無視される。

素因数の重複度

素因数分解において、例えば、

60 = 2 × 2 × 3 × 5

だと、素因数 2 の重複度は 2 であり、各素因数 3 と 5 の重複度は 1 である。したがって、60 は 4 つの素因数をもつが、異なる素因数は 3 つしかもたない。

多項式の根の重複度

Fとし p(x) を F に係数をもつ一変数多項式とする。元 a ∈ F は次のようなとき p(x) の重複度 kと呼ばれる。ある多項式 s(x) が存在して s(a) ≠ 0 かつ p(x) = (x − a)ks(x)。k = 1 であれば、a単根English版と呼ばれる。k ≥ 2 であれば、a重根 (multiple root) と呼ばれる。

例えば、多項式 p(x) = x3 + 2x2 − 7x + 4 は 1 と −4 をとしてもち、p(x) = (x + 4)(x − 1)2 と書くことができる。これが意味するのは、1 は重複度 2 の根であり −4 は'単'根(重複度 1)である。重複度は「根が何回もとの方程式に現れるか?」として考えることができる。

多項式の導関数は多項式の重複度 n の根において重複度 n - 1 の根をもつ。多項式の判別式 が 0 であることと多項式が重根をもつことは同値である。

重根の近くでの多項式関数の振る舞い

ファイル:Polynomial roots multiplicity.svg
多項式 p(x) = x3 + 2x2 − 7x + 4 のグラフとその根(零点) -4 と 1。根 -4 は'単'根(重複度 1)でありしたがってグラフはこの根で x-軸とクロスする。根 1 は重複度が偶数でしたがってグラフはこの根で x-軸から跳ね返る。

多項式関数 y = f(x) のグラフx-軸と多項式の実根で交わる。グラフは f の重根でこの軸に接し、単根では接しない。グラフは重複度が奇数の根で x-軸とクロスし、重複度が偶数の根で x-軸から跳ね返る(突き抜けない)。

0 でない多項式関数がつねに非負English版であることと、すべてのその根の重複度が偶数である x0 が存在して f(x0) > 0 であることは同値である。

交叉重複度

代数幾何学において、代数多様体の2つの部分多様体の共通部分は既約多様体の有限個の和集合である。そのような共通部分の各 component に対して交叉重複度 (intersection multiplicity) が取り付けられる。この概念は次の意味で局所的English版である。この成分の任意の生成点English版の近傍において起こることを見ることでそれを定義できる。一般性を失うことなく、交叉重複度を定義するために2つのアフィン多様体(アフィン空間の部分多様体)の共通部分を考えることができるということが従う。

したがって、2つのアフィン多様体 V1V2 が与えられると、V1V2 の共通部分の既約成分 W を考えよう。dW次元English版とし、PW の任意の生成点とする。WP を通る一般の位置English版にある d 個の超平面との共通部分は一点 P にreduceされる既約成分をもつ。したがって、共通部分の座標環のこの成分における局所環素イデアルを 1 つしかもたず、したがってアルティン環である。それゆえこの環は基礎体上有限次元ベクトル空間である。その次元が V1V2W における交叉重複度 (intersection multiplicity) である。

この定義によってベズーの定理とその一般化を正確に述べることができる。

この定義は多項式の根の重複度を次のように一般化する。多項式 f の根はアフィン直線上の点で、その多項式によって定義される代数的集合の成分である。このアフィン集合の座標環は [math]R=K[X]/\langle f\rangle, [/math] ただし Kf の係数を含む代数閉体[math]f(X)=\prod_{i=1}^k (X-\alpha_i)^{m_i}[/math]f の分解であれば、R の素イデアル [math]\langle X-\alpha_i\rangle[/math] における局所環は [math]K[X]/\langle (X-\alpha)^{m_i}\rangle[/math] である。これは K 上のベクトル空間で、次元として根の重複度 [math]m_i[/math] をもつ。

交叉重複度のこの定義は、本質的に Jean-Pierre Serre の本 Local algebra によるが、集合論的な成分(isolated component とも呼ばれる)に対してしかうまくいかず、埋め込まれた成分English版に対してはうまくいかない。埋め込まれたケースを扱うために理論は発達してきている(詳細は交叉理論を見よ)。

複素解析学において

z0正則関数 ƒ の根とし、nƒn 次導関数の z0 における値が 0 とは異なるような最小の正の整数とする。このとき ƒz0 についての冪級数は n 次の項から始まり、ƒ は重複度(あるいは「位数」) n の根をもつという。n = 1 であれば、根は単根と呼ばれる (Krantz 1999, p. 70)。

有理型関数零点の重複度もまた次のように定義することができる。有理型関数 ƒ = g/h があれば、点 z0 についての ghテイラー展開をとり、それぞれにおいて最初の 0 でない項を見つける(項の位数をそれぞれ mn で表す)。m = n であれば、点は 0 でない値をもつ。m > n であれば、点は重複度 m − n の零点である。m < n であれば、点は重複度 n − m の極をもつ。

関連項目

参考文献

  • Krantz, S. G. Handbook of Complex Variables. Boston, MA: Birkhäuser, 1999. ISBN 0-8176-4011-8.