導手
代数的整数論で、局所体や大域体の有限次アーベル拡大の導手(conductor)は、拡大の分岐を定量的に測るものである。導手の定義はアルティン写像に関連がある。
局所導手
L/K を非アルキメデス的局所体の有限アーベル拡大とすると、L/K の導手 [math]\mathfrak{f}(L/K)[/math] は、高次単数群(higher unit group)
- [math]U^{(n)}=1+\mathfrak{m}_K^n=\left\{u\in\mathcal{O}^\times:u\equiv1\, (\mathrm{mod}\,\mathfrak{m}_K^n)\right\}[/math]
が NL/K(L×) に含まれるような最小の非負な整数 n である。ここに、NL/K は体のノルム(field norm)写像で、[math]\mathfrak{m}_K[/math] は K の極大イデアル(maximal ideal)とする[1]。同じことであるが、n は局所アルティン写像が [math]U_K^{(n)}[/math] 上で自明であるような最小の整数である。導手は、上記の n に対する [math]\mathfrak{m}_K^n[/math] として定義されることもある。[2]
拡大の導手は分岐を測る。定量的には、拡大が不分岐であることと、導手が 0 であることとは同値であり[3]、(拡大が)おとなしい分岐(tamely ramified)であることと、導手が 1 であることとは同値である[4]。さらに詳しくは、導手は高次分岐群(higher ramification group)の非自明性を測ることができる。下付添え字の(lower numbering)の高次分岐群 Gs が非自明であるような最も大きな整数を s とすると、[math]\mathfrak{f}(L/K)=\eta_{L/K}(s)+1[/math] が成り立つ。ここに ηL/K は「下付添え字」を高次分岐群の上付き添え字(upper numbering)へ変換する函数とする。[5]
また、L/K の導手はガロア群 Gal(L/K) の指標のアルティン導手(Artin conductor)とも関係している。特に、[6]
- [math]\mathfrak{m}_K^{\mathfrak{f}(L/K)}=\underset{\chi}{\mathrm{lcm}}\,\mathfrak{m}_K^{\mathfrak{f}_\chi}[/math]
であり、ここに χ は Gal(L/K) の乗法的な複素指標(multiplicative complex characters)の全てを渡り、[math]\mathfrak{f}_\chi[/math] は χ のアルティン導手であり、lcm は最小公倍数である。
さらに一般的な体
導手は、局所体の必ずしもアーベル的ではない有限次ガロア拡大に対しても L/K と同じ方法で定義することができる[7]。しかしながら、導手は「ノルム限定定理」のために、L の中での K の最大アーベル拡大である Lab/K のみに依存する。ノルム極限定理は、この状況下では、
- [math]N_{L/K}(L^\times)=N_{L^{\text{ab}}/K}\left((L^{\text{ab}})^\times\right)[/math]
加えて、局所体の場合よりも少し一般的な場合、つまり、準有限(quasi-finite)な剰余体を持つ完備付値体の場合は、導手を定義することができる[10]。
アルキメデス的な体
大域的導手のためには、自明な拡大 R/R の導手が 0 であると定義し、拡大 C/R の導手が 1 であると定義する。[11]
大域的導手
代数体
数体のアーベル拡大 L/K の導手は、アルティン写像を使い局所の場合と同様に定義できる。特に θ : Im → Gal(L/K) を大域的アルティン写像(global Artin map)とする。ここでは、モジュラス(modulus) m は L/K の定義モジュラス(defining modulus)である。θ が法 [math]\mathfrak{m}[/math] の射類群(ray class group) を経由するときに、アルティン相互法則(Artin reciprocity)が m で成り立つという。L/K の導手を [math]\mathfrak{f}(L/K)[/math] と書き、相互法則の成立するモジュラスのすべての共通部分とする。実際、相互法則は、[math]\mathfrak{f}(L/K)[/math] に対し成り立つので、これは最も小さなそのようなモジュラスである[12][13][14]
例
- 基礎体を有理数体とすると、クロネッカー・ウェーバーの定理は、代数体 K が Q のアーベル拡大であることと、ある円分体 [math]\mathbf{Q}(\zeta_n)[/math] の部分体であることが同値であることを言っている[15]。従って、K の導手はそのようなものの中で最も小さな n である。
- d を平方因子のない整数として, L/K を [math]\mathbf{Q}(\sqrt{d})/\mathbf{Q}[/math] とすると、[16]
- [math]\mathfrak{f}\left(\mathbf{Q}(\sqrt{d})/\mathbf{Q}\right) = \begin{cases} \left|\Delta_{\mathbf{Q}(\sqrt{d})}\right| & \text{for }d\gt 0 \\ \infty\left|\Delta_{\mathbf{Q}(\sqrt{d})}\right| & \text{for }d\lt 0 \end{cases}[/math]
- が成り立つ.ここで [math]\Delta_{\mathbf{Q}(\sqrt{d})}[/math] は [math]\mathbf{Q}(\sqrt{d})/\mathbf{Q}[/math] の判別式(discriminant)である。
局所導手や分岐との関係
大域導手は局所導手の積である。[17]
- [math]\displaystyle \mathfrak{f}(L/K)=\prod_\mathfrak{p}\mathfrak{p}^{\mathfrak{f}(L_\mathfrak{p}/K_\mathfrak{p})}.[/math]
結局、有限素点が L/K で分岐していることと、それが [math]\mathfrak{f}(L/K)[/math] を割ることは同値である。[18] 無限素点 v は導手の中にあらわれることと、v が実素点で、L で複素素点となることとが同値である。
脚注
- ↑ Serre 1967, §4.2
- ↑ As in Neukirch 1999, definition V.1.6
- ↑ Neukirch 1999, proposition V.1.7
- ↑ Milne 2008, I.1.9
- ↑ Serre 1967, §4.2, proposition 1
- ↑ Artin & Tate 2009, corollary to theorem XI.14, p. 100
- ↑ Serre 1967, §4.2にあるように、
- ↑ Serre 1967, §2.5, proposition 4
- ↑ Milne 2008, theorem III.3.5
- ↑ As in Artin & Tate 2009, §XI.4. This is the situation in which the formalism of local class field theory works.
- ↑ Cohen 2000, definition 3.4.1
- ↑ Milne 2008, remark V.3.8
- ↑ Janusz 1973, pp. 158,168–169
- ↑ 無限素点を導手の定義から外している著者もいる。Neukirch 1999, §VI.6
- ↑ (2007) Introduction to Modern Number Theory, Second, Encyclopaedia of Mathematical Sciences, 155, 168. ISBN 978-3-540-20364-3.
- ↑ Milne 2008, example V.3.11
- ↑ 有限部分はNeukirch 1999, proposition VI.6.5、無限部分はCohen 2000, definition 3.4.1を参照
- ↑ Neukirch 1999, corollary VI.6.6
参考文献
- Artin, Emil; Tate, John (2009) [1967], Class field theory, American Mathematical Society, ISBN 978-0-8218-4426-7, MR 2467155
- Cohen, Henri (2000), Advanced topics in computational number theory, Graduate Texts in Mathematics, 193, Springer-Verlag, ISBN 978-0-387-98727-9
- Janusz, Gerald (1973), Algebraic Number Fields, Pure and Applied Mathematics, 55, Academic Press, ISBN 0-12-380250-4, Zbl 0307.12001
- Milne, James (2008), Class field theory (v4.0 ed.) . 2010閲覧.
- テンプレート:Neukirch ANT
- Serre, Jean-Pierre (1967), “Local class field theory”, in Cassels, J. W. S.; Fröhlich, Albrecht, Algebraic Number Theory, Proceedings of an instructional conference at the University of Sussex, Brighton, 1965, London: Academic Press, ISBN 0-12-163251-2, MR 0220701